異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#489 風水剣

 

 尖った赤黒い髪をオールバックにした男──"明けの双星"兄オズマの、虹色に輝く右瞳が獲物を(とら)える。

 

「見つけたぜ、一発目で大当たりだ。どこまで見通してんだモーガニトさんはよ」

「ふ~ん、アレがそうなん。実際に見るとさすがに強そう、足止めか戦線一時離脱か再起不能っかぁ」

 

 もう一人は同じ赤黒い髪を双つ結びにして、左瞳が虹色の彩りを持つ"明けの双星"妹イーリス。

 双子はそれぞれシップスクラーク財団から選ばれ、特別に支給されている飛行ユニットを用いて滞空していた。

 

「対等に近い実戦は久々だねえ、腕が鳴るよ」

「……戦王」

 

 翡翠色の髪をなびかせながら、"食の鉄人"ファンランは自ら作り出した水龍の上に鎮座していた。

 さらにもう一人、"浮遊極鉄(アダマント)"を使って浮いているのは、大双盾を背負う"放浪の古傭兵"ガライアム。

 

 

「ガライアムさん、相手ぇ代わりましょか?」

「無用だ」

「いやアニキじゃ"戦帝"はそもそも無理っしょ」

 

 オズマは笑いかけながら言うも、ガライアムに一蹴されたところをイーリスに突っ込まれる。

 

「うっせ! まあよ、お互い余裕があれば助けるっつーことで」

「余裕がない時だけ、遠慮なく助けを呼び合おう!」

「そうだね、みんなで美味い飯と酒分かち合ってこそ。死んだら食べることもできなくなるからね」

「……ああ」

 

「んじゃ各々方(おのおのがた)ご武運を──」

 

 オズマは弓を引き絞りながら落下し、イーリスは飛行ユニットで大きく旋回しながら加速する。

 ファンランは水龍と共に墜落していき、ガライアムは"浮遊極鉄(アダマント)"を取り外して双盾を大地へと向けた。

 

 

 水龍が着弾した瞬間、オズマは溜めていた矢を"熔鉄"へと撃ち放ち、鉄球ごとぶっ飛ばしながら自身もそれに追従する。

 最大速まで達したイーリスは、水塊に(まぎ)れ裂《さ》きながら"刃鳴り"へと突進。そのまま身柄を連れ去ってしまう。

 ファンランは"偃月刀(えんげつとう)"を振り上げるように縦回転でフルスウィングし、"風水剣"を大きくかっ飛ばしつつ──やや小さくなった水龍に乗って離脱したのだった。

 

 

 

 

「オマエぇえええ!!」

 

 顔を歪ませながら、逆手二刀流を構えた"風水剣"は叫ぶ。

 

「ははっ相性が良いってわけじゃああないけどね、でも同じ水属(ぶんや)だから噛み合いはするだろうさ」

 

 ファンランは乗ってきた水龍を勢いのままぶつけるも、風水剣は水龍の中を回転しながら切り裂くように泳ぐ。

 

「へぇ……あっさりと奪われたかい、魔術士としても一流のようだねえ」

 

 そのまま真っ二つにされた水塊は──その質量をさらに増やしながら──新た二人を囲む大渦へと変化していた。

 

 

「シィィィャァァアアアア」

 

 "風水剣"は回転を続ける大渦の流れを利用し、波乗りと潜水を繰り返しながら白刃が煌めかせる。

 直線的な軌道を読み切ったファンランは、ただ偃月刀を当たる位置に置いておくだけで良かった──はずだった。

 

「なるほど……」

 

 右の脇腹から吹き出た赤色が、水に混じって希釈されていく。

 "風水剣"は水流で加速し……空中で軌道を変化させ、こちらの太刀筋の流れにも乗って一撃を加えてきたのだった。

 

「水中だけでなく空気(かぜ)の中も泳ぎ、わたしの攻撃すらも波のように乗るってわけかい。より有利な位置の占有、間合いの詰め引きも達者だねえ」

 

 

 ファンランはグッと腹筋を固めながら偃月刀(えんげつとう)の石突部分を、上空へと大きく蹴り飛ばした。

 

 そうして無手のまま──己を俯瞰(ふかん)するように──感覚を研ぎ澄まし……備える(・・・)

 目利きするかのように全体を見つめ、空気と水と大地の匂いを嗅ぎ、取り巻く音を(あま)さず(のが)さず、風圧と水滴とを全身の触感で(とら)える。

 料理人として厨房に立つのと同じように──

 

 刃が肌に触れた瞬間、その右手首を捕まえる。ほぼ同時とも思える速度で、風水剣の返しの左も掴み上げていた。

 

「あいにくと……わたしの筋肉は、手首の振りだけじゃ通らないよ」

 

 逆手の返しだけでは、皮一枚を切り裂くのが限度で突き刺すことも叶わない。

 両腕を拘束された風水剣は苦々しい顔で、大きく口を開け──なんと肩口へと噛み付いてきたのだった。

 

 

「痛ッ……ははっ、美味いかい? でもわたしは食材じゃないし、調理してないものを食べさせるのも主義に反するってもんさ」

 

 握力だけで両の手首を締め上げ、そのまま砕き折った。

 苦悶の表情を浮かべて、肩から離れた風水剣の(ひたい)へと──思いっ切り頭突きをかます。

 

 次の瞬間──周囲を回転していた大渦が、水流を伴う竜巻へと変化して収束していく。

 

(近接を封じられたら即座に魔術とは。判断が早いし、なかなかキツいねえ……けど)

 

 もみくちゃにされながら、呼吸のできない"水嵐"の中で、ファンランは掴んでいた右手のみを離す。

 その解放された一瞬の内に、風水剣は折れたままの手で左刃を振り抜いていた。

 

 

(東派永極拳(えいきょくけん)、龍神流・奥伝の三──"水震破掌")

 

 首を(ひね)って(かわ)したファンランの頬に一筋の赤い線が作られるのと同時に、螺旋を(えが)いた右掌底が風水剣の水月(みぞおち)へと吸い込まれていた。

 打ち抜いた衝撃は風水剣の肉体へと浸透し、肺の中の空気が逃げられないまま破裂するかのように膨張する。

 

「──ッッ」

 

 空気の代わりに、音も無く吐き出された風水剣の血反吐が、水流の中で希釈される。

 

 

 さらに空から降ってきた"大水龍"が、その顎門(あぎと)でもって水流竜巻ごと喰らい尽くす。

 衝突によって巨大な水溜まりとなり、中央には水龍の核となった偃月刀(えんげつとう)が──墓標(・・)のように──風水剣の胴体へと突きたてられていたのだった。

 

「"水龍一刀勢"──すまないね、手加減する余裕はなかったよ。ベイリルやレドなら、きっと上手くやれたんだろうけどねえ」

 

 絶命した風水剣の両手から、それぞれ離れた2本の剣が血と水の中に沈む。

 ファンランは自らの得物を一気に引き抜いてから、遺体を水の上に横たえた。

 

「何十年後か、何百年後か……もし生まれ変わりがあるのなら、ご馳走してあげるから許しておくれよ」

 

 

 出血多量でフラつく体を偃月刀(えんげつとう)で支えながら、ファンランはベイリルから渡されていた青色スライムカプセルを使う。

 

「自然では人間だって食材とはいえ……やっぱり人殺しってのは(しょう)に合わないもんだね」

 

 ひどく陰鬱な心地にさせられる。

 こうした思いは今回を最後にして、以後は人を喜ばせる為だけにこの腕を振るっていきたいと……そう願うのだった。

 

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