異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#38-2 冒険者 II

 

 元よりグチャグチャだった容貌が、さらなる肥大化と異形化で原型をほとんど留めなくなっていく。

 2メートルを軽く越えていた巨躯は倍以上に膨れ上がり、3つの巨腕は伸びて触腕の様相を(てい)する。

 足は肉に埋もれて、もはや自力移動できるかも怪しく見えるが……変異前よりも確実に凶悪になっているのは間違いない。

 

 

「──さしあたってガルマーン講師が来るというのであれば、遁走(とんそう)を決め込むが勝ちでござろう」

「そうだね、動きも(にぶ)そうだしとっとと逃げよう」

 

 スズとルビディアは冷静にそう言うが、オレは逃げる気には到底なれず……それはもう一人も同じのようであった。

 

「だってよ、グナーシャ先輩」

「ふんっ……考えることは一緒のようだな。いやヘリオ(おまえ)のせいで我も燃え上がってしまったというべきか」

 

 強さを求め、闘争に身を置く(おとこ)たるもの──この状況でどうして挑まずにいられようか。

 

「勘弁してくださいよぉ。冒険科の先輩たるもの、後輩の規範にならなくちゃ。不必要な無理をしない! 鉄則ですよ」

「一度火が付いてしまった男という生き物に、()()いても無駄ですわ。この際は支えるというのが女というものです」

 

 その言葉にオレは今までの認識を改めざるを得なかった。

 

 

「よォくわかってんじゃねぇか、パラス。ちったぁ見直したぜ」

「うむ、よくできた女人よ」

 

「どうも、しかしこの程度は淑女(しゅくじょ)が備えし基本の一つですわ」

「どんな淑女だか……あーもう! 損な役回り!」

「ヘリオくんやお嬢がどう言おうが、僕も一緒にされちゃたまらないんですけどね……」

 

「信条は人それぞれ、であれば拙者は一人逃げさせてもらうでござるよ」

 

 そう言うや否や、大きく動いたスズへと触腕が一挙に迫る。

 完全に油断していたのか反応が遅れていたところへ、動けたのは臨戦態勢だった3人のみ。

 

 オレは横合いから鞘を思い切りぶッ刺して勢いを()ぎ、パラスが盾撃によって直撃を()らし、グナーシャが交差した双棍(トンファー)でスズを(かば)っていた。

 

「おっ……おぉう、これはかたじけない。拙者としたことがなんという不覚」

「ぐっ、ぬぅ──なに、後輩を守護(まも)るは先輩の務めよ」

 

 グナーシャはさらなる流血をしながらも、慣れたものだといった様子で口にする。

 

 

「深き、底無き、泥濘(ぬかるみ)よ。高きから低きへと、その肉を引きずり込め」

 

 詠唱の終わりと同時にカドマイアが両手で大地に触れると、キマイラの立つ地面が泥と化して沈んでゆく。

 

「やるじゃねぇか、カドマイア」

「どうも、しかしながらアレを完全に沈没させるのは難しいですね。ところで僕は回復魔術使えないんですが、誰かいます?」

 

「あいにくとオレはちょっとした自己治癒魔術が使えるだけだ」

「ごめん、わたしも無理。急いでて回復用魔薬(ポーション)もない」

 

 カドマイアの問いに、オレもルビディアも首を横に振った。残る3人はそもそも魔術が使えないようだった。

 

 

「我のことならば気にしなくていい。この程度は、傷の内に入らん」

「そりゃ豪気なことですけど……せめて闘争はしないほうがいいんじゃなにですかね」

 

「グナーシャ殿(どの)、ちょっと失礼するでござる」

 

 するとスズがグナーシャの傷の様子を()始める。

 

「なんだよ、逃げねえのか? 今ならイケるんじゃねえの」

「拙者を庇わせ、こんな負担を強いてまで、今さら一人逃げられるわけがないでござろう。拙者、回復魔術は使えぬが……少しばかり心得が役立つに違いないでござる」

 

 スズは腰裏から木造りの小さな容器を出すと、蓋をキュポンッと抜いて中にある粉をグナーシャへと振り撒く。

 

「むっ、なんだこれは──」

「"調香"でござる。即効性の鎮静(・・)作用があるので、少しは楽になるはず」

「……たしかに、幾分か(やわ)らいだ。やるものだな」

「そしてこっちが興奮(・・)作用があって──」

 

 そう口にしながらスズは別の容器を一本、丸ごと全員に撒き散らしたのだった。

 

「ッオイ!」

「止めても()る気なのでござろう? なればこそ拙者も微力ながら助太刀するでござる」

 

「"興奮"……たしかにこれは、なんかこう──なんでもやれる気になっていましたわね」

「いやそこまでは──お嬢の思い込みが過ぎるだけかと」

「ふむ、痛みがほとんど消えた。これならば無理ができる」

「いやだから無理はしないでくださいよ先輩」

「まっ一人じゃちと荷が重そうだし、せっかくだから連係も悪くねェか」

 

 六者六様、全員がキマイラを相手に闘志を燃やす。

 

 

「ヘリオ殿(どの)、どうぞ使ってくださいでござる」

 

 オレはスズから投げられた鞘入りの白刃を受け取る。

 

「おいおい、てめェの武器はいいのかよ」

「あんなの相手に、前衛で命張るつもりまではないでござる」

「てめェは……ったく、イイ根性してやがるぜ」

 

 鞘から刃を抜くと──その()りと意匠に馴染みはなかったものの──重心のバランスが良いのか、なぜだか手にはよく馴染んだ。

 

「ご安心なさって、わたくしは前衛イケますわ!」

「我を含めて前衛三、ルビディアたちで後衛三だな。悪くない」

「そっちのルビディア(せんぱい)は何ができんだ?」

「わたしはキミと同じ火属魔術士だよ、それと飛行補助の為の空属魔術。火力としてはそんなに期待されても困るんだけど」

 

「そうかい、そんならオレに向かって全力で炎を撃ってくれ」

「何を考えているかはわからないけど、本当にいいんだね?」

「おう、あとは道を作ってくれりゃオレが決めてやる」

 

「頼もしいな」

「了解しましたわ」

「任せるでござる」

 

 

「それじゃ……既に結構キツいんですが、僕が起点を作ります」

 

 臨機・即時・即応。6人(オレたち)はさほどの打ち合わせをしたわけでもなく、意志を統一させる。

 カドマイアがキマイラを一層深く沈み込ませたのを見て、グナーシャがまず先駆けとなって飛び出し、オレとパラスが続く。

 瞬く間に樹上にまで登ったスズが、小さなナイフのようなものを投擲し、内一本の触腕攻撃を誘った。

 

「ッォァァアアッ!!」

「っこいしょぉお!!」

 

 さらに別の触腕の攻撃をグナーシャが連打によっていなし、パラスは剣を使わず両手で構えた盾のみに集中して受け流す。

 障害となる三本ある触腕がそれぞれ釘付けになったところで、オレは自動充填され浮遊させていた"鬼火"二つを両足で爆燃させて加速を得る。

 

「後輩くんッ──!!」

「来いやぁああ!!」

 

 背後から迫る熱気を感じながら、オレは追従する鬼火の1つをリズム良く炸裂・膨張させ、己の炎として白刃へと取り込んだ。

 

 

 その刹那、キマイラの口だったような箇所からナニカが吐き出されようとしてるのが瞳に映る。

 

(今さら退()けッかよ──)

 

 捨て身の覚悟でもって(のぞ)むも、キマイラの動きが不自然(・・・)に停止した。

 その理由を考えている()もなく、ただただ機を逃さぬ為に肉体は躍動し続ける。

 キマイラの動き(リズム)に逆らわず、こちらの流れ(リズム)を割り込ませる。

 

 収束付与させた炎剣を右手で天頂(てんぺん)まで振り上げ、一気呵成に斬り落とす。

 

 脳の血管が焼き切れるのではないかと感じられるほどの一点集中。

 大炎は刀身に凝縮され、無駄な漏れ燃焼は起こらず、ただただ赤熱した色だけを輝かせていた。

 

 

 残光(・・)がキマイラを袈裟懸けに斬り断つ──よりも先に、刃が折れてしまう。

 しかし途中まで斬り込んで(とど)まり溶けた刀身から、一気に放出された業火はキマイラの内部から、再生不可能なほどの熱量を浴びせ掛けていた。

 

「はンッ! どうやら終焉(おわり)みてえだな。一応の保険として残しといたが……ついでに持ってきな」

 

 オレは残った鬼火を一つ左手に宿し、熱量をさらに上昇させながらキマイラの頭部を掴む。

 

「"爆熱炎指(ヒィィィトッエンドォ)"ォオ!!」

 

 火柱が爆炎と共に上空へと立ち昇り、オレは反動を利用しつつ前方へと着地する。

 加速度的に炭化し灰となりつつあるキマイラを眺めていると、オレは融解しないまま残る"一本の矢"を見つけた。

 

 

(矢ァ? ……そういや何でかキマイラの動きが止まりやがったな──あるいはコレの所為(せい)だったのかよ)

 

 余計な茶々を入れられたのかと思うと、気持ち悪さも残るというものだが…… 。

 本当にあの瞬間に刺さったものなのかは確証はなく、あるいはずっと以前に体内に残っていたとも否定できない。

 

(まっどうでもいいか)

 

 いちいち細かいことを考えるのは、オレの性分でも仕事でもない。

 そういうのは小理屈()ねるベイリル(おとうと)や心配性なジェーン(あね)がやることだ。

 

 オレは泥の中に浮かぶ灰と矢から視線を移し、こちらへと手を振っている臨時パーティの元へと迂回して歩き出す。

 

「なんとなく(しゃく)な気ィもするが……ロック(・・・)だったな」

 

 そうはっきりと口に出して、己の心中を確認する。

 姉弟妹までとの連係には及ばないが、それでも充実感が体に満ち満ちているのを……オレは否定することができなかった。

 

 

「おおっ!? これは──」

 

 決着してからようやく森の中を走り抜けてやってきた男に、オレは互いの立場を気にせず遠慮なく告げる。

 

「遅ェぞ、怠慢(たいまん)講師」

「おまえはヘリオか。それに向こうにいるのは──グナーシャとルビディア以外にも、スズ……それに新季生のパラスとカドマイアか」

「よく覚えてんな」

「生徒と向き合うのもまた、講師としての(つと)めであり(つと)めだ。しかしそうか、キマイラを六人で討伐したか……実に頼もしい、"英雄講義"もそう遠くないな」

 

「別に興味ねェわ」

「はっはっは! おまえはまだまだ学ぶことが多そうだな。そういう生徒を教え導くのもまた楽しみだ」

 

 そんなことを言いながら、ガルマーンは軽々と泥を飛び越えて行く。

 

 

(新たな世界を拡げる……か)

 

 案外悪くない。オレはオレのやりたいように、やりたいことを見つけていくことにしよう。

 

 

 

 

「おい兄貴、今なんで煙が立ち昇ってる(ほう)に射ったん?」

「そりゃおまえ……なんとなく嫌な気配がしたからだ」

 

 若き銅級冒険者──兄オズマと妹イーリスは森の中を足速く、息を切らさず会話を続ける。

 

「確かに変な気配だったけどさ。矢だって安くないんだよ? それに魔物ならいいけど、無関係の人に(あた)ったらどうすんのさ」

「アホ、そんなヘマはしねえって」

「たまにあたしに誤射しそうになってんじゃんか」

「それはおまえが無駄に動きすぎなんだよ」

 

「かーっ、オズマ(あにき)にはわからないかぁ。こっちはちゃんと状況を判断しながら──」

「嘘つけ。考えなしに動いてるだけだろうがイーリス」

 

 ヘリオ達とわずかに道を交差した二人は、勢いを落とさぬまま進んでいく。

 

 

 冒険者──国家によらず、地位によらず、種族によらず、思想によらず。

 災害や魔物に対する一種のインフラであり……己を最も自由とし、今を生きる者達である。

 

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