異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
"大地の愛娘"ルルーテの凄まじさを今一度再確認しつつ──白と黒を見送った。
それから"大化学者"サルヴァ・イオの加入。続いてキャシーと結ばれたこと。
パラスからのカドマイア救出の要請によって皇国へ。
"黄昏の姫巫女"フラーナの懐柔。変異してしまった神門官の殺害。
大要塞への侵入。悠遠の聖騎士ファウスティナとの戦闘。
さらには……ジェーンと共に、"至誠の聖騎士"ウルバノと話したこと。
(あぁ、やはりこの人は──戦場よりも、こうして穏やかにしている
【帝国】による【皇国】侵攻の際、"万丈"の聖騎士オピテルを追い詰めてしまい、俺を
結果として早々に伝家の宝刀の一本を失った皇国は進退
(そして……俺がこの手に掛けた)
"戦帝"や"三騎士"に殺されるよりは──と、せめて少しは
(その後、俺は"
俺が倒れたことも含めて、ジェーンは深く悲しんだに違いない。
同時に今度は──そんな思いをさせたくなかった。
"文化爆弾"作戦の為に、皇都でオルゴールを配布。
俺と同じ転生者である"スミレ"と出会い、一悶着を起こして逃亡。
改めて皇都で騒動を起こして"大聖騎士長"の手によって拘束。簡易裁判を経て、投獄が決まる。
目論見通り移送される道中、まさに"大監獄"を眼前にしたところで──ベイリルではなく、
感覚器官など存在しないのにもかかわらず、
(間違い、ない──)
虚空に穴か、裂け目か……
何も無いはずの空間が直接的に"
(理由はわからないが、ああやって局地的災害のように降り注ぐわけか)
俺自身が情報の流入という形でこちらの世界へと転生したように。
(大いに飛び飛びとはいえ、7000年も過ごしてきて初めて観測できたということは……規模・頻度としては相当少な──)
その、刹那であった。
開いていた空隙が閉じていくような感覚と同時に、流出していたエネルギーの
(んなっ、が……!? 逃げ──)
生身には影響がなくとも、精神体であり実質的な情報体とも言える
なんとか
◇
(大丈夫だ、初見の時にもできたんだから……)
情報に満ち充ちた、広さも深さもわからない
|アカシッククラウドをほんのわずかでも観測・認識してしまえば、俺の精神性など一瞬にして希釈・分解されてしまうがゆえに。
「やぁベイリル。ついさっきまで話していて別れたような気もするし……とてもとても長く会っていなかった気もする」
「どーも、"アスタート"
少なくとも俺の知る限り、歴史上最初の転生者にして神族に魔法をもたらした男。
情報生命と化した存在が俺へと語りかけてきていた。
「企図せず再びここへ来たのか、それとも自分の意思によってかな?」
「わかっているでしょう」
「そうだね、運が悪かったと言える。あの時はぼくが開けた
「まさか、もう存在しない……?」
「いや
「つまりまた7000年前に出てしまうことや、あるいはいずれかの裂け目から出られたとして……どの時代の、どの場所に出るかもわからないということですか」
アスタートは俺の答えに肯定も否定もしなかった。
俺が問題を理解しているということをわかりきった上での反応。
「ここへ迷い込んだ時点での座標に戻れなければ俺は……──」
"第三視点"で時間と空間を自由に移動するだけの魔力はとっくに足りていない。
魔空から流出するランダムな裂け目に賭けたとして──竜すらいない過去の時代に飛ぶか、もしかしたら人類が滅亡してしまったかも知れない遥か未来。
あるいはまったく別の惑星や宇宙空間に放り出されるか、下手をすると別世界だってありえる。
「近い時間と位置を引き当てるなど天文学的確率、こんな形で俺は
「随分な物言いだね、ここはある種の究極到達点であり世界のすべてそのものだと言うのに」
「百も承知です。だが俺の目的とは違う」
「うん、知っている。だからボクはここにいる」
穏やかに笑みを浮かべているアスタートに俺は
「まさか……助けてもらえ──」
「揺らいでいるようだ、取り込まれないよう気をつけて」
「あ、あぁ……」
俺は平静を保ちながら、識域の天秤の振れ幅を戻す。
「
「つまり俺自身、打開する方法を知っている……?」
「キミの記憶の中にある──アカシッククラウドへと近付ける者、あるいは偶発的に近付いたかも知れぬ者、近付こうとする者──」
「──魔導によってアクセスできるアイトエル、異空渡航実験で戻ってこなかったらしいシールフ……」
アイトエルならば確実に、この星には戻ることができる。
生還確率は比較にならないほど上がるが、しかし定期的に繋いでいる彼女の時間軸を任意に選ぶことは難しい。
シールフならば時間も場所も確定している。しかしそれは既に、
さらにはシールフ自身がどうなってしまうかもわからない。
「もっと適格な者がいるはずだ、"蜘蛛の糸"たりえる者が」
「そう、か……
神王教のグラーフ派の中でも、特に過激派と知られる連中"ヴロム派"の
そう、"大監獄"で会ったあのエセ預言者──自ら四肢を切断し、眼と喉を潰し、鼻と耳を削ぎ落とし、全身火傷まで負い、舌と片耳のみで話していた男。
あの時は不可解ながらも、単なる狂人でしかないと思っていた。
しかしその実は深奥へと……新たな高次世界への道標と、確かに成り得ていたのだ。
狂気にして凶気、ゆえにこそ辿り着いた境地。
「時間も場所も、合致する」
「見当はついたようだね、それじゃボクもお役御免だ」
「ありがとうございます」
「気にすることはない、後輩。……上手く、やるんだよ」
別れの言葉を告げるよりも早く、アスタートの姿は掻き消える。
俺はアカシッククラウドの情報群を認識しないよう素通りしながら、その腕を伸ばすのだった。