異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#51-2 ロックバンド

 

 俺は製造科で"受け取ったモノ"を持って、旧落伍者(カボチャ)棟──現フリーマギエンスの部室棟の一室へと足を運ぶ。

 "ピアノの音"が聞こえてくる扉を開き、遠慮なく扉を開けて中へと入った。

 

「やっているな、ヘリオ」

「んあ? 誰かと思えば……っと、その手に持ってるのはもしかして」

「まだ試作段階らしいが、リーティアからもらってきた」

 

 そう言いながら俺は空中へ放ると、ヘリオはピアノを飛び越えながらキャッチし着地する。

 

 

「これが"マイク"ってやつか」

「そうだ、魔力を流す量に応じて拡声できる魔術具」

 

『あーあー、おーうーえーいー』

「思いっきり絶叫(シャウト)してもいいぞ、"遮音風壁"は掛けてある」

『アアァァァァァアアアアアア──ッ!!』

 

 言うやいなや早速ヘリオは試し、俺は自分に直接届く音を軽減させる。

 

「ちっと耳が痛ェが最高だぜ」

「まぁ(じか)でマイク本体から拡声されるからな……いずれはアンプ、スピーカーとかどうにかしたいもんだが」

 

 

「ところでマイクから伸びたこの棒っきれはなんだ?」

「魔鋼製の導体だ。それをマイクスタンドとして使う──が、脚はなくしてある」

「それじゃ立てらんねェじゃねえかよ。半端なモンよこしやがって、リーティアのやつ」

「いやいや、()()()()()()なんだよ。魅せプレイ、パフォーマンスの為に使うんだ」

 

 ヘリオから脚なしマイクスタンドを渡してもらい、俺はその場でくるくると回したり決めポーズを取ってみる。

 

「ほーん、なるほど……なかなかおもしれえ」

 

 そうしてマイクを再びヘリオに預けると、俺と同じように大仰な動きを真似して見せてから首をわずかにかしげる。

 

「ただこれだとギターが()けねえな」

「まぁ確かに。どうにかして浮かせられでもできればいいが……なんならステージにぶっ刺すのもアリか」

「ロックだな、それ採用」

 

 

 音楽──文化芸術にして、万人に手軽に通じる娯楽。

 異世界にももちろん存在していて、ピアノやギターや戦場用のラッパや太鼓など、数少なくない楽器の原型となるものがいくつもあった。

 しかしそれらは決して洗練されているとは言いがたく、まだまだ未成熟な分野。

 

 いくつもの(こと)なる楽器を組み合わせた多重奏(ハーモニー)

 巧みに計算された音階(サウンド)や、先鋭化された拍子(リズム)

 さらに歌唱(ソング)を乗せることで、爆発する化学反応のようなセッションといった文化は根付いていない。

 

 未開拓の分野だからこそ、着手する余裕があれば早急(さっきゅう)に推進するに越したことはない。

 

 幼少期から俺が影響を与えた結果、ヘリオとジェーンは数多くの名曲に感化された。

 さらには教団でも情報収集をする為の吟遊詩人の真似事として、鍵盤楽器やハープギターのようなものも習っていた。

 

 時に狂信的とも言える熱量を産み出す音楽を広めるにおいて、急先鋒となってくれるに違いない。

 

 

「──パフォーマンスも激しくなるとギターをぶっ壊したり、客が怪我するくらい巻き込んだりするがな」

「アホ、んなとこまでできっかよ。せっかく作ったのに」

「なにっもう作れたのか」

 

 驚きの表情を見せる俺に、ヘリオは死角となっている机の裏からギターを取り出す。

 

「完成度高いな、オイ。なんのかんの器用だよなヘリオは」

「まだまだ荒削りだがよ、愛着も湧くってもんだ」

 

 言いながらヘリオはジャランと鳴らす。

 ギターはピアノと同じく弦楽器の1つであり、構造も割と単純で作りやすい部類の楽器ではある。

 しかし一朝一夕で素人が製作できるものではなく、試作品の裏でいくつも失敗と試行錯誤が繰り返されたであろうことは容易にうかがえた。

 

 

「爪()きか、ピックはないのか?」

「あ~~~いくつか作ったがなんつーの? こう……音も伝わり方もピンッとこなくてよ」

「鬼人族の爪なら丈夫っちゃ丈夫か。まぁ歯ギターなんてのもあるが、そうだな──硬貨を使うのも良いかも知れんぞ」

 

 俺はベルトバッグから一枚の貨幣を取り出し、ピンッと指弾の要領で(はじ)いた。

 不意打ち気味だったもののヘリオはしっかりと反応し、人差し指と中指の間でキャッチする。

 

「なんだこりゃ? どこの国の銀貨だ」

「近く開店するカジノで使われる予定の、シップスクラーク商会が作った合金貨(チップメダル)だ」

「へぇ~~~アレか、賭博(ギャンブル)のヤツ」

 

 ヘリオは硬貨で弦を鳴らし、軽くメロディーを奏でる。

 

 

「悪くねェな、いやかなり良いかも。手首からしっかり伝わる感じで演奏しやすいし、音もシャープに響く」

「ゆくゆくライブとなれば、ファンサービスとして投げ捨ててくれたりなんかすると宣伝にもなる」

「まだまだ先の話だな。っつかほんっとイロイロ考えてんなベイリル」

 

「それが俺の道だからな。バンドの面子(メンバー)はもう決まったのか?」

「あーーー……他所から集めるより、仲間内でやることにしたよ」

「冒険科のパーティか」

「パラスとスズは断ったが、あとの三人は乗り気だぜ」

 

(グナーシャ先輩とルビディア先輩とカドマイア……そしてヘリオの四人か)

 

 バンドであればモアベターなバランスと言えよう。

 

 

「つーかベイリルはやんないのかよ?」

「俺の場合バンドはバンドでもやるなら"ジャズ"、あるいは"オーケストラ"のほうかな」

 

 R&Bやロック、その他の音楽ジャンルは──カラオケで歌うことこそあれ──演奏はせずに聴く専門であった。

 

「たしか管楽器ってのと、大人数でやるヤツか」

「そうだ。打楽器(ドラム)類とも違って、管楽器で精密な音程操作となると製作難度が高いから……その内だな」

 

 ギターやパーカッションやピアノも興味がないわけじゃないのだが──転生前の自分畑というものもある。

 それに他にやることも多い以上、音楽と演奏に割いている時間もないのが現状であった。

 

「まっ音楽(そっち)方面はヘリオとジェーンに任せるよ」

「おう、まかせとけ兄弟(ベイリル)

「俺はより良い環境作りや、二人に見合った歌唱案を提供するのにしばらく専念する」

 

 地球音楽史における偉大な先人らに、平身低頭で感謝をし続ける。

 皆々方様のメガヒット曲を、異世界にも伝え広げることをお許しくださいと。

 

 

「なあベイリル、こうやって外の世界にいるとよ──」

「うん……?」

「やっぱおまえおかしいわ」

「くっはは、いきなりだな」

 

 ヘリオは改まりながらも、こちらを真剣に見据えるようなことはなく……ハンドメイドのギターを弾きながら、軽い調子で話を続ける。

 

「今までは大して疑問に思わなかったが──"夢で見る予知"にしても限度超えてねェか? ちょくちょく体験談っぽく聞こえっし」

「まっそれこそ夢だからな、まさしく体感だ」

「ふ~ん、そんなもんか」

 

 話を振ってきた割には、興味なさげなあたり……性格がよく出ている。

 本能的なヘリオの直感に対し、俺は自らの詰めの甘さ──と言っても既に告げてしまった言い訳をひるがえすことも、今さら歩みを止めることもできはしない。

 

 

「──オレやリーティアはともかく、ジェーンは気にするかもだぞ。どうでもいいことまで、いちいち気を回すからな」

杞憂(きゆう)や心配性も、ある種においては美徳だよ」

「……たしかに、オレにはない繊細さがジェーンの歌にはあっけど」

 

「個性を集めて、適材適所の持ち味を活かすのが──フリーマギエンスであり、シップスクラーク商会の仕事だよ」

 

 種を撒き、根を張り、芽吹き、(つぼみ)となって(はな)を咲かせ、果実となり、新たに種子を運ぶ──それこそが大いなる"文明回華"の道であると。


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