異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#465 長き同道の終わり

 

魔空(アカシッククラウド)と呼ばれる世界がある。そこは過去から未来、この世のありとあらゆる全ての事柄が記録された空間であると、7000年くらい前に聞いた」

「は? 7000年? 何を言って……」

 

 唐突な解説に呆気に取られる玉座(スローン)だったが、アイトエルは無視して話を続ける。

 

(わし)の魔導はそこに接続(アクセス)すること、本来はただそれだけのものなんじゃが──ちょっとした応用を利かすわけよ」

 

 アイトエルの魔力は血液と共に右腕へと集められ、体表面からわずかに漏出して血の紅に染まっていく。

 

「随分と長く生き続け、"誰かさん"のおかげもあって知識も得た。到底知らぬことじゃろうが情報というものは流出し、時にそれらは人体に流れ込んで負荷を掛けることがあるとな。ちなみに実体験含む」

 

 アイトエルはその場で右手を前方に、虚空へと指先を伸ばす。

 すると人差し指のほんの爪先から、情報の瀑布がアイトエルの腕に絡みついていく。

 

 

「ここらが限界か──見えぬじゃろうが、今(わし)の腕には(くだん)の情報そのものが(まと)ってある」

 

 本来なら見えるものではない。アイトエル自身にも見えてはいないだろう。

 ()えるものではないはずだが……第三視点という高次存在たる俺には、その常軌を逸した質量の塊のようなモノを共感覚で理解できていた。

 

 "情報"そのものにもエネルギーがあるという話は、前世で目にしたことがある。

 例えば文字情報からでもエネルギーを取り出せるという理論であり、アカシッククラウドが過去から未来まであらゆる情報が記録されている空間であるならば……。

 

「まんまじゃが魔空の腕(アカシック・アーム)と名付けた、これに()れればどうなるか」

 

『世界から存在そのものが分解され、消失する──」

(ベイリル、正解)

 

 本能的に悟っていた。

 それは原子レベルで滅却し、素粒子にまでバラバラにするというものですらない。

 物理的なものではなく、概念そのものがこの世から完全に喪失するということを意味することを。

 

 

『──なんか第三視点(おれ)すらも殺しきれね?』

(どうかのう……消し去るさせるというよりは、ある意味アカシッククラウドに送る(・・)ようなもんじゃし)

 

 アイトエルは右腕を掲げると、情報の奔流がさながら翼のように広がる錯覚を覚える。

 

「世界のほんっっっの一端に溺れながら、完全消滅するがよい」

 

 振るわれる右手が玉座(スローン)を包み込み──まるで最初からいなかったかと思えてしまうほど──有機物も無機物も一切合切が消えて失せたのだった。

 

 

「ふむ……存外上手くいったものよ。もっとも全身は負荷でボロボロ、特に右腕はしばらく使い物になりそうにもないが」

『無茶しすぎだ』

「なに、脚本家(ドラマメイカー)を殺すくらいの余力は残っておるから安心せい」

『そういうこっちゃないことくらい──』

「わかっとるわかっとる。ベイリルおんしがいるから、少しだけ背伸びしたくなっただけよ。反動もきついことが身に()みたしのう」

 

 笑いながらアイトエルは、あらためて倒れ伏している本来の標的の前に立った。 

 

「なんと──」

『んん……?」

「し、死んでおる……」

『えっまじか』

 

「どうやら爆発の余波に巻き込まれたようじゃな、脇腹(ここ)に破片が刺さって失血しておる。随分と脆弱者(よわきもん)よ」

 

 あっさりと、実に簡単に脚本家(ドラマメイカー)は死んでしまっていた。

 

 

「不服か? やり直す(・・・・)か?」

『……いや、いいさ。たとえば拷問して苦しめたところで、大して溜飲が下がるとも思わない。直接聞きたいこともなくはなかったが──所詮は感傷に過ぎなかったし』

 

 血と炎の惨劇の理由についても、結社の動向を追ったことで理由は判明している。

 "生命研究所(ラボラトリ)"が亜人の被検体を欲しがったのが発端であり、そこに母ヴェリリアという亜人特区に通じる(コマ)があった。

 さらにはアンブラティ結社内の様々な利益が交錯し、大規模襲撃にまで発展したというのが真相。

 

(おんしが良いのであれば構わんがの──しかし難じゃな、喋るのもいささかきついのう)

『……やり直そうか?』

 

 

 笑いながら俺は語りかけると、アイトエルも心中でつられて笑う。

 

(ぬっはははは! このダメージは勉強代じゃ。勝手にやったことだし、わざわざ過去に戻って止める必要もない)

『まっ正直なところ、もう空間軸にしても時間軸にしてもあまり好き放題に行き来するほどの余裕はないんだけどな』

「それは知らなんだ。(わし)の手を(わずら)わせるも最後、というのも……つまりそういうことかい」

 

『あぁ、未来の"大空隙"で充填した第三視点(まほう)用の魔力も底が見えてきた──』

 

 一応は保険用となる分くらいは確保をしているものの……心の安寧の為にも使うことはないと願いたい。

 

 

『だからやり直せはしないが、ただもう一回肉体を借り受けて痛苦を肩代わりくらいはできるぞ』

(じゃから気遣いは()らんと言うに)

 

『わかっているよ。まぁ死体を腐らないよう凍らせておくのと……この場の後始末をシールフと財団に任せる為に一筆、使いツバメで送る必要があるからな』

「なるほど、凍らせる魔術ばかりはどうしようもないな」

『あぁそれと、仲介人(メディエーター)への連絡用の芳香薬も後々(のちのち)の為に確保しておかないと』

「では代わろうかの──」

 

 こうして俺の復讐の一つを遂げたのだった。

 

 

 

 

 亜人特区割譲(かつじょう)、"モーガニト領"──6つの柱が並べられた紋章が掲げられた伯爵屋敷にて。

 第三視点(おれ)ベイリル(おれ)と、アイトエルを介して間接的に会話していた。

 

「こやつの名は"脚本家(ドラマメイカー)"──ベイリル、フラウ……ぬしらの故郷を焼いた男じゃよ」

 

 麻袋に入れて運んだ死体を、ベイリル、フラウ、ハルミア、キャシーの前で見せる。

 過去の俺がはじめて幼少期に出会った後、アイトエルと再会しその素性を知った日。

 

「──そこらへんは二人きりで話すとするかのう、積もる話(・・・・)じゃ」

「二人だけで、ですか?」

 

 

 あの時の記憶もおぼろげではあるのだが、なんにしても俺が俺自身に対して助言をしていたと思うと……改めて時の流れとは面白いものなのだと思う。

 

「──……それでは、屋敷へ案内します」

「いやいらぬ世話じゃ、"遮音風壁"を掛けるだけでよい」

「俺の使う魔術までご存知とは」

 

(わし)はのう……ベイリル、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうそう、それと──この脚本家(ドラマメイカー)の顔は、しかと胸裏(きょうり)に刻み込んでおけ」

 

 

 

 

「"Blue(ブルー・)Whisper(ウィスパー)"とでも今は言っておこうか」

「……ッッ!? それは──」

 

 もし第三視点(Blick Winkel)と名乗ってしまえば、俺だったらすぐに察してしまうだろう。

 ゆえにBとWの頭文字はそのまま、ドイツ語から英語に。遠心分離させた()い魔力と、(ささや)くことから仮名としてつけた──のだろう。

 

「──アイトエル、貴方もその……"異世界転生者"ですか?」

(わし)生粋(きっすい)の異世界人じゃ、というのもおかしな話。なにせ本来、異邦人はおんしのほうじゃからな」

 

 必要な情報のみを渡し、あとはアイトエル自身の雑談にまかせる。

 アイトエルが語った多くの物語──その多くを第三視点(おれじしん)も体験してきたのだから感慨深い。

 

 

『それじゃ、アイトエル。しばしの別れだ』

(ん? そうか……魔力も残り少なければこそ、こっちのベイリルに()いていくわけかい)

『そのつもりだ。まぁ何かイレギュラーがあれば、頼むかも知れんが……今まで本当にありがとう』

 

(なんのなんの、こちらこそありがとうじゃ。7000年前、はじめて会った時からの恩を少しは返せたかの?)

『逆に返し切れないほどもらったよ。いつか世界を制覇したら……お釣りで世界の半分をくれてやるってもんだ』

(別にいらんなぁ……)

『くっははは、まぁいずれにしても俺から会いに行く。その時には──全てを理解していると誓う』

 

 俺が第三視点となる前……既に辿ってしまった未来になった時に、どうすべきかはアイトエルに伝えてある。

 しかしそうはならないという確信とも言える不断の意志が、俺の中で渦巻いていた。

 

(んむ! 楽しみにしておるぞ。そしてベイリル、おんしが想像する以上の"未知なる未来"というのを見せてもらうでな)

 

 

「──励み尽くし続けよ若人、後悔をせぬようにな。これは"手向け"じゃ」

 

 アイトエルはそう言うと、両手を前へと出す。今のベイリルが(うなが)されるように……左右それぞれで握った。

 

『それじゃ、またな』

(んむ、またの)

 

 手の平を通して伝えるように、第三視点(おれ)ベイリル(おれ)へと渡る。

 

「ベイリル、おんしと(わし)の魔力の色は似ている。ゆえに感じ取るのじゃ」

 

 俺が転生したことによる情報流入負荷を救う為に、アイトエルの血を輸血した際に起きた魔力の近似色。

 道を同じくし、共に過ごした7000年の旅路の終焉(おわり)

 

「おんしが取り巻く全てを理解した時に、また会おうベイリル」

 

 それは第三視点(おれ)へ向けた言葉ではなく、ベイリル(おれ)へと向けられた言葉。

 その(とき)は数百年後ではなく、ほんの数年後にしてみせる。

 

 アイトエルは手を握ったまま転移し消え──空っぽになった両手を眺めながら──これから全てを取りこぼさず、掴みとっていくことを決意させるのだった。

 

 

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