異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「いいえ、魔人と言いますと……この子の
床に置いてあった頭蓋骨を手に取るエイル・ゴウンに、俺は疑問をぶつける。
「ではエイルさんは……? 魔人の
七色竜が眷属を持つように、主人と奴隷間における魔術契約のように、魔人にもあるいは似たような技法があるのだろうかと。
「
「魔神……?」
魔人や魔獣はいくつもの伝承にあるが、"魔神"というのは聞いたことがなかった。
神族から暴走して魔となれば、それはすなわち単なる魔族でしかない。
であれば魔神というものはひどく
「
「
魔神とまで呼ばれ、時の英傑に封じられるまでの
神族は魔力の"暴走"や"枯渇"を恐れたがゆえに、他の種と
もちろんそういった事情など無視をする神族も特定少数いる。
実際に"サルヴァ・イオ"が
またハイエルフたる"スィリクス"は神族とエルフの混血であり、エルフ種それ自体の繁殖のしにくさも相まって非常に稀有なハーフとなる。
「
魔力は血流と共に貯留される。単純に体格に勝る者が有利とは限らず、個人差が非常に大きい。また鍛え、適応させることで容量も増やすことも可能。
エルフやヴァンパイアなどは種族的に
そうした者を人々はかつて魔法を振るった
(俺が幼少期を過ごした"イアモン
三代神王ディアマが使った魔法具"永劫魔剣"を復活させる為、使用者そのものをパーツにするという発想のもとに人体実験を繰り返していた教団。
"循環器"たる刀身と、"安定器"たる
無限に増幅させることはできずとも、貯留し続けた大魔力さえあればディアマの神威の一部を体現できると本気で信じた。
そうして産み出されたのが何を隠そう
それゆえに彼女は普通の魔術が使えないばかりか、人工的に付加された人族の身に必要以上に貯留する魔力は、時に毒となり身を焼かれるようなこともあったのだった。
「
「魔法の探求、ですか」
「そうやって日々を過ごしていく内に、神族の血を引いていたこともあって
司教とは神王教における複数の教会をまとめた司教区の代表者であり、その上には四人しかいない大司教と、さらに
半分は神族の血とはいえ、もう半分は魔族の血が流れていながらも、そこまでの地位になれたということは彼女自身の能力の高さゆえだろう。
「司教となってしばらくして、
「息子さん……」
「えぇ……それが、"この子"なのです」
そう言って頭蓋骨を撫でたエイルに、俺はあくまで平静さを装って
「その息子さんが……魔人になってしまったと?」
残されていた魔人の骨──それこそが息子の骨であると、エイルは首を縦に肯定した。
「
「
双子であった円卓十席の"双術士"がそうだったように、魔力の波長が同一であれば通常不可能なはずの魔力の相互供給が可能となる。
「ベイリルさんは、よくお勉強をしていらっしゃいますね。それとも今の時代では、ご存知で当たり前な
「いえそんなことはありません、ただ俺は色々と"知る機会"に恵まれているもので」
遺伝的に近い息子が、母と同色の魔力を持ってしまうのは十二分にありえる確率である。
そして……赤子へと与えられた膨大な魔力によって引き起こされること、それはすなわち──
「それで息子さんは……"暴走"に
「はい、その通りです。
「察して余りあります、エイルさん」
それは本心からの言葉であり、色々と思わされる部分も大いにあった。
「ありがとう、ベイリルさん。そしてひた隠しにしていた息子が露見し、教皇庁から正式に魔人を殺すよう
「それ、は……」
「
「……罠?」
エイルの顔に静かな怒気が満ち、ゆっくりと息子の頭蓋骨を床へと並べる。
「
息子の遺骨の隣で、生前の息子の姿を思い出すように眺める母エイルの姿は……数百年前の出来事であろうが、まったく無関係の俺にも激情を覚えさせるものがあった。
「"死に目"すらも奪われた憎悪と魔力が……
「まさか……死者の、"蘇生"──?」
「蘇生と言うには
(なるほど、輪郭が見えてきた──彼女から
「不完全な
そこに人格や意思がなければ、それはお人形遊びでしかない。しかしながら息子を無惨に殺された母親の心情を思えば……。
「でも皇国は、エイルさんと息子さんが静かに暮らすことすら許さなかった──だからエイルさんは息子さんを
俺は淡々と、それまでの情報から
「その
それこそが彼女が"魔神"と呼ばれた
魔人は一人ではなかった。母と息子、二人で一つの