異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
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ドクンッと心臓が跳ねる。
「──おっ? とと」
俺は斜塔の
ただ
「思ったより疲弊したのかね……やはり無理はしないで正解か」
スミレを救護して神獣の体内から脱出し、大量の
すぐにでも再出撃したものの、あまり"神獣"と皇国の空戦部隊を追い詰めて撤退させてしまうと、継続的な資源回収が不可能になると判断した。
(神獣を討伐して持ち帰れない以上、隠れてちまちま奪っていこう)
死んでいなければ生物資源はまた再生する。今回の戦争が終わった後のことも考えれば……神獣は回遊する資源採集地となってくれることだろう。
(それに戦争はまだ始まったばかりだ──)
見えない疲労が溜まっていくことはインメル領会戦でも実感した。
何が起こるかわからない以上、必要以上にパフォーマンスを落とさないように立ち回ることも
「すごいよね、夜空に浮かぶ片割れ星。月なんかより全然大っきくて、綺麗だけどちょっと不安にもなっちゃう」
トンッと軽やかに、隣に立ったのは……昼間に助けてやったばかりのスミレであった。
今はツインテールではなく、シャワー上がりの下ろした茶色い長髪を夜風に流している。
「あぁ、昔は空を見るたびに……違う世界に来たんだなと自覚させられたもんだ」
お互いに転生者だからこそ成立する、共通した物の見方と想い。
この世界の人にとっては──生まれた時から浮かんでいる──当たり前の光景であるからして、そうした感想は決して
「休息は十分か?」
「うん! もう大丈夫。ところでねぇベイリル、あなたってこっちに来る前はなにしてた人?」
「ん、あぁ~……実のところ俺は自分に関する直接的なことはさほど思い出せてないんだ、知識や人格は確かにあるんだけどな」
「そうなんだ?」
「一応、記憶に関しては超がつく
そもそも異世界からの転生という事態が、超常現象の極致である。
記憶の継承がどういうメカニズムで
「
「独身で家族とも疎遠だったし愛着も薄い、正直なところ地球にはさほどの未練がない。だから俺はこの世界に生きる"ベイリル"として、これから数百年と過ごしていくと決めている」
それが俺が他ならぬ自分の意思で決意し、選択した道。
地球を越えるテクノロジーでもって進化し、未知なる未来を追い求める。
「そっか、わたしもスミレとして生きてるけど……帰りたい気持ちはやっぱりあるなぁ。あなたから帰れるかもって聞いたら……余計に」
「ちなみにスミレは、転生前は
「んん~? 18歳!! ベイリルは?」
「若いな、俺は……」
「あっ人には聞いておいて自分は言いたくなくない? ってことはおじさんだ! それともおじいちゃん?」
俺はスミレの問いに対し、今さらこんなことを自分でも気にしていたのかと肩をわずかに落とす。
「まぁ……おっさんだよ。ただ知りたかったのはスミレが俺より若いかってことじゃなくて、同じくらいの転生時期なのか──
「ズレ?」
「たとえば君が産業革命以前の生まれだとか、逆に"2112年"とか遠い未来生まれだったら、世界間を繋げた時に問題が出るだろう」
「あっそれ知ってる! 秘密道具! ジャパニメーション!」
「知っていたか。ってことはほぼ同じ頃と……意外とサブカル詳しいのな」
「アメコミ映画なんかも大好きー。でも昔は文学もよく読んでたよ。お父さんの蔵書がいっぱいあって読み漁ってたんだ。あとバレエと演劇なんかもやってて──」
突っ込んで聞かずとも身の上を話してくれるスミレ。少しは打ち解けてくれたことに嬉しさを覚える。
「──でね、わたしとしては夢もやりたいこともいっぱいあったんだけど……」
「……
「うん、ハッキリ覚えてる。その日は──」
「
スミレの表情が曇り、動悸が早くなっていくのを即座に感じて俺は割り込んだ。
俺自身がそこらへんの記憶も曖昧で欠落していた為に、一方的に聞くのも
「ありがと、優しいんだ?」
「極々当たり前の配慮だ。……それで、今のスミレとしても18歳?」
「こっちに転生してきたからの
「あぁ、そうだ」
「なら18歳、ティータと一緒でもうすぐ19歳。合わせると……わたしもおばちゃんだぁ」
「俺も同じ年齢だから、転生した時期もほぼ同一か。細かい誤差はあるにしても、互いに時代を共有した形で世界を見つけられそうだな」
「なるほど、それもSFだ! わたしがあなたより100年後に死んでたとかだったら、時間がおかしくなっちゃうもんね」
「とはいえ楽観視はできんがな」
例えば浦島太郎のように──こっちの世界での1日が、地球での1年だとか世界の時間軸そのものがズレている可能性は考えられる。
あくまで俺とスミレが近い時代というだけで、それが世界と世界の
時間と空間は密接に関係しているとはいえ、仮に世界間移動を成さしめようとするにはやはり
「まっ、そうした難題を超越してやるのが
「本当にイロイロやってるんだね。どこからそんな意欲が湧いてきたの? 元々そういう畑の人だったとか?」
「日本人だった頃は一般人だよ……ただまぁ、
「ふーん、へぇ~……そっか、そういえばハーフエルフなんだ。はじめて見た」
スミレは改めて俺の半長耳を見つめる。エルフ種もそこそこ珍しいが、ハーフはさらに珍しい部類である。
「
「そうだよ、せっかく来たこの世界を隅々まで見て回りながら、この世にはびこる悪を倒すの」
「
「大いなる
「それフィクションじゃねえか! まぁ普遍的に通じる言葉でもあるけど──」
正義のヒーローに純粋に憧れる感性は、
「でもそういうあなたが作ったシップスクラーク財団だって、いろんな慈善事業をしてるんでしょ?」
「俺は自由にやった結果だ。
「テレビゲーム?」
「あぁ、文明を創りあげるシミュレーションゲームってなとこか。人類全体を高みへと進化させ押し上げる為に、未知に
俺の言葉をスミレなりに噛み砕いているのか、しばらくしてからゆっくりと口を開く。
「フリーマギエンス──オルゴールと付属してたあの小さい"星典"も、あなたの知識で作ったの?」
「俺はあくまで発想を与えただけで、実際に形にしたのは
「ティーちゃんか、早く会いたいなぁ」
「そうだな、スミレは落ち着いたらすぐにでも
「ほんと?」
「いくら借りがあろうと、戦争に参加する気はないんだろ?」
「ないよ。むしろ帝国が悪なら、皇国について戦ってもいいくらい」
「国家間戦争だ、単純な善悪では分けられないさ」
戦争という手段を目的そのものとしている戦帝とて、勝利している方《ほう》が多い為、やはり自国にとってみれば英雄に違いない。
「まっ神獣の体内では強引に迫ったものの、今後の身の振り方は自由にしてくれていい。せっかく出会えた転生者同士──惜しいけど意思は尊重する」
「うん、とりあえずティーちゃんと話してから決めることにするよ」
「もしまた旅に出るとしても、何か困ったことがあったらいつでも頼ってくれていいから」
「ありがと、やっぱなんだかんだイイ人なんだねベイリルって」
俺は否定も肯定もせず、フッと笑って肩をすくめるのであった。