異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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第六部 第2章「開戦と邂逅」
#365 戦争指針


 

 ──帝都・西、"大森林"中継要塞──

 

 皇国に悟られない位置に即席建造された中継基地には、物資や人員の手配と輸送が迅速に(おこな)われていた。

 

 インメル領会戦における王国軍がそうであったように、いざ戦争となれば大規模な基地を作り出せるのが魔術である。

 魔力強化された肉体を基準にする為、戦線も恐ろしいほど拡大し、空戦と地上戦、戦列と散兵、白兵と砲撃、いずれもが複雑に絡み合う。

 

 戦略の幅も、戦術の多彩さも、戦法の鋭さも膨大であり、普遍的に通用する戦い方というものはとかく少ない。

 "相互通信"を除く、ありとあらゆる速度(・・)が地球規格の比ではないのである。

 

 それでいて安定した最速の伝達手段が"使いツバメ"である為、戦争はとにかく(いびつ)になりやすい。

 後出しで戦況は刻一刻と変容し、何よりも単一個人で当千の兵を打ち倒す──戦術級たる"伝家の宝刀"が控えている。

 

 つまり上に立って指揮をする者の負担は尋常ではなく、それは戦争を楽しみ続ける帝王バルドゥル・レーヴェンタールであっても例外ではない。

 むしろそうした苦労あってこそ、勝利の味も格別のものとなるのだろう。

 

 

 中継基地へ飛んで竜騎士の一件について報告した俺に対し、戦帝は「ご苦労だった、約束どおり自由に動いていいがやりすぎるな」と二言(ふたこと)

 それだけで"空前(おれ)"、"食の鉄人(ファンラン)"、"明けの双星(オズマとイーリス)"、"放浪の古傭兵(ガライアム)"は遊撃隊としての役目を帯びる。

 

 話が存外あっさり終わったのも、戦帝がそれだけ多忙を極めているということに他ならない。

 

 俺は中継基地の外に借り受けた天幕内にて"遮音風壁"を張って、自ら雇い入れた者達と軍議をはじめる。

 

「さて……苦労の甲斐(かい)もあって我々は、遊撃としての自由を得たわけだが──だからと言って好き放題やっていいわけじゃあない」

「んなことより、モーガニトさんよ。いい加減あの"赤髪の褐色美女"が誰なのか……いやなんなら紹介してくれね?」

「いや~~~実にアニキ好みだったよねぇ」

 

「だから言えんって。それと親しみやすいのは構わんが、雇用主(おれ)がちゃんとしている時は、気を張ってくれ」

「アニキちゃんとしろ!」

「おまっ──……と、乗るな乗るな。申し訳なかったなモーガニトさん、つい欲望がだだ漏れたもんで。大人しく聞くよ」

 

 

 真剣な視線が集まったところで、俺は話を再開する。

 

「まず一つ、掛け値なしに俺は"伝家の宝刀"級。そしてオズマもイーリスもファンランさんもガライアム殿(どの)も、十二分に戦況を変える強度がある」

「だからこそわたしらは、自由気ままに動いちゃいけないってわけだね?」

「はいファンランさん、でも俺は貴重な空戦要員でもあるわけで、出撃して適度に戦果はあげるつもりです」

 

 いざ"伝家の宝刀"を抜くという状況に引っ張り出される段にあっても、過不足なく戦える程度には余力を残す。

 

「はいはーい、あたしは"TEK装備"で割りに空もやれるよ! アニキと違ってね」

「うるせーあんなの使って狙撃ができるかってんだよ」

 

「イーリスはあの(・・)飛行ユニットを使いこなせるのか。試作段階だから出力調整が大分(だいぶ)ぶっ飛んでないか?」

「慣れだよ、慣ぁ~れ」

「嬉しい誤算ではあるが……まぁそれは保険として覚えておこう。二人にはやってもらいたいことがある」

 

 

 俺はバッグから戦場予定地周辺の地図を広げて、全員がそれを覗き込む。

 

「これは財団の貴重な情報に基づいて作られた地図だから、うっかり口を滑らせないように」

 

 情報の秘匿を前おいてから、俺はピンを()していく。

 

「戦域は広い、だからこそできることがある。皇国での"資源探索"だ」

「なんだそりゃ……? つまりおれたちがするのって()()()()()()ってわけか?」

「そうだ、資源を見つけ、見極め、運搬して欲しい。橋頭堡(きょうとうほ)となりうる独自拠点の位置も、財団に選定してもらっている」

 

 シップスクラーク財団を背後(バック)に持つということは、何も物質的な支援を受けることに限らない。

 財団が蓄積し保有する情報網を使って、集合知をもって戦争をコントロール、ないし隙間を見出し利用することこそ最大の価値を持つ。

 

 さらには戦時特需を利用して儲けようとする皇国の"権勢投資会"から、カラフを通じて内部情報もいくらか得ることもできる。

 そして俺自身の強度と、少数精鋭で揃えたからこそ与えられた遊撃という特権。それをふんだんに使わせてもらう。

 

「つまり資源収集という大目的を果たしつつ、戦略的に皇国軍は攻めあぐねるが示威(じい)行動として、効果的な場所を陣取って適度に戦争する」

 

 

「……そこを、守ればいいのか?」

「そうです。空は俺が担当するので、ガライアム殿(どの)には地上からの守護をお願いしたい」

 

 コクリと静かに(うなず)くガライアムに、俺も同じように首を縦に振って返す。

 

「それで、わたしはどうすればいいんだい? わたしも水龍を使って空戦もできないことないけど、あまり保たないからやっぱり地上かい?」

「ファンランさんは水の確保と、資源類の中から食材の選定。それと仕留めた獲物の下処理もしてもらいたい」

「うん……? なんかわたしも毛色が違うね」

 

「そりゃもう周辺にいる野生の獣や魔物、あるいは"双星兄妹"が()ってきた生物資源の余剰可食部とか。戦争における糧秣問題は常について回るので、保存食としての調理をば──」

「なるほどねえ、まぁわたしは食べる以外を目的とした殺傷は好きじゃないから願ったりなことさね」

 

「ちなみに楽じゃないですよ、なにせ食糧は多ければ多いほどいい」

「そんな大食漢がこの中にいるのかい?」

「ははっ、えぇえぇいますとも──"帝国本軍"や"皇国軍兵士"というね、前線への輸送のみならず捕虜の分を含めてです」

 

 

「敵を……生け捕るのが前提か?」

 

 淡々とガライアムが投げ掛けてきた疑問に、俺は理由を付けて答える。

 

「無論、余裕があればで構いません。捕まえておけば身代金で報酬上乗せ、漏れた分も財団で買い取るから問題なし」

「ちょっと待った! 捕えておくには明らかに人員不足だろう?」

 

 ごもっともなオズマの質問にも、俺は手の平を向けてなだめる。

 

「安心しろ、そこらへんも考えてある──というかもう手配済みだ。詳しくは実際に場所を決めて、作る時に説明する」

 

 とりあえずこの場は濁した俺の構想……それは"プチ大監獄"であった。

 かねてより魔術方陣の行使手にして、死した自らを傀儡とする魔導師"エイル・ゴウン"と、"(たえ)なる"リーティアの合作品(がっさくひん)

 収容された人物の魔力を、そのまま結界として転化する。監獄として機能させるに、おあつらえ向きな魔術具の製作。

 

 元々はサイジック領で予定する収容施設の為にも必要とされた機能であり、地下にドデカイ穴を掘って設置しようというものである。

 あとは精神を抑制する(たぐい)の薬を水に混ぜておけば、まずもって反抗や脱獄の心配はなくなる。

 

 

「世話役の為の支援要員は、元々モーガニト領から供出していた人員から少し回してもらう。というわけで四人にはそれぞれの本分を果たしてもらえばいい」

「まっ報酬がもらえんなら文句はねえぜ」

「なにか面白いことあればいいなぁ」

「あいよ、まかせな」

「……了解した」

 

 持ち味を活かす、人材の能力を最大限引き出すこともまた大切なことである。

 無為な徒労に終わってしまっては、損失にして冒涜(ぼうとく)であるがゆえに。

 

(そして好機には乗じてナンボだ)

 

 重要なのは見逃さないこと。アンテナを張り巡らして、掴んで離さないことなのだ。

 

 

 

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