異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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第七部 第3章「魔法」
#426 結社の最後 I


 

 ──誰からも忘れ去られた、数千年以上前に建てられし霊廟の奥。

 

 そこには同じように誰からも忘れられたはずの一人の男が、沈黙し、粛々(しゅくしゅく)と、祈りを捧げるかのように瞑想をしていた。

 白髪交じりの男の右手の中指にはリングが()められ、どこかくたびれた様子で浮世離れしているようにも見て取れる。

 

「待っていたよ」

 

 男は目を瞑ったまま、背後から音も無く近付いてきた人物へと声を掛けた。

 

「逃げ隠れしていた奴がよく言う、だがもう王手詰み(チェックメイト)だ──"亡霊(ファントム)"。アンブラティ結社は今日ここで終わる」

 

 亡霊(ファントム)は振り返って、待ち人へと真っ直ぐ瞳を交わす。

 

「私は命を惜しまない。だがその前に少しだけ話をしないか? "殺し屋(アサシン)"、いや"冥王(プルートー)"と呼ぶべきか」

 

 

 かつて結社に"殺し屋(アサシン)"として潜入し、敗北し囚われ"冥王(プルートー)"として人体の改造・洗脳をされたベイリル。

 彼はアンブラティ結社の創始者にして首魁である亡霊(ファントム)を前にして、少しだけ考えてからその場に固化空気椅子を作って座る。

 

「いいだろう、お前で最後(・・・・・)だからな。時間はたっぷりある」

 

 たとえ時間稼ぎの魂胆があったとしても、問題ないと見越した上でベイリルは会話に興じることを決める。

 

「ありがとう。私が最後ということは……あの(・・)"生命研究所(ラボラトリ)"さえも殺し切ったか」

「奴には苦労させられたよ。あらゆる流通や人の流れを監視して、百年の間に増やし過ぎた複製体(クローン)や寄生キマイラ屍体(ゾンビ)どもの総滅に時間を取られすぎた」

 

 放置すればあわや世界滅亡(アポカリプス)の危機ですらあったが、なんとかそれは防ぐことができた。

 しかしながらその過程で少なくない犠牲が出たことも──忘れることはできない。

 

 

「驚くまい。"将軍(ジェネラル)"に始まり、我らが手を焼いた"血文字《ブラッドサイン》"。"実姉にあたる"運び屋(キャリアー)"でさえ……その手で殺したキミだ。こうなるのも時間の問題だった」

「お前が姉さんのことを口にするな」

 

 ベイリルは表情を変えることなく、淡々とした口調と声色でもって亡霊(ファントム)を見据えた。

 

「失礼、私が直接的に関わったわけではないが……遠因になったことは確かだ。他意はなかった、そのあたりも含めて聞いてほしいのだ」

「……いいだろう。言葉選びには気を付けろ」

 

 座ったままのベイリルはグッと腰を落とすように前かがみになり、状況に対応できるよう視線は外さない。

 

 

「"幇助家《インキュベーター》"が裏切ったあの落日──いや冥王(プルートー)、キミの復讐はもっと以前からになるか」

「そうだな、俺がまだ子供(ガキ)の頃に故郷を燃やされてから数えれば──もう二百年(・・・)を軽く越える、随分と(つい)やされた」

 

 転生して野望の為に奔走した20年。昏睡し洗脳されて過ごした記憶なき100年。

 "血文字(ブラッドサイン)"を殺してから、文明の行く先々に介入しながら結社と生命研究所(ラボラトリ)()り潰して回った百数十年の日々。

 

生命研究所(ラボラトリ)には引っ掻き回されたが、亡霊(おまえ)を見つけるのにも一手間かけさせられた」

「遠い昔に(いだ)いた私の大いなる(こころざし)、かつての熱は()めても……半《なか》ばに(つい)えることは忍びなかった。あるいはもしもキミたちがいつか衰退することがあれば、もう一度だけ奮起しようと身を隠していた次第」

 

 亡霊《ファントム》は空虚な笑みを浮かべつつ、腕を広げて顔を上方へと向ける。

 

 

「随分と長い目で見ているようだな……亡霊(おまえ)は、どれだけ(つい)やした?」

「結社《アンブラティ》を創ったのは──ごく最近(・・・・)と言える。私が生まれた時を思えば、十分の一にも満たぬ実に短い時間であった」

「なんだと?」

 

 少なくとも300年をゆうに越える間、世界中で争いの種を撒いてきたアンブラティ結社。

 であれば亡霊(ファントム)の年齢は、最低でも3000歳を超えることになるというのか。

 

「語ろう──そして是非、最後まで耳を傾けてほしい。因縁深きキミがたった一人でいい、誰も知らぬ私の生涯を覚えていてくれるだけで満足だ」

 

 ベイリルはわずかに考えてから、小さく(うなず)いた。

 亡霊(ファントム)を満たすことになるのはいけ好かないものの、好奇心のほうが(まさ)ってしまう。

 

 

「まず最初に明かしておこう。この肉体(からだ)は私のモノではない」

「本体が別にいるってことか?」

「そうとも言える、私が生まれたのは……"二代神王グラーフ"が代替わりする少し前の時代だった」

「──っ!? そんなにか」

 

 グラーフの時代ともなると4000年ほど前にまで(さかのぼ)る。

 

「いや生まれたというのは、いささか語弊(ごへい)があったな。私は──その頃につくられた(・・・・・)のだ、他ならぬグラーフと……そして魔王の手によってな」

「グラーフと初代魔王か……なるほど、お前の正体は──()()()()()()()"魔王具"そのものか」

「さすがだ、キミは昔の知識もよくよく(たくわ)えているのだな」

 

 ベイリルは亡霊(ファントム)の右手中指へと視線を移し、答え合わせをするように話を続ける。

 

「俺の既知の範囲内で所在不明で、かつそんな効果がある魔王具は唯一(ただひと)ツ。死者すらも蘇生させるという"指環(ゆびわ)"だな」

「"命脈の指環(どうりをけっとばす)"と、初代魔王(はは)は名付けた。正確には──生物・無生物問わず物質に生命を与えるシロモノだ」

 

 ベイリルは絶句する。かつて白竜イシュトが、我が()である灰竜アッシュの卵を(よみがえ)らせる為に探していた魔王具。

 それは噂に聞いていたよりも──もちろんソレ相応の膨大な魔力量を必要するのだろうが──さらにぶっ飛んだ性能を持っているようだった。

 

 

「この肉体(からだ)もいつかどこかで死んで転がっていた男のモノ──これまでに何度も、何度も、何度も……乗り換えてきた」

「秘密を教えなければ……俺はお前の肉体のみを徹底的に破壊し、指環は捨て置かれ……生き延びる芽もあったんじゃないのか。あるいは俺の体を乗っ取るとかな」

 

「それは、ない。今さら言いにくいことだが、信じてほしい……私は()()()()()()()()のだよ。他ならぬキミにな」

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