異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#507 変遷の騎士

 

 若かりし頃は帝国"工房"直下の"特装騎士"として戦場を駆けた。

 だがある時、生死を分かち合った友の1人が──理由も話さず、不法行為に目をつぶってくれと頼んできた。

 

 その"リアム"という男は軽薄な面がありながらも、誠実であることはよく知っていた。

 だからよっぽどの事情があると思い、おれは見逃してやることにした。

 

 その時の決断は間違っていなかったし、見逃した(とが)を追求されて"黒騎士"となってしまったのも後悔はなかった。

 

(ただ……どうにも(しょう)に合わなかった)

 

 何よりも規律を絶対として重んじる。

 その為には超法規的措置も許された立場であり、疫病の蔓延した集落を1つ潰滅させるような汚れ仕事すらあった。

 帝国の秩序と安寧の為には必要なことであったが──己の生き方というものに疑問を抱かざるを得ない。

 

 

 黒騎士の外征部隊の内、さらに諜報担当としての異動を願い出た。

 冒険者として活動しながら、特に賞金首──帝国にとって裏切り者や重要人物──の情報を収集するというもの。

 (とも)であったリアムも誘ってはみたが、彼は直接の重罪の為に帝都の外へ出ることは許可されなかった。

 

(おれは一人……己を練り上げた)

 

 集団戦や連係の心得は既に(つちか)われていたが、情報を収集する都合上、臨時で組むパーティのほうが多い為に、個の(ちから)を高めていった。

 依頼を数多くこなしながら、対処しきれない賞金首や、その他の情報を帝国へと伝える。

 

 

 ──何年かしたある時、【連邦】にある"学苑"の卒業生とパーティを組む機会を得た。

 彼の話は興味深く面白いもので、若くしてその才覚を冒険者という形で活かしていた。

 

(どうしようもなく、()かれた)

 

 若き才能が放つ(まばゆ)さ、それを育んだ学苑という動く箱庭の存在に。

 

(そして……とある受けた依頼の途中で、自らの死を装って行方をくらました)

 

 実力は確かだったし、経歴に関しても充分だった。

 名前を新たに"ガルマーン"と名乗って、教師として雇い入れてもらった。

 面接にあたったシールフ・アルグロスは少し怪訝(けげん)な顔を浮かべていたが、珍しく学苑にいたらしい学苑長の一声によっておれは採用された。

 

(地道に実績を積んで、やがて……英雄講義を受け持つ講師としての立場も前任から引き継いだ)

 

 

 教師となった人生に──転機が訪れる。

 それは学苑そのものに吹いた暴風とも言うべき新時代の波。

 

 "フリーマギエンス"という部活動にして思想、"シップスクラーク"商会がもたらした技術と文化。

 小さな国家とも言える学苑が、それまでと全く異なる新たな価値観によって瞬く間に塗り替えられていった。

 それは生徒らだけではなく教師陣すらも巻き込んで、学苑という箱庭そのものを変革させてしまったのだった。

 

(そしておれは……モライヴ──モーリッツ殿下に黒騎士であったことを看破された)

 

 

 彼は学苑で感化され養われた知見を、帝国にも広めるという大望を抱いていた。

 さらにモーリッツは王族としての任命権を行使し、新たに"近衛騎士"として力になってほしいと打診された。

 

(一度は故国を捨てた身なれど、おれも愛国の志を完全に失っていたわけではなかった……)

 

 大規模な変革によって国家の在り方が変われば、あるいは恩赦なども与えられる可能性がある。

 そうすればかつての友も、黒騎士という立場に縛られることなく、また家族と過ごせる日がくるかも知れないと。

 なによりも帝国の民を──学苑生達のように──豊かにできるのではと。

 

(また新たな人生を歩むには十分すぎる理由だ──)

 

 モライヴとして卒業する時を同じくして学苑の教師を辞め、モーリッツ付きの近衛騎士として学苑を去った。

 

 

「勝ち戦──とは言えないね、なにせまともに戦ってすらいないのだから」

「血は流さないに越したことはないでしょう」

 

 既にサイジック陸軍によって、完全制圧下にある東部総督府内の廊下をモーリッツと共に歩く。

 帝都を脱出してからモーリッツはあらかじめ立案していた計画を変更して、麾下(きか)の者を集めて進軍した。

 しかし到着する頃には、既に終結していたという肩透かしな有様であった。

 

 妹であるテレーゼを客間にて休ませ、総督の執務室へ向かう途中で──見知った顔と出くわす。

 

 

「おっモライヴじゃん。盛大な遅刻だぞ」

「キャシー、久しぶりですね。っていうかあなたがたが速すぎるんですよ」

 

 共に戦技部の兵術科で学んだ者同士、多少なりと時間が空いても互いによく知った仲である。

 

「さっすが王子さま、重役出勤(じゅーやくしゅっきん)ってやつだな。ってかよ、王族だったんならリンみたく言っとけよ」

「言えない事情があったんですよ」

 

 王国三大公爵家のリン・フォルス、あるいは内海の民であるオックスはその素性を隠さないことで人脈を広げた。

 しかしモーリッツとしての立場は次期継承権を賭けた(いさか)いの延長線上にあって、あくまでモライヴとして己の身分を明かせない状態にあった。

 

 

「まっいいや、ベイリルから伝言。ココに駐屯している自由騎士団は好きに使っていいってよ。あとでベルクマンのジィさんと会ってくれだと」

「ありがたいです。期限や契約内容ついて後で話して確認しておきます。それで……ベイリルはいないのですか?」

「相変わらず飛び回ってるよ。騎獣民族と竜騎士ら機動遊軍のほうも補給だけ済ましてさっさと行っちゃって、バルゥのおっさんが率いる陸軍本隊もぼちぼち進発するってさ」

「そうでしたか、キャシーも一緒に行くのですか?」

 

「いんや、アタシとフラウはもう働きすぎたかんな。いちお土産(・・)を監督しとかなくちゃならんし」

「……土産(みやげ)?」

 

 モーリッツが疑問符を浮かべたところで、総督府の執務室の前に到着する。

 

「言っとくけどベイリルじゃなく、アタシからの土産だからな。ありがたくもらっとけ」

 

 そう言ってキャシーが扉を開くと、そこには総督府の椅子──ではなく、壁際のソファに座った東部総督フリーダ・ユーバシャールの姿があったのだった。

 

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