異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
#401 目覚め I
──夜空に大きく浮かぶ、長きをすごしたその惑星を仰ぎ見る。
ゆったりとした動作で俺は視線を地上へ落とすと、
本当に……長かった。かつて思い描いていたモノとはまったく違う形であったが、それでもこの土地に立っていることは感慨深いのは否めない。
俺は
「"アイトエル"──」
「かつて
片割れ星の大地──世界の果てがごとき場所に立つは、
入植する為ではなく、ただただ個人的な事情によって俺はこの惑星へと至ったのだった。
「しかしその顔を見るに……いや状況を
「今、俺は……どんな顔をしていますか、教えて、ください」
絞り出すように口にした俺に対し、アイトエルは真剣な表情で見据えてくる。
「ふむ、まあ
「そうですね……甘く見ていたわけではなかった──けど、色々なことが少しずつ尾を引いて……」
ギリッと血が滲まんばかりに歯噛みする。決して風化することがない記憶が、今の俺を形作る全てと言っても過言ではない。
「かつて貴方は……俺にとって未知のことを多く知っていた。今さらですがその全てを
俺の本気の圧を受け流すようにアイトエルはフッと笑い、その場に座り込んであぐらをかく。
クイックイッと顎で
「よかろう。じゃが、まずは聞かせてもらおうか、ベイリル──ここまでのおんしの
◆
ゆっくりと──重いまぶたを開くと、最初に映ったのは真っ白い天井であった。
「ぅ……ぁ──」
声がまともに出ない。それに体もほとんど動かない、動かせない。
それでも時間を掛けて俺はゆっくりと上体をあげたところでようやく意識する。
窓からの潮風と波音、水平線までを望み、青空との境界が曖昧なその景色──を味わっていると、ガラリと引き戸が開いて一人の女性が入ってくる。
「えっ──!?」
「ンッゴホ……やぁ、どうも」
灰がかった緑の長髪の女性、その黄緑色の瞳が俺の碧眼と交差する。
俺は
「先生! "サルヴァ"先生!!」
(サルヴァ……)
混濁する頭を俺は整理する。財団きっての大化学者、"無窮の紫徒"サルヴァ・イオ。
紫竜の加護を受け、自らを定向進化した元神族。文武両道で化学のみならず医学・薬学にも精通している彼が俺の治療を担当してくれていたのならば安心もできる。
(──クソッ
クリアになってきた意識で俺は心中で毒づく。
もてあそんでくれた礼はたっぷりとしなくてはならないし、二人存在していたカラクリについても調べなければならない。しかしその前に──
「ねえ……さん……」
なんとか出るようになった声で、俺は口にする。その脳裏にいるのは──"運び屋"の姿。
(間違い、ないんだろうな)
彼女こそが生き別れていた俺の家族、亡き父が直近に書き残して、探すように言われていた俺の姉貴──"フェナス"その人だったのだ。
「おお! ベイリル!! 目覚めたか」
遠慮なく開けられた扉からは、白衣を筋骨で盛り上げメガネを掛けた男が近付いてくる。
「あぁ……サルヴァ
「それは別にいい、無理に動くなベイリル。少し
そう言ってサルヴァは──瞳孔を覗き、呼吸を聞き、体を触診し──
「大丈夫そうだな。しかし本調子までは今しばらく掛かるだろうから、リハビリまでは無理に動かさないことだ。それと左腕のことだが──」
「左腕……?」
そう言って俺は視線を動かすと、有るはずのものが無く、無いはずのものが
あまりに自然すぎて気付かなかったが……そうだった──"運び屋"に、他ならぬ姉に左腕を切断されてしまったのだった。
「これって義手?」
「そうだ、動かせるか?」
言われて俺は意識せぬまま、人工的な左手の関節が動く。
「凄いな、財団のテクノロジー。俺も網羅しているわけじゃないが、ここまで違和感ない義手が作れたなんて……いや
「……とりあえず、問題はなさそうだな」
「えぇ、大丈夫そうです。生身じゃないのは残念ですが、これも高い授業料と思って受け入れます」
切り札が一つ増えたとでも思えばいい。精神エネルギーで放つ銃を仕込んで、ロケットパンチを奥の手にするのも悪くはない。
「……そうか。とりあえずしばらくは専属の看護を付けるぞ、ベイリルは変わらず無茶をしそうだからな」
「ははっ、俺は医者の言うことはちゃんと聞くほうですよ?」
「そうでなくともしばらくは身の回りの世話役がいるだろう」
パチンッとサルヴァが指を鳴らすと、先ほど目覚めて最初に出会った女性が入ってくる。
「君、看護師だったのか」
「いえ……自分は──」
どこか緊張してよそよそしくはあるが、こちらへの嫌悪感はなくむしろ安堵しているような感じであった。
「彼女は看護師じゃあないよ、そうだな……まあ今はいい。一通りの心得はあるから、彼女にまかせておけ」
「了解です、病床人は大人しく従いますよ」
サルヴァはいったん病室から出て行くと、俺は女性と二人きりになる。すると女はベッド横の丸イスに座ると、ギュッと俺の右手を握ってきた。
どこか
「えっと──どうも改めまして、ベイリルです。しばらく身の回りのことお願いします」
「はぃ……はい、何もかも自分におまかせください」
握られた俺の右手はそのまま女性の頬へと添えられ、手の平を通して彼女の体温が伝わってきた。
俺はふと導かれるように、姉のことを思い出しながら女性の耳を確認すると……わずかに尖った平たい耳をしているのがわかる。
もしも姉の"半長耳"をもっと早く確認できていればあの時に……いやもっと早い段階で、違う立ち回りが──
(いや、三度会った時に俺は姉がいることを知らなかったから無理な話か)
「んっ……」
「っと失礼、申し訳ない。別に他意はないのでその──」
俺はやや焦って弁明するも女性は耳が触られるのを特に拒む様子を見せず、むしろ受け入れるように視線を交わす。
「いえ、大丈夫です。ただ、その……頭を撫でてもらってもよろしいでしょうか」
「えぇ? まぁ構いませんが──」
ゆっくりと俺は言われるがままに頭を撫で、彼女はそれをどこか噛み締めているようにも感じた。
「ありがとうございます、もう……大丈夫です、大変失礼しました」
「いえいえこんなことで良ければ? ところでお名前を聞いても……?」
「自分、は……"ナーギ"です」
「どうもナーギさん、改めてベイリルです。これからよろしくお願いします」
ナーギは健やかな笑顔を浮かべるも、どことなく寂しさを感じたのは……はたして俺の気のせいか否か。
「ところで俺はどれくらい眠ってい──」
「おっ!! ホントに起きてら」
唐突に現れた人物に、俺は一瞬だけ目を細めるも……すぐに再会した
「おぉ!? 随分と久し振りだな"オックス"」
深緑色の髪を後ろで結い上げた男は、かつては学苑の魔術科で共に机を並べて学び、自治会長をも務めた気の置けない友人であった。