異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#438 黄竜

 

 光がおさまってから瞳を開けると、そこはいつか見た最下層手前の"人口庭園"であった。

 カエジウスの手で施された自然公園じみた階層(エリア)は、ワームの内部とはとても思えない調和と完成度。

 

「つかぬ事をお伺いしますが、これってもしかして地上まで直通で帰還できたりしました?」

「特定の階層にある魔術具を見つけ、手に入れることができればな」

「……なるほど」

 

 外側からショートカットでズルをした俺達には、どのみち関係のない話のようだった。

 帰りの探索も急ぎで不足していたがゆえに、迷宮内にある魔術方陣の存在にすら気付けなかった。

 

(まぁあれはあれで、良い思い出であり経験だった)

 

 色々と鍛えられたことには違いない。あの経験があったからこそ形作られたモノが確かにあったのだから──

 

 俺とカエジウスは最下層へと続く出入口まで歩いていき、以前では見なかった重厚な装飾石扉を開く。

 

 

 そこでは巨体を横たえた黄竜の周囲に、パリパリと放電によって破裂する音が聞こえる。

 すぐに薄っすらと(まなこ)を開けた黄竜は、竜の姿のまま器用に人語を喋る。

 

『……久しいな、ベイリルだったか』

「おぉ、お久し振りです。まさか覚えていただけていたとは」

 

 一瞥(いちべつ)しただけで俺の名前までも思い出してくれていたようだった。

 

最下層(ここ)まで到達する者は少なく、我を打ち倒した数少ないヒトだ。それに"我の肉体(からだ)"を持っているようだな』

「あぁ左手(こっち)は義手でして、有効に使わせてもらっています」

 

 加工されたエレクタルサイトはもはやなくてはならない超電導物質の一つであり、その一部は培養までしていたくらいである。

 

 

『それに──"白の加護"か、アイツの息吹を感じる』

「積もる話はたっぷりしたいところではありますが……」 

 

『ああ、珍しく顔を出した男がいるようだが──』

「つとめご苦労」

『何用だ』

「外へ出してやろうと思ってな」

 

 使役した者と隷従させられた者。言葉にどこか(トゲ)のようなものを感じ、剣呑(けんのん)な雰囲気──

 

『ついにお役御免、か?』

「そういうわけではない」

『また雑用でもさせる気か』

「……まあ結果的にはそういうことになる」

 

 ──かとも思われたが、俺の空気読み能力からすると案外そうでもないようだった。

 

 

「"竜越貴人"たってのご希望だ」

「またやつか……」

「あぁ、またヤツだ……」

 

(今まで何しでかしてきたんですか、アイトエル――)

 

 奔放な自由人、しかしそれもまた彼女の味であり愛嬌であるので甘んじて受け入れよう。

 

「とにかくさっさと(ヒト)()るがいい黄竜、そのままでは転送できん」

『"人化"か――』

 

 どこか悩んでいるというよりは……詰まった様子の黄竜に対し、俺は恐る恐る問い掛ける。

 

 

「もしかして"人化の秘法"のやり方を忘れたりしました……?」

『唐突に失敬なことを言うな、ベイリル。竜について知識はあるようだが、なにゆえそのように思った』

白竜(イシュト)さんがそうでした、あまりにも長く人の姿のままで竜への戻り方を忘れたと……であれば竜のままでいすぎたら、なんて」

 

『我をあのような粗忽者(そこつもの)と一緒にするな。それにしても竜から人に成れなくなるどころか、人から竜に戻れないとは……(なげ)かわしい』

 

 バチバチと破裂音が激しくなり、一際(ひときわ)大きな雷光と大気を引き裂く音の(のち)――

 長身(タッパ)に肩幅のある、ガタイに恵まれた無精ヒゲ(づら)の壮年男が立っていた。

 

「んんっ――あ~……ゴホン」

 

 黄竜は咳払(せきばら)い一つ、人差し指を立てるとバチバチと電撃を発する。

 

「竜と比すると(いささ)か制限されるのだが、まあいい」

 

「その姿ではなんとお呼びすればいいですか?」

「"イェーリッツ"と名乗っている」

 

 雷霆を司りし黄竜イェーリッツ。

 海魔獣を相手にするにあたって、これ以上ない助力の一柱を得たのだった。

 

 

 

 

 地上へ戻って丸一日半ほど、カエジウスは黄竜の仮代替とする迷宮の主を用意すべく最下層へと行ったり来たりを繰り返す。

 一方で俺は黄竜イェーリッツとこれまでのことと、これからのことについて、様々な話をした。

 

 白と黒のこと、灰竜のこと、緑と共にしたこと、紫の顛末、赤との関わり、青との交流、アイトエルとの出会い。

 歴史の流れと行く先、俺の半生とこれから()すべきこと。また黄竜イェーリッツ自身の話も少し。

 

 黄竜(かれ)は白竜イシュトや赤竜フラッドに次ぐと言っていいくらいヒトに友好的で、とても話しやすかった。

 

 "無二たる"カエジウスと契約状態にあることが、実に惜しいと思わざるを得ないほどに。

 

 

「──役者はちゃんと揃っているようじゃの」

 

 "竜越貴人"アイトエルが転移(れい)によって音もなく、この場に出現していた。

 しかし俺もカエジウスも黄竜イェーリッツも、わかりきっていて驚くことはなかった。

 

「出たな、懐かしい顔」

「んむ。久しいな黄よ」

「我がこの姿の時はイェーリッツと呼ぶがいい」

「そうじゃったそうじゃった、それが作法だったのう。というか(ブリース)め、さっさと降りてこんか」

 

 アイトエルがそう言うのとほぼ並行して、上空から人影が()ってきて──激突スレスレで凍らせた空気をパキリッと割って青竜ブリースが着地する。

 最初に出会った100年以上前と、最後に見た数十年前と変わらぬ薄青の髪を持つ少女の姿。

 

「わたしを騎乗動物(アシ)代わりに使った挙句、我先にと()んでいった者が言うな」

「ぬっはっははははッ! 何事も一番乗りのほうが気持ちよかろう」

 

 髪色も持っている雰囲気も違うが、ほぼ同じ背丈のアイトエルと並んでいるのを見ると……血縁の遠い姉妹のように見えなくもない。

 

 

「どうもお久し振りです、ブリース殿(どの)

「……あぁベイリル、わたしの感覚で言えばさほどでもないのだがな」

 

 勝手知ったる俺と青竜ブリースの仲に、アイトエルが怪訝(けげん)な表情を浮かべる。

 

「んっ、ベイリルはブリースとも知り合いだったのか」

 

「知り合いどころか、関わった時間だけで言えば七色竜の方々(かたがた)の誰よりも長いです」

「"異文化交流"、というやつだ。ベイリルが人類文明のあれこれを持ってきて、わたしは創った氷像などを交換していた」

「恐ろしいまでの透明度を誇る芸術的な造形の"溶けない氷像"は、とても評判でした」

 

 厳密には絶対溶けないわけではないが、適切な保管をすれば常温でも100年以上は軽く()つと判定されたほどのシロモノ。

 

「定期的にかれこれ、半世紀以上の交易です。魔力災禍以降は色々と難しくなり、しばし休止という形を取っていましたが――思わぬ再会の仕方になりました」

 

 

「あぁまったく、アイトエル(このおんな)には昔から振り回されっぱなしだ。なぁ? イェーリッツ」

「……そうだな、ブリース。我らをこうも簡単に扱うのは――頂竜以外には無かった」

「ククッ、一応血は混じっておるからのう。それを(かさ)に着た覚えは一度としてないが、昔馴染みとして刺激(・・)を提供してやっているのじゃ」

 

「ヒトそれをありがた迷惑と言うのではないのか」

「よくそんな格言を知っておるな、イェーリッツよ」

一時(いっとき)、おまえと(イシュト)と組んでいた時が一番面倒だった。わたしが静かに暮らしていてもズケズケと」

 

 空間転移と光速移動、圧倒的な世界最速を体現する自由奔放な人竜コンビ。

 

 

「あぁ……」

「あぁ――とはなんじゃベイリル、あぁ……とは!?」

 

「いやぁその、想像がつくなぁ――と」

 

 言いながら俺は腹の底からの笑うのだった。

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