戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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いやあ、随分と長くなってしまいました。
一つのネタを語るがてら、細かいネタを差し込んでいくことでそれらの同時消化を図ったのですがどうでしょうかね。


18 -フルアーマーおじさん- 後

 いやー、戻ったら戻ったでそれなりに大変だった。業務自体はカリーナが上手く回してくれてはいたんだが、やはり指揮官決裁が必要な書類って多少なりとも毎日出てくるんだよな。分類は終わらせてくれていたものの、一気に目を通して半機械的に押印していくのをある程度繰り返しているとヒトは精神的に死ぬ。あとやっぱ半日とは言えカリーナに負荷を掛けてしまっていたのは本当に申し訳ない。物資の状況とか毎日見なきゃいけないわけだし、俺の仕事を肩代わりしてもらったからってあいつの仕事が減るわけじゃないもんな。反省。今度食堂で何か奢ってやるか。

 で、何か朝と同じく帰ってきたらまーたAR小隊の3人に睨まれたんだけどナンデ? SOPMODⅡにはちょっと俺の護衛についてもらっただけだし、それこそあいつがのたまうようなデート的要素なんて皆無だったんだが、何がどうなってそんな目で見られなきゃいけないのか皆目見当が付かない。SOPMODⅡはSOPMODⅡで何か不機嫌ではないもののいまいち不服そうな感じだったし、一体全体俺が何をしたというのだ。何もしてないぞ。何もしなかったのが悪だと言うのならそれこそお門違いだ。俺は何もする気も起こす気もない。健全第一。枯れかけたおじさんにそんな甲斐性を求められても困るんだよなあ。

 

 そんなこんなで義足が届くまでの一週間を過ごしていたわけなんだが、その間も不自由な身体に鞭打ってヒヨっ子たちの教練を行っていたり、カリーナにお小言を言われたり、G11が宿舎のダンボールで寝るのに飽きたのか、やたら俺に引っ付いてきたり、そこにSOPMODⅡが噛み付いたり、面白半分にナインが加わったり、まぁ退屈はしない毎日であった。幸いそんな平和ボケをかましたような日々を過ごしていても、やる時はやる連中だ。時々はぐれ鉄血人形がうちの地域に迷い込むこともあったが、その程度であればAR小隊を出すまでも無く、貴重なローリスクの実戦機会ということでうちの新人たちを前線に送り込んだりもしていた。

 

 そうそう、前線に送り込む人形というか部隊なんだが、ちょっとばかし編成を変えることにした。新人も入って数も増えたしな、そこらへんも適宜最適化していかなきゃいけない。

 AR小隊を擁する第一部隊、404小隊を擁する第三部隊は今のところ変動無し。部隊間で錬度の差は大きいものの、あいつらは現状うちのツートップだ。下手に新人を突っ込んでも連携に齟齬が生まれて結果パフォーマンスが落ちる。特に第一部隊は文字通り桁が違う、あの速度と精度についていくのは404小隊でもまだ無理だ。あれは完全に独立戦力として勘定した方がいい。投入するタイミングさえ間違えなければ、あいつらはそれぞれ単独で盤面の戦略をひっくり返すことが出来るジョーカーどもである。最大戦力をどう生かすかを考えれば、あの編成を崩すのは現時点では考えられない。

 じゃあどう変えたかと言うと、まずはスコーピオンが隊長を務める第二部隊、ここにダネルを加えた。コンセプトとしては中遠距離における打撃部隊だな。スコーピオンとM1911が前線のフォロー、哨戒に入り、後ろからM14、ドラグノフ、ダネルの3連砲撃によって敵部隊を壊滅させる役割を持たせる。個人個人の実力で言えばまだまだ発展途上だが、ライフル3丁、しかもそのうち1丁は特大の対物ライフルである。一瞬の破壊力だけであれば第一部隊すら凌ぐ火力だ。機動力と状況対応力を完全に殺した部隊ではあるが、その分ハマった時の殲滅力は目を見張るものがある。そもそも、そのハマる状況を作り出すのは俺の仕事だ。戦況に応じて打てる最善手が増えただけでも俺としては非常にありがたい。今までは第一部隊による戦術無視のゴリ押しも何度かあったからなあ。ああいうのはそれしかないと分かっていても心臓に悪い。

 で、同時に第四部隊を新設した。メンバーはトンプソン、IDW、m45、MG5の4名だ。暫定ではあるが、隊長は今のところ一番成長の見込めるMG5に務めさせることにした。ちょっと性格的に突き抜けちゃってるところもあるんだが、こちらの指示には素直に従うし意外と冷静だ。自身を駒に見立てて無謀な吶喊をしがちな部分も見えるが、そこは追々修正していけばいいだろう。

 この部隊はサブマシンガン3丁にマシンガン1丁という、完全なるバラ撒き要員である。直接敵を削るのも勿論だが、どちらかと言えば面制圧の側面が強い。その圧倒的な弾幕により、強制的に有利な局面を作り出すのが主な仕事だ。また、その中でもIDWは義体の運動性能がスコーピオン並に高いし、トンプソンに至ってはこちらが呆れ返るほどの耐久性を持っている。義体性能に任せた、これぞ由緒正しいゴリ押しというやつだ。

 第一、第三というあらゆる局面で投入が可能なユーティリティ部隊が二つ、そこに加えて長射程の狙撃部隊と弾幕にモノを言わせた制圧部隊が使えるようになったのは大きい。贅沢を言えば、更に偵察急襲アンブッシュなどを目的とした機動部隊を組み合わせたいところだな。ドローンで視野の確保は出来るが、どうしても融通が利かない場面も出てくるし、夜間だとほぼ視界が確保出来なくなる。そう考えるともう数体ハンドガンタイプの人形が欲しいところだ。ハンドガンは直接戦闘力、耐久力ともに低いが俊敏な機動力と迷彩性能を持ち、何より夜目が利く。痒いところに手が届く存在である、今の教育が落ち着いたら追加で発注も考えよう。

 

 そして大体一週間後、支部に荷物が届いたんだが、これがI.O.P社からではなくG&K本部からの郵送物だった。あー、そういえばそんなことも言ってたっけ。要望を出した俺自身がすっかり忘れてたわ。404小隊の面倒をクルーガーに押し付けられた時のやつだな。

 カリーナも呼んで開封してみれば、そこにはデジタルデータを保管するには十分な旧式PC、作戦報告書を印刷するための旧型プリンタ、あとインク。その他雑多な業務用アイテムが詰め込まれていた。よしよし、未だ十分とは言えないがこれでカリーナの業務負荷が更に減るぞ。というか今まで手書きの紙を束ごとにデスクに纏めていたってんだから今更ながら恐れ入る。通信機器や電子機器への信頼性が落ちているのは理解しているが、内務をオフラインで行う分にはやはりパソコンってのは非常に便利だ。効率が段違いである。司令室の通信機器との接続さえしなければ余計なトラブルも起こり得ないだろう。基本ここら辺はカリーナしか触らないから、スタンドアローンでの稼動でも何ら問題ないはずだ。

 半べそをかきながらお礼を繰り返してくるカリーナを適当にあしらい、セッティングなんかは悪いが自分でやってくれと伝えると、喜び勇んで台車と共に消えて行った。どんだけ嬉しかったんだあいつ。いやまぁ今までの劣悪な労働環境を鑑みれば無理もない話なんだけどさ。

 

 

 

 

「おおー! これが指揮官さまの、足……ですか!」

 

 そんなこんなで翌日。ついに本命の義足が届いたわけだ。I.O.P社のロゴが入ったダンボールに丁寧に梱包されてそれは送られてきた。義足本体と、取扱説明書というかスペック表かな、装着の仕方に加えて重量やら材質やらが記載してあるやつ。色合い以外は概ね人間の足と同じような構造をしていて、パッと見た感じ特に違和感は感じられなかった。説明書を見る限り基礎の部分は鋼鉄、後はアルミ合金、というかほぼマグネシウム合金だな、それとポリカーボネートか。その他細かい材料比率なんかも書かれているがメインはこの辺だろう。強靭性と柔軟性は十分確保しましたって感じだな。うーん、でもちょっと錆びとか怖いな。大丈夫だろうか。

 とか思っていると、どうやら3ヶ月から半年くらいのスパンでメンテナンスと調整に来て欲しい旨も添えられていた。まぁそりゃそうか、渡してはい終了って訳にもいかないもんな。しかしアフターケアまでしっかりしてくれるとは本当に頭が上がらない。本格的にお礼の品を考えておかなければ。後でカリーナにこっそり相談しよう。

 

 カリーナやその他人形たちに囲まれながら、俺はその義足を試着するために車椅子からその身を降ろす。格好としては座って長靴を履くような感覚だなあ。左足に添えてみると、どうも膝下よりも随分と長い。どうやら大腿部までジョイントを伸ばし、膝の可動性と耐久度を両立させた仕組みのようだ。ちょいとつけるのが大変だが、まあ頻繁に付け外しするようなもんじゃないし逆にすっぽ抜けても困る。これくらいが丁度いいんだろうな多分。知らんけど。

 接触部に一緒に送られてきた緩衝材を敷き、いざ装着。うん? ここはどうなって……ああ、回して調整するのか。カリーナちょっと説明書見せて。よっこいしょっと。

 

「立った! 指揮官が立ったー!」

 

 誰だ今の。SOPMODⅡかな。その掛け声やめなさい。なんとなく不穏な気がする。

 確りと地面に足をつけて立つのは実に何ヶ月ぶりか、うーむ、違和感がスゴイ。左足は特に痛くもないしちゃんとフィットしている感じだが、言い表しようのない不安が確証も無く過ぎってしまうのは、これはもうどうしようもないことだと思う。

 緊張した心持ちのまま、左足を一歩前へ。そして接地。うむ、グリップも十分効いている。少々のことでは滑ったりはしないだろう。

 そのまま、左足へ全体重を預けて右足を前へ。うん、問題なさそう。

 

 うおお、自分で歩けるってことがこんなに素晴らしいことだとは思わなかった。ヤバい、かなりテンションが上がってしまっている。落ち着け、落ち着くんだ俺。カツカツと、硬質の床を俺が歩く音だけがしばらく木霊する司令室。ちょっと小走りしてみるか。カッカッカッ。同じく規則正しい音が、先程よりも少し短い間隔で鳴り響く。

 

 うおー! たーのしー! ヤバい、おっさんらしからぬテンションになっている。自分でも重々分かっているのだが、この内側から止め処なく溢れてくる感情だけはどうにも制御し難い。戦闘機動をするにはまだまだ慣れが必要だが、少なくとも立ったり座ったり歩いたりの日常生活には何ら問題なさそうだと分かっただけでも大収穫だ。ありがとうペルシカリア。マジでありがとう。真面目にお礼を考えます。

 

「……ははっ! やったな指揮官!」

 

 感極まったかのように発せられたその声に振り向けば、M16A1をはじめAR小隊の連中が我がのことのように喜んでくれていた。何だよお前ら、なんでそんな嬉しそうな泣きそうな顔してんだ。冴えないおじさんが義足つけて歩いただけだぞ大げさな。まぁでも、折角喜んでくれているところに水を差すのも変な話だ。ありがとな、と短く謝辞を伝え、俺は一旦車椅子に戻るとしよう。

 

 ふぅ。よし、落ち着いた。あまり俺の個人的なことで皆の時間を奪ってしまうのもよくないからな。通常業務に移るとしよう。とは言っても、普段やることと言えば完全にルーチンワークとなっている書類整理と新人たちの教練くらいなものだからなあ、どうしたものか。平和なのはいい事なんだが、地域一帯を掃討してしまった以上、しばらくはこれといってやることがない。折角だし、午後は俺も射撃訓練くらいはしておこうかな。

 

「あっ、指揮官さま。説明書とは別に手紙みたいなものも入ってますわよ?」

 

 I.O.P印の入ったダンボールを片付けていたカリーナから声が掛かる。ふむ、恐らくはペルシカリアが俺に宛てたものだろう。手渡されたそれの封を切ると、中には読み通りペルシカリアからの手紙。色気も何もない真っ白な用紙にこれまた色気のない書き文字が並んでいた。

 

 内容は、義足についてのことが半分。残りの半分は、どうやら依頼ごとのようだった。

 I.O.P社とG&Kは良好な関係を保っているが、何も取引先はウチだけって訳じゃない。むしろ企業規模で言えば比較にもならない大手さんだ。戦術人形だけを扱っているわけでもないし、その取引先はごまんと存在している。基本I.O.P社はメーカーの立ち位置だから、取引先というのは卸し先が多い。で、その商品なりなんなりを輸送するには当然費用もかかるし、このご時世だもんで護衛を雇う必要も出てくる。何も脅威は鉄血人形だけじゃない。以前ウチが発注した新規の人形がやられたように過激派団体なんかも居るし、中には夜盗山賊じみた連中もいる。一言で纏めてしまえば、現代の社会機構からあぶれたアウトローだな。世界中が混沌としてしまっている最中、その数は数十年前よりも格段に膨れ上がっている。

 今回ペルシカリアから求められたのは、お得意先へ商品を輸送する際の護送任務だった。いくらか物資として報酬は出るし、出来高によってはプラスのインセンティヴも用意してあるらしい。いくら御社と弊社がズブズブとは言え、お互い企業に属する一個人がそんな依頼を出していいのかという疑問はあったが、どうやらこういう依頼のやり取りはクルーガーも認めているらしかった。他の支部でも日常的に受けてるんだってさ。どんだけ癒着してんだよこの二社。まあ普通に考えれば、前提としてI.O.P社とG&Kは業務提携を結んでいる。その中には人形発注のことだけじゃなく、こういう荒事対処も含まれているのだろう。そりゃまぁウチ軍事企業だし、さもありなんってところか。

 彼女の立場からすれば、別にうちの支部じゃなくとも直接クルーガーに掛け合えばもっといい内容で出来ると思うんだが、それを加味してもうちに依頼を飛ばしてくるってことは、まあそういうことなんだろうな。お得意様からのご指名だ、無下に突き放してしまうのもよくない。ペルシカリアとのパイプは俺の個人的事情もあって太く長く持っておきたいところだしな。

 

 ということで、この依頼は受理することとしよう。後で通信飛ばしとこ。どの部隊を向かわせるかだが、まぁ順当に行けば第三部隊だろうな。第一部隊にとってはお遣い程度にしかならないだろうし、第二、第四はちょっと錬度に不安が残る。それに加えて、点の破壊力を重視した部隊と面制圧を主とした部隊では護送とのかみ合わせもよくない。第三部隊には色々と経験も積んで貰いたいし、彼女たちにお願いしよう。

 

 しかしなるほどなぁ、G&K本部からの配給物資だけではどうにもカツカツ状態だったんだが、他の支部はこうやって外部から物資を獲得しているわけか。部隊数も増えてきたし、周囲に目立った脅威はないし、今後は支部の財政を賄うためにもこういう依頼も受けていった方がよさそうだな。あまりに内容がヤバいやつは断ればいいだけだし。その点、ペルシカリアからの依頼となればその信頼性も担保されている。上手くやれば物資も手に入るし、コネクションもより強固に出来るし、戦術人形たちの経験にもなる。いい事尽くめだ。

 

 

「あれ? 指揮官さま、まだ何か部品が入ってますよ?」

 

 手紙を読んであれこれ考えていたら、またもカリーナから声を掛けてくる。うーん、義足以外は特に注文したものもないし、何だろう。予備のパーツとかだろうか、結構複雑な造りっぽいし。あ、よく見たら手紙の裏面にも何か書いてるな。どれどれ。

 

 

 

 P.S.

 要望通り普通の義足にしたけど、一応アタッチメント式でコンバットナイフや拳銃サイズであれば搭載出来るハードポイントを大腿部と膝下に増設できるようにしておきました。

 

 

 

 ンッンンンン~~~~~~?




やっぱり彼女はやってくれました。
アタッチメント式であれば要らなければつけなきゃいい話だし、あまり強くも言えないのがニクいところ。

義足の前日に届いた荷物に関しては、第5話を参照ください。

さて、ついに機動力を復活させたおじさんですが、その足が活かされる時が果たしてくるのか。筆者にも分かりません。


あ、あと現状の部隊を纏めておくと、下記のようになります。
・第一部隊:M4A1 M16A1 M4 SOPMODⅡ ST AR-15 4名
・第二部隊:Vz61 M1911 M14 SVD NTW-20 5名
・第三部隊:UMP45 UMP9 HK416 G11 4名
・第四部隊:MG5 トンプソン IDW m45 4名

バランスが……バランスが悪い……!
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