異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#37 冒険者組合

 

 冒険者組合(ギルド)の正面扉から中へ入ると、その1階は広いホール構造をしていて、()()()()は奥の受付まで歩いていく。

 左右には大型の掲示板があり、その周囲には待機・飲食用の机と椅子がいくつか置かれている。

 

「こんにちは、学苑生の方々(かたがた)ですね。説明は後でおこないますので、先にこちらでご登録をさせていただきます」

 

 受付の獣人族の女性は、こちらがそれぞれ服に着けている校章を見てそう言った。

 

 

「よろしくお願いいたしますわ」

 

 パラスがやけに上品な仕草で礼をすると、受付は大きめの木板と、3枚ずつ獣皮紙と小さく薄い鉄板を出す。

 

「まずはお名前をお願いします。くれぐれも虚偽はお控えください」

「パラスと申します」

「カドマイアです」

「ヘリオ」

 

 オレたちが名乗ると、受付嬢はそれぞれの名前を別々の皮紙に書いていく。

 

木板(ここ)に書かれた注意書きは読めますか? 文字はどの程度書けますでしょうか」

「もちろん一言一句読めますわ。文字も公式文書をしたためられるくらいですのよ」

「僕もおおむね同じくらいです、字はそんなに綺麗ではありませんが」

「オレは形式ばった文章は苦手だ。書かれているもんは全部読める」

 

 教団時代にしっかり教え込まれているが、そういうのはジェーン(あね)が一番得意だった。

 

「皆さまお若いのにしっかり学ばれているようですね。それでは戦闘になった際の戦型を教えてください」

「剣と盾を用いた前衛、魔力強化のみで魔術は使えませんわ」

「最低限の白兵戦しかできない後衛です、地属魔術が使えます」

「火属魔術戦士だ。剣と肉弾を使った近接戦が好みだが、別に間接攻撃も問題ない」

 

 

「狩猟経験、また魔物の討伐実績はおありですか?」

「動物の狩猟経験はありますわ」

「僕も」

「オレは野生動物や、動物由来の魔物はいちいち数えてない。一番大きな獲物は……直近だと陸竜か」

 

 実際は4人で倒したものだが、別に1人でも問題なく倒せたであろうからいちいち言わなかった。

 

「おぉ陸竜ですか、大きさはいかほどでしたか?」

「さあ? まあ正面から大口開けてあんたを簡単に丸呑みして余るくらいかな」

「ちょっとヘリオさん!?」

「なんというか、あれだ。引きますね」

 

「っんだよ、大きさなんざいちいち気にしねえっつの」

「ふふっ成体への成長途中くらいですかねえ、いずれにしても頼もしい限りです」

 

 受付嬢は慣れたものなのか、特に気にした風もなく続ける。

 

「生存技術、何らかの踏破実績などがあれば教えてください」

「淑女の(たしな)みていどですわ」

「お嬢、それじゃわかりませんて……。僕たちは素人に毛が生えた程度と思ってください」

「一通りは教わっている。身一つで放り出されても、問題なく生きられる」

 

 ──それからもいくつか質問にオレたちは答えていき、受付嬢は皮紙と薄鉄板を裏へと持っていき、また戻ってくる。

 

 

「はいそれでは皆さまの素性と分野を刻んでいる間に、簡単なご説明を──まず冒険者には等級が大まかに5つに分けられ、下から石・鉄・銅・銀・金となっております。

 依頼は基本的に達成報酬となりますが、依頼主次第で何かしら援助がある場合もございます。基本的には早いもの勝ちですが、採集物であればギルド側で買い取っているものもございます。

 等級や実績に応じて紹介できる特別な依頼、あるいは指名制度などもありますので、是非ともお励みください。自由依頼と賞金首は左右の掲示板にて、適時更新されます」

 

 受付はもう何度となく説明してきたのだろう。

 流れるように冒険者組合の取るべき行動や規約、また違反した場合にどうなるかなどを付け加えてさらに説明していく。

 およそ底辺から冒険者になるような人間であれば、間違いなく覚えられないであろう。

 

(まあそういう相手にはそういう説明をするんだろう……オレたちが既にある程度の教養があると知った上でか)

 

 

「──さしあたって以上になります。内容を振り返りたい、もっと細かく知りたい場合はお申し付けください。冒険者組合細則(ギルドブック)をこの場でお読みいただけます」

『いやもう十分に聞いた(けっこうですわ)

 

 オレとパラスが同時にそう返し、受付嬢はにっこりと笑って(うなず)いた。

 

「それと二階では"使いツバメ"を利用でき、学苑生価格でご提供できます。もし必要であれば代筆などもやっていますので是非(ぜひ)

 

 受付嬢がそう言い終えると、丁度よく背後の扉が開き、薄鉄板(タグプレート)が3枚乗せられた丸盆が出てくる。

 

「これは"魔鋼"で作られた"魔術具"です。組合(ギルド)で作られ、素性が組合(ギルド)に登録され、所有者が本人であることを証明します。最初に魔力を(とお)した人間に反応しますので、お間違えなきよう──」

 

 鉄のプレートにはそれぞれの名前と、等級を含めた冒険者としての情報が刻まれているのだった。

 説明された通りに魔力を流してみると……刻印された文字だけがきっかり浮かびあがって固定されたのだった。

 

 

「おつかれさまでした、これで登録は完了です。学苑生の(かた)が依頼達成の暁には、別途で達成証をお渡しします。それでは早速ですが三人でパーティを組まれますか?」

いや組まない(もちろんですわ)

 

 またもオレとパラスの声が重なって……数秒ほと沈黙が支配する。

 

「ヘリオさん……もういい加減、観念したらいかがです?」

寄生(・・)されるのは御免こうむる」

「たしかに先刻のやり取りからするとヘリオくん、きみのほうが強いかも知れませんが……実力を見ずに、そう切り捨てられるのも釈然としませんね。それにお嬢と一緒にされるのも心外です」

 

「いやっ、ちょ──カドマイア、それはないでしょう!?」

「僕の魔術はかな~り役に立ちますよ、お買い得です」

「だっりぃ……」

 

「さしあたって実績のない冒険者が受けられるのは石等級までになりますし……学苑生の皆さまの課題も難易度不問であれば、一度組んでみるのも良い勉強かと思いますよ」

「石までだと……チッ、そんなら賞金首でも狩るか」

 

 

「はっはっは、やめとけ少年。賞金首ってのは居場所を見つけるのも一苦労だし、拠点構えてりゃ罠を張ったり徒党も組んでるもんだ」

「ァア? いきなりしゃしゃり出てきやがって、誰だァてめぇ……」

 

 いきなり割って入るように現れたのは、赤黒い髪の毛を後ろに撫で付けた、なにやら右の瞳だけが虹色に輝く──弓矢を背負った男。

 

「ぷっはは、誰だ? だってぇあはははははっ! 兄貴ってば言われてやんの」

 

 その後ろには同じ赤黒い色した髪を腰上ほどまで伸ばし、男とは逆に左の瞳だけが虹色に輝く──双剣を腰に携える女だった。

 

「あーーーもう親切心出して損したわ、好きにしろ」

「大体さぁ利口ぶっても、あたしらも人のこと言えるほど大人じゃないじゃんか」

 

 どちらも身体的特徴の見られない人族で、背丈からして年上には見えるが精々が5~6年ほどの差だろう。

 

 

「へいへい、おれたちもまだまだですよ~っと──あっお姉さん、どう今晩(・・)あたり?」

「そうですねえ、二週間くらいはお互いを知りたいところですかね?」

「よしきた」

 

「兄貴ィ……んな余裕(じかん)ないってば。はいとりあえずコレ依頼票三つと、素材の受取確認票が五つね」

「はい、確認いたします──ああ、オズマさまとイーリスさまでしたか。"使いツバメ"であらかじめ承っております」

 

 オズマとイーリスとやらは、手慣れた様子で清算をしていく。

 

「ところでお姉さん、"シップスクラーク商会"の依頼ある? 羽振(はぶ)りが良くて嵩張(かさば)らない採集依頼がいいな」

「採集は人気でして……漏れなく請け負われています。いちおう超過分は割安で買い取ってはくれるようですが……さしあたって狩猟任務であれば残っています」

 

 受付嬢が棚の一つから出してきた獣皮紙を二人は揃って眺め始める。

 

 

(んっ、シップスクラーク商会……? たしかそれって──)

 

 オレは脳内で引っかかった単語に、その糸を手繰り寄せる。

 野望に瞳を輝かしたベイリル(おとうと)が、ゲイル・オーラムとイロイロ動いてた時にそんな名前を聞いたような気がするも……どうにもうろ覚えだった。

 

「う~~~ん……狩猟は諸々が面倒だからなあ。特に"油脂"単価が高めで旨くなくはないんだけど、二人だとどうにも──」

「今なら処理運搬要員が空いていますので、手配いたしますか?」

「おっ、そんなら"抱き合わせ"で受けとくか。超過割安買取でも(おく)()せで先に達成してやんぜ」

 

「いいね! シップスクラーク商会はついで(・・・)でできる土地調査の追加報酬もあるから、これは割りといくかも?」

「あぁ、差し引きでも十分だ。どうせ道すがらだし」

 

 オズマとイーリスは手早く依頼内容を確認・手続きをし、掲示板からもいくつか見繕ってから2階へ続く階段を登っていった。

 

 

「──あの御二人は若くして、もう銅級としての実績を挙げてらっしゃるようですね。使いツバメを有効に活用し、道行く先々で依頼の請負と清算をしているみたいです」

「まさしく冒険者然とした、自由人って印象を受けましたわね」

 

 隙のない立ち居振る舞いからして、あの2人が口だけじゃないのはオレも理解できていた。

 仮に()り合ったとして……負けるとは口が裂けても言わないが、少なくともタダでは済むまいと。

 

「そういえば話が中断されましたけどどうします? 僕らとしても別に簡単な依頼を受ければいいだけなので……どうしてもイヤと言うのであれば」

「……いいよ、もう」

「あら、ヘリオさん。どういった心境の変化ですの?」

 

 

「弟……つっても血が繋がってないが、あいつが言っていたのを思い出しただけだ――(えにし)ってやつをな」

「つまり出会いは大切、ということですか。よいご家族をお持ちなんですのね」

「せっかくですから、こんど紹介してくださいよ」

「その内、な」

 

 ベイリルによって受けた影響。ジェーンから伝染(うつ)ってしまった面倒見の良さ。リーティアの分け隔てない人当たり。

 いろんなものが今のヘリオ(おれ)を形作っている。

 

(そもそも学苑にきたのも、人脈を拡げる為とか言ってたし。オレもちったぁ協力しねえとな──まっついてこれる限りは、多少の面倒くらい見てやるさ)

 


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