異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#382 三騎士 I

 

 戦帝が一時的に陣を張っている屋敷に(おもむ)いて手紙を見せると、屋敷の裏庭に案内される。

 だだっ(ぴら)けた裏庭は、正確には裏庭ではない。

 

 建造物の名残りがわずかに見え、ご丁寧(ていねい)に元々存在していた区画を更地(さらち)にしてスペースを作ってあるのだった。

 

(わざわざ"修練場"を作るとは……)

 

 そこには魔術なしの、純粋な剣戟(けんげき)が展開されていた。

 一人はもちろん"戦帝"であり、相対しているもう一人は騎士装束に身を包んだ隻腕の狐人族の男。

 

 

 どちらもフル装備のようであり、かたや戦帝は左肩まで(おお)う爪付き大籠手に、右には大剣を軽々と振り回す。

 一方で狐人族の男は勝るとも劣らぬ長さの片刃剛剣を、隻腕のままで居合い抜く。

 

(器用だな、あれが……かの有名な"刃鳴り"か)

 

 俺は記憶の中から特徴を照合する。

 その尻尾は毛が抜け切っていて──くたびれつつも、しなやかに──しっかりと鞘を持ち支えている。

 さらに地形を利用しながら、(たく)みに斬撃をの方向を変え、受け流していた。

 

 

「──オマエはダレだ」

 

 観戦している中で流暢(りゅうちょう)でない言葉で話し掛けてきたのは、同じ騎士装束の──帝王直属の近衛騎士たる紋章を着けた──女性だった。

 

「モーガニト領主、ベイリル・モーガニト伯爵。召喚に応じ推参しました」

「フーン、オマエがか」

 

 どうやら話は(とお)っているようで……俺はギザっ()の女性を観察する。

 

(魚人種──サメ族かな)

 

 共通語がたどたどしいのは声帯にやや違いがあるからだろうか。

 かと言ってエラで水中呼吸ができるだとかそういう特徴が水棲種にあるわけではない。

 

 あくまで神族という祖先のヒト種から、魔力の暴走や枯渇から(たん)を発した進化の一態様に過ぎない。

 獣人種が感覚器官に優れたり、鳥人族が魔力強化や魔術で楽に飛行することができたりと、魚人種は地上よりも水場のほうが生きやすいという程度である。

 

 実際に学苑時代の友人である"オックス"はクラゲ族だったが、言葉自体は普通に話していたし、育ちも大いに影響しているのだろう。

 

 

「ツヨいって聞いてるゾ」

「まぁ一応は」

 

 いつの間にか彼女の両手にあった独特な逆手(さかて)二刀流は、さながらサメのヒレを思わせる。

 "見せの右薙ぎ"から、後ろ足を踏み込んでの"返しの左薙ぎ"──尋常者(じんじょうしゃ)の眼には映らない超高速の交差斬撃だったが、俺には当たらない。

 

「ムッ、血デてない。ほんとーにヤルなオマエ」

 

 あくまで試しただけで、さすがに本気ではなく。

 皮一枚に血一筋の刃を完全に(かわ)した俺に、彼女は興味の色を一層強くした。

 

「どうも、"風水剣"殿(どの)

 

 俺は軽い会釈(えしゃく)をしながら、帝王直属の"三騎士"について脳内からさらに引っ張り出す。

 

 帝国の頂点自ら華々(はなばな)しい戦果を挙げ続け、強烈な輝きを(はな)つ"一等星"──しかしてその光には付き従う3つの影あり。

 帝王直属の近衛騎士。帝王の命令以外を聞く必要がなく。帝王が誰よりもその信を置く。帝国内で最も忠誠(あつ)(つわもの)

 

 

「何をしちゅうんじゃ、風水の」

 

 ドゴォンッと地面に足裏をめり込ませて、"鉄球"を背負った新たな人物が現れる。

 

「あぁ"熔鉄"……コイツやれるゾ」

「戦帝がわざわざ呼び出しゆう、そりゃあそうじゃろう」

 

 "熔鉄"の二つ名を呼ばれたドワーフ族の男。身長は"風水剣"よりも低く、150cmも満たないだろうか。

 筋肉の塊によって成長阻害されたような見た目だが、それがドワーフ族ともなれば珍しくもない。

 

(……ドワーフは年齢(トシ)はわかりにくいな)

 

 大髭を生やして老けて見えるものの、白髪まではいってないので案外若い可能性もあるが……喋り方は古臭い(なま)りがある。

 何にせよ、後ろに引っさげた"鉄球"が彼の得物(ぶき)であることだけは間違いない。

 

 

「おう"空前"の、ワイにもちっとばっかし実力(つよさ)を見せてはくれんもんか」

「……少しで良いのであれば」

 

 もはや恒例の行事として割り切る。帝国は軍事国家であるからして、強さこそが何よりも相手を見る重要なバロメータとなるのだ。

 それにここで一端(いったん)でも実力に()れておくことは、将来の為になるだろうという打算も大いに含む。

 

「風水のを()けたんなら、ワイはお前様(まぁさぁ)の攻撃を受けるに留めんとしよか」

 

 赤熱した鉄球が溶けて、熱を(たも)ったまま新たに形が成形される──巨大な槍・剣・斧と変形していき、最終的に盾へと姿を変えた。

 "熔鉄"の二つ名を如実(にょじつ)に体現する、生身で攻撃するにはあまりに危うい、高熱を伴う粘り気のある質量の鉄塊。

 

「本気で来りゃあッ!! 見せてみィ!!」

「真気──発勝」

 

 俺は液体窒素を封入し、音圧振動を(まと)わせた"雪風太刀"を作り出して、刹那の内に──踏み込み、振り抜き、斬り払う。

 急速に冷やされた熔鉄の一部は、固まりながら分子構造を崩壊させて斬断された。

 

 

「こいっつぁ、たまげた。風聞(ふうぶん)(たが)わぬ男じゃあ」

「お、スゴい」

 

 冷えた鉄はすぐにまた熱を持って溶けたかと思うと、元の鉄球に再成形されるあたり、"熔鉄"もまた一筋縄ではいかない実力である。

 

「まったくオレの許可なくつまみ食いをするな、二人とも」

「"空前"……居合いを使うのか、おもしろい」

 

 いつの間にか"戦帝"バルドゥル・レーヴェンタールと"刃鳴り"、そして既にいた"風水剣"と"熔鉄"に俺は囲まれる形になる。

 

「待たせたか? モーガニトよ」

「いいえ陛下、三騎士たる"風水剣"と"熔鉄"の御二方が相手をしてくださったので暇を持て余すことはありませんでした」

 

 俺はその場に(ひざまず)こうとするが、戦帝に止められる。

 

「ここにはコイツらしかいないから別によい。ところで……なにゆえキサマが呼ばれたか察しはついているか?」

皆目見当(かいもくけんとう)がついておりません」

「そうだろうな。遊撃任のキサマを二度も振り回すのは、オレとしても前言を(ひるがえ)すようで気分が悪い。だが聖騎士を()ったとなると話は別だ」

 

 

 それは詰問(きつもん)されているというよりは、確認してきているといった様子であった。

 

「……ヴァルター殿下からお聞きになりましたか」

「あぁ、別に責めてはいない。遊撃を許したのは他ならぬオレだし、功名心も実に結構」

 

(実際はヴァルターの所為(せい)だと言いたいが……ここは下手に口を滑らすと面倒なことになりそうだな)

 

 結果として聖騎士が死んだのは事実であるし、俺は変に否定することなく、とりあえず話の流れに身を任せる。

 

「おかげで戦況は大きく変わった、詳しい話は割愛(かつあい)するが……厄介なことに皇国は"神器(・・)"()()()()()()

 

 

(──!? そういうことか……仲介人(メディエーター)っ!!)

 

 (こと)ここに及んで──ついさっき神器の遺体回収を依頼された──あまりにも都合の良すぎるタイミングで察しうる。

 つまり仲介人(メディエーター)はこうなることを知っていた上で依頼を持ってきたのだ。

 アンブラティ結社に新たに属する"殺し屋(アサシン)"として使えるか、この俺に対する試験(ためし)のつもりなのだろうと。

 

 さらには当て推量なものの、教皇庁に根回しして神器(ジョーカー)を切るように根回ししたのも、あるいは奴なのではないかと勘繰りたくなる。

 神器という虎の子を引っ張り出すよう、結社が仕向けた可能性すらありえる情報力であろうかと。

 

 

「キサマの一手によって生じた事態だ。さらに功績を重ねる機会だぞ? 喜ぶがいい」

(わたし)がこれ以上、他の者の武功を横取るわけには──」

「くだらん帝国においてそんな遠慮は捨てろ、これは命令だ」

「王陛下にそう命じられるのであれば……(つつし)んで従います」

 

「それでよい、神器とはそれほどの油断ならぬ相手なのだと知れ。オレの直下にて、オレの指示だけを聞き、オレの為に戦え」

「かしこまりました……では(はばか)りながら、(わたし)が戦帝の四騎士目(・・・・)に──」

 

 その瞬間、俺は言葉途中に詰まるしかなかった……。

 なぜならば、一瞬にして"風水剣"の刃が首元に、"熔鉄"の赤熱鉄刃が背後から脳天スレスレに、"刃鳴り"の剛剣が心臓付近で止められていたのだった。

 

「フッハハハハ! 冗談にしても、それはおこがまし過ぎたなモーガニト。おい三騎士(オマエたち)、大人げないぞ……若僧の無礼を許し、()ろしてやれ」

 

 あっさりと()げられた刃を見届けてから、俺は誠心誠意深く謝罪する。

 

「申し訳ありませんでした三騎士さま、軽口をお詫びします」

「おうさぁ!」

「気にシナい」

 

 "熔鉄"はそう言って俺の腰をバシっと叩き、"風水剣"はにっこりとギザっ歯を見せて笑い、"刃鳴り"は静かに(うなず)いた。

 

 

「それにしても、刃を突きつけられながらまったく動じないとはな」

「いえ……さすがに微動だにできぬほど(きも)が冷えました」

 

 その言葉の半分は真実、もう半分は嘘ではないもののお世辞も多少なりと含まれている。

 

「フッ、オレがわざわざキサマを呼びつけてまで加勢させた意義──そして期待を裏切ってくれるなよモーガニト」

 

 

 

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