異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

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#76 財団の設立

 俺はさほど緊張した心地もなく、非常にリラックスした状態で言葉を紡いでいく。

 

「まぁ改めて言いますと、以前より計画していた"財団"の設立を本格的に始めたい」

「いい加減うちの組織(ファミリア)の名前じゃあネ」

 

 ゲイル・オーラム――彼がいたからこそ、ここまで早く漕ぎ着けることができた。

 あの日の出会いは本当に奇跡であり、運命とさえ言えたであろう。

 

 全くの0(ゼロ)から始めていたら……などと、もはや想像すらしたくなかった。

 オーラム殿(どの)は俺に感謝しているようだが、俺こそ多大な感謝をしている。

 

 彼には本当に心の底から、報いてやりたいと思っている。

 ジェーンもヘリオもリーティアもフラウも……あくまで幼少期からの俺の影響に過ぎない。

 

 ゲイル・オーラムこそ"未知なる未来を見る"……最初の同志にして盟友である。

 

 

「内外ともに浸透させていくには、遅いくらいだったと思いますよ」

 

 カプラン――彼とは、まだそこまで交流が深いわけではない。

 しかし大人としての落ち着いた物腰と、その考え方は多くに通じる部分がある。

 

 彼を語る上で何よりも特筆すべきは、その多彩にして多才な能力である。

 オーラム殿(どの)もよくよく有能な人物をスカウトしてきたものだった。

 

 特に記憶力・人心掌握術。その半生で得てきた情報と、組織に入ってくるデータ群。

 それらを円滑に処理及び整理し、的確に調整しながら実行する高度な並列処理(マルチタスク)能力。

 

 もはや彼がいなければ組織は回らず、オーラム殿(どの)もシールフも十全に(ちから)を発揮できない。

 カプランを手放すことがないよう、見放されることなきよう、尽くしていきたい。

 

 

「より多忙化していくか、分業化して楽になるか……それが問題だ」

 

 シールフ・アルグロス――俺の半身。

 今となっては……ある意味で、俺以上の俺とも言える存在となった。

 俺の記憶を俺以上に知っている。その過程で私的(プライベート)なことも結構知られてしまっている。

 

 前世の現代地球の記憶に感化されつつも、それでもお互いの人格は違う。

 彼女にとっては今まで読んできた、膨大な記憶群の一つに過ぎない。

 

 だから厳密には……俺の代理にはなりえない部分が少なからずある。

 

 

 未知なる未来を見るという大望は、俺が持ち得るものでシールフにとってはそこまでではない。

 だから基本的な方針は俺が継続して決めているものの、その補完は彼女にしかできない。

 

 俺が思い出せないような記憶も、上辺だけとはいえ知識や経験として蓄積している。

 中途半端な俺の指針への肉付けも、シールフがやってくれている。

 

 シールフの野望(・・・・・・・)は俺のそれとは、全くの別に存在している。

 個人的には気が進まないが……"それ"が彼女の望みなので、協力はするつもりだった。

 

 

 俺は立ち上がって懐から紙を取り出し、ボードへと広げて貼り付けた。

 

「えーでは、これが"シップスクラーク財団"の概略草案となります」

 

 そこには組織図の他に象徴(シンボル)となる絵図、各種事業の系統などが書かれている。

 

(この人らめっちゃ頭良いから、メモとかいらねぇんだよな……)

 

 ゲイル・オーラムはいわゆる持ち得る者であり、シールフも記憶周りは専門家(スペシャリスト)

 カプランも才能と鍛錬によって、誰よりも整然とした記憶術を修得している。

 

 陳腐でありふれた言葉ではあるが、やはり"天才"ってのは世の中いるものなのだ。

 

 政戦両略にして文人でもあり、時の先鋭文明であるローマの(いしずえ)を築いたカエサル然り。

 様々な分野で文化的・学術的に飛躍した発想と、卓抜した思考を持ったダ・ヴィンチ然り。

 悪魔的な頭脳をもって常人の理解の外にあり、天才が認めた天才たるノイマン然り。

 

 古今東西の歴史において、人類と文明を大きく飛躍させてきた傑物達。

 異世界において該当するような人物が、俺と共に道を歩んでくれている。

 

 

「とはいえ最初は馴染みがなく規模も小さいので、"商会"名義で設立する予定です。

 まずは慈善団体としてスタートし、段階的にありとあらゆる業種を網羅していく――」

 

 一次産業から四次産業まで、最終的には超弩級巨大複合企業として名を刻む。

 テクノロジーの系統樹を"特許"として管理し、広く伝えて在野の優秀な者を見つけ引き込む。

 

 

「財団はその内側において"フリーマギエンス"を推進し、また帰属する形をとっていきます。

 密かに着実に布教し伝播させていく……これは半分は実利に基づき、半分は拠り所となる――」

 

 言うなれば無色の宗教とでも言えばよいだろうか。

 陰謀論が飛び交い、その実体はいまいち判然としない。

 誰もが自由に信仰し、気付かぬ内にフリーマギエンスに傾倒し、知らず啓蒙しているような。

 

 そうやって拡がっていく輪が本質。宗教らしくない宗教だからこそ浸透する。

 

 一方で別の宗教を崇拝しながらも、他方でその隙間をフリーマギエンスが占める。

 生活に寄り添い密着し、文明を豊かに促進させ、それが空気のように当たり前になる。

 

 かつての大魔技師が開発した魔術具の数々。

 彼らがもしも信仰を広めていれば、たちまち浸透していたに違いない。

 

 

「既に学園で種を撒き、芽も出てきています。あとはそれらを咲かせ、世界中で広げていきます」

 

 部活動として発祥させたフリーマギエンスも、既に実感を得る段階に入ってきた。

 卒業した学園の生徒達は各国へと戻り、自然と布教していくことになるだろう。

 

 そうした伝統と存在は学園に残り続け、後輩達もまた順次巣立っていくと素晴らしい。

 流れは大きなうねりとなって、世界中を席巻していくのである。

 

 

「それと慈善団体としての最初の試みは、まず"私有教育機関"の設立ですね」

 

「孤児や奴隷などを集め、無償で教育をするのでしたね」

「要するにィ、我々の色に染め上げるってぇワケだ」

 

 後天的教育というものは、大なり小なりそういう側面を持っている。

 

 一流スポーツ選手やプロ棋士、バレエや絶対音感などの多くがそうであるように。

 親の意向と協力によって幼少期から育てられ、その中でさらに勝ち抜いて大成していく。

 

 一般家庭の子が、日がな遊んでいる中で、家庭教師や塾通いで優秀な成績を修める。

 さらに勉学に励み続け、ゆくゆくは官僚であり高給取りとなるように。

 

 国家から人種まで……あらゆる環境に曝されて、人間は多種多様に育っていく。

 そうやって人格であり、価値観であり、能力が構成されていくのだ。

 

 日本でも海外でも――異世界であっても、後々の為の英才教育は基本中の基本となる。

 さらには宗教を根本に置いた学校も、ミッション系を始めとしてさほど珍しくもない。

 

 

「否定はしません。超極端に言ってしまえば洗脳ですが……人間なんて皆そんなもんでしょう。

 それが個人であったり社会であったり己の欲得ずくであったり、何かしらに支配されているのが常です。

 まぁ図らずもプラタがお三方の弟子として育っているように、人生の一助となるような感じで――」

 

 現代的な高等教育を(おこな)えば、"自由な魔導科学"という考え方はどのみち自然に根付くハズ。

 異世界にとって異端であるがゆえに、それは大きな独自(ユニーク)性が保たれる。

 

 なるべく年若い子供を優先して、世界中から集める。

 資金的に余裕がでてくれば、単純労働力として奴隷を買ってもいいだろう。

 

 いわゆる手に職をつけさせる。

 知識や技術が何世代も継承されていく体制にする。

 工業的な面は当然として、ゆくゆくは老舗とする料理などでも……古き良きが受け継がれていく。

 

 温故知新(おんこちしん)――旧きをたずね、新しきを生み出すことも忘れぬように。

 

 

 


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