異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「ふゥ……──」
双方ともに勝てるとも限らないし、勝てたとしても無傷では済まないと考えているに違いない。
「ダメだよー、アイトエル。ちょっとした合図みたいになっちゃうから」
「はい、すみません。でも──」
刹那、俺は動く。直前のやり取りから、既に手の内。
一歩。
地を蹴った左足から流れるように、右足が大地を踏み込むよりも速く。
意識の
刹那の内に縮まった間合い──ケイルヴの鎖骨を殴り砕くような勢いで、襟元を掴んでいた。
「ぐっふゥぉアっ!!」
アイトエルの小さな体躯から繰り出される──相手の反射を利用し、重心を崩しての──"
衝撃によって肺が空っぽになったケイルヴの喉元へと、
「うっそぉ!?」
「なんっだ──!?」
イシュトとブランケルも思考がまったく追いついていないようだった。
それもむべなるかな。まるでコマ落ちしたかのように、時間が吹っ飛んだように感じたはずだ。
その場にいる臨界点に達しそうだった全員の意識を誘導し、自身は無意識の中の意識という矛盾し融合させた状態で、"無拍子"で繋げた一撃。
「魔法はもちろん、下手な動きを見せればこのまま喉を潰します」
元の肉体であるハーフエルフの強化感覚には到底及ばない、"天眼"には遥かに届かない。
されど積み上げた技術は、確かに俺の
(なにこれっ、すごい!)
『せっかくだから今の感覚も覚えておいてくれよ。切羽詰まった状況での成功ってのは、なかなか恵まれるものじゃない』
(うん、うん……わかった)
俺はアイトエルへの講義の意味を含めて、講釈を垂れることにする。
「情動、気合、信念、見識、尊厳、明媚さ、斬新さ、そして何よりも……技術が足りません」
「なァ……は、がっ──」
「
膝の下で
高まった魔力もナリを潜め、突然のダメージでもって集中する余裕を与えない。どんな魔法も発動させなければ効果はない。
「弱いからこそ磨くのです、
武術もまた"文化"の一つ、テクノロジーと同じく弛《たゆ》まぬ積算の成果である。
極々単純な理合、当たり前と思える
あるいはその道の革新者たる人間が辿り着いた境地、曖昧漠然としていた概念を明確にしたものであったりする。
技一つ、動き一つ一つが──"未知"となり、初見殺しとなりうる。
そうした技術的なことを、原初神話の時代に求めるというのは
「かよわい少女と思って油断しましたよね? 眼中から、意識の外から消えてましたよね?」
いずれ
魔法を満足に使うどころか、暴走・変異し魔族と呼ばれるようになり、枯渇によって人族として弱体化してしまう。
それは確かに一つの視点で見れば衰退でありが、進化と退化はあくまで表裏一体、単なる一態様の変化に過ぎない。
「私が息を吐いて存在を示しても、また
竜種を追い出した
しかして代わりに、多くのものを得てきたのもまた……確かな事実。
それこそが、大いなる創意工夫──弱き者が必死に生き残る為に学び、受け継いできた知恵の木の実であり、叡智という名の巨人に他ならない。
進化とは"歩みを止めない"ことに精髄があり、数千年という継承と積算によって支えられてきた"術理"。
「白竜と黒竜に対峙していたのですから……戦力分析を見誤るのも無理からぬこと。でもそれこそが罠です」
戦略・戦術・戦法。
「まともに
幾度となく死線を潜り抜けながら高度な駆け引きに慣れ親しんだ者と、パワープレイで押し通してきた者との埋めがたき差。
「人も竜も、学習することこそが
ケイルヴは抑えつけられたまま、歯噛みしつつ1度だけ
どうやらこちらが意図するところは察してもらえたようであった。
「よろしいでしょうか? イシュトさん、ブランケルさん。ここは"
「ふふふっ、言うね~アイトエル、つよいね~アイトエル。わたしは異存なし!」
「おれも構わん。そのまま潰してしまえ、という気持ちもなくはないがな……しかしそれでは同じことを繰り返すだけだ。そう、
「重ね重ね失礼しました、ケイルヴ様。ですがお忘れなきようお願いします。これは温情でも慈悲でもなく、同じ学ぶことができる者同士の"交渉"であったと」
「ッ──ごふっ、ああ……承知している」
「アスタート様の伝言をお聞き届けくださったこと、改めて私から感謝いたします。しかしかつての主人は、既に
「……!? そう、か──」
「残された私はこちらのお二人と
「それは本心か? ヒトが、竜と?」
「本心です」
そう言ってケイルヴと
あらゆる人型種の祖先である
「フンッ」
不満はまだあるようだが、ケイルヴは特段の
「イシュトさん、ブランケルさん、私たちも行きましょう」
「よーっし」
「ああ」
ケイルヴにも
◇
かなりの速度で走っているというのに、まるで疲れ知らずのように。
(なんか、すごいね? 私の体じゃないみたい)
『人間は修練をしないと無駄な動きだらけだからな。極限まで最適化した時に、いつかさっきのような芸当もできるようになるさ』
(そっか……うん、そうか)
「ねーアイトエル」
先導するイシュトが後ろ向きに駆けながら、こちらを覗いてくる。
「正直アイトエルってばさぁ、ナニモノなんー?」
「……知りたいですか?」
「乗らなくていいぞ。イシュトのは何も考えていない、興味本位を答える必要などない」
ブランケルの言葉に、イシュトは口唇を
「失敬だなー」
「はははっ」
(ベイリルのこと、言っていいの?)
『理解してもらうにも時間掛かるだろうし、段階を踏んで判断していく感じでいいと思う』
(わかった)
『まっ
(いつかは……いなくなるの?)
『あぁだが、二度と会えなくなるわけじゃない。また時の流れの中で何度か交差する、その時はまた色々と頼むことになると思う』
(うん、じゃっそれまではよろしく──)
「──実は秘密はあるんです。ただ話が少し複雑なので、イシュトさんとブランケルさんと親交を深めながらおいおい語る日もくると思います」
ベイリルが
「ん? そっかぁ! 楽しみにしておこー」
「……話したくなったら話せ、いつでも聞く耳は持ってやる」
私を助けてくれた謎の協力者"
アスタートを喪失した直後に繋がった不思議な