異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#421 青竜

 

「ですが、興亡を繰り返し……時に大きく衰退しても──遅々として進歩してきたのもまた人類なんです」

「わたしの知ったことではないな」

 

 俺は少しばかり感情的(ムキ)になって抗弁する形となったが、青竜ブリースはただただ冷ややかな反応を返すだけであった。

 

「余計なお世話なことは、重々承知の上で申し上げます。なぜなら……それこそが(わたくし)の──()の生きる道であり、信条だからです」

 

 "文明回華"と"人類皆進化"。

 二つの螺旋を(えが)く大いなる道のりにおいて、人類種以外も決して例外ではない。

 あらゆる知的生命がその恩恵を受けるべきであり、ましてや(えにし)を新たに繋いだ彼女(ブリース)を……人類と文化に無関心のまま終わらせたくはなかった。

 

 

「これほど美麗で神秘的な氷の聖堂を創り上げているのです。芸術を否定することはできないかと」

 

 もしも取り込めればブリースにとっても他の芸術家達にとっても、良い刺激あるいは化学反応を起こして素晴らしい方向に働くのだと信じている。

 

「それに……かつてはヒトに関心があったのではないですか?」

「随分と知ったような(クチ)を叩くものだな」

「"青い髪の魔王"──」

「……」

 

 俺は青竜ブリースの僅かな変化も見逃さないよう集中しながら話を続ける。

 

「竜種以外に加護を与えるのは並々ならぬことと聞き及んでいます。風聞に聞いたくらいですが、少なくとも"青竜の加護"を与えるに足る存在だったのでは……?」

「たしかに過去、わたしにもそういった時期はあった」

 

 

 歩幅を小さく距離を詰めて来たブリースは、俺のことを仰ぎ見るように──見透かすかのように瞳を覗き込んでくる。

 

「だが裏切られた。(ちから)無き者が(ちから)を持った時、(ちから)に酔い、(ちから)に溺れるのだと」

「……青い髪の魔王は持て余して増長、暴走したということですか」

 

 青い髪の魔王に関しては文献もほとんど残っていないような時代であり、その頃の実体は判然としていない。

 

「弱き者たちの境遇を知っていたはずなのに、いざ強者となると同族を(しいた)げる立場となった。この落胆が……おまえに理解できるか」

「申し訳ありません、今までのは軽率な(げん)でした」

「しかもわたしはそのことに気付けなかった。あるいはもっと早くに知れていれば……違う道があったのかも知れない。わたし自ら手を(くだ)すその瞬間(とき)には──もはや手遅れと言えるほどに()れきっていた」

 

 青竜ブリースは──無力感を握り潰すように──小さな拳を作った。気に入って加護を与えた人間を、己が手で処断する。

 その心痛は如何(いか)ばかりだったのか……おもんぱかることはできても、その内実は本人にしかわからない。

 

 

「それでも()えて(てい)させてもらえるならば──」

「言うがいい、ここまできて今さら引っ込めることもあるまい」

「赤竜の加護を得た"燃ゆる足跡"はそうはならかった。()の者は一つの理想とも言える多種族国家を建国し、その後も世界中を巡って差別と戦ったと聞いています」

「ふっ……わたしが赤と違って上手くやれなかったということか」

 

 自嘲的な笑みを浮かべるブリースに、俺は首を横に振る。

 

「赤竜自身が寄り添って事を()せた影響はあるにしても、大きくは違います。人は、弱いんです──だからこそあらゆる環境要因によって思考と行動を左右されます」

「つまり周囲が悪かったと言うのか?」

(わたくし)の故郷では画一的な教育機関があり、数多くの子供に同じ学習させていても……その在り様は一人一人まったく(こと)なったものになっていました」

 

 学校という小さな社会。

 そこで子供は様々なことを学び、家庭やその他の環境に対応して人格(パーソナル)を獲得していく。

 

「巨万の富を得たことで変質する者、権力を得たことで腐敗していく者。あるいは日々の積み重ねで精神を磨耗し、壊してしまうこともあります。人は移ろいやすく、短い(せい)の中で精一杯に足掻(あが)きます。

 繊細で影響を受けやすい、だからこそ生まれるのです。良きようにも悪しきようにも、個性が存在しぶつかり合うからこそ、それらが混ざり合って新しいものが──それこそが進化の一形態」

 

 

「その結果として、争いが起きることも肯定するつもりか」

「否定はしません。積算された歴史から、偉大な先人から学びながらも……人は(あやま)ちを繰り返す──だけどまた立ち上がり、前を向いて歩いていくのが人間(われわれ)なんです」

 

 人間は神にはなれず、獣にもなりきれない。

 善にも悪にも傾倒し、様々な思想に染まりながら、境界線の上を歩き続ける生物。

 

「だから……昔とは違う()を見て欲しいのです、ぜひ我々が創り上げた文化を知ってください。そして未来(・・)に想いを()せ、新たに目を向けてもらうことを(せつ)に願いたい」

 

 青竜はヒト種そのものに一線を引くようになっただけで、心底から嫌いになっているわけではないと……ここまでのやり取りで察せられた。

 白や赤と同じように昔は人間に期待していたこともあったのだから、新たに関係を再構築することは不可能ではないはずだ。

 

 

「口がよく回るものだ。いや、ヒトとはこんなものであったか……あまりに久しい」

「こんなものです。イシュトさんが信じた俺を信じてもらえませんか」

「ずるい言い回しだ」

「それはもう、ヒトですから(・・・・・・)

 

 小賢しく立ち回り、手練手管を尽くす。

 悪印象を(いだ)かれてないのであれば、予兆を感じられない限りガンガンいく。

 

「まぁせっかくなので、次来る時には色々と土産(みやげ)を持ってきます。それで(そそ)られるようであれば是非ご一考を」

「好きにするがいい」

 

 俺は(うやうや)しく頭を下げて、お互いの立場を改めて明確に示した。

 

 

「ところで話は変わりますが……──」

 

 視線だけでチラッと、遠慮しつつも懇願(こんがん)するように俺はお(うかが)いを立てる。

 

「なんだ」

「"竜の加護"の扱い方、もしご存知であれば一手御指南のほどを願えないでしょうか。赤竜殿(どの)にも(たず)ねたのですが、どうにもわからないようで」

「……だろうな、わたしたちは加護を与える側だ。与えられた者の(ちから)の使い方など知る(よし)もない」

 

 適性や相性と切って捨てるにはあまりにもあんまりである。得られる情報があれば、貪欲(どんよく)に吸収していきたいところだった。

 

「ただ──」

「ただ……?」

「"青い髪の魔王"──わたしの意を裏切り踏み(にじ)ったヒトの眷属も同じようなことを聞いてきたのを思い出した」

 

 ブリースの表情も声色も変わらなかったものの、その言葉からはヒシヒシと恨み辛みが込められていた。

 

 

「差し(つか)えなければ……」

「大したことを教えてはいない。(ちから)を持つことと、扱うことは違うのだと言ったに過ぎない」

 

「持つことと、扱うこと」

 

 改めてその言葉を反芻(はんすう)し、思考を回転させる。

 つまるところ俺は……例えるならまだ銃を手渡されただけの状態でしかないということを今一度、意識する。

 

 ──ローディングゲートを開けて弾薬を装填し、狙いを定め、撃鉄(ハンマー)をコックして、引鉄(トリガー)を引く。

 ──(ゆず)られた暴れ馬に(くら)を取り付け、振り落とされずに乗りこなし、手綱を握って制御し、走らせたいルートに導く。

 ──ダウンロードしたソフトをインストールして、プログラムを起動し、環境に合わせて最適化して使用する。

 

「ヒトの使う魔術(それ)と一緒に考えるな。既に加護はおまえの中にあるのだからな、それを歪めているのはおまえ自身かも知れないぞ」

「なるほど──」

 

 魔術とは魔力というエネルギーから想像(イメージ)を巡らせ、現象を創造(クリエイト)する作業。

 魔導はそれをより強固にしたもので、本質的には同一。

 しかし竜の"加護"とはそういうものではない。竜の使う"秘法"はそういうものではないのだ。

 

 

既に俺の中にある(・・・・・・・・)、か)

 

 まだまだ浮いたような感覚だったが、言わんとすることはなんとなく理解できる。

 完成したモノがもう宿っている、新たに創り出す必要はないということに。

 

 要するにスタート地点を根本的に間違ていた。加護とは同じ魔力を源にするとしても、それ自体は魔術と似て非なる"(ちから)そのもの"なのだと。

 

「もっとも先刻も言ったが、詳しいことはわたしにはわからない。与えられた側の感覚は知ったことではないからな」

「いえ、ありがとうございます。なんとなく知りたいことは(つか)めました。とりあえず頑張ってみます」

 

「……そうか、なによりだ。白の遺志を無下にしないよう励むといい──おまえは扱い方を間違ってくれるなよ」

 

 そんな青竜ブリースの自然と浮かんだわずかな笑みと激励を、体に染み込ませるように俺は笑い返したのだった。

 

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