異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「今もどこかで元気にしてるかなあ……──"スミレ"ちゃん」
ティータから発せられた一言に、俺は表情だけでなく肺からも抜けた声が漏れる。
「へっ──!?」
「……? どしたっすか、ベイリっさん」
「今、名前……なんて?」
幼少期より鍛えたハーフエルフの半長耳が、よもや聞き逃すわけもなかったのだが……俺の脳内が確認する問いにティータは答える。
「スミレちゃんっす。年もおんなじくらいで」
「茶色の髪の……?」
「ツインテールで」
「黒翼の鳥人族で……?」
「はい、お父さんが極東から渡ってきたカラスの獣人で──」
「ティータが"仕込み
「そうそう! って、ベイリっさんにそこまで話しましたっけ?」」
(さすがに同名のよく似た別人ってことはなくなったな……)
首を
「──いや、話してもらったことはない。そしてリーティアやゼノから聞いたわけでもない」
「……? それじゃあ? もしかして会ったことあるんすか!?」
「あぁ、会ったことがある──」
それもつい最近。収監される少し前。皇都で。
「実は皇都でオルゴールを配っていた時に、少しだけ話した」
「はあ? おいベイリルそれって直近じゃんかよ!」
ゼノのツッコミに俺は黙って
の話をもう少し早く聞いていたならば、あるいは今ここに一緒に立っていたかも知れないと。
「そっかぁスミレちゃん、会いたいなあ。とりあえず今も元気にしてるようで良かったっす」
「それと言いにくいんだが、彼女と……闘った」
「ベイリル兄ぃ、まさか……」
リーティアが目を細めたところで言わんとするところを察し、先んじて俺は弁明する。
「いやいや、そこはさすがに大丈夫だ! 怪我だってさせてない。絡まれたから少し相手にして、聖騎士長の横槍が入ってそのまま彼女は逃げたから──」
「絡まれって、なんでまたそんなことになったんすか?」
「あぁ……なにやらシップスクラーク財団を悪の組織かなんかだと勘違いしていてな。完っ全に誤解から生まれた
「ぷっあっはははは! いやぁ~スミレちゃん
確かに不明瞭な風聞ばかりを繋ぎ合わせれば、シップスクラーク財団は世間の裏側で暗躍するヤバい組織か何かに見えるかも知れない。
(まっ実際に不法行為も上等! で、やっている部分は
綺麗事や理想論ばかりでは世の中を動かすことができないのはわかりきっている。
悪名もまた
「ついでにだが──"世直しの旅"とか、わけわからん使命を
「世直しっすかぁ……昔っから正義感が強くて、自分らをからかってこようものなら年上の集団相手でも食って掛かってたんでちょっと納得っす」
「改めて財団でも勧誘対象として指名手配しておくつもりだが、俺が個人的にまた会うことがあればティータの名前を出しても構わないか?」
「もちろんっすよ、スミレちゃんにまた会える為なら、自分も協力を惜しまないっす」
もっともオルゴールという布石を打ってあるので、いずれ向こうから興味を持って近付いてきてくれるだろうとは思っている。
「……とりあえず
「なるほど、自分らしか知らない秘密とか──それじゃあ、スミレちゃんの
「んん? 本当の名前……?」
「スミレという名はお父さんに付けてもらったもので、
ティータ自身は何気なく発した思いでなのかも知れないが、俺は思わずゼノと顔を見合わせてしまう。
「あとはそっすねえ……スミレちゃんが洗濯
「ちょっと待て、ティータ」
「なんすか、ゼノ。まだ続きがあるんすけど」
「スミレって子は知ってたが……ベロニカってのそれ、初耳だぞ?」
「そりゃ二人だけの秘密っすし? 今言っちゃってるっすけど」
当然ティータにはわからない、リーティアもピンッとこないだろう。それは
(生まれる前からだと……?)
「ベイリル兄ぃ、どうしたの? なんか真剣な顔しちゃって」
こちらを覗き込んで来るリーティアの頭をポンポンと撫でながら、俺はさらに思考を回す。
すなわち
(可能性は……低くない)
もちろん大魔技師が残した記録、そのコピーを手にしたゼノのように、過去の転生者の連なる何かが継承されているだけということもありえる。
しかしティータがリーティアとゼノに肩を並べるだけの技術者となりえたのは、幼少期に異世界の知識という影響を受けていたからと思えば得心もいく。
論理的な思考力と柔軟な発想力が
(スミレ……本当の名をベロニカ、か──)
俺や"
アジア圏の名前ではないが欧州かどこかの女性名だ。
半端な俺が持ち得る現代知識とはまた別の地球の知識は、シップスクラーク財団とフリーマギエンスをさらなる躍進へと繋がるに違いない。
(さしあたって指名手配レベルは最大だな)
たとえ転生者でなかったとしても、ティータの幼馴染であり、何らかの知識保有者であり、俺と
そして
引き入れる以外の選択肢はなく、どこかに所属していようとも是が非でも引き抜かねばなるまい。
「なるほどな──それで、ティータ。水をたっぷりにした赤い洗濯
「おっ続きが気になるっすか?」
「ちょっと待ったベイリル」
ティータが喋り出すよりも先にゼノは手を広げて制すると、俺の元まで近付いてきて耳打ちしてくる。
「おいおい、詳しく聞かなくていいのか? "転生者"の可能性があるのに」
「構わないさ。どのみち勧誘すればわかることだし、現状では交渉材料が増える程度のものさ」
「あー……それもそう、なのか? いやそうか、ティータにもっと昔話させてりゃ、自然と確信を得られるかも知れんという算段か」
「それもある」
ティータとリーティアは俺達の秘密の会話に要領を得ないまま、抗議するように口を開く。
「ゼノもベイリっさんも、なんなんっすか? ちょっと気持ち悪いっすよ」
「なんかぁ~、男二人でわかった感じになっててズルい!」
『気にす
そうして俺とゼノは声を合わせて、煙に巻くのだった。