異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
魔導師──それは世界中でも100人もいない、本当に選ばれた人間だけが辿り着く領域とされている。
(実際のところ"魔導"そのものの厳密な定義というものは……いまいち判然としない)
ただ
いずれにしても、魔力を貯め込む生来の
現実へ落とし込むほど没入する
(それらを結実させる……研鑽と原動力とする為の欲求を、兼ね備えていなければならないのは確かなんだろう)
そして魔導師という者は……自然と一辺倒になるきらいがあり、排他的な傾向が非常に強い。
王国には魔導師が寄り集まった互助組織こそあると聞くが──しかしそれも、各々が利己的な目的で集まっているに過ぎないと聞く。
ゆえに自身の研究の為の弟子などではなく、単なる善意でもって学苑で生徒へ教えるような人物は稀有と言えた。
「あなたような人間は……はじめてです。別の世界から新たな
『
俺の思考を先読みして、綺麗に言葉をかぶせてくる。
そう、
「ベイリルさん、あなたの"野望"についても今しがた理解しました。その上で問います。私にもっと深い部分まで踏み込ませる覚悟はありますか?」
「……どういうことです?」
「今の状態で読み取れるのは、あくまで表層部分ということだけ」
「それはつまり──たとえば俺が意識できない、識域下に格納されてしまって思い出せないような記憶も見られてしまうということですか?」
「受け入れてもらえるのであれば、"そう難しいことではない"……と言っておきます」
「おぉっふ、それは
想定以上の異能。つまるところ俺にとっての忘却の彼方にある既知を引っ張り出せるということ。
俺の知識を掘り起こし、直接読み取ってくれる。それを魔導師へと至った頭脳でもって噛み砕いてくれる。
それが現代知識を運用するにおいてどれほどの利益になるのか、もはや計り知れない。
(曖昧な知識に、輪郭どころか
たとえ赤裸々な黒歴史まで読まれてしまうことを差し引いても、莫大なお釣りがくることを確信させるものだった。
ゲイル・オーラムとの出会いはまさしく運命だったが、このシールフとの邂逅もまたお膳立てされたような都合の良さを感じるほどだ。
「是非とも俺の
俺は心と言葉を重ね合わせるように、万感込めて真っ直ぐにぶつける。
「ふ~ん、世界の変革……"文明開華"の同志。それに協力することが、私に記憶を読ませる
シールフは途中で止まる、それは新たに俺の本心を読んだからに違いなかった。
同時に俺は受容者にして理解者となりえる彼女へ口に出して告げる。
「いいや、見返りだとか契約といった薄い間柄でなく、俺と同じ価値観で、同じ意志でもって、心底から同道してほしいと願っています」
「なんともまぁ疑いなき確信……"あなたの記憶を読んだなら、もう戻れなくなる"──なんて随分と自信があるようで」
お互いに砕けた雰囲気になってきて、俺はニィ……と笑みを浮かべる。
「くっはは、それくらいは心が読めない俺でもわかりますよ。あなたが会いにきてくれたこと、それは確信あってのものだと」
俺が持つ別世界の、未来の知識。
恐らくはこの世界中の誰よりも、世の
探究者にとってそれは
そして他人に不信感を与えるに疑いない"読心の魔導"という秘密を、
彼女自身がもう認めているのだ、膨大な地球の知識の為ならばと。
「そう、ね……確かに私の魔導のことは講義を受けている生徒も、他講師陣の誰も知らない。今、学苑内で知るのは
「後戻りする気なんてないってことですね」
グッと前のめりになる俺に対し、シールフは俺の言葉か、態度か、心情か──あるいはそのすべてを見て──ふと笑った。
「はぁ……まったく、ふふふっ」
「それは肯定的な笑い、と受け取っていいですかね?」
「いえ、ね。少しだけ懐かしい人を思い出しただけ」
「懐かしい? 誰か……たとえば初恋の人とかにでも似ていましたか?」
「それは似ても似つかない。あなたの今も
長命であるからには、相応の出会いと
「その人は、私にこの
シールフは何か言いかけたのを飲みこみ、1人で納得したところで……ゆっくりと両の手の平を上に向けて差し出してきた。
「私にとってベイリル……あなたが"素敵で運命的な出会い"だと、思わせて」
「こちらこそ。ちなみに拒否したい記憶とかは見られます?」
「心象風景は個々人によって違っていて、多くは住み慣れた場所で──そこにしまわれたモノを見つける感じ。拒絶される分だけこちらも相応に消耗するけど、
(……
「あらかじめ断っておくけど、私はそういう
「肝に銘じておきます、貴方の嫌がることはしないと」
俺は口に出しながら、本心を示す。
あるいは彼女は──
惨劇が起きないまま、一念発起することなく……特段の目標を持たず、長命のまま漫然と、いつか人生の長きを
今の
そしてシールフにとって、
だからこそ俺の記憶を読めばきっと──シールフ。アルグロスは名実ともに──同調者にして映し身となってくれるであろう。
("文明回華"の
俺は心を重ね合わせるように、シールフの両手に自らの両手を置いた。
「さっ、どうぞ。どんとこいです」
「あなたの性格からすると、もっと警戒してもいいような気もしたけど」
「口では説明できないことが山ほどありますから、
「そっ、じゃぁ……気分が悪くなったら言ってね」
まぶたを閉じて集中するシールフに触れた手から、魔力の胎動のようなものがこちらまで伝わってくるようだった。
それは
空間それ自体が
「おぉ……」
膨大でありながら、これ以上ないほど
ただ観察しているだけで参考になるし、自然と感嘆が漏れ出てしまう。
「ッッ……!?」
シールフの顔が露骨に歪むのを見て、俺は一体全体俺の何の記憶を見られているのかと眉をひそめる。
「なっにこれ、たかが一人分の記憶で……この私がこんな無様な──」
(まぁ、そうなるな)
進んだ
「くっ……こうなったらベイリル、
「というと? おっあ──」
俺は一瞬にして視界ごと意識の
そこにはかつて住んでいた"自分の部屋"であり、目の前にはシールフが仁王立ちをしていた。
「うぉおおお!? すげぇ……これが俺の
毎夜
「案内──いえまずココにあるものから教えてもらいましょうか。えっと……まずこの動いてるのなに!?」
「"パソコン"ですね、ディスプレイに映っているのは……ストリーミングか。あぁそういえばこの海外ドラマのファイナルシーズンまだ見てないや、めっちゃ心残り」
「わけがわからないよ!! アレは!? ソレは!? コレは!?」
「"エアコン"ですね、そっちが"VRヘッドセット"、"洋楽のアルバム"に……おっ図書館から借りっぱなしの本まで──そういえば、サブスクライブって引き落としされ続けるのかな」
「説明!! 懐かしむのはあと!」
「了解です」
そうして俺の学苑生活に、新たな日課が加わったのであった──