異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「上等だぜ、ゴラァ!」
叫ぶやいなやキャシーは、アッパーとフックの中間くらいの軌道で
耳に聞こえる風切り音、その豪腕に意識を改めた。
そこらの
(偉そうにしていただけのことはあるな──)
「
「無茶言うな」
身を
セイマールから習ったのはあくまで基礎体術だけであり、武術を
あくまで自分にとって、最もやりやすい
実際問題とのしてイメージを
中国武術で言うところの、
「キャシーちゃん、あまり派手にやらないでね~」
「アイツに言え! あのガキがさっさと死ねばそれで終わる!」
(死ねってオイ……)
キャシーは四足獣のように地に伏せるような構えを取ると、その赤髪がにわかに立ち上がってくる。
きめ細かい猫っ毛ストレートが、さながら獅子の
同時にパチパチと静電気が空間に走るような音が、耳へと届いてきていた。
俺はその光景を見て、瞬時に息吹と共に今度は"風皮膜"の魔術を全身に纏う。
あれはそう……
「ッがあぁぁアア!」
帯電した肉体と急加速を伴い、打撃と電撃を同時に叩き込むシンプルな攻撃。
「しゃあっ」
俺はインパクトの瞬間に体を
しかし電撃だけは皮膜を貫通してわずかに喰らってしまっていた。
思ったより電撃の威力は軽微だった。だがこの異世界でナチュラルに電気を使う人間は珍しい。
電撃とは天候でしか見ないものだろうし、電気の性質も詳しく知られてはいない。
(雷属魔術の使い手──イエスだな)
俺はキャシーの
同様に出し惜しみしている場合ではないと、魔力を脳へと集中させた。
半分とはいえエルフ種だからこそ早期に修得し煮詰めることができた──魔力循環による局所的な魔力強化。
慣れれば誰でも
魔力抱擁によって枯渇を押し留めたエルフ種には、やはり一日の長があった。
効率的に感覚器官をより鋭敏にし、反射を高めて次の攻撃へ備える。
拳をいなされ
彼女は連続して再度突進する為に、床を削り取らん勢いで蹴って距離を詰めてくる。
「
魔力で強化した五感をもって、俺は完璧なタイミングで迎え打つ。
左半身から右足で上円弧を描くように──突進してくるキャシーの
さらに打ち上がったキャシーに追従するように、勢いのままにその場から跳躍する。
続けざまに地面を蹴り込んでいたほうの左脚を、垂直方向へ放って上半身へ叩き込んだ。
術技名の叫びと共に風圧を伴った二段蹴りは、キャシーの体を吹き抜け天井近くまで運んでいた。
本来であれば蹴り込みと同時に、刹那の風刃で斬り刻む技。
心身が充実し、密着状態からなら10割削るくらいの威力のものである。
もっとも今の力量では、蹴りと共に強力な風刃を出せるほど研ぎ澄まされてはいない。
その為、あくまで伴う衝撃風をもって、相手を吹き飛ばすに留まった。
二段蹴りの後のさらなる追撃を重ねて完成型だが、道はまだまだ
それでも白兵戦における瞬間的な切り返し技としては、己の中で最も優れたもの。
バッタのように飛び跳ねる相手への、対空技としても単なる牽制としても有用で浪漫を兼ね備える。
(調整は……っし、バッチリだな)
宙空に打ち上がったキャシーを見上げながら、俺は受け止める準備をする。
最初こそ彼女が飛び降りてきた高さだが、それは万全の状態で着地すればの話であろう。
暴走機関車のようでも、まだ年若い女の子。
(必要とあらば辞さないが──)
なんでもかんでも男女平等だと開き直るようなことはない。
実力差があるにも関わらず、無意味に容赦なく顔面を殴りつけるような
「舐めんなや、ボケがあ!」
「うへぇ……」
落ちてくるのを見上げていたら、キャシーは目を見開いてこっちを睨んでいた。
露骨に手加減したつもりはなかったし、何よりもカウンターの形で叩き込んだ。
にもかかわらず、その凄まじいタフさに呆れると同時に素直に称賛が浮かぶ。
やはり見立ては間違っていない、とても優秀な人材である。是非とも仲間にしたいと。
「うガァァぁァぁあアアアアア」
落ちる勢いのままに、攻撃を加えようとしてくるキャシー。
俺は風皮膜を出力を上げつつ、バックステップしてあっさり回避する。
さすがに空中で方向転換することまではできないのか。
キャシーの落下地点と激突タイミングを見計らって、俺は即時反転の勢いを利用し床を駆けた。
衝突する直前に、キャシーの腰部を抱え込むようにぶつかりに行く。
その気勢を殺さぬまま正面扉へと、数瞬の内に
木扉が砕ける音と共にキャシーを地面に転がして、俺は首をコキコキと鳴らす。
「っ痛ゥ~……」
キャシーが帯びていた電流から受けたダメージを確認しつつ、次の行動に備える。
「ぐゥ……が……ハァ……ハァ……おい、てめえの名前は」
「ベイリルだ」
「あァ……くそっベイリル。てめェ覚えとく、からな」
そう声も絶え絶えに呟くと、キャシーは今度こそ地に突っ伏した。
名前を聞いてくれたということは、恐らくこっちを認めてくれたということだろうと解釈する。
(まっ扉は後で修繕しよう……)
奪うはずの部活棟の扉を破壊してしまったが、リーティアならもっと豪華で頑丈なものを作ってくれるだろう。
壊れた出入り口をまたぎながら考えていると、ハルミアが駆け寄って来る。
「大丈夫ですか!? ベイリルくん!」
「ありがとうハルミアさん、俺は大丈夫なんで彼女のほうを
そう言ってキャシーのほうを指差し、ハルミアはハッとしたようにうなずいて走っていく。
「さーてと、お次はナイアブ先輩──あなたの番かな?」