異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
一瞬にして膨張したように強風が、まだまだ成長途上の
俺は地に足ついた状態から弾き飛ばされて、着地する際になんとか受け身を取りつつ着地する。
フラウは
「ふっふふ、ふふふふックククククク……ますます欲しくなったよ、手段を選ばずとも!!」
鼻血をダラダラ垂れ流しながら、それでも格好を付けるスィリクス。
「──いやっちょ、おわッ!?」
叫び声がした
さらにもう一人も無造作に服を掴まれて、そのまま地面へと叩き付けられる。
「しまった……いやもういい、仕方ない。二人の
「お
魔術──ご多分の例に漏れず、ファンタジー
最初に"魔法"が存在し、衰退した後に"魔術"が生まれ、発展した"魔導"という三種類の形が、"魔力"によって成り立っている。
魔法を使う者は
魔導を扱う者を
魔術を操る者は
(……と、モノの本には書いてあったが)
俺はフェイントに使って地面に落ちたままの本を見る。
母が誰かから譲り受けたという、魔術のことも書かれた歴史書を兼ねている学術書。
異世界の文化水準としては製本自体も非常に珍しく、共通語の勉強にも役立っている我が家にたった一冊しかない貴重な蔵書であった。
「
「えっと、ラディーアちゃん? 協力しないか?」
「イヤ。ことわる」
「……さいですか」
「でも。あれがえらそうにしてるのはもっとイヤ」
その一点において意思統一が
「そうこなくっちゃ」
不思議だった。単なる
一方でスィリクスはこちらの共同戦線にも特に気にも留めてはいないようで、鼻血を
「素晴らしい度胸と勇気、もしくは……無謀か蛮勇か。風よ、炎よ――」
スィリクスの左手に風が渦巻き、右手には炎が燃えている。
(……まじかよ、ただの魔術士じゃなく二色使いか)
この世界の魔術は、いわゆる四元論たる"火・水・空・地"の4属性を基本として体系化されている。
氷や雷や光といった魔術も存在するが、基本四色に比べれば使い手は少ない。
さらには散漫にならないよう1つの属性を集中して伸ばすものであり、いくつも使い分ける者はそれだけ才能があるという証左である。
(まぁこれ見よがしに手札を
もちろん三色あるいは四色目すらも警戒こそしておくものの……これまでのやり取りで、良くも悪くも素直なタイプだと思える。
こちらに魔術という手札がそもそも無い以上、スィリクスの
「私の父上は優秀な治癒術士、だから多少の火傷や打撲くらいならば安心したまえ」
「しね」
吐き捨てるように返したラディーアは駆け出すと、ただただ真正面から突っこんでいく。
連係などあったものではなく、最初から期待もしてはいない。
ただ自ら
「フラウ、投げ飛ばしてくれ!」
「わっかっっったぁッーーーー!!」
純粋な鬼人族のラディーアには劣るものの、
スィリクスが左右に溜めた風と炎の二択──
「ふっハァッ!!」
スィリクスの左手から風の塊が飛ぶ──文字通り、飛んだ。
俺の体は空高く舞い上がり、ラディーアの突貫を余裕で押し返すに足る威力。
(あぁ……気持ちいいな──)
落ちたらタダでは済まない上空から、俺は地べたまでを
ラディーアはフラウによって無事キャッチされていて、俺は大気を感じながら空中でわずかに姿勢制御をする。
「どッ……オご!?」
俺の肉体が強風を喰らって空へ吹き飛んだ瞬間、俺の存在もスィリクスの意識外へと飛んでいた。
スィリクスがまず注視すべきは、突撃せずに控えていたフラウであり、好戦意志が
ゆえに──落下しながら首を刈り取りにきた俺を、無造作に喰らってしまったのだった。
宙からラリアットをぶちかますように、右腕をスィリクスの首元へと引っ掛け、落下の速度を緩和しながら二人もろとも地面に倒れ込む。
「
衝撃で反射的に言ってしまうが、アドレナリンかエンドルフィンか、何かしらの脳内麻薬が出ているのか痛くはなかった。
どのみち無傷でぶっ倒せると思っちゃいない。なんにせよ悪くない、心身が高揚して
そんな感情は別に、冷静に状況を分析している自分が同居していることに少なからず驚きもあった。
「うぐ……ぐっ……かッは──」
俺は背後からスィリクスの首に腕を絡めた体勢のまま、お互いに倒れ込んだ状態で頸動脈を絞め上げた。
しかしスリーパー・ホールドによって脳への血流が阻害されて落ちる前に、スィリクスの残された右手の炎が動く──
「ベイリルゥ!!」
フラウの声が聞こえたと同時に、スィリクスの右手が炎と共に弾けていた。
「っふゥー……」
俺はスィリクスが失神して全身の
一応ちゃんと息があるかを確認してから、軽く心臓を踏みつけて
「助かった、ありがとうフラウ」
「どーいたしまして」
特に劇的な勝利を分かち合うわけでもなく、ただ自然体のままに。
俺はフラウにエメラルド原石を改めて手渡し、落ちている本を足で蹴り上げて背中に縛り直した。
「ねえ。ちょっと」
「なんだい?」
「名前。おしえて」
ラディーアの思わぬ言葉に、俺とフラウは少し見合わせてから揃って笑みと共に自己紹介をする。
「俺はベイリル」
「あーしはフラウ、よろしく~」
てっきり歩み寄ってきてくれたのかと思ったが、一緒に差し伸ばした手が握り返されることはなく……。
「べつに。ただ聞いただけ」
「そっか、それじゃ……また今度」
「またね~」
ぶっきらぼうな拒絶に対し、俺とフラウは以心伝心で返し──今度は特に否定の言葉はなかったのだった。