異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
魔導"
それは言うなれば外付けプログラミングが可能な
自分が実行するには危ういことも、イメージが困難なことも……別のモノにやらせるのならばその限りではない。
俺にとっての"
「……まじか」
しかしその余韻すらなく、俺は自らの碧眼に映り込んでいる事実を再確認せざるを得なかった──
腰ほどまで伸びた灰色の長髪をなびかせ、引き絞られたような筋骨を備えた肢体。
両の瞳を"薄布で目隠しをした女性"が、その左手に……首から下のない
直前まで"天眼"で場を掌握していたからこそ既知ではあったが、それでも驚愕を隠すことを忘れてしまうほど。
「──"運び屋"」
俺はその名を自らに浸透させるかのように
インメル領会戦にあたっての軍議の最中、ゲイル・オーラムが連れてきた共和国の大商人エルメル・アルトマーの護衛役だった人物。
その女性を記憶の中から発掘するのはそう難しくもなかった……なんとなく、そうなんとなく個人的に印象的だったから。
そして現在──
俺の魔導と濃縮魔力は……
もはや
「敵意はありません"運び屋"さん、何故ここにいるのか聞いてもよろしいですか?」
「……」
運び屋は
契約を結べればどんな品物であろうと運び、失敗したことがないというもっぱらの噂。
調べてもらった情報の中には──時に小国に雇われて、戦争の為の軍団輸送周りを一手に引き受けて成功させたり。
村落を一つ丸ごと、周辺に気付かせずに他国へ運んで亡命・引越しさせたという逸話もある。
また単なる輸送業だけでなく、時に交渉事にも重宝される。
彼女のやり方は"往復"すること、たったそれだけで
つまりは契約に従って指定された物品を相互に送り届ける。片一方が
彼女にはそれほどの武力があるという証左であり、彼女を利用する者は例外なくそれが事実なのだと知っている。
(まさか
風聞に
しかしながら今のところ、こちらをどうこうしようと言った空気は一切感じられない。
本当にただただこちらを観察しているかと思うと──その
「……仕事」
運び屋の声は
なぜだか直観的に彼女は大丈夫なのだという安心感に従い、俺はもう少し突っ込んだことを聞いてみる。
「……アンブラティ結社に雇われた?」
「言えない」
「その
「知らない」
なにやら
俺はこのまま請け負ったことに関して、いくら
たださしあたって多少の意思疎通はできそうなので、切り口を変えて純粋な会話を試みる。
「わかりました──ところで俺のことは覚えていたりします? 以前に少しだけ顔を合わせたと思うんですが……」
こちらの問いに対して運び屋から返ってきたのは、フルフルと首を横に否定する仕草。
「覚えてない」
「あっはい、そうですか」
「けど──懐かしい」
「……んん?」
俺が首を
さしあたって記憶としては覚えてないが、なんとなく会った感触は覚えてもらえている──と言ったところだろうか。
「運び屋さん、俺にも貴方を雇うことはできますか?」
「
「ご多忙ですか」
「そう。あと
「
「……たしか、に?」
誰かの紹介が
実務面のみならず、アンブラティ結社へと繋がる情報も含め……ここで
(アンブラティ結社が彼女の顧客の中にいるのなら……そこから繋がる情報なら、この際もうなんだっていい)
仮想敵だなんだと甘い見通しではなく、アンブラティ結社はもはや放置しておくワケにはいかないだけの存在であると、認識を改めるより他はない。
(結社を
思わぬ反抗に遭った以上は、全力でもって殺さざるを得なかった。
それどころか歯車が噛み合わなければ、こちらが間違いなく死んでいたほどの強度であった。
無事に窮地は脱したものの……せっかく
(
あるいは彼女を
いずれにせよどんな些細なモノであっても利用しなければ、こうも世界の裏側で暗躍する存在に辿り着くことはできないだろうと。
(並行して
財団が拡げている情報網を利用すれば、あるいは新たに判明してくることもあるかも知れない。
優秀な人材を獲得することで、テクノロジーが発展していくことで、今まで霧の中だった事実を晴らすことだって可能となる。
俺はウェストバッグから取り出したメモに、樹脂ペンで財団のことを
「お暇ができたら、ご連絡を──ちなみにこのことは他の誰にも秘密でお願いします」
少しでも印象付けようと、破ったメモ用紙を
彼女は受け取ったところで小さくコクリと
「っはァー、ふゥ~とりあえず乗り切れ──た、あ……」
(ここまで揺り返しが激しいとは──)
収監から魔力枯渇状態での獄中制圧、"黒スライムカプセル"を使った魔力の急速充填から脱獄劇。
"赤スライムカプセル"の液状摂取ドーピングによる心身の
なによりも魔導を全力全開で発現させての
(それでも十分過ぎるほどの効果だ……研究開発してくれたサルヴァ
俺は"白スライムカプセル"を取り出し、頬張ってグミキャンディのように舐める。
その効果は黒色や赤色の効果を弱めて体内環境を調整するもので、副作用と反動もいくらか楽になっていく。
「落着だ」
まだ皇国領内から脱出はまったく完了していないが、巨大な山を越えたことで俺は