戦術人形と指揮官と   作:佐賀茂
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タイトルで既にオチている気がする。

今回場面はほとんど進みませんが、戦術人形について本作品内での独自要素が含まれます。
この世界ではこうなんだ、くらいで読んでいただければと思います。


16 -フルアーマーおじさん- 前

 うーむ、めちゃくちゃ疲れた。やはり片足を喪った状態で一気に5人の面倒を見るのは正直かなりキツい。継続するのはほぼ不可能と見ていいだろう。お勉強ならともかく、実戦的な内容となると今の状態じゃ俺の役者不足感が半端ない。かといってM4やM16を見る限り、人形に教官をやらせるってのはまだまだ難しそうにも思える。参ったな、割と早い段階でどうにかしないと今後規模が拡大した時に色々と追いつかなくなってしまう。新人を増やすペースを落とせと言われれば勿論なんだが、いくら一帯の安全がとりあえず確保出来たからとは言え、いつまでもその状態に甘んずるのはよろしくない。つーかそもそも、俺の采配で現状何とか誤魔化してはいるが、前提として戦力は全く以て足りていない。これっぽっちの人員で地域一帯の治安維持を図るなんて土台無茶である。AR小隊と404小隊という二枚看板が居るからどうにかなっているだけだ。属人的なシステムでは今後の拡大は見込めない。これは軍隊だろうが会社だろうが組織である以上は同様だな。

 

 新人5人の教育を一斉に引き受け、一夜明けた翌日。昨日は結局射撃訓練の後、俺がちょっと張り切ってしまったこともあって追加でドラグノフも呼んで作戦報告書を使った基礎知識の座学を行ったのだが、ダネルとMG5の2人はその過程でかなり最適化工程が進んだ。もうちょっと教え込めばダミーを2体操れるレベルにまで到達しそうである。トンプソン、IDW、m45もとりあえずダミーを1体操れるようにはなったが、どちらにせよまだまだ基本的なところから教え込んでいかなきゃいけない。幸先は良いが、道のりは長い。

 何体か教練を受け持って分かったんだが、戦術人形ってのは最初の飲み込みは皆例外なくかなり早い。ダミー1体を動かせるレベル程度であれば、教え方さえ間違わなければ文字通り一瞬で辿り着ける。そこらへんは改めて人間との違いを思い知った。ベースが電脳だから基本の吸収は恐ろしく早いのだ。

 ただ、俺基準で言うと新人に毛が生えた程度から半人前くらいのところから、AIによってその成長速度が徐々に変わってくる。同じ内容を教え込んでいるはずが、その習熟度に小さくない個体差が生まれてくるのだ。基本のつくりが同じ電脳のはずなのに、どうしてこんな差が生まれるのか、これが分からない。俺は技術者じゃないからなあ。

 

『あー、それは人形ごとに電脳のスペックに差異があるからだよ。人間と同じだね』

 

 そんな俺の疑問に答えてくれたのは、通信デッキ越しで眠そうにマグカップを啜る稀代の天才技術者、一枚皮を剥けば生活力皆無のダメウーマン、16Labの主任研究員ペルシカリアだった。相変わらずその顔に決して薄くない隈を浮かべて精力皆無の顔付きである。しかしながら、やっぱりこいつ顔がいい。相変わらずタイプの顔だ。世の中ちょっと不公平すぎやしませんかね。

 

 俺が今ペルシカリアに通信を飛ばしている理由は3つ。

 先日回収したハイエンドモデルの電脳と武器から何か有用な情報が得られていないかの確認、戦術人形に対する理解を深めるための質問、俺の義足に関する注文だ。

 

 先ず一つ目、ハイエンドモデルからの情報収集だが、結果から言えばこれは完全な空振りに終わった。というのも、I.O.P社が電脳の解析を行おうとしたところ、権限のない外部アクセスを拒否するプロテクトが発動したとのことだ。そのプロテクト自体は大したことがなかったらしい。非常に簡単な壁の一種で、その道のプロとは言わずとも、それらの技術をかじったヤツであれば早くて1分、遅くとも5分あれば突破出来るようなやつ。優秀な研究員が複数在籍しているI.O.Pの技術開発部門の連中であれば、それこそ数十秒で解析、突破出来るような代物らしかった。

 だが、それはアクセスを弾くのが目的のプロテクトではなく、その数十秒を稼ぐためのものだったらしい。プロテクトが発動した瞬間、電脳が物理的に焼き切れてしまい何の情報も得られないままショートしてしまったそうだ。おそらく、情報漏えいを防ぐために不正なアクセスが検知された瞬間、時間稼ぎのダミーと人為的なオーバーカレントを発動させるプロテクトだったのだろう。情報の削除や単なる防壁ならともかく、物理的に焼き死んだのでは手の施しようがない。無駄に凝ったコンプライアンス遵守の姿勢である。グリフィンにも見習ってほしい。国家がその役割を果たさなくなっているとはいえ法律はあるんですよ。あのヒゲ分かってんのかな。

 まあ出来なくなったことは仕方がない。一方、武器の方はI.O.P社では実装されていない技術が結構盛り込まれているらしく、研究員の皆も割とテンションが上がっていたそうだ。そりゃ鉄血工造自体はI.O.P社とそのシェアを二分していた自律人形業界の大企業だ。そんなライバル企業の技術がふんだんに盛り込まれているであろう逸品である、そのクチの連中なら喉から手が出るほど欲しい情報だろう。ここに関しては詳しい解析が終わり次第、現行の武器に何かしらフィードバックが出来るかどうか試したいとのことで、結構な時間を貰いたいらしい。そこに関して俺も文句はない。うちの支部がそれを抱えていたとしても宝の持ち腐れ以外の何物でもないからな。出来ることならその成果ってやつが有用であればうちに口利きしてもらいたいところだが、まぁそこはクルーガーに任せよう。俺個人で企業との取引窓口なんかやりたくない。

 

 で、ハイエンドモデル関連の話に一段落付き、戦術人形のことについて色々と質問を飛ばしていた時に得られた回答がアレだ。うーん、一般的な商品のようにかけるコストや出来栄えでブランド分けをするというのならまだ話は分かるんだが、話を聞く限りそういう前提でもないようにも思える。電子申請のコンソールでは確かに幾つかの選択によっては掛かる物資的コストが異なってくるが、それが出来上がるAIのランクに直接左右されているわけでもないらしい。どういうこっちゃ。

 

『銃も同じよ。全く同様の製造工程を辿っても不良品が出てきたり、頑丈なやつが出来たりするでしょう? AIの場合はそれが更に複雑かつ特殊でね、大部分はライン化されているけど、一部分はどうしてもハンドメイドみたいな仕上がりになるのさ。その内容までは社外秘だけれどもね』

 

 そりゃ当然だわな。自律人形の電脳作成工程と言えば、素人でも分かるくらいにはその企業のトップシークレットで然るべきだ。間違っても俺みたいな一般人に漏らしていい内容じゃない。

 

 で、更に話を聞くとどうやら俺の考えていた前提は逆だったようで、発注を受けてからランクを定めて製造するのではなく、発注を受けて製造して、電脳部分の出来栄え次第でリンクする銃器タイプやランクを決めているらしい。一部の例外はあるが、基本的にこのランクが電脳の優秀さと見て概ね問題ないそうだ。はーん、だからコンソールにもそこらへん曖昧な表記しかなかったわけか。人形の指定は出来ないが概ね選択内容に沿った人形が送られてくる、というのはつまりこういう事情があったわけだな。なるほどおじさん納得。

 じゃあ今回やってきた3人ってどれくらいの出来栄えのやつらなんだろう。ダネルとMG5は何となく成長が早そうだなーとは思ってるけど。

 

『……ダネルNTW-20にMG5、トンプソン? いやぁ、何というか……豪運だねえ……』

 

 やってきた人形のことを伝えれば、ペルシカリアは珍しくその表情に驚きの色を湛えていた。えっ何そんなにヤバいの?

 話を聞いてみれば、こいつら3人とも最高ランクの電脳にリンクされる武器種のようだった。マジかよ。電脳のランクはその性能において概ね4段階に分類されるらしく、3人とも最高位であるランク5の人形らしい。牛かよ。ただ、それを聞けばダネルとMG5の吸収が早いのも納得だな。トンプソンも同じランクのはずなんだが、AR小隊の教練が足を引っ張ってパフォーマンスを発揮出来ていないんだと思うことにした。

 とはいえ、俺としてはそのランクで人形に対する扱いを変えるつもりはない。全員しっかり一人前に育ててやるつもりである。むしろ出来不出来なんて人間教えてた頃から考えればあって当たり前だ。その程度で部下を選別するような輩になりたくないしなあ。

 

 しかし、しっかり全員を一人前に育てるには現状があまりにもよろしくない。教練が必要な数に対して、俺のパフォーマンスが完全に追い付いていないのだ。当然時間をかければ出来ることではあるんだが、じゃあその時間をどこから捻出するのかって話になる。別にプライベートを重視したいとかいう話じゃないが、睡眠時間や食事まで削り出すとそれこそ本末転倒だ。更にパフォーマンスが悪化する。

 ということで、いい加減俺の機動力を復活させようと思ってのペルシカリアへの相談なわけだ。俺自身が戦場に立つようなことはもう勘弁願いたいが、そうならないためにも戦術人形たちへの教育訓練は抜かりなく行っていかなければならない。そのためにはやはり五体満足が一番効率がいいのである。

 

『おっ本当かい? どうしようかな、君の元軍……失礼、元傭兵の経歴を思えば、機動力に優れる逆関節型なんかお勧めなんだけど。それか両足ドッキング式の四足歩行型にしちゃう? 頑強さと機動力を兼ね備え、耐重量性にも優れた一品だよ?』

 

 やめろ。普通のにしてください。途端にテンションが上がりだしたペルシカリアを宥めてこちらの注文を伝えていく。というかなんだよ逆関節とか四足歩行とか。俺は普通の人間だぞ。人形を改造するのと同じノリで俺の義足にあれこれ要らん性能を付け加えようとするのやめて欲しい。

 とは言っても、訓練とはいえ俺もそれなりに激しい動きはする予定なので、それに耐え得る義足にはしてもらいたいところだ。耐久性は外せない要素だろう。あとは筋肉と同じように多少のしなりというか、柔軟性も持ち合わせてもらえればよりグッドだ。軽量化もありだろうが、あまりに左右の足で重さの感覚が違うと慣れるのに時間がかかるし、咄嗟の動きがかえって出来なくなる可能性もある。現役時代以上の運動能力を求めているわけじゃないので、そこらへんは人間の足と同程度の重量に調整してもらいたい。

 

『それくらいでいいの? シークレットナイフとか飛び出すようにしなくていい?』

 

 だから要らないっつってんだろ。どこぞの格闘漫画かよ。キャリングハンドルはあってもいいかなとちょっと考えたが、現状義足をつけるとしたら膝下からになる。そんなところにあっても逆に取り出しにくい。やっぱり普通のやつでいいや。

 

『ちぇー、分かった分かった。でも普通に作るにしても、今の君に合わせたやつを作らないといけないから、一度身体測定はしておきたいかな。こっちにくる機会とかある?』

 

 なんでちょっと残念そうなんだよこの残念美人が。だがまあ、言ってることは至極尤もだ。製作するサイズは勿論、体格や筋肉量、足の長さなんかもちゃんと測っておかないとな。いざつけたときに真っ直ぐ立てないとかいう笑い話にすらならない事態は避けたい。

 俺が支部を空けてしまうことには少々不安が残るが、まぁなにも泊まりで行くわけじゃないし、半日くらいならカリーナが居れば十分基本的な業務は回せるだろう。周辺に新たな鉄血の存在も確認出来ていないし、逆に言うと今のタイミングでしかそんな時間は確保出来ない。善は急げとはよく言ったもんだ。というわけでなるべく近日中にその身体測定をしておきたいんだが、ペルシカリアの予定はどうだろうな。

 

『そういうことなら明日にでも早速来てもらって大丈夫だよ。君としても早く終わらせておきたいんじゃない?』

 

 ありがたい申し出である。言われた通り、こういうのは早く終わらせておく方がいい。思い立ったが吉日じゃないが、後回しにしていると忘れたりそれどころじゃなくなったりするからな。特に今は鉄血人形との言ってしまえば戦争中だ。準備出来ることは出来るうちにしとかなきゃね。ということで早速明日お邪魔させてもらうとしよう。

 

 いやあ、たかだか一民間軍事企業の前線指揮官程度が押しも押されもせぬ大大大企業、I.O.P社の技術開発部門主任研究員様とこうやって対等とは言わずとも、気兼ねなく話が出来るなんて普通は考えられないことである。間違っても俺個人の力じゃないが、折角持ち合わせたコネクションだ、使えるものは使っておかないとな。しかしただお世話になるだけってのも何だか味気ない、手土産でも持っていくか。確か配給物資の中に、ゲロ不味い珈琲色の泥水を乾燥粉末化させた代物が混じっていた気がする。ペルシカリアなら多分飲むだろ。俺をはじめとして基地の誰も口にしないので処分に困っていたところだ。

 

 さて、早速明日外出する手はずを整えておかなければ。カリーナには後で伝えておこう。それとは別に移動のための車両と運転用自律人形、あと俺の護衛も立てておかないといけない。右足は無事だから運転出来なくはないんだが、無駄なリスクを背負う必要もないしな。

 ふーむ、護衛には誰を選ぶか。会うのがペルシカリアということもあって連れて行くならAR小隊の誰かになるだろうが、長旅でもないちょっとした外出、それも俺の個人的な用事で4人とも連れ出すのもなあ。M4A1とM16A1は訓練でも一緒になったし、AR-15とは酒盛りもしたし、そうだな、SOPMODⅡにしよう。なんだかんだあいつとは最近話出来てないからな、ちゃんと部下には平等に接していかねばならない。

 

「指揮官ー! あそぼーー!」

 

 おおっと、噂をすれば何とやらとでも言うのか、司令室のゲートを潜って元気良く飛び出してきたのは明日の護衛をお願いする予定のSOPMODⅡであった。丁度いいタイミングだ、今お前と遊ぶことは出来んが明日はちょっと俺に付き合ってもらいたいことを伝えておこう。

 満点の笑顔を湛えながら車椅子に飛び込んでくるSOPMODⅡをまずは両手で迎え入れ、同時に右足で地面を後ろに蹴る。蹴り出された力は車椅子の車輪を動かし、SOPMODⅡの突撃の勢いをいい感じに相殺してくれる。最近覚えた圧力の分散方法だ。後ろに壁があると使えないのが難点だが、幸いこの司令室そこそこ広いしな。そうやって彼女を膝元に迎え入れ、頭を1、2度乱暴に撫で上げてやれば大体こいつは満足する。その隙を突いてグッと力を入れて押し戻せばちゃんと自立してくれるのでありがたい。

 

 立ち上がらせたSOPMODⅡに明日の予定を伝えると、喜色をあげて了承を返してきたのも束の間に、その表情を神妙な面持ちに変えて何かを考えるような素振りに移る。何かマズいことでもあるのだろうか。こいつは普段でこそおちゃらけている場面も多いが、腐っても優秀なAIを持つAR小隊きってのアタッカーである。俺の外出予定を聞き、俺では思いつかない不安要素を感じ取ったのかもしれない。

 

「……指揮官」

 

 やはり、俺の外出で何か問題が起きる可能性が高そうだな。何時になく真面目な顔付きのSOPMODⅡに釣られてか、俺も思考回路が一気に冷える。周辺に鉄血は見当たらない、支部の運営も短時間であればカリーナで対応出来る。うーん、カリーナへの負担が問題になるか? 仲間想いの彼女のことだ、そこまで想定していてもおかしくはない。あるいは、俺が把握出来ていない人形同士のトラブルなどもあるかもしれない。もしそうであれば今後の作戦に支障をきたす恐れもある、SOPMODⅡが何か掴んでいるなら情報の共有をお願いしたいところだ。

 

 

 

 

 

「それってもしかして、デートのお誘いってやつ?」

 

 とりあえずデコピンしといた。




SOPMODⅡちゃんはかわいいなあ。


指揮官おじさんの足、どっちにするか結構悩んでたんですが、多分彼の思考回路だとこうなるだろうな、と思ったのでこうすることにしました。
四脚おじさんとかちょっと見てみたかったんですけどそうは問屋が卸さなかったよ。

あとペルシカリアのキャラクターが掴みにくくて難しい。色々イメージと違ってたらすみません。この世界ではこうなんです。許してくださいなんでもしますから。


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