異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~ 作:さきばめ
「スゴイわねぇ……」
そこには二人の少女と一人の少年が、ただひたすらに"没頭している姿"があった。
かつての学苑生活に思いを
新入生の少年──ベイリルが唐突に現れ、それまでの世界を根こそぎぶっ壊した。
最初は生徒会に使われているのかと思ったが、
そうして気付けばワタシはあっという
それは一陣の風どころか、もはや暴風と言える大きな変化から──既に一季が巡ろうとしていた。
(随分と長い休憩──遠回りになっちゃったけど……)
ワタシは芸術を選ばない。
彫刻も好きだし、劇場に
貴族の着る服や装飾にも興味があって調べたし、化粧なんかも自分自身で実践している。
ただし一番好きなものは? と、問われれば……それはやはり"絵画"になるのだろう。
幼き日に見たとある"一枚の絵画"──ワタシをこの無限の世界へと引き込んでくれた作品。
その大胆な色使いは今でも鮮明に、脳裏に浮かべることができる。
そうして色の再現と、新たな色の模索していった結果、毒物を学ぶ必要があって医術科にも所属していた。
──しかして、そこで頭打ちになってしまった。
心から欲する色を産み出せず、己の腕を試すことすらできない無力感。
変に
ベイリルが語って聞かせてくる師匠──"魔導師リーベからの教え"というものは、未だかつてない衝撃をもたらした。
絵に対するまったく違うアプローチの数々。彫刻の新たな形。壮大な物語と媒体、演技の変化。
音楽の大いなる可能性。時代を変遷し巡る服飾。化粧の域を逸脱した特殊メイク。
知識の一端によって刺激され、自らも新たな
生きた実感というものを思い出させてくれた。
「──珍しいですね、芸術科の
そういきなり話しかけてきたのは、暗い黄色の髪をうなじあたりで結った……ワタシのよく知る女性だった。
つり目気味のきつそうな顔立ちは、凛としていて充実した気を帯びている。
「
「あそこではもう必要分、学んだだけ。落ちぶれたあなたとは違う」
"ニア・ディミウム"──彼女は専門部に通う同季入学生であった為に、何かと顔を合わせることがあった。
お互いに優秀とされる者同士、出会う機会も増え……そして
イロイロと噛み合わないことが増えて、関係解消されてからは疎遠であったものの、フリーマギエンスという輪を通じて再会した。
その時は挨拶すら交わさなかったが、こうして今……隣に立って話す機会に恵まれたのだった。
「医学科もなにもかも中途半端に投げ出して……
「……あそこでは、大して学べなかったからね」
努力家である彼女には、さぞあの時期の自分は見ていて不快なものだったに違いない。
とはいえあの時はまだ若かった──などと達観するほど
「今度は製造科にでも入るつもり?」
ニアは一度
まるで未練の立ち消えているにも関わらず、怒りを覚えるなど無駄な労力であるとばかりに。
「違うわ……今はもう芸術科に戻ってるし──ただカノジョらに学ぶことがあると思ってね。まずは心のキャンバスに、焼き付けるように描き留めているところよ」
ワタシは改めて集中している三人を見る。門外漢でも凄いと思わせる、その一挙手一投足。
並々ならぬ集中力と、ほのかに笑みを浮かべ……熱狂した情動を、そのまま映し出したかのような──
かつて芸術分野において、天才と持て
魔術具を主軸に多方面で自在な思考をもたらし真に至る、狐人族の少女"リーティア"。
フリーマギエンスが保有している数々の発想を設計しておこす、帝国人の青年"ゼノ"。
図面からその中身を実際の形に完成させてしまう、ドワーフ族の少女"ティータ"。
三人はお互いを高め合うように才を伸ばし、凡人には理解できぬ領域へ既に歩を進めている。
そう……彼女らは今の常識から考えれば、異物とも言える考え方を持つ。
それゆえに製造科でも半ば
そんなところも──昔の自分を少し見ているようだった。
「で、ニアちゃん。アナタはここで何を?」
「わたしはわたしで……収拾がつくよう、取りまとめ役と段取りの為に足を運んだだけです」
平たく言えば雑用──とはさすがに口にはしない。
彼女が自分と同じように、学ぼうと努力していることは理解している。
フリーマギエンスで得られる知識は、"異質"としか表現し得ないものだ。
今までに積み重ねられてきた固定観念をぶち壊し、既成概念を一新させるような話ばかり。
まだ短い間にも実際に数多く知識の正しさを証明し、限定的にそれらをフリーマギエンス員に教えている。
ワタシもその知識を手広く
「そのわかった
抑えきれず昔の口調に戻りながら、ニアは
そんな些細な感情の
「"ディミウム"
「そうよ、誰かさんみたく立ち止まっている暇はないの」
ニア・ディミウムには──
それは自他共に周知の事実であり、それゆえに秀才という評価に留まる。
彼女を支えているのは
だからと言って才ある者に悪態を吐くことはあっても、自らと比して
才人から何を己の
非才の身でありながら折れず、曲がらず、輝かんとする彼女に、
「道草を食べた分は……がむしゃらに走って追いつくことにするわ」
「好きにすればいい、わたしの関知するところじゃない」
それ以降の会話はなかった、ただ不思議と悪い雰囲気でもないのだった。