異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「もしよろしければ、直接帝都まで
俺が軽い気持ちで口走ったその提案に、赤竜は感情を込めた声に出す。
『この
「えっ──と、あぁ……はい。"人化の秘法"もあるわけですし、帝国宰相と直接会って話すのが一番効果的かと存じます」
『この
「……もし仮に帝国が
『あまつさえ我が身を
「対話は大事ですよ。それが知的生命の証明であり、複雑に織り成す社会性の真髄です」
『
熱と威圧感が増し、一方で俺は肝が冷える心地で静かに言葉を選ぶ。
「
こう言っては侮辱にあたるのかも知れませんが、人も竜も言葉を
『よくよく口の回る……』
「だからこそ創世の時代において、竜種を排斥しようとした神族らは
あくまで、理想論に過ぎない。実際にはそう甘くもないし、簡単にはいかないのも重々承知している。
特に宗教歓や伝統・文化がもたらす
(だからこそ、塗り潰してやるんだ)
フリーマギエンスの思想、シップスクラーク財団がもたらす技術と文化はそこに集約される。
「中立の立場を取りたい
『
「完璧とは言わずとも、帝国が多種族国家として──現世界において最も理想的な環境である限りは、それを自らの手で滅ぼすことはありえないかと」
口にこそ出さないが、そうでなくとも赤竜が人間が好きなのは明白。
無為に命を奪うような気質ではないことも、ここまでのやり取りで理解している。
「──それに"帝国宰相"ヴァナディス
『長寿病だと』
「長命を生きる者にとって肉体や精神が鈍化し、刺激に対して反応が薄く──」
『阿呆が、そんなことは知っている。"白"も少なくなく忘れ、"緑"に至っては大半のことを置き去りにしていた始末なのだからな』
興味が無い事は忘れていくし、思い出すのが難しくなるのは
「だからこそ赤竜
『アイトエル……ヤツのことも知っているのか、モーガニト」
「少しだけ会って話をしました。もっとも彼女はこっちのことを色々と知っていたようなのですが──」
あれから一度も再会していないし、探そうにも空間転移の魔王具を相手にしては追いすがることも不可能に近い。
『まあいい、アイトエルは気にするだけ無駄なヤツだ──それで、ヴァナディスが長寿病か』
「進行度も、発症の仕方も様々ですから。あるいは赤竜
『最後に会ったのは──60年ほど前になるか』
「まぁまぁ創世より生きる赤竜
もちろん必ずしも長寿病とは限りませんし、単に考え方が変質したという可能性もあります。いずれにしても、顔を突き合わせて話してみることが確実かと」
『……──よかろう』
赤竜はしばらく黙って考えたかと思うと、横たえていた巨体をゆっくりと持ち上げる。
『今後のことも含めて
「進言を聞き入れていただき感謝します」
赤竜はこちらを
そして竜の形をした炎だけが収束して"人型"を
「──えっ?」
俺はあまりの状況に
なにせ
「あ──あ──ふむ、"人化"も久し振りだ」
やや低めでハスキーな、
切れ長の真紅の瞳に、艶やかな
「見惚れるな、モーガニト。
「っっ……と、いえそのそういうつもりじゃ──でなくって、ひとまず。赤竜
「人化している時の名は"フラッド"と呼ぶがいい」
「了解しました、フラッドさん。……それで??」
「ああ貴様は白と黒を知っているがゆえに思い違いをしているようだが、そもそも
「な……なるほど、とりあえず無理やりにでも
「他の
「はい、……はい。もう
俺は
『そういえば貴様は緑が"人化"する瞬間を見ているのだったな』
赤竜の
「モーガニトよ、白や緑から"分化"を聞いているか?」
今度は女性のフラッドの
「そうか……頂竜が12の竜を生んだように、赤竜
『理解が』
「早い」
赤竜とフラッド、二人は
『白と黒が二柱をもって灰色の仔として"分化"させたが、頂竜がやっていた以上は単独でもできぬなどという
「もっとも……
(産み出した端末に己をコピーした自律AIを乗っけて、リアルタイム相互通信もできるみたいな……すげーな"竜の秘法")
研究者というわけでもないのに、何事も科学的に考えてしまうのは悪癖でもあった。
たとえ理屈があったとしても、現時点で解明できない。しかも専門家でない俺には到底わからない。
であれば単なる空論に過ぎないばかりか
しかしそれでも──魔術・魔導・魔法とは
「差し出がましいですが、そのような技術をお持ちなら……黒竜討伐も手伝ってくだされば──」
『阿呆が。
「はい、肝に銘じておきます」
俺が素直に
「時間を浪費しても無駄なことだ、さっさと行くぞ。火竜より遅いことはあるまいな?」
フラッドからの挑戦状とも取れるその物言いに、俺は不敵に笑って口にする。
「もし飛行で競争をしたいのであればどうぞ、敗北を覚悟していただきますよ」