異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「──
「えっ……?」
俺の言葉にスミレはわずかに目を見開いて、少しばかり思考を回しているようだった。
「法治にも限界はどうしたってある。
「──わたしが?」
「外部の第三者機関というわけではないが、君が財団のストッパーとなってほしい。俺は俺自身が暴走しない意味を含めて、周囲を有能な人材によって固め、支えてもらっているように」
「その内の一人になれって?」
「こうして転生者である
運命という実に都合の良いワードを織り込む。夢見る女の子の多くはその言葉が好きだろうという安易な考え。
実際にこうして再会できた偶然にして奇跡に対し、何かしら理由を付けるならば運命と言ってしまうのがロマンティックでもある。
「ん、う~~~むむむ……」
「それにシップスクラーク財団には、世界中に根を張らんとする情報部もある。
腕組み首をひねって悩むスミレに、俺は最後のダメ押しをする。
「それともう一つ、スミレ……いやベロニカさんとして聞く。元の地球に戻りたいとは思わないか?」
「はぇ!? もしかして帰れるの!?」
「過度な期待をさせて申し訳ないが、今はまだ具体的な見通しは立ってない。けれど俺の仲間の一人が、そっち方面の研究を本腰入れて開始している」
「そう、なんだぁ……」
「実際に転生者として俺達の記憶と人格はこっちに来ているし、過去に竜種はこの世界からどこか別の
「じゃっ、方法はあるんだ?」
「故郷に家族を残しているなら……姿形が変わっていても、もう一度会って話したいと思うなら──」
「わかった、わかったってば! じゃあとりあえずお試しね!! ティータちゃんとも話して、あなたのこともこの眼でしっかりと確かめさせてもらうから!」
「是非そうしてくれ、財団のことも内側からじゃないと見えてこないこともある」
俺は心の中でほくそ笑む、一度入ってしまえば……決して抜けようなどとは思うまいと。
それは決して悪い意味はなく、純粋に彼女にとっても良い環境であることには違いないのだ。
「──それじゃ話もまとまったところで、魔力はどれくらい残ってる?」
「……ん、もうほとんどないかも」
「そっか、ならしばし待っていてもらえるか?」
「もしかして、あなたも出られなかったり?」
「いや余裕で脱出できるけど、その前に資源を集めておきたいんだ。この
そう言って俺は足下に置いていた
「わっ!? いきなりなに!!」
「軽くて強靱、肌触りも良く保温性も良好。素材としては少なく見積もっても準一級品だ」
「あっ、ははぁ~そんなの考えもしなかったよ」
「まぁ例えばの話だがこの生体繊維を培養して大量生産し、衣服を作って一般市場に流通できれば……温度変化による体調悪化を防げるし、災害や魔物から身を守りやすくなる」
「そうやって救われる人がいる、って?」
俺は自信をもって
「あぁ、人々に根ざした産業ってのは生活水準と幸福度を上げる。服飾もそうだし食事と栄養もそうだ、医療や科学のみならず、文筆や詩歌といった芸術文化もな」
チョイチョイと俺がスミレが左手に持っているオルゴールを指差すと、彼女はネジを回して箱を開ける。
俺にとっては言わずもがな、きっと彼女も何度も聞いたであろうメロディーが空間内に反響する。
「ようこそ、シップスクラーク財団へ。一緒に"未知なる未来"を夢見て、共に
「まだお試しだってば!!」
◇
せっせこせっせこ──切断するのではなく、地道に"
途中からスミレも「長期睡眠で体が
作業効率があまり上がらないばかりか呼吸用空気移動も手間なので、俺は彼女に抜いた毛を
「かなりスッキリしたな」
「うん。失くしたと思ってた番傘も、けっこう痛んじゃってるけど見つかって良かったー」
スミレは番傘から刀身を抜くと、暗い中でもわずかな光でキラリと
「ところでこんなに大量にどうやって持ち運ぶの?」
「……」
俺とスミレは揃って見上げる。
「まぁとりあえず外にさえ出せればいいから、大穴でも
「殺しちゃうの?」
「いやそもそもが巨大過ぎる上に、生体としての構造も特異だから……恐らくはちょっと
「いたいイタイ! それは痛いよ!」
片目を瞑りながら、想像上の
「ところで暴れられても面倒だから、スミレの魔導でどうにか活動を止められたりできないか?」
「ふんふん、つまり麻酔みたいな? でもわたしってばもう魔力ないんだって」
「そうは言っても"濃い紫色"の魔力がまだ見えるぞ。意識できていないだけで、絞り出せそうだ」
「へっ? そうなの? ていうか魔力って見えるもんなんだ?」
「俺は眼がいいから──特別だ」
「そうなんだ、にしても絞り出すっかぁ……じゃあやってみる」
俺の言葉をあっさり
するとすぐに魔導の発現たる圧力が膨れ上がったのだった。
(良くも悪くも
一度に発動させられるのは一つながらも、多種多様な概念を瞬時に付与する魔導。
俺の魔導だって負けちゃいないとは思うが、だからと言って
「──"停止"」
「やった! できた!!」
「でかした」
俺は指先に竜巻を
勢いのままに比較的肉薄な、天井部の箇所を掘削していき──外の空気と通じた瞬間、風を一気に取り込んで竜巻を巨大化させて一気に穴を拡張したのだった。
「ひゃあああああああッッ!!」
「よしっ、一気に行くぞ」
上昇気流によって巻き上げられたスミレを、俺は右手で
同じように風流に乗った
『ぷっはァ~……──』
新鮮な空気を二人で肺いっぱいに取り込みつつ──
さしあたって帝国空軍は問題なく持ちこたえてくれていたようで、一方俺の
「スミレ、魔力なしの翼だけで飛べるか?」
「ムリかも、滑空くらいならできるけど」
「じゃあこのまま拠点まで──」
すると高速で接近してくる影があり、衝突より少し手前で急制動を掛けたのは……鳥人族の部隊長であった。
「モーガニト伯、無事だったんだな! って……?」
「あぁこの子は内部で見つけた被救護者だ、少しばかり離脱させてもらうぞ?」
「了解した、なぜだか神獣の動きも
俺はスミレが余計なことを口走る前に、"風皮膜"を分配しつつ大気を掴んで飛ぶ。
「しばらくしたら再出撃するからそれまで頼んだ。ちなみに脱出の為に
警告を残しつつ、上空高く舞い上がった