異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#451 無二の英傑

 

 ──歴史の大河の流れに逆らわずに泳ぎながら、俺は"紫竜"と三代神王ディアマを()た。

 対黒竜との経験を経ていたからか……ディアマの"永劫魔剣"によって、紫竜を隔離すべく大陸はきっかり斬断される。

 

 そうして大陸から切り離された土地は新たに極東として、またその地に降り立った転生者達によって違う文化を歩んでいくことになる。

 

 またその際の負荷によって永劫魔剣は破損し、本来の3つのパーツへと分かたれた。

 内一つである増幅器(つか)は海へと落ち海魔獣オルアテクの体内に。

 残りの二つもディアマの手から離れ、行方が不明となった。

 

 

 さらに時間を進め、俺はディアマの退位を見届ける。

 その頃には既に神族は疲弊し、大きく衰退し、その数を減じていた。

 

 一方で人族は膨大に数を増やし、ディアマによって押し込まれた魔族も再び隆盛を極めつつあった。

 

 後年に生まれた身でありながら、魔法が使えるという稀有な資質を持っていたことで四代神王となったフーラー。

 彼は人族と魔族の管理をやめ、"神都"が存在する最北端の山脈新たに【神領】と定め、残った同族を連れて引き籠もった。

 

 

 それから数百年、神族の手による秩序がなくなった地上の時代を見届けていく。

 

 "青い髪の魔王"、"雷鳴の勇者"、"大いなる情愛の伝道者"、"無踏の練金士"、"護剣聖"、"闇より出でて歩む者"、"底無き欲の巡礼"、"狂策謀士"──

 騎獣民族の祖たる"獣神"といった数多くの抜きん出た者達が存在し、人民や情勢に影響を与えた。

 

 そんな中で、魔領全域を統一した"大魔王"が現れてから……大陸の歴史が最も大きく変遷する。

 "地図なき時代"と呼ばれる、人族にとって第二の暗黒時代──あるいは魔族にとっても、それは同じであったと言えよう。

 

 

 人族の中から"英傑"と呼ばれる(ちから)を持った10人の頂人達と、それに準ずる英雄や勇者、また国軍。

 対するは大魔王を筆頭とし、凶悪な幹部連を(よう)する統一魔領軍。

 またどちらにも属さない魔人や魔獣をも巻き込み、大陸全土を舞台にした大戦乱が各地で勃発・継続した。

 

 地形は常に変化し続け、あらゆる社会が滅んでは糾合し、新たな共同体が作られ、また血で血を洗う骨肉の争いに身を投じていく。

 遅々(ちち)としながらも築き上げられた文明が……一度完全に破壊されたと思えるほどの戦火にして戦禍。

 

 さらには散逸していた魔法具が各所で使われ、あるいは奪い合い、陣営を問わず利用された。

 

 【神領】は魔王具"意志ありき天鈴(あしたてんきになぁれ)"によって不可侵の土地として、唯一その安寧(あんねい)(たも)った。

 また海魔獣が棲息していた外海を挟み、紫竜の毒によって土地の一部が侵蝕されていた【極東】も、影響は少なく済んだ。

 

 

 数多くの魔人や魔獣が討伐され、大魔王や魔族幹部連は打ち倒され、十英傑らもまた死亡ないし戦線離脱を余儀なくされた。

 使われた魔法具は所在が不明となり、人族も魔族も戦乱に疲弊した頃……新たな脅威が現れる。

 

 それまでの魔獣とは比較にならない、それまで休眠していた正真の怪物──極大災害"ワーム"の目覚めである。

 

 地図を作っても無意味なほどの大戦乱にあって、ワームもまた単独で地形を……星を喰らった。

 山脈があった場所は"巨大な穴"となり、地中の通り(みち)から大量の水が流れ込んで"ワーム湖"となった。

 

 皮肉にも人族と魔族はそうなってようやく──互いの首に突き出していた(ほこ)()め──刃を(おさ)めるでなく、協力してワームへと向けざるをえなくなった。

 

 しかし(ちから)ある者達が軒並みいなくなった中で、ワームに対抗するのは至難を(きわ)めた。

 

 

 そんな新たな節目の時代で、俺はワームを遠く眺めるアイトエルへと合流する。

 

『よっアイトエル、倒せると思うか?』

(んむ、ベイリル──今度は倒してしまって構わんのか? 以前に白・黄・青と共に迎撃した折には、おんしが撃退で留めるよういきなり憑依してきたんじゃったか)

 

 二台神王グラーフの(ちから)が衰えはじめ、三代神王ディアマが即位するより前の時代にワームが出現した際。

 アイトエルは白竜(イシュト)黄竜(イェーリッツ)青竜(ブリース)に協力させ、ワーム討伐に当たったことがあった。

 それを(はた)から眺めていた俺は、慌てて止めに入った経緯がある。

 

 

『あの時点でワームが倒されてたら未来が変わりすぎて困るところだったから』

(んむ。で、倒せるかどうかじゃが……(わし)単独では難しいが、おんしの魔術なら仕留められるのかの?)

『実はやってやれないこともない。大きさは違うが……遠い未来では、俺とアイトエルで協力して滅ぼしている』

 

 魔術を減衰される黒竜には(とお)らないであろう原子レベルで滅却する"天の魔術"が、ワーム相手にならば(つう)じるのは実証済み。

 

(なんともはや……未来でか。ではまた肉体(からだ)を貸すか?)

『いや、あれは討伐しない』

(なんじゃと? ではどうするつもりよ、あの惨状を(わし)に黙って見届けろと言うんかい)

 

『大丈夫──な、はずなんだ。俺の知る未来が変わっていなければ、あれを止める次代の"英傑"が現れる』

 

(おんしもちょこちょこ介入しているからのう。変わらないように努めた結果、色々と変わっとるんじゃないか)

『それは……否定できないのがキツいが』

 

 

「どれ、魔力に余裕があるわけではないが……使ってみっかい」

 

 アイトエルは心中ではなく口に出しながら、片眼鏡(モノクル)を左目へと掛ける。

 

『"心理の瞳(すべておみとおしだ)"か、ディアマから譲り受けていたのか』

(おんしも知らんことがあるんじゃな)

『全てを観測しているほどの余裕はないからな』

 

 後々に魔力が足りなくなったでは困るので、たとえば極東方面の観測などは控えているし、大陸でも歴史的な要所だけである。

 

「なるほどのう、さて──」

 

 魔力が込められたレンズを越しに、アイトエルの視点を借りた俺もワームの周囲とその体内をも見通す。

 

 

いた(BINGO)

(姿を見ないのは……既に中で戦っていたというわけか、しかも孤軍とはやりおる)

『あぁ、ただ衰弱してるみたいだな……ここで俺は"貸しを作る"ってわけか、得心がいった』

(よくわからんが、未来が想定通りであるならば良き)

 

 アイトエルは俺ごと空間転移を発動させ、一瞬にして"英傑となる前の男"のもとまで跳んだ。

 

「──んなぁっ!?」

 

 突如として現れた童女に対し、男は驚愕の顔を浮かべる。

 

 

「たった一人で気張っておるようじゃのう、しかしぼちぼち限界か?」

「だ……誰だ、アンタ」

「我が名はアイトエル、通りすがりのお節介屋サンじゃ」

暢気(のんき)な、ここがどこか理解して言っているようには思えん」

 

 アイトエルは「はっはっは」と笑いながら、懐中(ふところ)より保存食を取り出し、無理やり男の口へと詰め込んだ。

 

「むぐっ……が」

「意気や良し。ほれ、とっとと噛め。とある魔獣の燻製肉じゃ、精がつくぞ」

「うっ、マズ──素材は良さそうなのに、もうちょっと味付けってもんが……」

「文句を言うでない。見ていられん疲弊っぷりなんじゃから、ひとまず体力を多少なりと戻せぃ」

 

 アイトエルはさらに水の入った筒を渡すと、男は渋々といった様子で受け取る。

 状況が状況なだけにそれ以上の文句は言わず、あまり咀嚼(そしゃく)しないまま胃に流し込んでいった。

 

 

(ベイリル、話したいのならば肉体(からだ)を貸すか?)

『……いや、ここはアイトエルの言葉でいい。内容は伝える──』

 

「さて、()()()()()や」

「なにっ!? オレの名をなぜ……」

 

(わし)はおんしのことなんぞ知らん。じゃが(ささや)いてくるんじゃよ、"第三視点"さんがな」

「はぁああ?」

 

「妖精とでも思え。そやつの頼みでわざわざ、こんなワームの中にまでおんしを助けにきたんじゃからな、感謝せぃよ」

「オレにはあんたが狂人か否か判断はつかない。だが空腹から助けてもらった事実だけは、素直に感謝する」

「なぁにが素直にじゃ、まったく──」

 

 

 アイトエルは第三視点(おれ)が囁くままに、預けておいた魔法具"虹の染色(わたしいろそめあげて)"をカエジウスへと手渡した。

 

「なんだ……これは──」

「第三視点の所有する魔法具よ」

「魔法具!? これが……?」

 

 カエジウスはまじまじと、その腰帯(ベルト)を見つめる。

 

「魔力には、肉眼では見えない()があってな。その魔法具は違う色の魔力を、おんしの魔力色に合わせられるシロモノじゃ。感覚は自分で掴め」

「オレにそんな貴重なモノをくれるってのか」

「さしあたって譲渡しても構わんらしいが……"貸与"という形にしておく、"いつか返してもらう日"が来るらしいぞ」

 

 半身半疑のままカエジウスはベルトを巻き、魔法具を発動させる。

 

 

「さっこれでおんしの魔導(・・)で、このワームを討ち果たせるじゃろ?」

「オレの……魔導のことまで、知っているのか。誰にも話したことなく、誰に知られるわけもない。見せた相手は例外なく命を奪ってきたというのに」

 

 カエジウスはそう言ってアイトエルの肩を掴むも、飄々(ひょうひょう)とした態度は崩さないままあっけらかんと言う。

 

「なんせ"第三視点"さんの言うことじゃ。(わし)も何千年とそれに助けられてきた」

「オイオイ、あんた何歳(いくつ)なんだよ」

「無礼者、女性に年齢(とし)を聞くでない」

 

「……チッ、まあいい。」

 

「決して()を忘れるでないぞ。それと返す日まで死なず、生き続けよ。今のところそれくらいじゃ、不足があれば手伝うが?」

魔法具(コレ)を世話してくれただけで十分だ。あとは……一人でできそうだ」

 

 ニッとアイトエルは笑って、カエジウスの背中をパンッと叩く。

 

 

「そうそう第三視点"から最後の一言──"迷宮(ダンジョン)"を楽しみにしているとのことじゃ」

「ぁあ……?」

「ではの」

 

 俺の言葉を伝え切ったアイトエルは再び転移にて外へと脱出し、カエジウスの眼前から消え失せる。

 

 ──しばし(のち)、ワームはその動きを完全に停止し……カエジウスは単独討伐の功績によって"英傑"と(たた)えられるのであった。

 

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