異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
(暇だなぁ……)
レドは何度も心の中で繰り返しつつ、どうしようもない手持ち無沙汰感を持て余す。
「もうかな~り待ったし。これ以上はムリ!」
ベイリルには「準備が整うまで大人しく待っていろ」と言われたが、こうして肉体が自由だとすなわち精神も自由ということである。
「巡回兵なーし」
レドはキョロキョロと周辺をきちんと確認してから、ちょっと散策するくらいの心地で独房の外へと出る。
すぐに向かいの
「なぁにこれ、もしかして脱出口──」
そう呟くやいなや、ヌッと手が伸びてきたかと思うと青白い肌の女性が顔を出す。
「わぁ!?」
「あら……驚かせてしまってごめんなさい」
穴からスルリと這い出た女性は、次に同じくらいの大きさの包みを穴から引っ張り出したのだった。
「
「あっうん、ボクはレド。レド・プラマバだよ──もしかしてエイルってベイリルの協力者?」
「協力者……と言ってよろしいものか。多少なりとお手伝いはしますが、
「そうだったんだ、ナニしてぶち込まれてたん?」
「
「へぇ~、ボクは"五英傑"ってのの一人にやられたらしくてさぁ……」
まだ短い人生の内に一人に殺されかけ、もう一人に打ちのめされて捕まるなど……本当にままならない。大きな
「はっきり言って遭遇可能性を考えたらまずもって低いからさ。油断してたわけじゃないけど、色々と後回しにしてたのがこうも裏目に出るとはね」
五英傑は基本的には人領側の問題であって、魔領に対しては積極的に関わってくることはない。
だからこそ念入りに情報を収集し、注意を
「英傑ですか……
「そうだよ、ボクも名前や素性までよく調べてないんだけど……とにかくすんげー強かった!」
同じ
「いつの時代も変わらないのですね」
「……? うん。とにかくベイリルには感謝だね、どうやってこっから逃げるか正直浮かんでなかったもん、大きな借りになっちゃった。こんなことなら何か貸しとくんだったさ」
「ベイリルさんとはよく知った仲なのですか?」
「あぁ、学園生時代に色々とね。ちなみにベイリルよりボクのほうが強い」
「……喧嘩友達?」
「ん~~~悪友ってとこかな?」
2人揃ってクロアーネに小言をチクチク刺されていた頃をレドは思い出す。
「そうだ! 学園といえば──
「事情は存じませんが、旧友は大事にした
何気ないエイルの一言だったが……どこか実感の込められたそれにレドは首をかしげるも、すぐに気にしないことにする。
「知り合い程度だけどね、でもまぁまぁせっかくだから会いに行ってくる。その後でまた話そうね、エイル」
「えぇ
「わかってるってば」
なにやら
◇
「あーあー、キミねカドマイア。ライブの人だ、思い出した」
「そういうあなたは……レドさん? 調理科の──」
突然の
「そうだよ。いやは~~~お互いに捕まるなんて奇遇だね!」
「……確かに、奇妙な巡り合わせだ」
「ベイリルはキミを助けに来たんだってね? だからアリガト。おかげでボクもついでで助けてもらえたよ」
「えっーと……それはなにより?」
カドマイアとしても知り合いという程度なのでいささか反応に困ったが、レドはズケズケと踏み込んでくる。
「ところでなんで捕まったん?」
「神族殺しの罪を着せら──」
「わぉ! スゴいね、意外とやるじゃん」
「言っておきますが無実です。無理やり
「っふーん……で、実際のとこは?」
「本当に
「ちぇっ、つまんない答え」
レドは唇を尖らせ、カドマイアは半眼な呆れ顔の後に、そのあまりの軽さにあてられてフッとわずかに笑った。
「そういえばベイリルって
「特には聞いていな──」
「よしっ、じゃあ探しにいこう! いや、いっそのことボクも戦力の拡充を
「余計なことはやめたほうが──」
「なぁになになに、ベイリルなら十人や二十人くらい助けるのが増えたって気にしないって!」
「はぁ~……、囚人らしく大人しくしているのをオススメします」
「や~だよ。なんなら
「遠慮しときます、まだまだ思い出すことが山ほどあるので」
「思い出すって?」
「音楽を──ですよ」
気の充実したカドマイアの瞳を向けられたレドは、ニヤリと笑って納得する。
「そっか、ならしょうがない。キミらのバンドはボクも好きだったから」
「それは……どうも」
「ほんじゃま、邪魔したね!」
話したいことだけ話して房からいなくなったレドを忘れ、カドマイアは脳内ライブリハーサルを再開し没頭するのであった。
◇
独房の外に出てレドが気付いたのは、先刻までは感じられなかった
特別囚人獄の最奥へと導かれるように歩を進めていくと、既に鉄扉が解放されていることに気付く。
「オジさんだれさ?」
小窓で確認することもなく遠慮なしに入ったレドは、勝手知ったる牢名主か何かのように振る舞う。
「礼儀知らずな小娘よ、さしあたって同じ身の上の囚人のようだが。貴様こそ誰だ」
「ボクはレド・プラマバ。で、オジさんは?」
「
「なんだよそれぇ! オッサンこそ礼儀知らずじゃん、まずはボクが名乗ったんだからそっちも名乗るのが
「まったくウルサイ小娘だ、捨てた名でいいなら──グリゴリ・ザジリゾフだ」
「グリゴリ……ザジリゾフぅ? それってぇ、むか~し"西方魔王"だった奴じゃん」
「ほう、かなり前の話だが、歴史を知っているか」
「もちろんさ、なにせボクは"大魔王"になるんだからね」
フフンと鼻を鳴らすレドに対し、冷め切った様子で
「つまらん景色だ」
「ふーん、そんなこと言うってことは……なんか
「礼節を学べ、小娘」
「魔族にとって"強いことが何よりの礼節"でしょ?
「四方魔王の一角にすら至れていない者が、身の程知らずも
ジロリと
「へっへーん、元魔王だろうが捕まった上に魔力ない奴に
「
「ボクにはジイさんと違って将来性があるもん。ベイリルが助けてくれなくったって、なんかこう……どうにかしてた!」
「
何かを確認するように繰り返す
「そうだよ? あーあーアイツ、用心深いから名乗らなかったんだな。まったくベイリルらしいや」
「まるで奴を昔から知っているような口振りだな」
「そうだけど、なんか文句ある?」
「ふむ……不用心、と言っていいものか」
「はぁ? ベイリルは用心深いっつってんじゃん。昔っからいちいちさぁ細かいんだよね、ほんっとバカみたい」
噛み付くレドを気にした様子もなく、
「
「なにがさ?」
「こっちの話だ」
「だったら口に出さないで、心の中だけで言っててくれない? ねぇ構ってちゃんなの?」
「ここは
「あっそ、そんならさぁ──」
言いかけたレドの言葉が止まった瞬間、ゴゴォッと削岩された音が響いて風が吹き込んでくる。
「うわっ、もう戻ってきた。ジイさんに構ったせいで勧誘する暇なくなったじゃん」
言うや否や独房から飛び出していくレドに