異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~   作:さきばめ

99 / 539
#84 前哨戦 III

『そうさせてもらおう、ベイリル選手を希望する!!』

 

 会場の誰もがその言葉を呑み込むのに、多少なりと時間を要した。

 最初からスィリクスにとっての本番(・・)はそれだけであった。

 

 先の2戦は彼にとっての前哨戦に過ぎない。

 もっとも初戦では負け、二戦目もたまたま勝ちを拾えたものの……。

 この三戦目の為だけに、前哨試合(エキシビション)での見世物になることを良しとしたのだった。

 

 

『スィリクス会長、ベイリル選手は試合の出場者です』

 

 そう最初に呈したのはハルミアであった、当然百も承知のスィリクスは返答する。

 

()会長だよハルミアくん。その言葉はもっともだが、男には引けないことがあるのだよ。

 私はこの場で諸々を呑み込んで言っているのだ。無論、彼がどうしても拒否するのであればそれは仕方ない』

 

 非常識なのは重々承知の上で、この場に残って主張している。

 だからベイリルが……彼が断るのであれば、甘んじて受け入れるしかない。

 

 しかしスィリクスは、きっとそうはならないという確信に近い信頼があった。

 

『いやーさすがにどうでしょう。賭け率(オッズ)にも問題が――』

 

 ベイリルが負けるという想定は――ハルミアの頭にもオックスの頭にもなかった。

 ただ一戦交えれば多少なりと疲弊するし、まして一試合目の選手である。

 賭けがあるというのに、ハンデを背負わせるというのは容認しにくい行為だった。

 

 

『俺は構いませんよ』

 

 灰黒髪に碧眼の男が、入場口より……拡声具もなしに会場中に快諾の意を通した。

 そうなると勝手に盛り上がるのが、観客という群集心理である。

 まして本人が納得ずくのことであれば、オックスとしてもそれ以上言えることはなかった。

 

『感謝しよう』

 

 スィリクスはそれだけ言うと拡声具を、オックスのほうまで投げ返した。

 全力で戦う以上は、拡声具一つとて邪魔になると判断したゆえ。

 

『これは……なかなかに困ったことになりました。しかしこれも醍醐味かあ!?』

 

 オックスはもう開き直って、実況を開始するしかなかった。

 

 

『――お二人はやる気のようですし、もう他人がどうこうできる状況ではないかも知れません』

 

 2人を知るハルミアの言葉。相対する2人の(おとこ)

 

『仕方ない、前哨戦第二試合――スィリクス前会長対ベイリル選手!!』

 

 魔術防壁による結界が張られると、試合場の声は観客席には届かない。

 するとスィリクスとベイリルは互いに距離を保ちながら、円を描くように歩き出す。

 

 

「もはや今更だ、貴様の前では恥も外聞も完全に捨て去ろう」

 

 ベイリルは何やら話したげな、スィリクスの自由にさせてやる。

 

「私の人生設計は完璧だった――完璧のつもりだったが、お前が……お前たちが来て変わった」

 

 今までスィリクスは自分に対しても他人に対しても、その向けるべき意識がズレていた。

 己自身の矮小(わいしょう)さというものを、これでもかと思い知らされた。

 

「学園の慣例を無視し、自由気ままに活動し、生徒会の権威を(おとし)めた忌むべき(やから)――」

「……俺は貴方のことは、まぁ嫌いではないですよ」

 

 涼しげに返すベイリルの偽らざる本音に、スィリクスの感情が白波立つ。

 

「そういうところだ! 私ばかりが空回りして……いっそ反目し合えればどれだけ楽だったか」

 

 

 もはやスィリクスは単なる愚痴を零すように、後悔と怨嗟を垂れ流す。

 

「ルテシア副会長には(そで)にされたし……卒業してからの進路すら教えてくれなんだ」

「やっぱり好意を持っていたんですね、ルテシア先輩に」

 

 ルテシアからすれば、スィリクスは扱いやすい人だったのかも知れないが――

 と、節々の対応や主導権の取り方を見る限りではそう思っていた。

 

「ハルミア庶務もお前を選んだ」

「……ハルミアさんも狙ってたんですか」

 

「入学初日から、我々が苦慮していたカボチャをあっさり手懐けるし……」

「そもそも生徒会からの依頼でしたけどね」

 

「製造科の連中は、特に好き勝手やるし……」

「一応学内法規は守っていた――ハズです、多分」

 

「遠征戦においても華々しい戦果を挙げて……」

「スィリクス前会長も村を救った功績、ご立派なものでしたが」

 

「スポーツやらゲームやら、よくわからない祭りや行事を私的に(おこな)い……」

「できれば正式に認めてもらって、大々的にやりたかったんですけど」

 

「学園はお前たちが作ったものでいっぱいだ……いやそれ自体は別に活気があっていいんだ」

「――ありがとうございます」

 

 

 ついには足を止めて、ブツブツと気落ちした様子となるスィリクス。

 

「まだまだ学びたいことがあったのに、魔導師どのまでお前たちの元へ行ってしまった」

「それはごめんなさい」

 

「ガルマーン教諭も学園を去ってしまった」

「そっちは関知していないですね。帝国へ戻ったと風の噂には聞いたが――」

 

「魔導コースも英雄コースもなくなった……するとどうだ、皆がお前たちの教えに染まっていく」

「そこまでは意図してやったわけではないですがね」

 

「お前たちばかり……私はすっかり道化だ、お飾りだ!」

 

 

 スィリクスは手の内にある2本の剣の片一方を構え、残る1本をベイリルへ投げよこす。

 そして闘志を剥き出しに戦士の形相で、明確な感情を込めて叫んだ。

 

「ゆくぞ、ベイリル。私は貴様を……いやお前を倒し、これまでの己と訣別(けつべつ)する!!」

 

 不要だとばかりに、ベイリルは剣をその場の地面に突き刺してから薄く笑って応える。

 

「えぇスィリクス先輩、その意思――受け止めましょう」

 

 

 ハイエルフ種に恥じぬ魔力の高まりが、スィリクスの肉体を駆け巡る。

 前二戦も本気だったが、感情の昂ぶりが比べ物にならぬほどだった。

 

 スィリクスは魔術士にしては珍しく、四属全てを使いこなすことができる。

 一つ一つの威力は高くはないが、短い詠唱で剣技と組み合わせる戦型(スタイル)

 魔術を使う今こそが、正真正銘の全力となる。

 

「風よ――炎よ――岩よ――氷よ――」

 

 浮かんだ4色の魔術と共に、スィリクスは飛び出した。

 "風弾"が、"炎球"が、"岩礫"が、"氷柱"が、順次襲いかかっていく。

 

 しかしベイリルの"風皮膜"と、その下の"圏嵐装甲"を破るには至らない。

 四属魔術の全てが、見えない風の鎧によって受け流され……さらには砕かれる。

 

 

 ベイリルはスィリクスの出掛かりの膝を、右足で狙撃(スナイプ)していた。

 そしてそのまま左腰の()()()()()()へと右手を伸ばすと、居合の要領で抜き放つ。

 

真気(しんき)――」

 

 腰に添えた左手の人差し指と、親指によって作られた輪っか。

 存在しない鞘から、収束する風が一瞬で形成されると、一呼吸の内に抜き放たれる。

 "風皮膜"に砕かれた氷破片の入り混じった風の太刀が、スィリクスの肉体を通過した。

 

発勝(はっしょう)

 

 その言葉と共に"太刀風"を納刀した瞬間、スィリクスは血を噴き出し膝だけで立つ。

 

 

 ――"無量空月"。

 サイズ可変自在の恒常的な風の剣を作り出し、敵を斬り伏せる術技。

 原理は素晴らしき風擲斬(ウィンド・ブレード)と同じ、個体空気と真空層の圧差風刃。

 

 切れ味(にぶ)く風の棍棒のように打ち据えたり、風の内に魔術を纏わせる。

 さらには消費を抑える為に一瞬だけ形成し、居合のように切り捨てたのだった。

 

 

「ぬっぐぅ……手心なき一撃、感謝しよ……ぅ――」

 

 スィリクスは倒れ、ベイリルは右腕を振り上げた。

 

『動いたと思ったら一瞬で決着! けっちゃぁああああく!! 解説のハルミアさ――』

 

 ハルミアはベイリルに手を振られてるのに気付いて、すぐさま実況席から跳んでいた。

 

 それなりの高さがあったが、全く躊躇した様子はなく……。

 立方体に構築されている魔術防壁の、直上吹き抜け部分から着地する。

 

『あっ……まぁそうなりますね、派手に出血してましたし』

 

 

 ハルミアは集中する為に、ポケットから取り出した赤フレームのメガネを掛ける。

 そしてすぐにスィリクスの応急処置を試みて、傷を塞いで血を止めてしまった。

 

『二人の因縁は詳しくはわかりませんが、男の意地のようなものは垣間見えました』

 

 ベイリルは肩を貸すようにスィリクスを担ぎ上げると、共に一時退場していった。

 

 

『前哨戦はこれにて終了し、しばらくしてより第一回戦を開始いたします!!』

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。