異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#468 完業者

 

 ──時空を超越した世界で、伸ばした手が1人の男を捕えて離さない。

 

『見つけたぞ』

 

 ヴロム派の長は、魔空(アカシッククラウド)に到達しているわけではない。

 ただ近いとも言えて遠いとも言える位置に、その意識だけを飛ばしてきているとでも表現すれば良いのだろうか。

 

 アカシッククラウドに漂う俺が第三視点の能力によって干渉することで、ようやく繋がることができる──そんな状況。

 

「お、おぉ……よもやあなた、いえあなたさまは──」

『神託を、与えよう』

 

 教祖を超越したヴロム派(れんちゅう)にとっての神。

 あるいは機構(システム)か、概念そのものの代弁者かのように振る舞う。

 

 

『我は大いなる意思の一欠片が混じり、形を成したもの。永劫回帰の導き手として、(なんじ)の遥か先を()く者である』

 

 グラーフ派は秩序を尊び、輪廻転生を信じるのが基本信条であるので、そこらへんを踏まえながら演じる。

 つまるところは先達。到達した者としての立場を示す。

 

「わたしの名は"完業者(かんごうしゃ)"グャーマ・バルペシテと申します」

 

 完業者(かんごうしゃ)──調査した記憶だと、ヴロム派で最も深奥に近付き、導き手となる者を言う言葉だ。

 

「あなたさまのことはなんとお呼びすればよろしいでしょうか」

『……もはや我は何者でもあり、何者でもない」

 

 それっぽい言葉を並べ立て、煙に巻くように曖昧に、判然としないまま話を進めていく。

 

 

「愚問でございました。名を捨てるのは初歩であったと言うのに」

『汝は新たな世界に近付いてはいるが、未だ遠き道行(みちゆき)にあることを心得よ。今こうして話せているのも、我から近付いているがゆえに過ぎない』

「御意に。わたしもすぐにでも全てを捨て、より高き底(・・・)到達(いた)れるよう──」

 

『否。汝にはまだ"役割"が残っている、啓示を与えよう』

「はっ……であれば、なんでもお申し付けください」

 

『神王グラーフは魔王ウィスマーヤと共に魔法具を創り上げた』

「二代神王さまと……初代魔王が、でございますか」

『これは真実、汝も到達すれば理解できる』

「未熟なれば疑念を(いだ)きしこと、お許しください」

 

 信奉する神王が魔王と結託していたことなど、にわかには信じられないことのはずだが……素直に飲み込んでくれたようだった。

 

 

『十二の魔法具、その全てが揃いし時──より多くの人々が円環()の中へと招かれる』

「それは……まこと素晴らしい。では我々の総力をもって──」

(はや)るな、それらを集めさせよ(・・・・・)

「集め、させる……」

『最も効率良く集めるには、その者の(ちから)が必要なのだ。そしてその男は既に近くにいる』

 

 そして第三視点(おれ)ベイリル(おれ)自身を紹介する。

 

『名を"グルシア"と言う。偽名ではあるが、ただ伝えれば良い』

「しかとお伝えします」

 

 

()の者は既に"剣"を手に入れている。"耳飾り"と"靴"と"鎧"は──』

 

 かつて俺自身が伝えられたことを、ヴロム派の長を通じて俺へと伝える。

 第三視点として時空を巡ってきて、12の魔王具の在り処はおおよそ把握していた。

 これでベイリル(おれ)第三視点(おれ)と同化するまでに、ある程度の準備を整えてくれる。

 

『そして最後に──"指環"については伝えなくてよい』

「かしこまりました」

『その男もある程度は既知。警戒心を煽らぬよう遠回しに伝えるのだ。そしてもし……助力を求められることがあれば、その時は協力を惜しまぬよう』

「身命を賭して、遂行いたします」

 

 

 俺は掴んでいた存在しない手を離すと、ヴロム派の長"グャーマ・バルペシテ"の精神体は地上へと戻っていく。

 その流れに追従する形で、第三視点(おれ)も元の世界へと移動しようとしたその瞬間──進行方向とは逆に発生した奔流に必死に(あらが)う。

 

(流入した情報の波か……!? 肉体という繋がりがある奴と違って、俺はお呼びじゃないわけかッよ──)

 

 精神だけの存在だが──筋肉を振り絞るように──意志を強く固める。

 このまま呑み込まれてしまえば……否、余計な思考すらも切り捨てて眼前の事態に集中する。

 

(違う、そうだ……抗うのではなく──)

 

 最初に一度経験している。だから同じ轍は踏まない。

 皮肉にも"血文字(ブラッドサイン)"が使う"透過"の魔導ように──自らを素通りさせる。

 認識が現実となるならば、認識そのものをズラす。

 

 

 その時だった。俺は一抹の郷愁に駆られたような気がして、ほんのわずかのみ意識の天秤を傾ける。

 と、同時に理解する。恐らくは……元の俺(・・・)の肉体、その繋がりが続く先。

 

「地球か……?」

 

 アカシッククラウドという高次世界においては、世界同士もあまねく接続されているということ。

 ヴロム派の長が己の肉体を通じて戻れるのであれば、俺自身も"転生前の肉体"を通じて安定した時代と場所の座標へと戻ることができることを意味する。

 

好機(チャンス)、なのか──)

 

 辿っていく繋がりを変える、それだけで俺は現代日本へと帰ることができる。

 尽くし続けた失敗を、全て夢の彼方として追いやることもできるかも知れない。

 

「いや未練は無いさ、俺の歩む道はもう決まっている。俺にとっての今世界は──俺だけの現宇宙(せかい)は……ここにある!!』

 

 咆哮し、俺は──

 

 

 

 

「──待て。勝手に終わらせやがって……お前の名は?」

『名も"洗礼"の対象だよ』

 

(無事地上へと帰還できたか……)

 

 ちょうど大監獄内で牢名主となったベイリル(おれ)と、ヴロム派の長が話していた状況のようだった。

 第三視点はそのままスムーズにベイリル(おれ)の視点と重なる。

 

『──今のわたしはヴロム派の長、それ以外の何者でもない』

 

 薄板の上に寝転がった男は、二人の教徒によって持ち上げられる。

 そして全身火傷で四肢と局部がなく、鼻と耳を削ぎ、喉と両の瞳を潰した男は……わずかにこちらを見て口角を上げる。

 

『おそらくだが……いずれまた(・・・・・)きみと(まじ)わることになるかも知れない。ただひとまずは祈らせてもらう、きみの進む道行(みちゆき)に"到達者"の祝福あらんことを──』

 

 

 

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