異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#340 領都ゲアッセブルク I

 

 ──領都ゲアッセブルク・モニュメント前──

 

『うっわぁあああーーー!!』

 

 サイジック領の新首都となるゲアッセブルクの門を通らば、最初に目に映るのは二重螺旋の形に成長する大樹。

 さらに見上げていけば、三つの電子が衛星のように回る星のモデルが、浮遊極鉄(アダマント)によって浮かべられていた。

 

 揃って声をあげた一組の男女は、モニュメントより先に広がる街並みを見つめ……さらなる興奮のままに叫ぶ。

 

「見て! ねぇ見て"カッファ"!」

「一緒に見てるって"ケイ"! 」

 

 年相応の成長が見られるケイ・ボルドは、かつて腰元に差している二振りの魔鋼剣にて、王国は円卓の魔術士第二席の子飼い部隊を一掃したほどの剣士。

 もう一人のやや精悍(せいかん)さを帯びてきた青年カッファは、常に彼女の(かたわ)らで共に鍛錬し育ってきた幼馴染である。

 

 

「やっほー!」

 

 すると掛けられた声の方向──見上げた大樹の上の原子モデル──から颯爽(さっそう)()りたる影があった。

 

「ふっふっふ」

 

 白金の糸で(たく)みにブレーキを掛けて着地した"プラタ"は、学園の同季生であり最も親しい友人二人へと得意気に鼻を鳴らした。

 プラタ・インメル──旧インメル領──現サイジック領における名目上の当主であり、かつてカルト教団で心神喪失状態の(にえ)とされていたとは思えないほど快活さを見せる。

 

「待ってたよ二人とも、それじゃさっそく行こうかぁ」

「楽しみ!」

「しゃあっ!」

 

 仲良し三人組は連れ立って、ゲアッセブルクの(みき)であるメインストリートを歩き出す。

 山に根を張り、一本の大きな川を軸にして支流をいくつも人工形成し、地上へと枝葉を伸ばす形で広がる街並。

 

「まずここが"樹幹通り"で、いろんな場所へとアクセスできるし、迷ってもここに出れば大丈夫だよ。それで北の山に向かって、およそ西側が"マギア区"で東側が"スキエンティア区"ね」

 

「ねぇプラタ、それってどういう意味?」

「ベイリル先輩(いわ)く、地球(アステラ)語で"魔法"と"科学"。でも名前そのものに意味はなくって、単に東と西とじゃ味気ないから付けられてるだけね」

 

 あくまで魔導と科学の融合こそが主軸であり、どちらか一方にのみ偏重・傾倒するようなことはない。

 

 

「おれたちも卒業したら住みてぇな~、でも跡を継がなくちゃいけないからなー」

「わたしもボルド領を捨てるわけにはいかない……」

「あはは! でも二人はサイジック領国民として戸籍登録してあるから、いつでも来てくれていいよ」

 

「まじ!?」

「いつの間に?」

「もちろん領主特権──というわけでもなく。それなりに経歴あるシップスクラーク財団員は、大体みんな領"国民"としての権利付与されてるよ」

 

「はぇー」

「……? 国民の権利がない人もいるの?」

「いるよ。サイジック領国は国民・市民・属民という形で分けられてて、元インメル領民はほとんどが領内都市のいずれかに住む"市民"として登録されてる」

「属民ってぇのは?」

「"奴隷"のこと。他国よりは幾分(いくぶん)人道的だし、"公衆衛生規則"で清潔は義務付けられてるけど……それでも待遇は厳しいよ」

 

 プラタはケイとカッファに説明するものの、話半分と言った様子であった。

 

 

「それって、分ける意味があるってことなの?」

「とーぜんあるよ。砕いて言うと……選民思想を植え付けて、みんなに上昇志向を持たせる」

「そうすっとどうなるんだ?」

 

 首をかしげている二人に対し、プラタはジェスチャーを交えながら答える。

 

央都(おうと)となるここゲアッセブルクは他の都市とも違って、テクノロジーの集積地として特別だから……そこに住む人も特別であるという心持ちになる。そうすると自然と秩序が形作られる。

 "国民"は(した)の規範であろうとするし、"市民"は国民を目指す為に試行錯誤や努力をし、"属民"は大変だけど(さだ)められた兵役や労役をこなせば国民になれるから、頑張ろうって思えるんだ」

 

 プラタは完全に理解こそしていないものの、ベイリルやカプランらから聞いた話をそのまま二人へと説明する。

 

「はっは~ん、なるほど。師範代は弟子たちの前じゃ、イイ格好(かっこ)してないとってことだな」

「それはちょっと違うくない?」

 

「あはは~、まっまっね。差はあれどでも、どの民でも"一つだけ共通するもの"もある──その一つが……アレ!」

 

 プラタは周辺より大きな建物を、スッと指差して案内する。

 

「"フリーマギエンス公会堂"!」

「プラタプラタ、こうかいどう……ってなぁに?」

「サイジック領公認の宗教、我らがフリーマギエンス員が利用できる施設! (もよお)しのための会議場や娯楽があったり、基礎教育はもとより各分野にまつわる書物も収蔵!

 自由な魔導科学(フリーマギエンス)の教義では人類皆共同体だからね──まぁ一応階層分けはされてるけど、"大温泉浴場(テルマエ)"以外で唯一"属民"も利用できる施設だよ」

 

「入ってみたいぜ!」

「わたしも!」

「いいよ! って言いたいけど。それは後あと~、先に用事を済ませちゃわな──」

 

 

 言葉途中で止まったプラタの視線の先を、ケイとカッファはジッと追う。

 そこにはフリーマギエンス公会堂から出てきた、一人の陰気な男の姿があった。

 

「ッ──"エウロ"せんぱ~い!!」

 

 大きな声をあげて手を振るプラタに、一瞬ビクついた様子を見せた男はすぐに気付いてほっと胸を撫で下ろしたような表情を見せる。

 そうして周囲をキョロキョロと見回してから、ゆっくりと近付いて来るのだった。

 

「こんにちは!」

「や……やぁ、プラタ。相変わらず元気だね」

 

 男は帽子を深く被っていてパッと見は黒髪の人族に見えるが、外套(ローブ)からはわずかに尻尾が見える。

 

 

「二人とも紹介するね、この人はエウロ先輩。学園の卒業生で、今はサイジック領の"財務尚書(ざいむしょうしょ)"──若くして経済全般を統括してるんだよ」

「後輩のカッファです、よろしくどうぞ!」

「同じくケイ・ボルドです。以後お見知りおきを──」

 

「あぁ、きみがボルド領の……」

「……? わたしの家のこと、ご存知なんですか?」

「シップスクラーク財団にとって、初期の大きな投資先の一つだから……一応」

「そうですか! もし財政のことに困ったら、ぜひぜひ相談に乗ってもらっても大丈夫ですか?」

 

 グイッと前のめりに距離を詰めてきたケイに、エウロはたじろぎながらも答える。

 

「えっ!? うっ……うん、ぼくなんかで(ちから)になれれば……時間が()いていれば、だけど」

「ありがとうございます!」

 

 

 ケイが勢いよくお辞儀と共にお礼を言った瞬間、キンコンカンコンと(かね)()が街中に響き渡った。

 

「お? なんだこれ」

「これは……"大時計台"にある正午を告げるチャイムだよ」

「へぇ~~~そんなものもあるんですか」

 

 するとプラタがくるりとその場を回って、見栄を切るように付け加える。

 

「し・か・も! 魔術具じゃなく完全機械化された時計で、サイジック領の標準時!」

「よくわっかんねえけどすっげぇんだな!?」

「スゴイよ~、言葉じゃ説明できないくらいにね。ところでエウロ先輩、先輩も一緒にお昼どうですか?」

 

「ううん、ぼくは遠慮しておくよ。この後の最終打ち合わせ用の資料見直しもしなくちゃいけないから……その、プラタもこのあと頑張ってね」

「了解です! 立場的には半分お飾りですけど気張ってきます!」

 

 

 エウロといったん別れたプラタ達は、歩きながら店を巡っては昼食を買い食いして回っていく。

 

 農耕のみならず……生きることに根付いた"食文化"についてもまた、シップスクラーク財団は(ちから)を注いでいる部分である。

 より高品質で安定した素材の大量生産および製造環境や、適切な輸送と流通、実際に調理するレシピまで含めて──

 

(うま)っ……美味(うめ)っ……!!」

「ちょっとカッファ、もうちょっと落ち着いて食べなよ。お里が知れるってやつだよ」

「だってよぉケイ、こんなの全身全霊で味わわなくちゃ失礼ってもんじゃ──っと」

 

 カッファはケイの(ほう)へ顔を向けたまま、脇道から現れた人とぶつからないように避ける。

 

「失礼、お姉さ……お兄さん?」

「あっ!」

「あら」

「……?」

 

 一瞬女性かと見紛(みまが)ったその人物の顔を見て、言いかえたカッファ。思い当たって声をあげたケイ。

 カッファ観察するように目を細めた緑髪の男。そのすぐ後ろから疑問符を浮かべた金髪の女性。

 

 

「わーい一個おまけしてもらっちゃ──って、"ナイアブ"先輩に"ニア"先輩!」

 

 そしてすぐに追いついたプラタが、一堂に会している新たな先輩二人の名前を呼んだのだった。

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