ところでめちゃくちゃ今更なんですが、指揮官おじさんが地の文で喋っている時、同様の内容を確かに伝えたり考えたりはしていますが、その文面通りに声を発しているわけではありません。もっと指揮官っぽさを出しています、多分。
第一部隊が突入を開始して数分。S02地区一帯を治めていた支部周辺は、無事鉄血の手から人類の手に移し渡された。よし、とりあえずドローンで確認出来る範囲に動いている鉄血人形は居ないっぽいな。先ずは全員に状況終了の旨を伝え、被害状況の報告をさせる。
『第一部隊、M16姉さんのダミーが1機やられました。その他は健在です』
『第二部隊、M1911のダミーが1機沈黙、他は大丈夫だよー』
『第三部隊、私と416のダミーが1機ずつ、ナインのダミーが2機やられたわ』
やはり第三部隊に一番負荷がかかってしまったか。AR小隊の合流がもう少し遅ければヤバかったかもしれん。よく戦線を持たせてくれた、後で労ってやらないとな。しっかし、M16のダミーがやられたってマジか。いくらオリジナルに劣るとは言っても、AR小隊のダミーは単純な作戦遂行能力であれば第三部隊のオリジナルを凌駕するレベルのはずだ。それが1機とは言えやられてしまったのは見逃せない。その時の状況を聞いておかなきゃな。
『ああ、見た事の無い鉄血人形がいきなり現れてな。変な浮遊兵器を使っていたが、そいつに防弾ベストごと持っていかれた。回避が間に合わなかった私の落ち度だな、すまない。まぁ速攻で返り討ちにしてやったけどな』
多分それハイエンドモデルだと思うんですけど。不意打ちを食らってから即返り討ちってなんだよ。怖いわ。しかし、ダミーとは言えM16を一撃で防弾ベストごと持っていくってちょっとシャレになってないぞ。その威力も勿論だが、あいつの反応が間に合わないってのは相当だ。これはマジでAR小隊が居なかったら危なかったかもな、流石はハイエンドモデルと言ったところか。量産型とは文字通り格が違うらしい。もしそんなのが大量にいたとしたらかなりヤバい。
さて、無事S02地区の支部は制圧できたわけだが、やっぱりちょっと腑に落ちない。M16のダミーを一撃で葬る破壊力を持つ人形にしては、些かAIのデキがお粗末に過ぎる。火力に特化したモデルと言われればそうかもしれないが、それであれば量産型AIに強い武器を持たせた方がコストが浮くはずだ。これは本当に推測でしかないが、もしかしたら鉄血側のハイエンドモデルも、I.O.P社製の人形と同じで自我を持つタイプの可能性がある。そして同じように最適化工程を踏む必要がある、と仮定すれば現状に一番しっくりくる。強力な武器を持っていながら、それを活かすための戦術を持っていない。そのアンバランスさに、この説だと理屈が合う。
もしそうであれば、今戦場に転がっているハイエンドモデルは、強引な例えではあるがうちのM4A1と同じ立ち位置ではないかと推測できる。つまり、あくまでそいつは現場での指揮官。兵を直接動かす立場ではあるが、頭を使うポジションじゃない。
そもそも、S02地区に量産型を集めて奇襲を掛けたことにだって何か目的があったはずだ。気まぐれに配下の人形を集めて、たまたま近場の地区を襲ってみました、ではちょっと筋が通らない。S02地区はクルーガーの言を信じるのなら、今まで鉄血人形がほとんど目撃されていなかった地区である。たまたま、ということであれば他の地区、それこそ周囲に大量に鉄血が居たうちの支部に来てもおかしくない。この地区にわざわざ量産型を結集させ、奇襲を掛けた経緯が存在するはずなのだ。
うーん、分からん。というか俺に分かる訳が無かった。とりあえずこの仮説はクルーガーに報告がてら後でぶん投げておこう。現場での戦闘は俺が仕切るが、全体的な舵取りはアイツの仕事だ。ただ高確率で言えることは、ここのハイエンドモデルが黒幕じゃあないってことだな。もっと上の方に頭を使ってるやつが居るはずだ。そいつを引き摺り下ろさないことには解決とは言えない。全く面倒くさい、もうちょっと給料上げてもらおうかな。
とりあえず現場は現場で出来ることをやろう。生き残りの人間なり人形なりが居れば多少話も聞けるだろうが、まぁこの有様じゃ期待はしない方がいいだろうな。そういえばぶっ倒したハイエンドモデルは今どうなってるんだろうか。完全に破壊しちゃったのかな。あ、こらSOPMODⅡ、鉄血の人形を解体して遊ぶんじゃありません。
『コアをぶち抜いたから機能は完全に死んでると思うぞ。電脳の方は生きているかもしれんが』
いやぁ、流石である。実際の戦闘を見ていないので何とも言えないが、ハイエンドともなればその耐久性や運動性能も量産型とは違っていると見ていいだろう。しかも初見の人形だ。そんなやつのコアを迷い無くブチ抜ける辺り、こいつらの段違いな性能を改めて痛感する。誰だこんなクレイジーな人形育てたの。俺か。SOPMODⅡはブーたれるのをやめなさい。
何にせよとりあえず目下の脅威は去っただろうから、後片付けに入ろう。第一部隊はハイエンドモデルの遺骸を回収しといてくれ。本体が難しそうなら首から切断して最低限電脳だけは持ち帰るようにして欲しい。大した情報は出てこないだろうが、そいつの通信ログくらいは手に入るだろう。どんな指示が下りていたのかが分かれば今後の対策も打ちやすいしな。第二部隊と第三部隊は共同して生存者やその他情報の探索に当たってくれ。生存者の探索は第二部隊が中心で頼む、ドラグノフが居た方が何かと話が早いだろうからな。情報に関しては司令室のPCが無事なら御の字なんだが、まぁ普通は壊すだろうしこちらもあまり期待は出来そうにないか。あと、室内に入るだろうから流石にドローンが追従出来ない。映像が途切れるから通信は常に入れておいてくれ。俺は周囲に敵影が無いか念のためドローンで確認しておこう。屋内に潜んでいる鉄血人形ももしかしたら居るかもしれん。量産型にそんな知恵が働くとは思えないが、一応油断だけはするなよ。
『了解。そんじゃお邪魔しまーす、っと。あんまうちの支部と造り自体は変わんないね』
『どこも似たような造りなんですかねえ。司令室はあっちかな?』
『そういえばドラグノフさん、ここにはどれくらいの戦術人形が?』
『私も全員を知っているわけじゃないが……少なくとも10体以上は居たと思う』
えぇー。うちより多かったのかよ。ずるい。
『うう……私ここで待っててもいい……?』
ダメに決まってんだろ。
『いいわけないでしょ。ほら行くわよ、さっさと歩きなさい』
『うわー、業務用の自律人形も全部メッチャクチャだね。あ、配給落ちてた!』
『これじゃ生存者は期待できそうにないわね……ナイン、拾い食いしないで』
ナインはナインでブレないなこいつ。
『えーっと、ハイエンドモデル……あ、あった。多分これですね』
『改めて見ると結構デカいな。SOPMODⅡ、頼めるか』
『はいはーい! サクっとやっちゃおー!』
『アンタ、そんなのどこから出してきたのよ……』
こっちは屋外だからドローンでその様子が確認出来る。解像度は高いが距離が遠いのでその詳細までは見えないが、周りに大量に転がっている鉄血人形と比べると二回りくらいでかいな。その周辺には見た事も無い兵器が複数散乱している。多分あれがM16のダミーを撃ち抜いた浮遊兵器というやつだろう。ついでにあれの回収もお願いしておくか。ペルシカリアに回せば何かこう、上手い感じにしてくれるかもしれん。俺は戦いに関して多少の心得はあれど、こういう技術面はサッパリだ。餅は餅屋、専門家に任せるに限る。
『指揮官、聞こえる? 司令室らしき場所には着いたけど、もう中身は滅茶苦茶よ、生きてる人間も機械も見当たらないわね。グリフィンの制服を着た死体があるけど、多分これがここの指揮官じゃないかしら』
UMP45の声からは、特別な感情は読み取れない。ただ見た限りの事実を伝えているだけにも聞こえる。流石特殊部隊ってところか、死体を発見した程度で取り乱す程軟な連中ではないらしくて何よりである。しかしまぁ、どう滅茶苦茶なのかは見えないのではっきりとは分からないが、UMP45が言うくらいだからそれはもうハチャメチャな状況なんだろう。普通に考えて、鉄血人形に捕虜を取るとか交渉するとかいう理由も必要性もないだろうから、まぁ殺すしかないわな。こりゃ現地の戦利品獲得はほぼ空振りに終わりそうだなあ。
『……待て! 今、声が聞こえなかったか?』
『へ? マジ? アタシ何も聞こえなかったけど』
『私も聞こえなかったです。気のせいでは?』
『いや……あっちは備品倉庫だったはずだ、有り得るぞ!』
『ちょ!? ドラグノフさん!?』
『あーもー! 隊長はアタシなんだけどなー!?』
『45姉、どうするの?』
『放っといていいでしょ、敵性反応はもう無さそうだし』
『ふぁ……じゃあ後はよろしく……』
『何がよろしくよ。また指揮官にはたかれるわよ?』
『……うう……じゃあもうちょっとだけ頑張る……』
うーむ、騒がしくなってきたな。というか戦闘中ではないとは言え、一応今も作戦行動中のはずなんだが。生き残りがいるかもしれないというドラグノフの気持ちも分かるが、独断先行はよろしくない。後でちょっとお話しなきゃならんな。減点1点。あと416は意趣返しのつもりか知らんが、G11を働かせるのに俺を引き合いに出すのはどうなんだ。いやそれで言うこと聞いてくれるなら安いモンなんだが。
『おい! 誰か生き残りは居ないのか!? ドラグノフだ! この支部は奪還したぞ!』
恐らく備品倉庫のドアを蹴破ったのだろう。バカン、という派手な音とともにドラグノフの叫び声が通信機から響き渡る。うーん、敵が潜んでいる危険性は低いとは言えその動き方はどうなんだ。この支部でろくな教育を受けていなかったことは分かるのだが、あいつちょっと基本的な所から教え込まないとダメだな。あのままじゃ部隊を無駄に危険に晒してしまう。
『ちょっとドラグノフ!? 勝手に行動しなうわあっ!?』
『うわああああああああ助かったにゃあああああああああ!!!!』
『うるっさ! ちょっ何!? 飛びつくなぁ!!』
うるっせえ! 通信機越しだがめちゃくちゃな大音量である。あまりの騒がしさにあのスコーピオンが気圧されている。ボリュームでアイツが負けるとはこれまたレアなシーンだな。
『指揮官! 生き残りの戦術人形を発見した! m45とIDWの2体だ!』
あー、うん。ドラグノフがこれまた大音量で探索の成果を報告してくれているが、お前あとでちょっと話がある。生き残りが居て、潜んでいる敵が居なかったのは結果論に過ぎない。ドラグノフだけが死ぬならまだいいが、下手をすれば後ろのスコーピオンたち第二部隊まで被害が及んでいる可能性があった。部隊を預かる身としては見過ごせない。
『指揮官ー! 綺麗に取れたよー!』
その声に導かれてスクリーンに目をやれば、そこには首から上を綺麗に切り取ったSOPMODⅡが、高らかに腕を掲げてドローンに大将首を映し出していた。うん、よくやったと言いたいところだが、それそんな嬉しそうにやる仕事じゃない気がする。
さて、目ぼしい戦利品としてはこの辺りかな。ハイエンドモデルの電脳と、生き残りの戦術人形が2体。もうちょっと無形報酬が欲しかったところだが、まぁ鉄血側もそこまで馬鹿じゃなかったということにしておこう。拾った人形はドラグノフと同じくうちの支部預かりにしたいところだな、少しでも戦力は増強しておきたい。まぁそれくらいは大丈夫だろう。っと、クルーガーには通信入れておくか。状況終了ってな。
『こちらでも確認した。よくやってくれた、礼を言う。生存している人形に関しては貴官の支部預かりとして異動させて構わない。ハイエンドモデルは後ほどそちらに回収員を回そう』
オーケー了解っと。あ、あとうちの部隊は引き上げるが構わないよな。流石に自分の支部を空けたままS02地区の防衛に長期間滞在させるわけにもいかないし、そんな余剰戦力は持ち合わせていない。あいつらも多少なり疲弊しているしな。
『結構。今のところ周囲に鉄血人形も確認出来ていない、S02地区には後ほど復興のための作業員と防衛用の戦術人形部隊をこちらから回す』
そりゃまぁ、ドローンで確認出来るだけでも結構な被害を受けているから、ここを即座に支部として再度立て直すのは無理だろうな。最低限の環境を整えなきゃいけない。空白地帯にするという手もあるにはあるんだが、現状、汚染もされておらず人が住める土地というのは割と貴重だ。人類の支配地域の拡大という意味でも、取れるところは取っておかないと長期的に見た時に苦しい。地方自治という名目でグリフィンが預かっている地区でもある以上はしっかりと管理下に置いておきたいところだろう。ま、そこらへんの政治的やり取りに突っ込む気はさらさらないが。
よーし、ってな訳で撤収だ。m45とIDWだったかな、新しく加わった2人は第三部隊のダミーが乗ってきた車両に乗せてくれ。帰ってきたらデブリーフィングと反省会だな、その後は祝勝会ってことで皆でメシでも食うか。
『指揮官、ちょっといいかしら』
おお? 416か、こいつが作戦行動以外で通信を飛ばすとは珍しいな。何かあったんだろうか。
『いえ、大したことではないのだけれど。司令室の残骸に紛れて栓の開いていないアルコールを見つけて。持ち帰ってもいいかしら』
いいね、ナイスだ。どうせそこの指揮官が貯めこんでいたアイテムの一つだろう、遠慮なく貰ってしまおう。そういえば戦術人形ってアルコールはイケる口なんだろうか?
『さあ。人形に寄るだろうけれど、私は好きよ』
いいじゃんいいじゃん。この支部始まって以来の大規模な作戦だったわけだし、帰ってきたらパーっとやろう。その時は416、お前も付き合えよ。
『ふふ、分かったわ。この416がお相手して差し上げますわ指揮官様』
先程までよりも幾分と柔らかい声が通る。こいつ自身、肩の力の抜き方ってやつをもしかしたら自分なりに学ぼうとしているのかもな。もしそうであればいい傾向だ。AR小隊じゃないが、何か娘が増えた気持ちになる。
このご時世、アルコールや煙草、珈琲などと言った嗜好品は非常に貴重だ。その中でもアルコールはまだ入手しやすい部類に入るので、きっとここの指揮官が好き者だったのだろう。幸い俺はジャンキーと言うほどじゃないが、好きか嫌いかと問われれば好きである。軍人時代でもそうだったが、仕事上がりの一杯と風呂上りの一杯ってなんであんなに旨いんだろうな。謎だ。
いやぁ、予想外の楽しみが一つ増えてしまった、よきかなよきかな。そういえばS02地区にアルコールがあるということは、もしかしたらこっちでも融通出来たりするんじゃなかろうか。カリーナ、そこらへんどうなの? えっ? 別料金? そんなぁ。
やったね指揮官、仲間が増えたよ!
S02地区の話は一旦これでおしまいです、以降はまた何でもない話を思い付いたら投下していきたいと思います。