異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「──俺の関知するところじゃあないので
言い切ったすぐにも、斜め後方からそれぞれ迫る二つの刃。
決して練度が低いわけではないのだが、今の俺に対して向けるにしてはあまりにも
俺はトンッと軽やかにその場でバク宙しながら
腰溜めのまま
4発の発泡音がたった1発にしか聞こえないほどの
「ォォォォォオオオオッッ!!」
銃弾を撃ち込まれた部下が地面へと倒れこむよりも先に、まだ空中にいる俺へと突き込まれてくる大槍。
飾り気のないその一撃は、"万丈"の聖騎士オピテルの気性をよくよく表すものだった。
しかし"
運動エネルギーを巻き込んでいなしながら俺は左手で
「ッとォ──」
俺の左手から竜巻を伴うように投擲された、螺旋を描いて高速回転する折れた槍の
その衝撃によって、投擲の直後に背後へと回り込んでいた俺への反応が遅れてしまう。
「憤《フン》ッ──
"震脚"と同時にオピテルの足下を蹴り砕きながら、俺は返す膝でオピテルを真上方向へと蹴り抜いた。
続けざまに俺は
そして竜巻を
"斬星飯綱落とし"──激突の刹那に俺は一人離脱し、脳天から大地へと叩きつけられたオピテルは、流血しながらも
「グッ……はぁ……っハァ……」
オピテルの手札を出し切らせてから打ち砕きたい──そんな気持ちもなくはなかったが、これもまた闘争の妙味である。
相手が全力を出すよりも先に畳み掛けて圧倒することもまた、勝利の愉悦。
「まだ
「……笑止」
「残念」
俺は言葉と同時にパチンッと指を鳴らし、"素晴らしき
圧縮し電離させたプラズマによる大電流によって、数秒ほど体を震わせてから聖騎士は倒れる。
「勝手に決着をつけさせてもらったよ」
死んではいない。聖騎士オピテルのダメージ許容量を、ある程度は把握した上での戦闘不能に留めた。
あとは後々になって恨みを買われないよう、重傷の連中に"青スライムカプセル"を適量塗布していくかと思った──その時だった。
(……? 生体反応が──ない!?)
闘争直後で鋭敏にもなっているハーフエルフの強化感覚が、よもや見誤っていることなどない。
重傷だったとはいえまだ死ぬには早すぎる。しかしオピテル以外、ただの一人も息吹を感じられなかったのだった。
直近の完全回避した騎士二人だけでなく、軽傷で生き延びてひそかに回復魔術を使って自己治癒していたはずの者まで何故だか息絶えている。
「よく、やったな"円卓殺し"。
夜闇に浮かぶ影からヌッと現れたのは……はたしてヴァルター・レーヴェンタールであった。
「なっ!? 待っ──」
俺が反応して
そうしてこの場には俺とヴァルター、生きているのはたった2人だけになる。
「……ヴァルター殿下、貴方が他の全員も殺したのですか」
「だったら、なんだ? 文句があるなら言ってみろ、"
「では遠慮なく。殺すのはいつでも可能です、生かしておいてこそ多様な利用価値が生まれたというものです」
あくまで平静を保ちながら、俺は理路整然とヴァルターに言葉を返す。
「ハッハハッ! てめえがわざわざ掛けた労力を踏みにじられたのが不服ってか? だがな、
「……」
俺は
「てめえの知ったことじゃあねえが……一言だけ言っておくなら、だ。"聖騎士が死ぬことに意味がある"んだ」
「で、あれば。殿下の戦略構想の一助に、
「そういうこった」
俺は脳内加速させて考えを巡らしつつ、心中でゆっくりと深呼吸しながら、散乱する情報の整理にも努める。
「
「あん? なぜオレ様の魔導──それも"魔導具"だと?」
「影に質量を持たせて操るというのが、一般的な魔術の範疇を超越していること。それと魔導師であれば、特有の魔力圧を感じられるのですが……殿下にはそれがない」
俺はさらに"天眼"の共感覚によって魔力の色が
「はっ! なかなか詳しいようだな、当たりだよ。たしかにオレ様のは魔導具だし、てめえの
(魔導具使い、相対するのは初めてだな──)
それほど珍しいシロモノであり、さらに魔導具には適性が必要らしいので行使手も少ない。
製法も非常に難易度が高く、製造した時点での作り手と条件が揃ってなければ修復もほぼほぼ不可能ときている。
(俺が感知できない影に潜伏し、変幻自在な影の刃を操る……)
ワーム
「──だがてめえが
「殿下は
「"円卓殺し"の功績、赤竜本人を連れてきた手腕、そして"聖騎士殺し"。
「聖騎士を殺したのは殿下ですが」
「細かいことはいいんだよ。オレ様が殺したからってなんの手柄にもならない、既に死んでるんだからてめえの戦功にしとけ」
「……わかりました」
俺はもはや抗弁するだけ無駄だと、受け入れるしかなかった。いらぬ汚名ではあるがここまできたら仕方がない。
「──ところでよお~、"おまえの出身"ってどこだ?」
「亜人特区、現モーガニト領です。そこの領主にさせていただき、ベイリル・モーガニトを名乗らせていただいています」
「それは知ってんだよ、
俺は緩やかに、己の動悸が早まっていくのを感じて抑え込む。
直近でスミレと似たようなやり取りをしたこと、その
「……もう一つ、とは? 育ちであれば一応は西連邦ですが──」
「そこで死んでる二人──まあトドメ刺したのはオレ様だがよ……戦闘不能にするのに"
俺は内心で「やはりか……」と思わざるを得なかった。
インメル領会戦の論功行賞の後に、初めて会った時に
それから財団に調査こそ進めさせていたが、帝王の血族という立場もあって大して調べ上げることができなかった。
さらにはゼノのように、過去にこちらで生きた人間の知識の一部を受け継いでいるだけ、という可能性も決して低くは無かった。
しかしながらいくつかの断片的な情報が、
(あぁそうだ、ヴァルターも……俺やスミレと同じ
現地民が探りを入れてきているわけでもない。
眼前で核心を問うてきているヴァルター、彼自身が間違いなく"転生者"なのだと。