異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「被害
「あーーー……グイド」
「ご存知ですか、やはり後の時代でも有名なのですね」
「まぁ一応そうですね。今は失伝している"魔術方陣"の行使手で、ここを作った人間」
俺はシールフに見せられた記憶の情景を想起しつつ口にする。
「今は喪失しているのですか?」
「少なくとも
「たしかに当時でも非常に珍しく、また適性も問われる分野でしたが」
魔術具や魔鋼、あるいは魔術刻印や魔術方陣といった──文字や紋様を利用する魔術は、魔力を固着させるという特殊な技術工程を必要とする。
俺もリーティアに習って魔術具製作を基礎から修得しようとしていた時期もあったが、結局は断念せざるを得なかった。
「英傑ってのはいつの時代も、そう呼ばれるだけの理外の強度を持っていたわけと」
「もっともグイドに関しては、"理の内"にあったと思います。正直なところ、戦っていて見惚れるほどの美しい魔術方陣でした」
魔法探究者ならではのモノの見方。記憶映像ではその圧倒的なヤバさのほうが先行していたが、言われてみて改めて思い返すと……美しいというのもさもありなん。
ゼノが言うところの数学的な──
「あの"陣"は感覚まかせだけでは決してできるものではなく、彼なりの確固たる理論があってこその魔術だったのだと
「……恨んではいない?」
「えぇ、彼はあくまで人類の奉仕者としての己の信念を
「発端である教皇庁だけでなく、
「少なくとも皇国を滅ぼしてやるくらいの気持ちにはなってましたよ。実際にそこまでやるかはともかくとして、ね」
息子を奪われ、その息子と
俺とて故郷の村を滅ぼされた身ではあるが、彼女の思いを
「ただ、あの頃の身を焼くほどの激情も……これほど時間が
長命種として長き
「──しかしまぁ、そのグイドと
「
「いやぁそれでも半端ないですよ、"
「ふふっベイリルさん、まるで実際に見たことがあるような言い方ですね。その耳を見るにエルフ種のようですが……もしかしてわたしより長生きなのですか?」
「いえいえ、まだ18年しか生きていない若僧です。それで……英傑グイドであっても、エイルさんと息子さんを封印するしかなかったんですね」
「基本的には
エイルは壁へと指を這わせつつ、グッと手の平を押し付ける。
「三次元多重構成、凄絶の一言たる魔術方陣ですが……それでもただ結界を重ねただけならば、二人で破壊できる
「だから、
「ベイリルさんはまだお若いのに、この結界についても詳しいようですね。でも少しだけ違います、魔力を単純に奪うことはできません」
「……それは"魔法"でもない限り、ですか」
「はい。魔力は根源に関わるモノですし、ベイリルさんも言うところの魔力の"色"が関わってきますから。この魔術方陣の構成は、魔力を結界の発動に転換するように組んであるのです」
("闘技祭"で使われていた結界と原理は近いモノ、か……)
学園時代の闘技祭では、観客の魔力を利用して四隅に置いた結界魔術具を発動させるという方式を取っていた。
あれはフリーマギエンスで作ったものではなく、代々学園に伝わっていた魔術具であり、恐らくは学園長である"竜越貴人"アイトエルの私物であろうと推察される。
(直接魔力を奪うことが不可能でも、結果的に同じことにしてしまえばいい。その発想が……この大結界というわけだな)
副次効果として発生する結界をそのまま
「しかも
その言葉を聞きながら、俺は一つの問いを投げ掛ける。
「──それでも……今度こそ"死に目"には会えた……?」
「そうなのです! 皮肉にも魔力がなくなったことで暴走していた精神が戻って、
感情を
「肉体が崩壊していく最期、"自分の分まで生きてほしい"……とも」
「少しは
「──あるいは、もう遠い昔の
「いえ、案外それは本当のことだと思いますよ。世の中は
「そう……願いたいものですね。
母としての切なる感情に、俺はもはや恐れることなく彼女へと近付いていく。
深い、とても深い愛情と、憎悪と、絶望と、哀しみを背負い──息子を蘇らせ、自分が死してなお想いを受け継いで、数百年と生き続ける"母親"へと。
「ただ一つ。それもまた奇跡などではなく、まだ
俺は彼女の気持ちを可能な限り察しながらも、頭の中で交渉モードに
「……どういうことでしょう?」
「解き明かされていないだけで、再現性のある現象かも知れないということです──だから、俺たちと一緒に
魔力と魔法の研究者であり、自らを蘇生させるほどの魔導師──
「俺が所属するシップスクラーク財団という組織では、世界のありとあらゆることを研究・開発しています」
「
「はい! エイルさんがよろしければ、その
エイルは人差し指を眉間へともっていくと、思考しながら口にする。
「つまりベイリルさんが言うには、
「魔力も、魔法も、魔術も、魔導も──まだまだ謎が多いですから」
「そうであれば……あの日のことも、
「……えぇまぁ。ただ
「なんとっ! 会うというのは一体どのような?」
「夢の中を
「それくらいは
「ですよね。そこらへんの価値観はなんとなく合うと思っていました」
俺は話の流れと勢いのままにスッと右手を差し出すと、エイルのひんやりとした手で握り返されたのだった。