異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#453 燃ゆる足跡 II

 

 

「父なる天空(そら)、母なる大地──我が御手(みて)()せし恩寵(めぐみ)があらんことを」

 

 荒野だったはずの土地に、木々が生い茂っていく。

 それは"闊歩する大森林"の二つ名を持つ、ヴァナディスの手によるものだった。

 

 

(植物も動物ほどではないが魔力が宿る、つまりその魔力色を塗り潰すには魔術ではなく魔導(・・)がいる)

 

 植物も生きている。

 その生長を急激に促進させるというのは、ある種において生命を操る行為であり、勝手な解釈ではあるが準魔法の領域とも言えよう。

 並々ならぬ渇望、技量と才能、そして魔力量が必要な領域。その希少度は爆属魔術や、雷属魔術も比較にならないほど。

 

(ざっとではあるが、創生神話の時代より歴史を()てきた俺でも……"木属魔導"は──)

 

 眼前で木々を創りだしているヴァナディスが1人。

 それよりも以前、"青い髪の魔王"の配下に魔領の奇怪植物を専門に操る男がいた。

 最後に俺が生まれた時代よりも後に英傑となりし、"恵む信徒"リオスタ。自然を愛し、自然に愛され、自然に殉じた女性。

 

 わずかに3人しか存在を確認していない。

 

 

 無造作に形作られていく森の一部が、自然発火によって燃え出し、灰となっていくと共に白黒いり混じった煙が立ち昇っていく。

 

「愚かなヒトの子ら、身をもって学びを知るがいい」

 

 ただそこにいるだけで膨大な熱量を保有する赤竜フラッドの、絶対支配領域とも言えるエリア。

 

(七色竜の強度はもはや考えるまでもないな……)

 

 魔獣を歯牙に掛けず、かつては神族の魔法にすら抗しえた地上最強の存在。

 黄竜の雷霆。白竜の光輝。黒竜の闇黒。緑竜の豪嵐。青竜の氷雪。紫竜の病毒。

 

 そして大きく肺に空気を溜めた赤竜フラッドの口から、"炎熱"の吐息(ブレス)が放たれる。

 純然にして圧倒的な火力をもってすれば、あるいは王国軍が一撃で薙ぎ払われて全滅させることも容易かったに違いない。

 

 しかしさすがに加減しているようで、軍の手前の大地を横一閃に──巨大な火柱が上がった。

 否、もはやそれは大炎の壁とも言うべき赤色で、溶解した大地はマグマとなって王国軍はそれ以上前へと進めなくなってしまう。

 

 

 続いて王国軍の頭上の空間で爆発が起き、大気の急激な振動に伴う音と衝撃波とが地上へと降り注ぐ。

 それは直接的な被害を与えるほどではなかったものの、軍団を恐れ(おのの)かせるには十分すぎた。

 

(爆属魔術は、初代レーヴェンタールであるローレンツから連綿と受け継がれてったんだな……)

 

 印を結ぶような動作と詠唱で、暴発しないようしっかりとコントロールしているような印象を受ける。

 それが継承されていく中で、闘争の動きの中で発動が完結するよう洗練されていったのだろう。

 

「犠牲はなるべく出したくない、これで撤退してくれればいいですが」

 

(……この初代から、"戦帝"バルドゥルみたいなのを輩出するまでになるのか)

 

 扱いの難しい爆属魔術の冴えが美事なものだが、気性は控えめで肉体強度は一般人に毛が生えた程度だろう。

 

 それがアレクシスにヴァルター、モーリッツもといモライヴ。

 さらに落とし子であるとカミングアウトしたロスタン他が生まれるとは……。

 遺伝的多様性、さらに配合血統(サラブレッド)な定向進化による面白さと言えよう。

 

(まぁ好色英雄な面があるのは、この頃からっぽいけど……)

 

 

 そんなことを思っていると大炎壁をすり抜ける形で、"半人半獣"が現れる。

 炎を(まと)った男は咆哮してから、ゆっくりと歩くたびに"燃ゆる足跡"が大地に刻まれていく。

 

「おいらたちは……あんたらがした仕打ちを忘れない」

 

 アルヴァインはゆっくりと演説するような口調でもって、王国軍へと語り掛ける。

 

「本当は同じことを仕返して、なんならそれ以上の痛みを味わわせたい──けど(ゆる)す」

 

 すると一人の馬に乗った前線指揮官と思しき人物が声を上げた。

 

「は……反乱奴隷どもが何をのたまうか──!!」

「忘れたいんだよ、()()()()()って言ってんだ……だからもう放っておいてほしい。それでもあんたらが許せないと言うんなら、おいらたちも赦すのをやめる」

 

 それは主張であり願い。

 無駄な争いをしたくないというアルヴァインの悲痛な想いが込められているようだった。

 

「おまえたちはいつだって奴隷や下級民を盾としてきたのに、それが今ここにはいない。おいらたちが連れてったのもあるけど、強行軍だったんだろう? つまり焼け死ぬのは自分自身ってことだ」

 

 

 そう警告であり恫喝(どうかつ)をすると同時に、半獣だったアルヴァインは一息に巨大な雄鹿へと変貌する。

 

(理性を喪失しない完全獣化──まっそれくらいは当然のように身につけているか)

 

 獣人族の奥義とも言っていい"獣身変化"、肉体変異を伴った先祖帰り。

 半端なものが使えばそのまま獣と成り果ててしまうもので、俺が生きた時代で知る限り完璧な形で使えたのは騎獣民族のバルゥとバリスだけだった。

 

「ひっ……あ──」

 

 "赤竜の加護"である炎熱を足すことで──さながら大いなる炎の化身のような幻想的な"炎鹿"として──神威とも言うべき圧力を示す。

 さらに振り上げた前足が大地を踏み鳴らすと同時に大咆哮、大炎がその周囲に膨れ上がったのだった。

 

 ともすれば前線指揮官を含めて多くが落馬し、恐慌状態に陥ったまま逃散していくしかなかった。

 

 さらに逃げた馬をフラッドが威圧し大人しくさせ、ヴァナディスが拠点へと誘導していく手際(てぎわ)まで見せられてあっさりと終結してしまった。

 

 

(いずれ改めて討伐軍が再編されるにしても……少なくとも今は相対してなお、戦わずして勝利した。これが"燃ゆる足跡"か)

 

 その頃には、彼らはさらに数を増やして地盤をより強固にしていることだろう。

 

(恨むべきは個人ではなく、社会体制そのもの──変えることが難しいから、新たに国家を作り上げていく。凄い、な……)

 

 罪を憎んで人を憎まず。

 どれほど(しいた)げられていようと憎悪を飲み込み、未来だけを見て前へと進む。

 あの赤竜すらも説き伏せ、加護を得た上に直接協力まで結び付けた人格は伊達ではない。

 

 第三視点(おれ)はその高潔な道行(みちゆき)――偉大な英傑の燃え盛る足跡を見続けるのだった。

 

 

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