戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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前回ネタが枯渇しそうだと書きましたが、めちゃくちゃ細かいのはいくつかあるんですよ。どう膨らませても1話分に満たないようなやつ。

そこらへんもどうにか繋ぎ合わせて続けて行きたいところですね。


14 -コピー・ファミリア-

 いつも通りの朝。いつもと違うのは、少しばかり頭が痛いのと全身に倦怠感を感じているところだろうか。が、別段調子が悪いという程ではないので今日も一日それなりに業務をこなそうと思っている次第。

 昨晩は結局最後の乱入者が思いの外粘ってしまい、睡眠時間が少々削られてしまった。グリフィンの前線指揮官というのは割と裁量権の大きい仕事ではあるのだが、物資状況はともかくとして頭数が少なすぎて裁量権を発揮するまでも無く俺が働くしかないというのがつらいところだ。ここでいう頭数というのは戦術人形じゃない、いや戦術人形も足りてはいないのだが、一番不足しているのは指揮官そのものだ。俺の代打が存在しないものだから、必然的に俺が休めない。クソブラックかよ。俺と一緒に最後まで飲んでいた後方幕僚様も現状代打が居ないため、彼女の負荷も相当なものなのだが、今朝挨拶を交わしたところ俺と違ってすこぶる元気な様子だった。これが若さというやつか。現実からは逃げられなかった。

 

 しかし、業務自体は着任当初と比べればかなり楽になっている。理由は単純、この支部周囲の鉄血人形をほぼ完全に掃討したからだ。先日のS02地区の奪還だって、うちの支部が地理的にいけるからという理由でウチが出張っただけであり、本来であれば管轄外である。というか、そもそもS02地区がしっかりしていれば余計な尻拭いをせずとも済んでいたのだ。余計な被害と仕事ばっかり増やしやがってこんちくしょうめ。既に死んでしまった指揮官を責めても仕方ないのは百も承知なのだが、ちょっとした愚痴を零すくらいは許して欲しい。

 

 そうそう、S02地区で確保した2体の戦術人形だが、一晩経っても症状に目立った改善が見られなかったため、少々強引な手段ではあるがAIの初期化を行うことにした。通信でぺルシカリアに相談してみたのだが、恐らく感情モジュールの暴走を危惧してAIが自閉作用を起こし、モジュールに悪影響を及ぼす可能性のあるほとんどの外的情報をシャットダウンしてしまうようになったとのことらしい。会話は一応成立するんだが、当時のことを聞きだそうとすればm45は途端に怯えだし、IDWは途端に騒ぎだす有様だった。戦線に立てなくはないが、いつ何時その地雷を踏み抜くか分からない。大きな不安要素を抱えたままでは戦闘はおろか教育すらままならない。AIを初期化してしまうと当然それまでの最適化工程もぶっ飛んでしまうので1%からやり直しなわけだが、あいつら2人ともダミーを使えないレベルだったので正直五十歩百歩だ。それならクリーンな状態で一から教育しなおした方が断然早い。丁度ドラグノフにも、色々と基本的な知識から叩き込もうと思っていたところだ。最適化工程に多少差は出てしまうが、座学ならそこまで問題ないだろう。

 

「おはよう指揮官。今日もよろしくね」

「今日もいい天気だ! ガンバロー!」

「指揮官、おはようございます」

「……ふぁあ……ねむ……」

 

 なんて色々考えていると、第三部隊の面々が司令室のゲートを潜っていた。今日は午前中に書類仕事を終わらせ、昼休憩を取った後にこいつらと射撃訓練の続きをやる予定である。しかし挨拶一つとってもこいつら個性的だなぁ。G11は立ったまま寝るな。起きろ。いや待て、よくよく考えてみたらこいつが午前中から司令室まで歩いてくるって凄いことじゃないか? 一体どんなトリックを使ったことやら。明日は槍でも降るんじゃかろうか。

 

「別に。指揮官に叩かれたくなければ起きろと言っただけよ?」

 

 さらりとネタばらしを呟く416。お前俺をダシに使うのやめろよ。仮にも同じ部隊の仲間だろ、ちゃんと我がの力で面倒みてやれ。ただ折角起こしてもらったところ悪いが、訓練や作戦の予定があればともかく、少なくとも今日の午前中は戦術人形たちに目立ったタスクが無い。ということでG11、もうちょっと寝ててもいいぞ。

 

「え、ほんと? やったぁ……指揮官ありがとう……えへへ……」

 

 別段、G11を贔屓しているわけではない。戦術人形はその個性は勿論、趣味趣向に至るまで実に多種多様である。G11のように惰眠を貪ることが一番の楽しみである者も居れば、ただ騒ぎたいだけの者、訓練に励む者、俺にちょっかいをかけてくる者等等、様々存在している。俺としては直接業務に差し障りが出ない限り、なるべく自由に過ごして貰いたいと考えている。それが巡り巡って作戦時のパフォーマンス向上にも繋がるからな。

 

「まったくこの子は……ああ、そういえば指揮官。昨日はごめんなさい」

 

 ニッコニコの表情で左右に揺れているG11を尻目に、416が突然の謝罪を繰り出してきた。昨日のことっていうと、もしかしてアレか。もしかしなくてもアレだな。ていうか記憶残ってるのかよ。あんな特大のダークネスエピソードに自分から突っ込んでくるとはこいつ化け物か。もしあの痴態を曝け出したのが俺なら恥ずかしくて謝るどころか話題に上らせることすらしないぞ。

 

「指揮官に付き合うと言ったのに飲み始めて直ぐに眠ってしまって……。普段ならあそこまでアルコールに弱くなることはないのだけれど、作戦後で疲れていたのかしら……」

 

 んん? おかしいな、俺と416の間で認識の齟齬が発生している。どういうことだろう、とちらりと視線を横にずらせば、そこには完全に無と化した表情に作り物の微笑を貼り付けたUMP45。

 あー、あーなるほどね、完全に理解したわ。そういうことね。こいつ酒が入って壊れたら完全に記録装置もバグるタイプだ。自覚症状が全く無いから、自分が酒に酔わされていることすら理解出来ていない。周りが何を言おうとも、自分の中では潰れて寝ているだけなもんだから分かるはずもない。ぶっちぎりでタチが悪い。ある意味で完璧な女だよお前。

 

 まぁ、ここは触れずにおくのが吉というものだろう。気にすることはない、と早々に話題を切り上げておく。朝一から希望が詰まっていないパンドラの箱に触れるのは勘弁だ。

 

 じゃあねー、という元気なナインの声を最後に、第三部隊の面々は司令室を後にする。G11に限らず、残りの3人も思い思いに今日の午前を過ごすのだろう。

 さて、俺は俺でやることをやらねばならない。作戦行動をはじめとした業務が落ち着いてきているのは事実だが、S02地区の件もあって今日は色々と俺の決裁が必要な書類が増えている。ちなみに、今日の朝に確認したところしっかりクルーガーから電子書類も届いていた。来月の支援物資の追加通知書のデータと、人形発注時にI.O.Pへ支払うコストを帳消しに出来るパスコードが3種。正確には帳消しではなくG&K本部が肩代わりする内容なのだが、うちとしてはどっちでもいい。

 こういうところが俺がクルーガーに信頼をおかずとも信用している証左だ。あいつはあいつで俺とは違う経歴を歩み、その分俺とはまた違った修羅場も潜ってきている。職業軍人と民間企業の社長じゃあ、その肩にのしかかる社会的なプレッシャーは比じゃないだろう。あいつも攻め手が上手いが、ギリギリのラインで守るところはしっかり守る。「自分から言い出した約束を反故にする」ことがどれだけの致命打となるかを理解出来ない男じゃないからな。

 まあ正直、この程度のご褒美は頂いておかないと俺も動くに動けなかったところもある。グリフィンで勤め出して分かったことだがこの会社、横の繋がりが馬鹿みたいに薄い。支部一つが管轄する地域も広い上に、業務用の自律人形、戦術人形、後方幕僚でそのほとんどの業務が支部内で完結してしまうのだ。より安全圏である支配地域の内地なんかでは複数の支部が連携して地方統治を行っているところもあるみたいだが、うちみたいな前線支部はそうもいかない。内情はどうあれ、同じ前線支部であったはずのS02地区の連絡先すら情報としてなかったのもここにある。良くも悪くも他所の支部と関わりを持つ必要性が無い。むしろ環境の差なんかが表沙汰になると余計なトラブルを招きかねない。うちの支部にタイプライターが支給された時も本部はどうか知らんが、少なくともうちの支部に無駄なクレームや陳情なんか一通も届いていない。そんな些細な情報、発信すらされていないのだろう。

 

 だが、それはそれでメリットもあるが、同時にデメリットもある。今回のように一つの支部が速攻で潰された場合、近隣の支部で連携が取れない。情報取得の手段を本部に一本化してしまっているせいで、情報の精度が高い分拡散の速度がどうしても犠牲になる。今までは鉄血側が纏まるなんてことがなかったからこれでもよかったんだろうが、今後はそういうところも見直していかなきゃならんだろうな。ま、そこら辺はクルーガーの手腕に期待しておこう。状況の変化を見逃すほど馬鹿じゃないしなアイツ。

 

 そうだ、折角だしこのパスコード、今日注文して使ってしまおう。救出した2体の戦術人形もAI初期化をかけるせいで最適化工程もリセットされるし、教育は同時に行う方が効率もいい。どっちにしろ頭数は確保しておきたかったからな、丁度いいところだ。しかし大丈夫なのかこれ、I.O.P社への電子申請はその選択内容によってかなりの物資が吹っ飛ぶ仕様になっているが、メールの文面を見る限り、このパスコードに発注時の資源上限は特に設定されていないようにも思える。

 

 ま、いいか。仮にミスだとしてもそれは設定していないクルーガーのミスだ。俺が気にするところじゃあない。とういうことでポチっとな。午前中に発注かけておけば明日には届くだろ。前回みたいに襲撃でオジャンになるなんて事態だけはやめて欲しいが、こればっかりは祈るしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官さま! 新しい戦術人形が到着したみたいですよ! しっかり3名のようです!」

 

 午前中にさっくりと書類の整理と決裁を終え、昼食を取り、午後にm45とIDWのAI初期化に立会い、そんで第三部隊の教練にも立会い、またメシを食い、新規の人形とm45やIDWの教育訓練をどうするかなとデスクで唸り、程よい眠気に襲われて就寝し、迎えた翌日。カリーナが新たな来訪者を確認し、その声に喜色を含んで報告してくる。よしよし、今回は人権なんちゃら団体に襲われることもなく無事到着したようだ。というか、何だかんだ俺が着任してから発注した新規の人形って今回が初めてじゃないか? 別に俺はコンソールをポチポチしただけで生みの親でもなんでもないんだが、果たしてどんな奴らが来るのか、ちょっと楽しみになってきたな。

 

 通してくれ、とカリーナの声に返答し、ニューフェイスの登場を待つ。前回と違い、今司令室に居るのは俺とカリーナの2人に加えてM4A1、M16A1、スコーピオン、UMP45の4体だけだ。昨日は訓練などもあって全員に召集をかけるのを忘れてしまっていたので、とりあえず朝方に声をかけ、各部隊の隊長格にだけ来てもらった。M16A1は何故か引っ付いてきた。なんでだよ。

 

 短い電子音が鳴り響き、司令室前の正面ゲートが開く。いよいよご対面というやつだな。開いたゲートから、3人分の影がこちらに歩を進めてくる。完全にゲートを潜り、お互いの表情までしっかりと読み取れる程度の距離に近付くと、彼女たちは一斉にその足を止めた。

 

 

 

 

 

「ダネルNTW-20だ。鋼鉄の壁であろうとも、この私が貫いて見せよう」

「はじめまして指揮官。このMG5は、今日からあなたのものだ」

「あんたが新しいボスか。シカゴタイプライターだ、夜露死苦!」

 

 

 どうしよう。なんかめっちゃ強そうなの来た。




強い(震え




一応、本作品内で登場する戦術人形は筆者が日本版アプリで実際に獲得している人形に限定しています。なので、日本版未実装の人形、筆者が取得していない人形は出てきません。

つまりネゲヴもPKPもMG4もPKも出ないんだ。すまんな。
もし今後出てきたらそういうことだと思ってほしい。
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