異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「無事、侵入──っと」
俺は魔術によって小さい光球を作り出して、潜り込んだ体内を照らす。
(
極彩色の筋繊維っぽいものが躍動し、組織液が足元でぬめぬめと流れる。
"
「まっ今頃はキャシーやフラウたちも
ワーム迷宮内の多くは、"無二たる"カエジウスの手によって大幅改造されたものであったが……ワームの胎内そのままのような階層もあった。
「慣ーれーたーモ~ノ~」
その場でドンッと足を踏み抜いて音波を放ち、"
(なんだァ……?)
跳ね返ってきた音響から
自分はてっきり食道らへんにいるのかと思っていたが……どうやら胃腸に値する部分も存在しないっぽい。
ワームのように体内全てが消化器官のような──というわけでもなく、一体どうやってこれほどの巨体を動かしているのだろうか。
(
俺は赤外線視力も駆使しながら、頼りない光だけで内部を進む。
時折、外の援護になるよう"音空波"を叩き込んでダメージを与えながら──頭の中でマップとルートを構築していく。
神獣の行動を阻害できるだけの適度な破壊と、同時に生体資源となりうる素材の探索。
「ん──ぬんッ!」
俺は収縮し閉じている肉をこじ開けて強引に通り抜けると、広い空間へと踊り出た。
「ここで音を反響・増幅させて、さっきの超音波を
そこは巨大な一個の肺臓のようで、普通に発声しているだけでも音が非常によく響く。
まるで
──そして、俺はすぐに違和感に気付く。
(……魔力が"枯渇"してるか)
それは大監獄でも味わっていたからこそ、すぐに理解できたことだった。周囲にあるはずの魔力がまったく存在していない。
ひとたび体内貯留魔力を使い切ってしまえば、自力で脱出することは不可能になるだろう。
「ふ~むふむふむ、これは──」
俺はブチッと引き抜いた一本の繊毛を観察する。
折り曲げてみたり、匂いを嗅いでみたり、引っ張ってみるとなかなかに強度もある。
何よりも魔力を通してみると、良質の魔鋼を思わせるほど魔力導通性が良い。
「使えるな」
ニィと笑って収穫物を喜ぶ。具体的にどうこうというわけではないが、シップスクラーク財団の魔導科学があれば何かしらの用途を見出せるだろうと。
(毛……いやクジラだからヒゲとでもしておこうか、神獣
俺はブチブチとそこら中から引き抜きまくり、
「しかも
どうやって持ち帰るべきかも考えながら、俺はせっせと
日にちを掛けて何度も往復するか、それとも体内から大穴を
──ともすると、何百回目かの引き抜きから……
(んん……?)
俺は"それ"を拾い上げると……とても見覚えのある"オルゴール"であった。
シップスクラーク財団が生産する、底に"小星典"が入るギミック付きのオルゴール。
実際にゼンマイを巻いて
「なんでここにある……?」
何かを感じ取った俺は大きく息を吸い、呼吸を止めてから"風皮膜"を一度解除する。
そして"天眼"状態へと入り、周囲の環境を掌握した。
枯渇した魔力空間内において、新たに会得した"魔力色覚"が……ひときわ濃い"紫色"の
同時にわずかばかりだが体温があり、呼吸も小さく死んでないことがわかる。
「ふゥー……──まじか」
俺は再び"
そこにはどこぞの見知らぬ他人──ではなく、茶色い髪を二つ結びにした黒翼の鳥人族の女が、ヒゲ畑に
「なんっつー偶然だよ」
俺は彼女を知っている。なんなら喧嘩を売られて、一戦
そしてティータの幼馴染であり……同時に──俺や"
「"スミレ"! おい、起きろ!!」
こんな環境下にあっても衰弱してはいないようで、本当にただ静かに
何度か体を揺さぶってみるが、うんともすんとも言わない。このまま連れて帰ってもいいが、俺は一つだけ試してみる。
「……"ベロニカ"、今すぐ眼を開けるんだ」
それはティータから聞いていた、幼少期に彼女が前世の
「あ……うっ──? わたし……んん?」
ゆっくりと見開かれた瞳はキョロキョロと、数秒ほどして俺を見つめてくる。
「あなた、どこかで……え~~~っと──ああ!! あの時の賊!! たしかグルシア!!」
「いや、俺の名前はベイリル。ベイリル・モーガニトと言う」
「えっ? そうなの? でもその顔……暗いからわかりにくくて、人違いだったかも。ごめんなさい」
なんとはなしに流れを誤魔化せたものの、彼女に対しては誠実にいくべきだと判断する。
「いや見間違いではないよ、俺の名前がグルシアじゃなくてベイリルってだけだ」
「へぇ~そうな……、ん?」
「皇都でちょっと戦ってオルゴールを渡したグルシアってのは偽名ってこと」
バッと素早くその場に立ち上がったスミレは、キッと俺を睨んで腰元へと手を伸ばし──何度も
「……!? 傘! わたしの番傘がない!! せっかく高いお金払って修理したのに!!」
「オルゴールはあったけどな、ちゃんと持っていてくれたようで安心したよ。おかげで君を見つけられた」
俺は無防備にスミレへと近付くと、その手にオルゴールを握らせる。
「ちょっ……気安い!!」
「まぁそう言うなってスミレちゃん、俺と君の仲だろう?」
「そんなの、ないから!!」
スミレはキッと睨みつけて、魔力圧が研ぎ澄まされていくのを感じる。
「それがあると思うんだよな。番傘ならまたティータに作ってもらえばいい、
そう俺が踏み込むと、スミレは呆気に取られた顔を晒す。
「なん……で──? そういえば……さっきも起こされた時に聞こえた……わたしの……」
「一つ、シップスクラーク財団は決して悪い秘密結社ではありません」
俺は指折り見えるように数える。
「二つ、君の幼馴染のティータは財団員で、俺は友人として君の真名とやらを聞いた」
スミレが俺の発した言葉を理解しきる前に、最後まで畳み掛ける。
「そして三つ、君は
数秒、数十秒、数分と──時間は過ぎていく。俺は静かに周辺の空気を集めて、彼女が冷静に状況把握できるよう