異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
専門部のカボチャ棟の扉はあっさりと開き、二人揃って中へと入る。
一階は広間のようになっていて、吹き抜けが4階まで続いてた。
階段を介して部屋が割り振られていて、各部室として本来は割り当てられるものなのだろう。
いずれにせよ早々に十数人、わかりやすく出迎えられたかのように見つかってしまった。
カボチャ達は口々に話したと思うと、すぐに5人ほど立ち上がってこちらへと寄ってくる。
「"白校章"か、新季生の時期だし迷い込んだか? あ?」
「確かに新季生ではあるが迷い人じゃあない。きっちり知った上でここへ来た」
人族が3人の、獣人が2人。
「わからねえなあ、そっちのネーちゃんも……一体どういう了見だ」
「部室が欲しいから、代表者と話がしたい」
俺はどうせ無理だとはわかっているものの、建前だけでも淡々と要件だけ告げる。
「はっはははッ! ここを部室にしてえってのか、身の程知らずだねえ」
「新季生がそんな理由でうちの"頭領"にいちいち会えると思ってんのか、ああ?」
口々に
不良漫画のようなフィクションでしか見たことがない状況に、どう対応していくか少し思案する。
「どうすれば会える?」
「てめえなんかじゃ会えねえよ。大人しく帰れや、それとも力ずくで通るか? あ?」
相手から提案してくれるのであれば是非もない。
ここは素直にお言葉に甘えることにしよう。
「ふゥー……──じゃあそれで」
俺は溜息のように息吹をして、身体の魔力循環を意識し整える。
これから自分達が活動していく場所である為に、派手な魔術は使わない。
"風皮膜"のトリガー行為でもある息吹だったが、あえて魔術は使わずにここはいく。
「は? なんだって?」
「
「威勢がいいなあ……後悔すんじゃねえぞ!」
そう叫んで男は、拳を振りかぶりながら距離を詰めようとする。
モーションも大きく、スピードも遅い、一般生徒の域を出ない程度のものだった。
俺は踏み出された相手の"膝の狙撃を目的とした蹴り"を見舞った。
カボチャ1号は、鈍い
「おっと、多勢に無勢で来ても構わないが……腐っても
ちょいちょいっと人差し指を二度曲げる。
一人目が瞬く間に沈んで、
しかし年下の新季生を相手に、先んじて釘を刺されしまえば後に引けなくなってしまった。
戦闘行為それ自体で測るのであれば、まとめて叩き伏せることも楽勝であったろう。
しかし大きすぎる力量差というものは、時に不必要な恐怖や諦観を根強く与えてしまうことになる。
落伍した経緯は人それぞれでも、思う感情の中に似たものはあるハズである。
こんな奴相手じゃ負けても仕方ない。最初からモノが違うのだ、などと思われては少々困る。
悪感情が減じられるのであれば、それに越したことはなかった。
左ハイキック──右裏拳──右飛び膝──かち上げ左掌底──
順番に、ゆっくりと、
最初にやってきた5人ばかりでなく、追加で
案外"弱い者いじめ"という、後ろ暗い楽しさを否定できない。
我ながら度し難いと感じてしまうが、ともすれば逆感情についても考える。
ただバグ技やチートを使ってプレイするゲームなんて、すぐ飽きてしまうことに。
達成感あってこその人生であり、障害こそが刺激なのである。
栄光が道端の自販機で、缶ジュースを買うかの如く転がっていたなら。
度を越した強さから得られる幸福というものは、あっという間に色褪せてしまうだろう。
転生し、故郷を焼かれ、奴隷にまで落ちた時は、何も考えず得られる強さが欲しかった。
しかし今は違う。この長命にとって、
「あぁぁあああ! う──っせえんだよ!」
十名ほど地面と熱い抱擁をさせたところで、叫び声が棟内に響き渡り全員が静止する。
「なんなんだよ、あーったく完全に眠気覚めちまったじゃねえか。アタシは二度寝しにくいタチなんだよ!!」
矢継ぎ早に続いた声は、4階部から聞こえてきたものだった。
周りを見やればカボチャ達は、戦々恐々とした
声の
かと思うと、
「てめーらかぁ、アタシの昼寝を邪魔したのはよォ……」
「オレらじゃありません
そう言ってカボチャの一人が、俺のほうを指差してくる。
一方で俺は我関せずといった様子で、飛び降りた女を観察する。
手入れされてない起き抜けの髪は、激情を表すかのような
頭には尖りぎみの獅子耳、尻には獅子の尾。わずかに見える牙と黄色味の混じった猫科の瞳。
恵体ボディと皮膚の下に備える天性のバネと筋骨が、
「無様に負けてちゃ世話ねェだろうが。おう
そう言って獅人族の少女は、広間の一角へと首を傾けるように視線を向ける。
ただ一人、状況にずっと動じることなく隅のほうで座っていた男へと。
「べっつにぃ、"キャシー"ちゃんが相手してあげればぁ? なんかその子、部室が欲しいんですって」
やや低めのテノールボイスに
線が細めなシルエットではあるが、決して虚弱そうには見えない。
動きに無駄がないゆえか、静かでスマートな印象を強く与える。
ナイアブという、事前情報によればボスであろう名で呼ばれた男。
彼は鋭い目元に、色素が少し抜けたような緑色の髪を整えつつ距離を詰めてくる。
「部室ぅ? つーことはおまえ、アタシらの仲間になりてえのか?」
こちらを
「いいや、違うよ」
「じゃあなんなんだよ」
威嚇するかのような勢いのキャシーと呼ばれた少女に、ナイアブは状況を推察する。
「そっちの女の子、確か自治会の子でしょう。部室確保の為に、会長様がけしかけてきたってとこかしら」
「ッぁア? あの鼻持ちならないクソ会長の野郎、フザけやがって」
今すぐにでもぶっ殺しに走り出しそうな勢いでもって、キャシーは一本
ピシャリと言い当てたナイアブは涼しい顔して、
「あなた白衣を見るに医学部かしら、懐かしいわね」
「……そうです。ナイアブ先輩、自治会庶務のハルミアと申します」
ナイアブの独り言のようだったが、ハルミアは話を振られたかのように感じて名乗る。
あくまで案内人で回復役の彼女は、どう動くべきか判断つきかねてる様子であった。
「いい感じに
「はあ?」
「あら?」
ほくそ笑むような表情を浮かべ、俺は二人の名を呼ぶ。
是非フリーマギエンスに入れて共に研鑽を積み、あいつらと学ばせたい。
そう直感的に思った次第であった。
「おうガキぃ、なんでアタシは呼び捨てなんだ?」
「いえね……年もそこまで変わらなそうだし、
俺はわかりやすく挑発して見せる。
この手の
忠犬メイドクロアーネ同様、力で語り合ったほうが分かち合えるタイプの人間だと。
「言っとくがなァ、アタシは
「御託はいらんて」
俺の言葉にキャシーはゴキゴキと首を鳴らした後に、ダランっと一度脱力する。
「上等だぜ、ゴラァ!」