異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
"親愛なるクロアーネへ、明朝に
(まったく……)
手紙にはそれだけが書かれており、断る余地は与えられていないように思えた。
サイジック領の式典も落ち着いたかと思えば
「魔導師になったところで、ゲイル様に
「なぁに、くろー?」
「なんでもないですよ、ヤナギ。それが終わったら次はこっちを切ってください」
「わかった」
素直なヤナギは並べられた野菜を、小さな包丁で切っていく。
既に言葉も
(オーラム様の分はともかく──)
ベイリルの好きな料理も、好みの味付けも、既に熟知してしまっているのが何とも言えない気分にさせられる。
だからせめてヤナギが切った多少なりと不揃いの具材で調理してやろうと、そんな他愛もないことをしたくなる。
(別にお弁当を頼まれたわけではないけれど……)
ゲイル・オーラムがいて、さらにベイリルも揃うのならば用意しないわけにはいかなかった。
揃ってテーブルについてくれたなら手間はないのだが、決闘をする手前そういうわけにもいかないだろう。
よって早めに起き出して来たヤナギと一緒に、
「私は私の仕事をするだけ、ですね」
「くろー、仕事、大事」
ヤナギへと微笑みかけながら、私はいつも通り調理に没頭するのだった。
◇
──サイジック領都郊外・"
"ゲアッセブルク凱旋門"をくぐった先。まだ建築されたばかりで大々的に使われたことのない、その場所には──既に二人の男が入場していた。
「おはよう、クロアーネ。来てくれて嬉しいよ、今朝も綺麗だ」
「おはようございます、オーラム様」
「ふあ……あー、おはようクロアーネ」
私は軽薄な灰銀髪のハーフエルフを無視して、主人へと挨拶する。しかしベイリルはそれも慣れたものだと、いつも通り何事もなく話を続ける。
「っていうか、ヤナギも連れてきたんだな」
「後学の為になるでしょう」
「勉強ぉー」
隣に立つヤナギは、グッと小さな握り拳を天へと振り上げる。
「それと弁当も用意してくれてきたようで」
「一応は。……それで、なぜまたこのような決闘など──」
するとぼんやりと空へと眺めていたゲイル・オーラムが、ポケットに手を突っ込んだままスッとベイリルの
「それはボクちんも聞きたいねえェ。たま~の試合じゃなくって、改まった形での"決闘"なんて……もしかして初めてじゃないかァい?」
私はその言葉に思わず眉をひそめる。オーラム様ですらベイリルの真意をまだ聞かされていないということに。
「くっははは、まぁ
「そうだねェ……かれこれ、もう七年くらいになるか。精神はともかく、肉体的には
「恐縮です。それでですね、腕試しはもちろんですが──古来より一人の女性を複数の男が奪い合うのは、
「……は?」
「んなぁるほど」
私は呆れた声を発してからゆっくりと大きく溜息を吐く。
「帰ってもよろしいでしょうか」
「せっかくだから見て行きなよォ、クロアーネ。アレは覚悟を決めた男の
主人にそう言われてしまっては私としてもこの場に留まるしかなく、確かにベイリルは真剣味を帯びた表情を浮かべている。
「まったく……もうすぐ一児の父にもなろうという男が、無謀なマネをするものです」
「心配ありがとう、クロアーネ。ってか、そこらへんしっかり把握してんのな?」
「私がハルミアの万全な栄養および
「愚問だった」
軽いやり取りもそこそこに、ゲイル・オーラムが絡みつくような本気の殺意をベイリルに叩き付けるも……彼はどこ吹く風といった様子で
かつてイアモン
いけ好かないのは相変わらずな部分も残るが、既に立派な一人の男として大成しているのだ。
私は弁当を片手にヤナギを抱きかかえて観客席の
「オーラム
「ワタシより弱い者に娘を守ることなどできはしない! 欲しければ越えてゆけ!! 奪い取れ!!」
オーラム様は私のことを娘などと思ったことは一度もないはずだが……ノリノリの掛け合いをしつつ闘争が始まる──
「顕現せよ、我が
ベイリルの詠唱と
同時にポケットから両の手を抜いたゲイル・オーラムは、両腕を高速で
そして直後には
「ほっほーーー……そいつがキミの魔導か。あの時は上からチラっとだったけどようやくまともに見せてくれたネぇ、ベイリルぅ。てっきり出し惜しみするものかと思ってたヨ」
『誰であっても
そんなベイリルの言葉に対して獰猛な
既に逃げ場は消失し、決して
──しかし、生きている。ベイリルはまだ打ち倒されることなく。傷一つなく立っていた。
『空華夢想流・合戦礼法──
ベイリル自身が両手に二刀、背後の影霊が両手に二刀──合わせて四本の"太刀風"が金糸を斬断していたのだった。
「やるねェ……」
『"音圧振動"は標準搭載。さらに水素・液体窒素・
長大な
「んなぁ~らぁ~……
一瞬にして収束された金糸群が
だけでは終わらない。まるで詰め将棋のように最適な位置へと己を移動させ、最適の攻撃を最適の
それは
しかしゲイルもさることながら、いつの間にか多重に編み込まれた金糸盾によって四撃を同時に全て
『無拍子も難なく防ぎ切る、と……
「ほとんどの奴らは、こうして会話に
輝く雷光によって張り巡らされた金糸が
「さってっと、お次はナニを魅せてくれるのかな」
四刀を防がれたベイリルは手元より掻き消しながら、ステップを踏みつつ距離を取ってから両腕を大きく広げた。
『──
ベイリルはゆっくりとした動作で、手の平を空間へと向けるように両手を突き出す。
『ある種において
発せられたその言葉こそ、ベイリルが使う魔導の真骨頂。
ただ自分を二人にして手数を増やすのみならず、己には不可能な役割を分担した上で強制することにある。
『
「なッ──んと、こいつはァ……?」
次の瞬間、眼前に広がったのは──展開していた金糸がみるみる内に