異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#473 黄の加護

 

「──先生(・・)、お願いします」

 

 ベイリルは付き人のように横へと移動すると、両腕を男へと(うやうや)しい様子で向ける。

 

「原初の竜だけが使える"人化の秘法"によって、人間(ヒト)()った"黄竜"イェーリッツさんであらせられるぞ」

「我こそが黄竜イェーリッツ。二人は久しく、二人は新顔か」

「うぉ……まじかよ」

「"獣化"とは逆に、竜が人になる、か──話には聞いたことがあったが、おもしろい」

 

 キャシーは片眉をひそませ、バルゥはニヤリと口角を上げて牙が見える。

 

 

「あっはは~そいじゃ二人で相手にしてくれるってことだ。将軍(ジェネラル)の時はベイリルに追い抜かされちゃったけど、あーしも強くなったんだぁ。もう負けないよ」

「……そうだな、フラウお前ならいずれ"英傑"も夢じゃない」

「それはいくらなんでも持ち上げすぎじゃない~?」

 

「そうでもないんだな、これが。まぁ興味深いところではあるが、俺の相手は決まっている」

 

 そう言ってベイリルが視線を移した相手──ケイ・ボルドが目をぱちくりさせる。

 

「わたしですか!? わかりました、ベイリル先輩! 胸をお借りします!!」

「どっちかと言うと俺のセリフなんだけどな……さっきの奇襲でもケイちゃんだけ逆撃(カウンター)してきて、危うくやられかけたし」

「ごめんなさい、つい反射的に」

「いやいいんだよ。無念無想の境地とはそういうものだし、こっちが不意討ちしたんだから当然だ。俺も近い技術を使えるが……ただ領域(レベル)が違うから調整したい」

 

 負けるとは言わない、しかし勝てるとも言い難い強度を誇る後輩ケイ・ボルド。

 ゲイル・オーラムやアレクシス・レーヴェンタールなども該当する"天与の越人"と言えるだろう。

 

 

「んじゃ、あーしらは黄竜相手に三人掛かりか~。"見えざる(ちから)"のフラウ、いっくよーーー」

「"雷音"のキャシー、アタシが勝ったら加護をくれ! いやください!!」

「"白き流星の剣虎"バルゥ。竜であろうと討ち果たさせてもらう」

 

「名乗りか──考えてみればはじめての体験かも知れん。"雷霆"の化身、黄竜イェーリッツ。我を認めさせてみるがいいッ!!」

 

 3人と存外ノリノリな1柱の戦場より離れ──片方は無手のまま半身に体を開き、もう一方は魔鋼剣を左右それぞれに構えて対峙する。

 

 

「それじゃこっちも始めようか。空華夢想流・征戦礼法、"空前"ベイリル・モーガニト推参(おしてまいる)

「なんかすっごい楽しいですね! それじゃ……我流、"暁の純刃"ケイ・ボルド参上です!!」

 

 

 

 

「っぐはぁ──ふゥ~……ありがとう、ケイちゃん。色々と(はかど)ったよ」

「あっ……と、はい。お役に立てたようなら何よりです。わたしも勉強させてもらいました」

 

 俺は諸手をあげて降参した状態から、手を差し出してケイと握手を交わす。

 

「でもベイリル先輩、本気は感じましたが全力じゃないですよね? それにプラタとカッファとソディアさんにそれぞれ風の防壁? か、なんかずっと張ってましたし」

「いや三人の守護に使っている魔術はさほどのものでもない。正真正銘の全力だったよ」

「わたしの剣があんなにも当たらないなんて、はじめてでした。避けるのだけは上手いカッファでも、ほぼ三斬目までに(とら)えられるのに」

 

 ケイ・ボルドと闘ったのは、自身の調整だけじゃなく昔の彼女と今の彼女を比較(・・)する意図もあった。

 そして以前にちょっと手合わせした時よりもさらに洗練されているのは、この身をもって体験し終えた。

 努力したならその分だけの伸び代がぶっ飛んでいると。

 

 

「まぁ先輩としてのささやかな尊厳(プライド)の為に、()いてイイワケ(・・・・)をさせてもらえるなら……他の戦型(スタイル)ならもうちょい勝負になったかも」

 

 あくまでも慣らしである。と、俺は一応の主張をしておく。

 

「とっても羨ましいです。わたしは愚直に同じことしかできないので……」

「一点突破で通用させてしまうのも俺は憧れるよ。まさに"究極"って感じで」

 

 俺とて白兵戦は得手とするところ。かれこれ経験(キャリア)300年以上の超武術家のはずなのに。

 

「でもでも広い場所とかで空を飛ばれたら、わたしにはどうすることもできませんから」

「まぁ俺の火力大砲も全て斬り伏せられて、千日手になりそうだが──」

 

 鉄も風も火も水も光も、あらゆる物質をさも当然の(ごと)く叩き斬ってしまう無双の剣。

 

(あるいは彼女が魔導まで修めえたならば……)

 

 時間や空間あるいはさらに概念的なものまで斬断せしめるのではないかとすら思えてくる。

 

 

「うぉぉぉォォォォッァァァアァアアアアッッ!! やったぁああああああーーーぁああ!! ありがとう! いや、ありがとうございますッ!!」

 

 そんなこんなで一戦を終えた俺は、歓喜の咆哮をあげて深く頭を下げるキャシーへと近付く。

 彼女の背中をポンッと叩きながら、同じように俺も隣で一礼をした。

 

「キャシーに与えし"黄竜の加護"、感謝しますイェーリッツさん」

「……気まぐれだ。また人間(ヒト)と繋がりを作るのも悪くない、と思っただけに過ぎない」

 

 黄竜(イェーリッツ)さんが俺の(ほう)を見ながらそう言ってくれたことに、白竜(イシュト)さんとの絆が新たな(えにし)を生んでくれたのだと嬉しくなる。

 

 

「あれ? ちょっと待てキャシー、お前もう黄髪が既に混じってる」

 

 視線を移して気付いた俺がそう言うと、キャシーは静電気で逆立(さかだ)った長い髪を()きながら自ら確認する。

 

「あっ? んーーーなんか意味あんの?」

「我が(ちから)と相性が良い、ということだ」

「ぃやった!」

 

「ずっる……」

「はあ? ベイリルもその白髪がそうなんだろ、ならアタシと変わらないじゃんか」

「これでも俺はめちゃくちゃ苦労したんだよ、ホント途方もないくらいに──」

 

 "第三視点"の魔法を発動させる為の最後の最後に、ようやく文字通りの光明を見出すことができた。

 

 

「フラウやバルゥのおっさんも貰ったらどうだ?」

「なんとなくあーしには合わなそう」

「同じく」

 

「ってかベイリルは? お前も雷っぽい魔術たまに使うじゃん」

「俺は既に"白の加護"があるから、二つ以上宿すことはできない」

「へぇ~……」

 

 理由を聞かずとも納得の表情を浮かべるキャシーはケイへと顔を向けるが、先んじて首を横に振る後輩を見て肩をすくめる。

 

「まっいいや、アタシだけのがなんか特別感あるし」

「竜の加護はまぎれもない特別(スペシャル)だ。しかも適性があるとなればなおさらな」

 

 歴史上でも数えられる程度にしかおらず、さらに今の時代であれば紫のサルヴァを含めて恐らくたった3人であろう被加護者である。

 

 

「──さて、それじゃ地上まで戻るか。庭園に直通の転送魔術方陣があって、今回は特別に使わせてもらえることになっている。本来なら迷宮内にある道具が必要らしいんだが──」

「あーーーそれならもうあるよ?」

「なにっ!?」

 

「そういやソディアの奴がぜんぶ見っけて、解読もしてたな」

「そりゃ凄い……」

「正直なところ、オレたちがこれほど早解きできたのも彼女のおかげだ」

「なんだか頭の回転がわたしたちと違う感じですよね、ソディアさん」

 

 強く打ち過ぎて未だに眠っているソディアを──人材とは本当に十人十色なのだと──俺は遠目に見つめるのだった。

 

 

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