異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「衛生を保つ為に安価な石鹸を製造・販売したり、蒸留エタノールを併用することで、商会の息がかかった地区の
「不浄や
サルヴァは言葉途中で止めたところで、ゼノが
「はい、証明する上で……"光学"分野へとリソースを当てた」
「顕微鏡──知ってみればなるほど、あれほど単純な作りでありながら……まさしく世界を広げるモノだった。財団入りして得た収穫の中でも、極上と言える」
「まったくですね。そうして
"光学"──光と視覚を科学すること。
ガラスと屈折を掌握することで、視野を広げるというところにその本質がある。
微生物や細胞を注視し、航海をより安全なものに、宇宙にまでその瞳を届かせる。電球は夜の闇を照らし、地上に星空を
また三角柱に構成して分光器を作れば、プリズムを利用して取り巻く元素の一部を判断・測定することも可能となる。
「それと今、おれたちが掛けている高品質なメガネもそうですね。この高品質なガラス製品のおかげで、おれたちの開発も大いに
「うむ。ガラスは状態を観察しやすく、数限りない化学変化を拒絶し、研究には必須の科学用品──それに物質の状態を安定させるということは、保存食などにも繋がる」
「えぇえぇまったくもって。……ちなみに特に反射率が高く、全身を映せる"鏡"が高く売れたそうで、投資額を遥かに上回る儲けが出たんだとか」
産業においても日常においても中心基盤の一つであり、
高品質ガラスの生産こそ、シップスクラーク商会の大きな財源となり、付随するテクノロジーを飛躍的に押し上げた立役者であると言えよう。
「商会が順調に拡大していく中で
「ゼノは"数学"と"工学"か」
「おれの得意分野はそうですね」
"数学"──秩序と構造と関係の科学。
物理における基礎であり、世界を取り巻くあらゆるものが数字によって表すことができる。
論理的思考能力を
数学を
"工学"──数学を用いることで物質・構造・機器・体系の設計をすることを可能とする。
単純な歯車一つから、複雑な工業機械に至るまで……日常生活に寄り添い、物質文明の根幹を成さしめる学術分野。
「リーティアが"
"冶金"──より純粋な金属として精錬し、
元素の
浮遊石を無重力環境と電気を利用して"
「ティータの"鉄鋼"・鍛造技術も合わせた魔鉄鋼に関しては、既に世界でも有数だと思いますよ。身内
"鉄鋼"──惑星にありふれた鉄と炭素を合成することで非常に硬質かつ柔軟に富み、耐久性・耐腐食性に優れた金属を作り出すことができる。
鉄文明をさらに一歩躍進させるテクノロジーであり、鋼鉄の技術があってこそ工業機械が長く正しく機能する。
また魔力を固着させることで、魔力を通すと硬度を増す"魔鋼"となり、魔術具の素材ともなる。
「学園でおれたちは高め合い、学んでこれた──思えばベイリルはそうやって学園を利用して"教育"をしていたんでしょう」
「
「感性が若い人間を利用して、
"教育"──知識とは
人間が動物と一線を画す要素であり、社会を形成し文化を生んできたのも、ひとえに知識を継承していったからに他ならない。
有史以来、人類は様々な形で教え、学んできた。しかしそれは多くが生存に直結した知識に留まり、また時に興亡と共に喪失されていった。
文明を成熟させ、人々に多様な意識を持たせ、正確に伝えていく為には……拡充し安定した教育体制の確立が必要となる。
「結構なことだ、"人類皆進化"という大望において──誰もが知的水準を上げていかねばならない」
「おかげで色々な人材が発掘されましたよ、元々そういうのが集まりがちな気風の学園でしたけど」
「お前自身も含めてか?」
「否定はしません」
「ハハッハハハハッハ!! だが足りんな、若者はもっともっと
「っすか。まぁまぁおれの考えについてこれる、おれにも考え付かないことを思いつける──リーティアやティータと出会えたことは本当に幸運でしたよ」
ベイリルは学園を通じて多くの
「まったくもって遠大な計画ですよ。そして卒業までおよそ四年の間にシップスクラーク商会も様々な事業に着手し、安価な紙の量産体制を確立させた」
「データを収集・保存し、比較検証する為にも不可欠だな」
「樹脂製のインクペンや、この鉛筆といった筆記具も一部商品化。飲食物や娯楽玩具、美術品や賭博など、商会の財源は実に多岐に渡るようになりました」
ベイリルから習ったペン回しを、ゼノは手元でくるくると鉛筆を使って回して見せる。
「経済は門外漢ですが、株式・為替・事業融資・保険業。複式簿記で歳入歳出を明確化し、計算を用いて
ゼノは思い
「次なる転機は……火薬ですかね」
「魔力や魔術を使わずとも、誰もが普遍的に
"火薬"──
身体能力にも魔術にも左右されることなく、画一化された威力であるということがメリットでありデメリットとなるのだが……。
とはいえ弱者においても一定の
「それと爆薬と、
「弾薬か……弾丸と推進剤を一体化させる──発想こそ単純ではあるが、その
何十年何百年と掛けて、時には実戦にて積み重ねられ、
「そうした兵器の威力を
「王国軍との
「おれも参加したわけじゃないんで、聞きかじりですけど……兵器に見合った戦術と組み合わせて大打撃を与え、さらなる戦果を経て勝利しました」
あの戦争こそ、シップスクラーク商会における
それまで蓄えた知識と技術と財産とを全力で投資したし、もしも敗北していれば大きく傾いていたほどだった。
それだけに勝利した
自由にやれる土地、それも肥沃で開拓しがいのある立地。秘匿しなければならないテクノロジーを、ふんだんに扱うことが可能になったのだった。