異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#497 盤面 I

 

 ベイリルから新たに得た情報によって再燃した復讐の炎。

 

 かつて愛する妻と娘を殺された。

 直接の実行犯はこの手で殺してやったのだが、その(じつ)──裏で自覚させないまま操っていた者がいた。

 

 当時も周辺関係は、これ以上ないほどに洗ったはずだった。

 それでもなお、取り(こぼ)してしまっていたのだ。

 自身が未熟だったこと以上に、アンブラティ結社の"仲介人(メディエーター)"というのが何枚も上手(うわて)だったということ。

 

 ──だが今は違う。

 あの頃よりも知識と経験を積み重ね、シップスクラーク財団があり、頼れる同志がいる。

 

 ゆえに火勢はそのまま、いったん心の宮殿の奥底に保管し──

 "カプラン"は、三次元軍棋(チェス)用の"浮遊極鉄(アダマント)"製(コマ)を空中に並べていた。

 

 

「……いや、ここは退路をもう一つ確保できるように考えておくべきか」

 

 彼の頭の中には縮小された帝国(せかい)があり、今はそちらへと集中する。

 シールフを通じて聞き及んだベイリルの戦略と戦術に修正を加え、情報を収集・精査した上で構築していく作業。

 

「そして、こっちの局面は先んじて──」

 

 時間が無い中で、不要を削り必要を満たす。

 己の得意とするところであり、サイジック領においても自分以上の者はいないというのが己を客観視した評価である。

 

「優先順位と適切な配置、不測があっても援護(フォロー)や原状回復《リカバリー》が()くようにしないと」

 

 

 バルゥ陸軍総督の率いる軍団と"飛空島(スカイ・ラグーン)"を用いた、サイジック領からカエジウス特区を直進する電撃作戦。

 モーガニト領から支援を受けつつ、周辺の亜人・獣人特区らと結ぶ。

 バリスを族長とする放浪している騎獣の民で構成された機動軍団、および合流した竜騎士隊による南方からの進軍。

 ソディア・ナトゥールを首領としたワーム海賊の私掠船団と、雇い入れた自由騎士団の輸送。加えてサイジック海軍による海戦また補給封鎖。

 帝国中央から東部総督府へ進軍するモーリッツ軍と内応し、歩調を合わせて東部総督府へと同時多発攻撃を仕掛ける。

 サイジック領南方にあるキルステン領と盟約を交わし、後に併呑(へいどん)を見越した上で現段階では独立をうながす。

 リンの生家であるフォルス公爵家と連携し、王国側のサイジック侵攻を抑止し、帝国北方領土を攻めるように働きかける。

 

 

(他に……西部と北部に帝国中央への風聞流布、帝国領を治める貴族達への各種対応・交渉、皇国と共和国への折衝──)

 

 数限りないほどやることはあり、情報戦を含めて制することこそ絶対勝利への(カギ)

 

「同時進行で、少なくなく発生するであろう難民の受け入れ体制も急がないと」

 

 人口こそが根源的な国力(ちから)であり、"継承戦"後のこともきっちりと視野に入れる必要がある。

 

「……はははっ」

 

 思わず笑いが(こぼ)れる。復讐を果たしたと思ってから、シップスクラーク財団と出会って充実し始めた人生。

 財団の大幹部として、今までで一番興奮している自分を、冷静に観察しながら──カプランは(コマ)を一手進めるのだった。

 

 

 

 

 騎獣民族、野営地──

 

「フンッ!」

 

 "白き流星の剣虎"こと陸軍総督バルゥの友にして、騎獣民族大族長である"荒れ果てる黒熊"バリスは手紙をグシャリと掌中で潰す。

 握力によって圧縮され鉄のように固くなったソレは、もはや元が何であったかわからない欠片と化し地面と同化してしまう。

 

「おいおい、つまりそれってぇ……どういう意思表示なんだい?」

 

 黒と赤の髪の毛が半々くらいで入り混じった背の低い男は、己の軽く1.5倍ほどはある巨躯の獣人にも気圧されることなく口にした。

 

 

「これも立派な情報というやつだ。誰かに見られでもしたらまずいだろうが」

「ぷっ、く……ははっははははっ! そっかいそっかい。オイラぁ、アンタのこと見誤るトコだったよ」

 

 バリスを前にした黒赤髪の男は鎧を身に(まと)い、剣とも槍とも取れぬ刃幅の武器を背負う。

 

「──それで。あーーーおまえ、もう一度名乗ってくれるかあ?」

「火竜騎士団、団長の"プラシオス"だ」

「おー、そうだったそうだった。随分とちんまいが、戦争で役に立つのか」

「えっ、なにもしかしてオイラ挑発されてんの?」

 

 ドワーフともいい勝負がしそうな……まだまだ青年(こども)のような背丈と、縦も横も熊のような巨漢の対比。

 

 

「体だけじゃなく態度もでっかいなあ、まったく」

「きさまらの立場を持ち込むな。そもそも帝国人であれば、おれとは関係ない。サイジックに属したところで、おれのほうが先達だ。実力も、そうだな──」

「騎獣民族ってのは野蛮とは聞いてたけど、聞きし以上だなあ。オイラで良けりゃ、少しくらい血抜き(・・・)を手伝うよ」

 

 背中の剣槍の柄を握り、見上げながら半眼で睨むプラシオスに──バリスは破顔一笑する。

 

「ヴァッハッハッハ! 許せぃ、これまで仕えていた国家を裏切った人間を試しただけだ」

「耳が痛いことだね」

「久方振りの大きな戦争を前に、少しばかり昂ぶっているのもあるがな。なんにせよ相手を間違えはしない」

「あっそう。そんなら別にいいけど」

 

 ドカっとその場に座り込んだバリスと、立っているプラシオスの目線が水平に合う。

 

 

「しかし……竜騎士全員が出張るのか? 山を留守にしていいのか」

「赤竜さま御自らが立ち、守護してくださっている。帝国総軍をもってしても打ち倒すのはムリ、その気なら噴火だってさせられる御方だ」

「ヴァッハッ! どうやら随分と一方的な戦争になりそうか──まあいい」

 

 バリスは持ってこさせた酒を大盆に注いで差し出し、渡されたプラシオスはグイッと一気に飲み干す。

 

「あ~うん、戦の前の清めにしちゃ上等だねコレ」

「イケる口ではないか、気に入った」

「こう見えてもオイラぁ、多分アンタより年上だかんね」

 

 目を見開いたバリスはがぶがぶと大蛇(うわばみ)のように飲んでから、ゲップと共に口を開く。

 

 

「それにしても竜を引っ張り出してきたか、ベイリルめ。野生の飛竜に無理やり乗ったことがあるが……やはり地に足をつけてこそよ」

「へーーーやるね。まあ空を飛ぶオイラたちと、地上を駆けるあんたら。合わさっての采配(さいはい)──ってとこなんだろうね」

 

「たしかに騎獣民族(おれたち)の速度についてこられるのは竜騎士くらいなものだろうなあ!! ヴァッハハハハハハッ!!」

 

 獣あるいは竜、騎乗して戦う者同士のシンパシー。

 

「遅れれば竜騎士の名折れだぞ、プラシオス」

「こっちのセリフだよ。あ~~~っと、そんでアンタの名前なんだっけ」

「意趣返しのつもりか。おれの名はバリスだ、もう名乗らんぞ」

「よろしくバリス。オイラたち竜の民は自らの居場所を勝ち取るため戦おう、騎獣民族は……ただ暴れたいだけ?」

 

「言わずもがなよ」

「とんでもねえや」

 

 天空と大地それぞれ大陸最強の機動戦力が盤面を疾駆(はし)る──

 

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