異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#372 呼び出し

 

 スミレが斜塔(きょてん)より()ってから二日目を数え──

 あれから何度か資源採集の為に神獣の体内に再侵入を試みようとしたが……いずれも徒労に終わってしまった。

 

 周囲の小鯨が増えたばかりでなく皇国の空戦部隊も順次増援され、神獣を中心に陣まで張られてしまっている。

 

(……こりゃ確かに、俺が引っ張り出されるわけだ)

 

 定期的に減らしてはいるものの、どうにも決定打は与えられずに膠着(こうちゃく)状態にある。

 手前味噌ながら、俺がいなければとっくに帝国側は制空権を奪われていたに違いなく、竜騎士という戦力がいかに大きく頼られていたかがわかる。

 

(まっ戦略・戦術的には、時間が稼げればそれで十分なんだろうが)

 

 一方で地上軍の進軍の(ほう)は順当にいっているようで、こうして釘付けにしている分だけ全体の戦局は優位へと傾いている。

 なんにしても皇国側に目を付けられないよう適度に、こちらはこちらの仕事をするだけである。

 

 

「──あのぉ、モーガニト伯で間違いはありませんでしょうか?」

 

 俺が戦況を見ながら休んでいるところに現れたのは、伝令の格好をした鳥人族であった。

 

「確かに俺がモーガニトだが、名指しとは何用だ?」

「……はい、ヴァルター・レーヴェンタール殿下からの伝言で──」

「ヴァルター、なるほど聞こう」

「えっと……一言一句そのままお伝えしろと厳命されましたので失礼します」

 

 どうせロクなものじゃないんだろうなと思いつつ、俺は怪訝(けげん)に眉をひそめる。

 

 

「"いつまでも空にいないで、さっさと降りてこい。使えそうなテメエに戦功の機会を与えてやるから感謝してオレ様のところまで来い"──とのことです」

「……殿下からお呼びとはな」

「あの、なにとぞ──」

「あぁわかっている、ちゃんと行くから安心してくれ。無礼な物言いに関しても命じられたなら仕方ない」

 

 ホッと胸を撫で下ろした様子の伝令係に、俺は改めて伝言を命じたヴァルターの気性を振り返る。

 

(命令系統から言えば、戦帝から直々に頼まれているコッチのが優先されるべきだが──)

 

 陛下を理由にしたところで断れば面倒になりそうだし、遊撃としてある程度の自己判断が許されるだけの裁量も与えられている。

 現在の空戦状況を(かんが)みるに、とりあえず一時離脱して話だけでも聞いて損はないだろうと判断する。

 

 

「それで? 殿下は今どこに陣を張っているんだ」

「はッ! ここより南方の丘陵です」

「そう遠くないな。君はこの戦域を統括している部隊長──あそこにいるから、君自身の口から伝えてくれ」

 

 俺はピッと人差し指を一点に向けてから、言葉を続ける。

 

「あくまでヴァルター殿下の命令によって、俺が呼び出されたとしっかりな」

「承知しました」

 

 伝令係が翼をはばたかせると同時に、俺は固化空気の足場を解除して、聞き耳を立てつつ落下しながら風を(まと)うのだった。

 

 

 

 

 帝国のそれではなく、ヴァルター個人の紋章が(えが)かれた御旗(みはた)を掲げるテントを俺は前にする。

 

(わたし)はベイリル・モーガニト伯。ヴァルター・レーヴェンタール殿下の招聘(しょうへい)により参上しました」

「どうぞ」

 

 入口よりも少し離れた位置で立哨(りっしょう)している護衛兵士は、すぐに俺を天幕内へと通す。

 

 

(一人か……)

 

 女近衛騎士のヘレナも、男近衛騎士のハンスのどちらもいない。ただ一人、足を組んで椅子にふんぞり返っている男とすぐに目が合う。

 

「あぁ思ったより早かったなァ"円卓殺し"。まってきとーに座れ」

「はい、それでは失礼します」

 

 俺は一礼して後、近すぎない位置の椅子を一つ選んで静かに腰掛けた。

 

「で、調子はどうだ?」

「……対神獣の戦況は今のところ五分(ごぶ)といったところです。もう少し猶予(ゆうよ)をいただければ──」

「そっちはどうでもいい。てめえ自身がどうなんだって聞いてる」

「やや疲れはありますが、今のところ戦闘継続に支障はありません」

 

 

 俺はヴァルターの意図を図りかねるが、それは彼の口からすぐに明らかになる。

 

「"円卓殺し"、てめえには"聖騎士殺し"にもなってもらおうか」

 

(聖騎士狩りか──)

 

 まだまだ戦争も序盤だというのに伝家の宝刀の抜き合いとは、穏やかではなかった。

 

「どうした、喜べよ? わざわざ指名してやったんだからよ」

「……どの聖騎士が来ているのか教えてもらえますか」

「なんだ、意外と細かいヤツだな」

 

「傾向と対策です。(わたし)とは相性の悪い聖騎士もいますので」

「ヤレそうな相手なら喜んで戦うってか?」

「まだまだ先は長いですから、勝てたとしても戦線を離脱するようなのは()けたいところです」

 

 

 実際のところ俺が不得手とするだけの聖騎士は、完全に人類規格外に位置する"五英傑"──番外聖騎士たる"折れぬ鋼の"だけである。

 しかし単純な戦力は別として、個人的に戦いたくない相手がいる。

 

(財団からの情報によれば"悠遠の聖騎士"ファウスティナは現在、皇国にいないから問題ない)

 

 あとはグルシアとしての顔と名前を知っているのは"聖騎士長"だが、基本的に皇都防衛の(かなめ)であるので前線には出てこないだろう。

 ジェーンのこともある"至誠の聖騎士"ウルバノとは争いたくはないが、将軍(ジェネラル)との交戦による後遺症もあるので前線に出てくる可能性は低い。

 

「"万丈"の聖騎士さまだそうだ、しかもご丁寧に小部隊を率いて来てるとさ」

「聖騎士"オピテル"ですか……であれば小部隊というのは、迅速な展開から考えて子飼い(・・・)ですね」

 

 俺は記憶の中から情報を引き出しつつ、交戦相手としては問題ないことを確認する。

 

「オイオイなんだ、詳しいじゃねェか」

「それはもう聖騎士は例外なく有名ですから。自分より強い可能性のある人間はなるべく調査するようにしています」

「ほっほォ~おまえより強い、ねえ。そいつぁオレ様も入ってるわけか?」

 

 ジロリと目を細めるヴァルターに、俺は口をついて藪蛇(ヤブヘビ)を刺激してしまったことに迂闊(うかつ)さを覚える。

 

 

「帝国人同士で争うことはないと思いますが」

「答えになってねェ、オレ様のことを調べてるのか調べてねェのかどっちだ」

「それはまぁ……インメル領会戦の折に、出会い頭に攻撃されましたので。多少なりと調べさせていただきました」

「そんなことも、あったか?」

 

「はい、(わたし)が殿下の影を踏んだことに苛立(イラだ)ちを見せまして」

「あーーー……そうだったっけか、まあいい。で、仮にオレ様と()()ったなら、てめえは勝てるか? あ?」

 

 心中で一度だけ深呼吸した俺は、忌憚(きたん)ない言葉を織り交ぜて口にする。

 

「十回やったとして、一回は確実に勝てます」

「はあ? 殊勝なのか謙遜してんだか知らねえが、その一勝とやらの謎の自信はどこからきてんだ」

 

 俺は薄く笑みを浮かべて、ヴァルターの心理状況を観察しながら続きを紡ぐ。

 

「はい、その一回は初見(・・)に限ります。最初の一戦で確実に殺して、二度目以降を無くします」

 

 

「クッハ! カッハッハハハハ!! なるほどねえ、てめえはいったん(タネ)が割れちまうと弱いってわけか」

 

 失笑するヴァルターに、俺は軽い緊張状態を解きほぐす。

 ようやく気性の激しい眼前の男との、空気・()の取り方・適切な距離感というものを把握できてきた。

 

「なら聖騎士の野郎も、その一回で息の根を止めてこい」

「……」

「なんだ、不服のありそうな沈黙だな?」

「相手が聖騎士ともなると討った際の影響も過大と見られ、ひいては陛下の戦略構想にも支障が出るかと──」

 

御託(ごたく)を並べやがるが勘違いすんじゃねえ、最初っからてめえに拒否権は無い。それに一領主風情(ふぜい)が、戦争を知った気で心配することでもねえ」

「失礼しました」

「そもそもてめえは"既に抜かれた宝刀"だ、その刃先(はさき)ををオレ様がズラしてやるだけのこと」

 

 

(ヴァルター……まったく考え無しってわけでもない、むしろ粗暴で野蛮に見せているような(フシ)があるな)

 

 強化感覚から得た情報と、今までの経験と、俺自身の直観から分析しつつ、話を一歩前へと進める。

 

「万丈の聖騎士の現在位置はどこでしょうか」

 

「フンッやる気になったか、二度は言わないからよく聞いとけ──」

 

 ヴァルター・レーヴェンタール、調べても未だに判然としないこの男を知るべく……俺は覚悟を固めるのだった。

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