異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「そして三つ、君はもしかして転生者?」
俺はスミレがゆったりと呼吸できるよう、周辺の大気を調整しつつ……彼女が落ち着くまで待つ。
「──財団は悪くない……?」
「ああ、そうだ」
「うん、わたしも……あれから調べた。たし……かに、良いことのほうがずっと多かったけど。ティータちゃんも……そこにいるの?」
「いるよ。初期からの所属してくれていて、財団のために色々なモノを作ってくれている」
「……元気にしてる?」
「もちろん、会いたいならすぐにでも会えるさ」
俺は
「それと……てん、せい……わたしの──名前……」
「ベロニカ、
「うん、英語わかる……わたしは
「ロシア! なるほど、ちなみに俺は
「あなたも……転生したの?」
「そう、だから俺と君だけの仲なんだ」
無垢な瞳が俺の碧眼と交差する。ようやく
「わたしだけじゃなかったんだ……。ねぇグルシ……ベイリル? あなたの前の名前って?」
「前世の名前は捨てたから、ベイリルでいい。ただまぁ、積もる話はここを脱出してからにしよう」
「──……そうだった! わたしなんでまだここに!? 今っていつ!?」
ハッと我に返ったようなスミレは、あらためて周囲を見回す。
「湿季は第八週の二日だ」
「うそ……もうすぐ凡庸季!?」
「いつからいたんだ」
「えっと……多分丸々一季くらいは……」
「なんでまた」
「それがあんまり覚えてなくって……、最後の記憶は──浮遊石の上に寝てたと思う」
(運悪く、神獣の進行上にいたってとこか)
「もう息苦しくてわけわからなくって、でもなんか生物っぽくて……あと魔力かなりなくなってて、排泄されるのを覚悟で"拒絶"したの。あっ、拒絶っていうのはね──」
「"魔導"だろう、概念を付与するやつ。拒絶と言うからには、呼吸や水分といったあらゆる変化を停滞させてたってとこか」
魔導一つで簡単にやってのけてしまうのは、レドの"存在の足し引き"に負けず劣らずのトンデモ性能と言える。
「なんで知ってるのォ!?」
「いや皇都で戦った時に身をもって思い知らされたし、あんだけ何度も使えばおおよそ察しがつくってもんだ」
「むむむ……」
「ちなみにここは神獣と呼ばれる、神領より皇国が借り受けている神聖な獣の体内だ。排泄機能はなんか無いっぽいから、俺が助けなきゃ何百か何千か……あるいは何万年後に目覚めていたかもな」
しれっと俺は脅すように恩を強調し、スミレの血の気がサーッと引いていく。
「うぅ……ありがと」
「どういたしまして、ただ必要以上に恐縮する必要もない。地球という同じ故郷を持つ者同士、ましてティータの幼馴染を無下にはできん」
俺は柔和な笑みを浮かべつつ、ベルトバッグの小瓶の中から黄スライムカプセルを取り出して、スミレへと投げ渡す。
「なにこれ?」
「シップスクラーク財団が開発した"スライムカプセル"という経口摂取薬だ」
「えぇ……スライムぅ?」
「……まぁ、転生者ならそういう反応になるわな。でも治験を重ねて実用化されている安全なものだ」
心中で「神族以外は」と俺は付け足す。もっともみなまで言う必要はなく、彼女が鳥人族なのは見た目からも明らかだった。
「ちなみにその黄色は完全栄養カロリー食。腹はさほど膨れた気はしないがエネルギー補給は無類だ、ハチミツ風味」
「へぇ~……それじゃ、いただきます」
スミレは両手を合わせて一礼する。ロシアでも日本のような文化があるのかは知らないが、非常に行儀が良く感じるのだった。
「すっごく
「そいつは何より。まぁこの手のお菓子なんて、こっちの世界にはさほど流通してないものだからな」
「あのー余ってたらもう一個……とか?」
「欲しがりだな。ただそれ一つで、巨漢戦士一人の三日分に相当するカロリーだぞ」
「うっ……じゃあやめとく」
「他にも色々なお菓子は財団で作っているから、ティータに会いに行くついでに食べればいいさ」
俺はスミレを是が非でも財団に引き込めるよう、遠まわしに
「そっか! シップスクラーク財団ってもしかしてあなたが作ったんだ?」
「ん、まぁそうだ」
「美味しいものを食べる為に!」
「食欲だけじゃあないが……未知で過酷な世界でも欲得ずくで生きやすく、ってのはあながち間違いではない」
実際に地球料理の再現のみならず、異世界ならではの食材と調理によって開拓される美食もある。
そして何よりもハーフエルフとして味覚も優れるので、食の楽しみが非常に大きいウェイトを占めるのは否定できない。
「良かったら、スミレも財団員にならないか?」
「えっ? んん~~~……助けてもらった恩はあるし、ティータちゃんと働くのも悪くないけど──」
「まだ俺達が悪の組織だと?」
「そうじゃなくって、わたしにはわたしのやりたいこと──生きる道があって……」
「具体的には?」
「この世の悪を断罪すること」
(だから皇都ではやたらと突っかかられたわけか)
「わたしが
「とても長生きの大先輩から聞くに、過去にも転生者は何人もいたみたいだが──同時代に複数現れるのは非常に
「へぇ~、そうなんだ。だったらなおさらだよ、乱れた世界をわたしだけでも正す。その為に
(……危ういな)
俺は素直にそう思った。スミレの思い込みの強い感情、それはひとたび方向性を間違えれば──彼女の信念とは逆の結果をもたらしかねない。
「立派な
「ありがと。でもなんか含みがあるっぽ?」
「いいや、大いに結構だと思う。ただし一人でやるには限界がある、だから俺は組織ひいては企業を作ったんだ」
「もしかして世界平和を目指しているの?」
「それも少し違う。結果的に世界が安定するというだけで、シップスクラーク財団とフリーマギエンスが目指すのは
「うえ?」
「すなわち宇宙、魔導と科学の果て──人類
「大それてる!!」
「まぁこれはオルゴール付属の"小星典"にも書かれてないし、財団内でも宇宙を認知できる人間しか理解できないからな」
真っ直ぐスミレの瞳を見据え、
「だからこそ……君には財団と協力して、共に歩んでほしいと思っている」
「でも聞いてる限り、わたしが目指すのとはちょっと違ってて……」
「誤解しないで聞いてもらいたいんだが」
「……?」
「財団は悪人を
「うん、そんなの聞いちゃうとやっぱりわたしには──」
俺はスミレが断る前に、その口を封じるように言葉を被せる。
「そういう時に財団の大きな手から
「えっ……?」
そう──人類世界の救世主──五英傑は"折れぬ鋼の"のように、財団内における