異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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第六部 第4章「落日」
#390 新たな王


 

「まったく(せわ)しないねえ」

「すみません、(こと)早急(さっきゅう)に運ばねばならないので──」

 

 俺はテキパキと要不要を選別して片付けているファンランへ、申し訳なさを含んだ声音で答える。

 

 

 あれから三騎士を帝国陣地へ送り届け、俺は休むことなく拠点である"斜塔"へと戻ってきた。

 まずは確度の高い情報を集めねばどう動くか判断しようもないので、遊撃の立場を利用して一度この場を撤退することに決めた。

 

 "放浪の古傭兵"ガライアムには、シップスクラーク財団が完全に引き払うまで守護(まも)ってもらう。

 オズマとイーリス"明けの双星"兄妹は出払っていて……戻り次第、現況と今後の身の振り方を伝える手筈(てはず)となっている。

 

 

(情勢がどう動くにせよ、混迷を極めることだけは間違いないな)

 

 帝都における軍政の掌握状況、血族たちの反抗、各総督府の出方、一般市民の反応、皇国と周辺各国の動向──いったいどのような終結を見るのか。

 なにをおいても重要なのは情報網とその速度であり、迅速かつ確実な優位性(アドバンテージ)を得ていかねばならない。

 

 あるいはこれを契機として、サイジック領を前倒しに"独立"させることすらも視野に入れる必要も出てくる。

 

「というわけでファンランさん、後のこと任せちゃってもいいですか?」

「仕方ない、わたしももう財団員だからね。(ちから)の限り働かせてもらうよ」

「ありがとうございます!」

 

 俺はかつて学苑での先輩後輩といった感覚で、お礼を述べて頭を下げる。

 

 

「必要なことは全て正式な書面として残しておくんで、それに沿()って動いてもらって……後の判断は財団本部に従ってください」

「はいよ、ベイリルはどうするんだい?」

「俺は俺にしかできないことをします」

「つまりなんだい……?」

 

 首をかしげるファンランに、俺はわずかに口角をあげつつ告げる。

 

「俺の持ち味を活かす──帝都での潜入調査です」

 

 

 

 

(ふぅん……多少は張り詰めているが、まぁまぁ平常運転だな)

 

 強化聴覚で噂話なども拾いあげながら、俺は帝都を観察しつつ歩いていく。

 帝国人は基本的に神経が図太いのか、現王が行方不明となり新たな臨時の王が立ったとしてもさほど変わらない様子が見て取れた。

 

(だがそんなもんか、一般人なんてのは)

 

 国政が乱れていない限りは、王様なんて誰でもいいのだ。

 それがたとえ帝都に住む者であったとしても、雲の上の人間の話であり直接的に関わることはほとんどない。

 

 ましてクーデターから既に8日も経過していては、皆は日常の中に戻りつつあっても不思議はない。

 

 

(さらに言えばモライヴが上手くやった、に尽きるんだろうな──)

 

 モライヴの気性であれば、国民に混乱が起きないように段取りをした上で決め打ちしたという可能性も十分に考えられた。

 聞き耳を立て続けてはいるが、市井(しせい)にほとんど情報が流れていないようで、きちんと統制されていることがうかがえる。

 

 

 キィ──っと音を鳴らしながら、俺は木造りの扉を開けて帝都にある財団支部へと入る。

 

「おっおっ? ベイリルさん待ってましたよー」

「うん……速いな!?」

 

 そこには既に見知った顔──群青色の髪色を双つ結びにしした鳥人族の女性──シップスクラーク財団、情報部の部長である"風聞一過"テューレの姿があった。

 単純な巡航速度だけなら俺にも勝るとも劣らない空属魔術の使い手にして、かつてエルメル・アルトマーの元から引き抜いた逸材。

 

「それはもちろん。大スクープは自分の眼で見て、耳で聞いて、口で話して、収集してかないと始まりませんからー」

「情報部を統括する人間がこうも()()()()()()とは」

「自分は最前線を疾駆(はし)る記者でもありますのでー、内務は内務でちゃんと人材で固めてありますのであしからずー」

「そこらへんは心配してないよ。……それで、俺が来るのもわかっていた?」

「それはもー、こんな状況でベイリルさんが動かないわけはないかと」

 

 お見通しなことに俺は肩をすくめつつ、近場にあった椅子へと座る。

 

 

「話まで早くて助かるよほんと……でだ、大まかな流れをかいつまんで教えてもらえるか? テューレが見聞きした情報でいいから」

「はいー、では最初からいきますねー。まず最初は発布(はっぷ)から始まりました。対皇国戦線にて"戦帝"が倒れたことと、臨時の新王を立てるという内容でした」

 

「……つまりその時点で、中枢は掌握されていたわけか。念入りな下準備をもって(おこな)われたんだろうな」

「そうなりますねー、正直どこまでが計算の内だったのかわからないほどですー」

 

 俺は一般財団員が運んできてくれたお茶を口にしつつ、一息ついたところでテューレは話を続ける。

 

「次に実行されたのが……"公開処刑"でした」

「公開処刑!? オイオイ穏やかじゃないな、一体誰が?」

「エルネスタ第一王女と、ランプレヒト第一王子ですー」

「となると政治闘争か……」

 

 モーリッツもとい学苑時代を知るモライヴにしては随分と過激な気もするが、同じ王位継承権を持ち、影響力の強い人間を排除するのは当然の流れである。

 先んじて()らなければ逆に取って喰われるということも往々(おうおう)にしてありえる以上、必要な決断だったと言えよう。

 

「罪状は?」

「前帝王バルドゥル・レーヴェンタール陛下を共謀して(おとし)れた罪だそうですー」

「なるほど──罪を転嫁(てんか)しつつ、大義名分を得た上で政敵を(ほうむ)ったわけか」

 

 そうした合理・効率的なやり方は、モライヴらしいと言えばらしいという感じがした。

 かつて学苑の戦技部は兵術科で、幅広い戦略・戦術を得意としていた男であればさもありなん。

 

 

「一度会って話すのもアリか、"モーリッツ"と」

「……? なぜ"第四王子"の名が出るんですー?」

 

 突如として発生したテューレとの会話の齟齬(そご)に、俺は眉をひそめる。

 

「いやだから、新帝王──」

「今の帝王は元第五王子ヴァルターですよー?」

 

「はぁ……!?」

 

 数瞬ほど理解が追いつかなかった、クーデターを起こしたというモーリッツではなく皇国戦線にいたはずのヴァルターが帝王という奇怪な状況。

 

「っっ──ちょっと待て、それは間違いないのか?」

「はいー、確かです。ベイリルさんはどうしてモーリッツ殿下だと思ってたんですか?」

「あぁまぁそりゃ俺が聞いたのは……モーリッツが帝都で謀反を起こしたからって(しら)せで──」

 

 俺は自身が得ていた情報から、順当に考えて()()()()()()()()()だけ。

 クーデターを起こした結果、"戦帝"が玉座から追われる形で新帝王が名乗りをあげたのだと。

 

 

(いや待て……そうだ、そもそも戦争の発端はなんだった──?)

 

 帝国元帥、"帝国の盾"ことオラーフ・ノイエンドルフが言っていたことを俺はにわかに思い出す。

 ヴァルターが"折れぬ鋼の"を抑える算段があったからこそ、大規模な皇国侵攻戦が急進的に進められたことを。

 

(そうだ、戦争の発端の時点からヴァルターの策略の内であり、それに乗じてモライヴも政権争いに打って出た形──になるのか?)

 

 そして短期間の内に、最終的に玉座へとついたのが……ヴァルターということになる。

 

十重二十重(とえはたえ)かそれ以上の、複雑に絡まる策謀が張り巡らされていたわけか」

 

 俺は心中ではなくはっきりと口にして、その事実を飲み込む。

 あの(・・)ヴァルター・レーヴェンタール。同じ転生者にして因縁浅からぬ男、ヴァルターが新たな帝王になったという事実。

 

 

「それでモーリッツはどうなった?」

「えっと、第四王子の進退については不明ですねー」

 

(少なくとも処刑はされていない、だが謀殺されている可能性は十分ある)

 

 むしろ殺さない理由がない。どうにか逃げおおせてくれていればいいのだが──

 

「やはり中枢……王城に潜入して情報収集する必要性があるか」

「いきますかー」

「なんだテューレ、一緒に行くつもりか?」

「ダメですー? これでもそこそこ場数踏んでますし、逃げ足には自信ありますよー?」

 

「まぁ信頼していないわけじゃないが、ちょっと事情が事情なもんでな。ここは俺一人に任せてもらえるだろうか」

「残念ですー」

 

 聞き分けの良いテューレはあっさりと引き下がる。

 相手がヴァルターとなれば、今や財団でもトップクラスに貴重な人材を危険に晒すわけにはいかない。

 

 

「──っとその前にベイリルさんー」

「んっ?」

 

 俺があれやこれやと情報を脳内で整理している中で、テューレが手紙を持って差し出してくるのだった。

 

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