異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#471 無二

 

 ──帝国東、カエジウス特区──

 

 活気に溢れたワーム街、俺は最初に"黄竜の息吹亭"に立ち寄って使いツバメを出す。

 その後すぐに迷宮(ダンジョン)に併設された屋敷にて、"五英傑"の一人と俺は相対していた……忍び込む(・・・・)形で。

 

「礼儀を知らぬ若造が。よほど怒らせたいのか単なるバカか」

「申し訳ない。少々急ぎのことですので、玉座にいてくれて手間なく良かったです」

 

 "無二たる"カエジウスは溜息を吐いてから、足を組んで右腕で頬杖をつく。

 

「まあいい、貴様ら(・・・)の無礼は今に始まったことではない」

「あ~~~……フラウとキャシー達も礼を失しましたか」

 

 今現在、一度制覇したフラウとキャシーを中心として、迷宮攻略隊が潜っている。

 

 元騎獣民族から剣闘奴隷を経て、この街で巡り合った盟友、"白き流星の剣虎"バルゥ。

 帝国で正式に認めさせたワーム海の私掠船(かいぞく)団首領、"嵐の踊り子"ソディア・ナトゥール。

 シップスクラーク財団"三巨頭"全員の弟子にして、旧インメル領主であり現在はサイジック領の名義上の君主となっている"白金"プラタ・インメル。

 地方領主の跡取り娘で、類稀(たぐいまれ)な戦闘強度を誇る二刀流使い、"暁の純刃"ケイ・ボルド。

 そのボルド家の治める田舎で流行っている剣術道場の次期当主となる──予定の"誠の理刃"カッファ。

 

 7人に加えて財団が有する支援要員も適時随伴し、充分過ぎる勝算でもって正面攻略に臨んでいる。

 

 

「連中の後追いか? いや、さしずめ残していた一つの願いでも叶えにきたといったところか」

「仰る通りです、まずは願いを叶えてもらうことが一つ」

「言うがいい」

「もうすぐ帝国が割れます。その際に我らがサイジック領も軍を出します。その際にこの"特区内の通行許可"をいただきたい」

 

 不可侵の土地に軍隊を通す。

 カエジウス特区を直進することで行軍速度が速まるばかりでなく、虚を突くことができる。

 

「……わかった、いいだろう。ただし領地に害なすことがあれば──」

「無論承知の上です。しかと厳命し、お手を(わずら)わせるようなことは致しません」

 

 あっさりと願いを叶えてもらったところで──俺は一度だけ深呼吸をし──もう一つの本題へと移る。

 

 

「そういえば……ヴァルター殿下も迷宮を制覇したらしいですね」

「貴様と違ってまともに攻略をした男だ」

「耳が痛い話です」

「もっとも奴も1000人くらいの精兵を率いての大規模攻略。禁止こそしてはいないが、あまり好ましい制覇(やりかた)ではなかったがな」

 

 カエジウスはそう言うものの、実際にはそれくらいやらないといけないくらい難易度が高いのが現実である。

 

「なるほど。それで──制覇特典として群体型の魔物を契約した」

「ああ、それがなんだと言うのだ」

 

「その首に着けている魔法具"主なる呼声(わがいにこたえて)"を使って……」

 

 俺の言葉に対し、小揺るぎもしないカエジウスはただただ静かに問うてくる。

 

 

「誰から聞き及んだ?」

「"無二たる"カエジウス、他ならぬ貴方本人からです」

 

 眼光を鋭く睨み付けてくるのを、俺は真摯な双瞳で迎えつつ話を続ける。

 

「それと……その魔法具もとい魔王具が創られるその瞬間にも立ち会っていたもので」

戯言(たわごと)を──」

 

 いよいよもってカエジウスの感情が昂ぶるが、俺は機先を制するように畳み掛ける。

 はっきり言ってしまえば回りくどい事この上ないのだが、これこそ未来を既知であるゆえの愉悦であり、醍醐味(だいごみ)というものであった。

 

「魔力で上回る相手──正確には塗り潰せる相手、ですかね。に対し、強制的な契約状態に置く権能。"簒奪"の魔導という異能と相性は抜群だ」

「貴様、一体どこまで……」

「かつて病弱だったカエジウス少年は──あらゆる物を欲し、魔導師となった。そして特級災害ワームを討ち果たそうとしたが、その体内で窮したその時……通りすがりのお節介屋サンから魔法具を受け取った」

 

 

 カエジウスは腰元のベルトを触りながら、驚愕の表情を浮かべていた。

 

「あの時お貸しした魔法具、"虹の染色(わたしいろそめあげて)"を返してもらいにきました」

「……まさか貴様、いやお前があの(・・)──」

「はい、あの(・・)"第三視点"です。お久し振りと言えばいいですかね。ちなみに制覇した時にはまだ記憶を定着させてなかったので、ただのベイリルでしたのであしからず」

「とんだ再会だ」

 

 ネタばらしはあっさりと受け入れられたようで、俺の心中も色々とスッキリする。

 

「あの時は"竜越貴人"アイトエルの視点を借りて(ささや)く形でしたが、今はもう第三視点(おれ)自身として存在しています」

「しかしそうか、そうだったか……あの時は世話になった、とでも言えばよいのか」

 

「まぁ、はい。と言ってもほとんどはカエジウス殿(どの)、貴方自身の功績と言って差し支えはないでしょう」

 

 ワームを討ち倒した英傑。迷宮を作り、踏破者へ褒章を取らす。

 未来に起こる魔力災禍の折には、街を丸ごと避難所のように難民を受け入れ、守護者となって施しを与えた英傑。

 

 

「言ってくれる。いずれにせよ助かったのは事実、ここに感謝と共に返そう」

 

 カエジウスは腰帯(ベルト)を外すと俺の前に立ってあっさりと手渡し、さらに巻いた"首輪(チョーカー)"へと触れる

 

「"コレ"も必要か?」

「いえ"主なる呼声(わがいにこたえて)"は俺に使いこなせる代物(シロモノ)じゃ──」

「その虹色の染色(まほうぐ)があれば別であろう」

「……それもそうですね。"無限抱擁(はてしなくとめどなく)"がなくても、一時的な底上げくらいはできるか」

 

 "第三視点"を発現させる為に、3つの魔王具を同時使用した時の記憶を引っ張り出す。

 容量限界があるからもっぱら補充用としか考えてなかったが、負荷に耐えられている限りは無理やり貯留することもできなくもない。

 

 俺はしばらく今後のことを思案してから、可能性を提示する。

 

 

「もしかしたら、少しの間──数週間か、長くても一季くらい。貸していただく時がくるかも知れません」

「よかろう。制覇報酬によっては必要な以上、あまり長期間あずけておくのは(はばか)られるが──腰帯を何百年と借り受けていた時間と比すれば短い」

「ありがとうございます。それともう一つだけよろしいでしょうか」

「聞くだけ聞こう」

「迷宮最下層まで、往復の魔術方陣を使わせてください」

 

「──本当に第三視点とは、よくよく知っているものだ」

「ははっ、まぁ俺だけの魔法ですので。条件は色々とありますが」

 

 笑いながらベルトを腰へと巻いた俺は、懐かしさを感じ入る。

 

 

「先ほども申しましたが、色々と急ぎの事情を(かか)えてまして……。仲間を迎えにここまで戻ってくる時間が惜しい。以前と同様、貴方の信条を曲げるお願いになってしまうのですが──」

「構わん、黄竜を倒したとして制覇特典はやらんがな」

「はい、そこはもちろんです。もっとも"現象化"した本気の黄竜(イェーリッツ)さんを倒せるとは思いませんが」

 

 雷霆を司りし暴威の化身。

 海魔獣オルアテクに対しての火力程度ですら、自分に向けられたらと思うと寒気がする。

 

「──またいつか改めて、迷宮攻略にお伺いしますので」

「フンッ、好きにするがいい」

「あっ、その時はもっと難しくしてもらえると助かります。今の俺達は相当強いですから」

 

 不敵な表情を浮かべた俺に、カエジウスはあしらうように──しかして悪い気分ではなさそうに口にする。

 

「抜かしてくれるわ」

 

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