異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
(酔いにくいのは……この
俺は夜明け前の帝都を、ほろ酔いの状態で歩きながらそんなことを考える。
鍛え澄ましたハーフエルフの肉体と感覚は、並の酒量では酩酊状態とはなってくれない。
(結局名前もわからなかったが……)
先ほどまで共に飲んでいた黒騎士を思い出す──本当に最後のほうは、ただただ対面飲み会のように話していただけだった。
情報を引き出すべくそれなりに酒をすすめてはみたが、さほど強くはないのか要領を得られないまま酔い潰してしまった。
もったいないので残った分を仕方なく飲み干し、そのまま酒場を一人出てくる始末。
(まぁいい、俺は俺の
指名手配されているのは重々承知――しかしやることは変わらない。
警告はあくまで警告として受け取るが、それで行動指針が大きく左右されるわけじゃない。
(撤退の
つまるところ
遊撃という立場を利用した撤退行動が敵前逃亡ととられた結果、一時的に発布されているということも。
(出頭命令……それに
俺は"
(そもそもヴァルターなら、黒騎士といった有象無象で俺を捕縛できるなんて思うわけがない)
実際に戦って実力をお互いに知っている。
黒騎士は帝国に数ある騎士団の中でも、集団戦闘に
さらには財団と俺が関わり深いことも知っているわけで、呼び出すのであれば財団支部に直接連絡がいっているはずだ。
(ヴァルターでないとすると……帝国宰相、軍部のお偉いさん、文官の重鎮、意図がわからない以上はキリないな)
軍人区をすり抜けて貴族区へと入る。
暁闇の中で俺を捕捉できる者はおらず、そのまま悠々と王城を目の前へと
俺が王城内で迷わず行ける場所は限られているが──なんとなく導かれるように──俺は決起集会をおこなった玉座の間へと足を踏み入れる。
するとそこには先客が一人。
周囲には気配が感じられず、傍目には無防備に見えるものの……俺は
「座り心地はどうだ?」
鋼鉄の玉座にわざわざ座ったまま眼を閉じていた男──ヴァルター・レーヴェンタール。
新たに帝王の座についた男は、
「ァア~~~てめェか"円卓殺し"、眠りの邪魔ァしやがって。ったく、座り心地も寝心地も最悪だよ」
「じゃぁなんでそんなところで寝てるんだ」
「実感ってのは大事だろうが。まあ
相変わらず互いの印象は良くはないものの、邪険に扱われているような雰囲気でもなかった。
「さてな、俺に出された出頭命令とやらに従ったんだが……誰が出したかわかるか? 抵抗するようなら捕縛命令まで出ているらしいんだが」
「あ? あぁーーーそういえばヘレナかハンスか、いや違うな……誰に言ったっけか」
「んん……? もしかしてお前が出した命令だったのかヴァルター」
俺はアテが外れたことに眉をひそめつつ、寝ぼけ眼の男に確認を取る。
「やること多すぎていちいちよォ……かかずらってらんねぇンだわ。誰かにテキトーに言ったのが巡り廻って伝わったんだろうよ」
ゆっくりと玉座から立ち上がったヴァルターは、影を付き従わせながら体を伸ばす。
「つーかオイコラ、新帝王を前にしてんだから
「いやぁ別れ際がキワだったし、他に人がいないなら同じ出自を持つ者同士、やっぱりフランクに仲良くやれないかと思ってはいるんだがな」
「あの時とは立場が大きく違う。オレ様のご機嫌次第で、テメェの首がすげ変わることがわかってんのかよ?」
明確な恫喝を交えて威圧するヴァルターだったが、俺は肩をすくめて笑う。
「あぁわかっているよ、お前がそこまで馬鹿じゃないってことがな。はっきり言って見くびっていたし、その
「アァン?」
「正直どこまでが計画の内で……どこから手の平の上で転がされていたのかわからない。利用されたことが憎らしく腹立たしいが……同時に素直に称賛したい気持ちも否定できない」
「いちいち回りくどい言い方しやがって」
ヴァルターは毒気を抜かれたようにドカッと玉座へ座り直し、「はぁ~」と小さく溜息を吐く。
「具体的な計画実行は、ワーム迷宮の攻略から始まったんだろうと予想するが……皇国に対して戦端を開く大前提──"折れぬ鋼の"をどうやって一時的に誘導した?」
「あぁあぁ、そうだよ。テメェの想像通り"制覇特典"を使った。魔術契約した群体型の魔物を散発的に配置させた上で、情報を流したのさ。どうせ多少の時間稼ぎさえできりゃ充分だったからな」
"折れぬ鋼の"完全に釘付けにする必要はなく、適度に時間を費やさせるのがヴァルターの
「さらに俺に聖騎士を殺させる……まぁ殺したのはヴァルターお前だが、いずれにしても皇国のさらなる戦力を引っ張り出したことで、戦帝という宝刀が自ら動く事態を作り出した。
そうして皇国領土の奥深くで"折れぬ鋼の"が戻ってきたことで、戦帝は追い詰められ無力化することに成功。まぁ俺もその場に居合わせたわけだが……まったくやられたよ」
実に都合よく使われた。
立場による強制力があるにしても、
「あのクソ野郎、どんな顔してやがった?」
「いやまぁ、いつも通り楽しそうにしていたが」
「はっそうかよ。まあ今となっちゃもうどうでもいいさ」
ヴァルターは足を組んで玉座にふんぞり返って、あくびを一つ。
「あの場で俺が聞いたのは、モーリッツ殿下の謀反という話だった。でも今、目の前で王座にいるのは
「モーリッツか、まっ手こずりはしたがな……だが勝ったのはオレ様だ。弱点を晒してる軟弱野郎に負ける道理は
「弱点──妹であるテレーゼ王女殿下か……二人は生きているのか?」
「なんだ、気になるか」
「まぁあの夜に会った感じ、お前よりは好感触だったしな」
「うるせえな……ナメくさりやがって、やっぱりテメェは今すぐにでも殺してやりたいところだぜ」
「できやしないがな。さしあたってエルネスタ王女とアルブレヒト王子は公開処刑されたと聞いた、私怨か?」
俺はモーリッツ──モライヴと友人であることが悟られぬよう、話題を揺らすように探っていく。
「私怨もなくはないが、単純に生かしておくと面倒だからな。あいつらがそれぞれ継承戦の為に整えていた
「他の血族はどうする気だ?」
「別に
「ということはモーリッツ王子は──」
「
(モライヴ……こんな形でもう二度と会えないとは──残念だ)
彼自身がシップスクラーク財団の助力を求めなかった結果であり、純粋な継承闘争によって勝敗を決したのだからヴァルターを恨む
ただただ惜しく、旧友の一人が亡くなったことに哀悼の意を示す心地であった。
同じ兵術科で学んだジェーン、キャシー、リンらに伝えるのも心苦しい。
「あーーーそうそう、テメェが赤竜を連れて来たおかげもあったっけなあ。アレで帝都における警備の流動性を細かく知ることができた、感謝してやるぜ」
「……なんだ、見返りでももらえるのか?」
「いや、それは
「まだ? あるいはそれが俺を出頭させようとした理由に繋がるわけか」
「まあそういうこった。テメェにはある人間を殺してもらう」
「決定事項のように言うが──聞くだけ一応聞いておこう、受けるかどうかは別として」
ヴァルターは苦々しく顔を歪めると、歯噛みするように口にする。
「帝国の頂点には立ちはしたが、まだ終わっちゃぁいねェ……あの野郎──"アレクシス"がいる限りはな」