異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「ですが、興亡を繰り返し……時に大きく衰退しても──遅々として進歩してきたのもまた人類なんです」
「わたしの知ったことではないな」
俺は少しばかり
「余計なお世話なことは、重々承知の上で申し上げます。なぜなら……それこそが
"文明回華"と"人類皆進化"。
二つの螺旋を
あらゆる知的生命がその恩恵を受けるべきであり、ましてや
「これほど美麗で神秘的な氷の聖堂を創り上げているのです。芸術を否定することはできないかと」
もしも取り込めればブリースにとっても他の芸術家達にとっても、良い刺激あるいは化学反応を起こして素晴らしい方向に働くのだと信じている。
「それに……かつてはヒトに関心があったのではないですか?」
「随分と知ったような
「"青い髪の魔王"──」
「……」
俺は青竜ブリースの僅かな変化も見逃さないよう集中しながら話を続ける。
「竜種以外に加護を与えるのは並々ならぬことと聞き及んでいます。風聞に聞いたくらいですが、少なくとも"青竜の加護"を与えるに足る存在だったのでは……?」
「たしかに過去、わたしにもそういった時期はあった」
歩幅を小さく距離を詰めて来たブリースは、俺のことを仰ぎ見るように──見透かすかのように瞳を覗き込んでくる。
「だが裏切られた。
「……青い髪の魔王は持て余して増長、暴走したということですか」
青い髪の魔王に関しては文献もほとんど残っていないような時代であり、その頃の実体は判然としていない。
「弱き者たちの境遇を知っていたはずなのに、いざ強者となると同族を
「申し訳ありません、今までのは軽率な
「しかもわたしはそのことに気付けなかった。あるいはもっと早くに知れていれば……違う道があったのかも知れない。わたし自ら手を
青竜ブリースは──無力感を握り潰すように──小さな拳を作った。気に入って加護を与えた人間を、己が手で処断する。
その心痛は
「それでも
「言うがいい、ここまできて今さら引っ込めることもあるまい」
「赤竜の加護を得た"燃ゆる足跡"はそうはならかった。
「ふっ……わたしが赤と違って上手くやれなかったということか」
自嘲的な笑みを浮かべるブリースに、俺は首を横に振る。
「赤竜自身が寄り添って事を
「つまり周囲が悪かったと言うのか?」
「
学校という小さな社会。
そこで子供は様々なことを学び、家庭やその他の環境に対応して
「巨万の富を得たことで変質する者、権力を得たことで腐敗していく者。あるいは日々の積み重ねで精神を磨耗し、壊してしまうこともあります。人は移ろいやすく、短い
繊細で影響を受けやすい、だからこそ生まれるのです。良きようにも悪しきようにも、個性が存在しぶつかり合うからこそ、それらが混ざり合って新しいものが──それこそが進化の一形態」
「その結果として、争いが起きることも肯定するつもりか」
「否定はしません。積算された歴史から、偉大な先人から学びながらも……人は
人間は神にはなれず、獣にもなりきれない。
善にも悪にも傾倒し、様々な思想に染まりながら、境界線の上を歩き続ける生物。
「だから……昔とは違う
青竜はヒト種そのものに一線を引くようになっただけで、心底から嫌いになっているわけではないと……ここまでのやり取りで察せられた。
白や赤と同じように昔は人間に期待していたこともあったのだから、新たに関係を再構築することは不可能ではないはずだ。
「口がよく回るものだ。いや、ヒトとはこんなものであったか……あまりに久しい」
「こんなものです。イシュトさんが信じた俺を信じてもらえませんか」
「ずるい言い回しだ」
「それはもう、
小賢しく立ち回り、手練手管を尽くす。
悪印象を
「まぁせっかくなので、次来る時には色々と
「好きにするがいい」
俺は
「ところで話は変わりますが……──」
視線だけでチラッと、遠慮しつつも
「なんだ」
「"竜の加護"の扱い方、もしご存知であれば一手御指南のほどを願えないでしょうか。赤竜
「……だろうな、わたしたちは加護を与える側だ。与えられた者の
適性や相性と切って捨てるにはあまりにもあんまりである。得られる情報があれば、
「ただ──」
「ただ……?」
「"青い髪の魔王"──わたしの意を裏切り踏み
ブリースの表情も声色も変わらなかったものの、その言葉からはヒシヒシと恨み辛みが込められていた。
「差し
「大したことを教えてはいない。
「持つことと、扱うこと」
改めてその言葉を
つまるところ俺は……例えるならまだ銃を手渡されただけの状態でしかないということを今一度、意識する。
──ローディングゲートを開けて弾薬を装填し、狙いを定め、
──
──ダウンロードしたソフトをインストールして、プログラムを起動し、環境に合わせて最適化して使用する。
「ヒトの使う
「なるほど──」
魔術とは魔力というエネルギーから
魔導はそれをより強固にしたもので、本質的には同一。
しかし竜の"加護"とはそういうものではない。竜の使う"秘法"はそういうものではないのだ。
(
まだまだ浮いたような感覚だったが、言わんとすることはなんとなく理解できる。
完成したモノがもう宿っている、新たに創り出す必要はないということに。
要するにスタート地点を根本的に間違ていた。加護とは同じ魔力を源にするとしても、それ自体は魔術と似て非なる"
「もっとも先刻も言ったが、詳しいことはわたしにはわからない。与えられた側の感覚は知ったことではないからな」
「いえ、ありがとうございます。なんとなく知りたいことは
「……そうか、なによりだ。白の遺志を無下にしないよう励むといい──おまえは扱い方を間違ってくれるなよ」
そんな青竜ブリースの自然と浮かんだわずかな笑みと激励を、体に染み込ませるように俺は笑い返したのだった。