戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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割と主だったネタは吐き出した感じなので、今後もちょいちょい不定期になると思います。


19 -大乱闘スマッシュリターンズ-

「えっへっへー! 指揮官見て見て! アタシってやっぱり強いよねー?」

 

 あー、はいはい。お前はうちの自慢の第二部隊隊長ですよ。強い強い偉い偉い。

 満面の笑顔を浮かべながら誇らしげに語りかけてくるスコーピオンにとりあえずの返事を投げ返しながら、俺は彼女と後ろの2体をぼんやりと見つめていた。

 

 何があったのかと言うと、先日スコーピオンの最適化工程が30%を突破したのである。

 戦術人形たちは、その成長度合いを最適化工程という物差しで可視化出来るのはグリフィンに務める指揮官であればおそらく誰もが知っている事柄だ。そして彼女たちはダミーリンクシステムと呼ばれる、自分と同型の人形を意のままに操るシステムによってその戦力を大幅に増すことが出来る。このダミーを動かすにはそれ相応に最適化工程が進んでいることが前提となり、大体30%を超えたあたりから2体目のダミーを操ることが出来るようになる。最適化が不十分な人形にダミーを操らせようとしても大体は上手く行かないし、一時的に動かせたとしても直ぐに動かなくなったり最悪エラー吐いて使い物にならなくなるから、結局最適化にあわせて逐次ダミーを増やすことにG&Kの規則ではなっていた。

 ちなみにダミーを作るには代用コアと呼ばれる、火器統制コアに被指揮管制モジュールを組み込んだ汎用アイテムが必要なんだが、これがまた結構お高い。財政にすっごい優しくない。厳しい。だがしかし、戦力の拡充に於いてこのダミーリンクシステムを使わない手はない。そして更に、ダミーを操る数が増えることで最適化工程がより一層進みやすくなるのだ。G&Kではダミーを増やすことを「編成拡大」と呼んでいるが、財政が許す限りはこの編成拡大を積極的に行うことが戦力拡大に向けての一番の近道である。一度作りさえすれば、ダミーの回収が出来ればオリジナルの人形と同じく、通常の修復が出来るのがせめてもの救いか。その点S02地区で拾ったドラグノフはキツかった。あいつダミーが完全にお亡くなりになってたから、結局うちの支部持ちでダミーを新しく作ったんだよな。

 

「やっぱりさー、より実戦的な訓練出来る方がアタシたちも成長が早い気がするんだよねー。指揮官には感謝しかないね!」

 

 ブイ、と、これまたいい笑顔を浮かべながら彼女はピースサインを嬉しそうに掲げていた。

 

 義足が俺の元に届いてから、早2週間が経とうとしている。俺はしばらくの間、リハビリという名の新たな日常生活と、落ちに落ちてしまったスタミナを少しでも戻すための自主訓練に多くの時間を割いていた。腕や胸といった上半身の筋肉は筋トレで多少カバー出来ていたが、下半身の筋肉と持久力だけは車椅子ではどうしようも出来なかったからなあ。義足に慣れるついでに支部周りをランニングしたりして、とにかく落ち込んだ足の筋肉量と肺活量の復元に勤しんでいたのである。

 義足に関してはすこぶる順調の一言に尽きる。ペルシカリアの悪ふざけで一部余計な機能が付いてはいたが、アタッチメント方式であったのが幸いして今まで一度も付けていない。付けなければ普通の頑丈な義足なので、まぁぐちぐちと文句を言うのは辞めておいた。ただでさえ好意に甘えている状態である、思うところがなくはなかったが、それを態々口に出して関係値を悪化させるほど俺は子供じゃなかった。おじさんでよかった。

 

 ちなみに、ランニング開始初日こそ一人で黙々と集中して走れていたのだが、何故か次の日からM16A1が一緒に走ることになっていた。なんでだよ。お前ら肺活量とか関係ないだろ。ていうかどこで知ったのよ。業務終了後にひっそり安全圏を走っていたはずなのに。その次の日はM16A1に加えてM4A1が一緒に走っていた。なんでだよ。3日目にはAR小隊と一緒に仲良くランニングしていた。もうおじさんちょっと意味が分かりません。

 あいつらと走っていると適度に会話を振ってくれるおかげで退屈はしなかったんだが、元々俺は自分を一人で追い込むタイプである。その方が集中出来るし。なので適当に哨戒任務とか入れて距離を離していたんだが、やっと一人で走れるなあとか思っていたら今度は何故かいつものスタート地点に416が居た。ナンデ? 指揮官に万が一があれば不味いので護衛がてら、と言っていたが、その心配をしないようにちゃんと安全が確保された周辺を走っているんだぞこっちは。ていうかAR小隊の時もそうだったがどこで知るんだこんなことを。こっそり監視でもされてるんじゃないかと余計な不安を感じてしまう。

 でまあ、416たちが一緒に走ることにデメリットはないものだからそのまま付き合ってもらってたんだが、416とM16が一緒に居るときはそれはもう空気が悪かった。あいつら勝手にスプリントレースし始めるし。もう面倒くさいから無視して自分のペースで走った。

 たまにナインが加わって賑やかなランニングになったりしていたが、結局G11は一度も顔を見なかったな。あいつのこういうところは嫌いじゃない。芯がブレないやつは好きだぞ、時と場合によるけど。

 

 そんなこんなで大体1週間も走っていれば、義足の概ねの扱い方は分かってくる。慣れてきたと同時、俺はAR小隊の訓練時と同じように、キルハウスでの遭遇戦訓練を教練に組み込むことにした。戦術人形全員をキルハウスに集めてルールの説明と、実演ということで俺とAR小隊4人で1回ずつやってみたんだが、まあ当然ながら全員に負けたな。特にSOPMODⅡには開幕20秒くらいか、俺が飛び出したところにドンピシャで合わせられて呆気なくキルマークを献上してしまった。昔っからそういう類の勘には優れていたやつだが、そこに技術と経験と知識が組み合わさればもう無敵の部類である。平地でのタイマンであいつに勝てる人間って多分居ないと思う。もはや意味が分からないくらい射撃も読みも正確だ、あんなのに狙われたら命が100個あっても足りない。味方でよかった。

 

 で、非常にカッコ悪い感じで実演を終えて、じゃあやってみようかということでその日はキルハウスの訓練に明け暮れていたのだが、俺のトータル戦績としては7割勝ちの3割負けくらい。AR小隊の連中にはもはや足元にも及ばないが、最適化工程が30%かそこらの連中にはまだまだ訓練では負けてられないなぁと感じたね。ただ、それでも最後の方では404小隊の4人を筆頭に何回かは負けてしまったんだが。特にG11はヤバい。SOPMODⅡとはまた別次元のヤバさを感じる。全力で気合が乗ったときのあのポテンシャルには凄まじいものを感じた。あの気合の1割だけでも普段から発揮してくれれば、こちらとしては非常にありがたいんだけどなあ。

 

 そうそう、遭遇戦訓練をやってみて大きな気付きを得たんだが、座学と射撃訓練だけではなくこういった実戦的な訓練を組み込むと、人形の最適化レベルが一気に伸びる。基礎の射撃訓練で銃器の扱い方を覚え、作戦報告書を使った座学で戦術を学び、遭遇戦訓練でそれらをリアルタイムに演算しながら実践することで、飛躍的に最適化工程が進むのだ。恐らく、今まで戦術人形の教育スケジュールを誰が立てても上手く行かなかったのは、こういった実戦的な訓練を組み込んでいなかったからだろう。よくよく考えてみれば、G&Kに限らず元々PMCは地方都市の内政を国から業務委託されている組織だ。蝶事件を境にその役割に変化が起きたとは言え、今までデスクワークとネゴシエートしかしてこなかった連中に私設軍の訓練を行えと言われてもそりゃ土台無理な話である。出来不出来、得手不得手の問題は当然ながら人間にもある。たまたま俺みたいな得手を持つ人間がG&Kの指揮官には居なかったんだろうな。

 

 そんな一幕もあり、先日見事スコーピオンの最適化工程が30%を突破したというわけだ。ちなみにM1911とトンプソンも30%を超えており、優れた電脳を持つ404小隊の連中は全員が50%を超えた。大体ここらへんから少々伸びが悪くなってくるのだが、まぁ元が優秀なあいつらだ、いずれそう遠くないうちにAR小隊と肩を並べられるまで育ってくれるだろう。IDWとm45に関しても成長してはいるのだが、他と比べるとちょっと遅い。これがペルシカリアの言ってたランクの差ってやつだろうか。まぁ大きな問題ではないので地道にやっていくことにする。

 一方、嬉しい発見があった反面、同時に問題も発生してしまった。それはM14、ドラグノフ、ダネル、MG5の4人についてだ。あいつらは扱っている武器の特性上、どうやっても遭遇戦訓練に参加出来ない。いや、正確には参加すること自体は出来るんだが、相手が死ぬ。もはやペイント弾とかいうレベルの話ではなく、どんな策を講じようともあいつらの弾が当たれば俺に風穴が開くか俺が蜂の巣になるかのどっちかだ。流石にそんなスプラッターホラーは御免被りたい。

 まあそんなわけで、あいつらは未だに最適化工程が30%に達していない。こればっかりはもう仕方がない、地道に鉄血をボコしていくくらいしか経験値が積めない状態である。人形同士でやらせれば問題がないようにも思えるが、ダミーでは流石に戦術的な動きは難しいし、オリジナルに万が一致命的な損傷を与えてしまってはそれこそ取り返しがつかなくなる。特にダネルとMG5はヤバい。対物ライフルとマシンガン相手に何度もタイマンを仕掛けて無事でいられるわけがない。そんなスーパーマンが居ればこの戦争はもうこっちの勝利で終わっているはずだからな。

 

「指揮官。物資輸送の依頼、無事終了よ~」

 

 物思いに耽っていると、司令室のゲートが開きそこから第三部隊の面々が顔を覗かせる。先頭を歩くUMP45の手にはひらひらと風にたなびく一枚の書類。どうやら依頼のあった輸送任務は無事終了したようだ。ご苦労さん、と一声労いを入れ、書類を頂戴する。うむうむ、しっかり目標地点まで護送できたようで何よりだ。

 ペルシカリアから頼まれた護送依頼以降、うちは結構積極的にこの手の依頼を受けるようにしている。報酬もまずまず手に入るし、様々なシチュエーションを戦術人形に経験させることが出来る。今回のような輸送や護送の場合はユーティリティ部隊を、戦線の後方支援や陣地構築など実戦的な任務に関しては第二や第四を向わせることが多い。支援作戦中はこちらから指示も出せないし、様子を見ることが出来ないのが玉に瑕だが、それでも万が一が起こらないよう、受諾する任務と向かわせる部隊は吟味に吟味を重ねているつもりだ。今のところ100%の成功率を誇っているおかげか、最近はうちの支部ご指名の依頼が飛んでくることもある。とは言っても、受ける受けないは報酬以前にしっかり情報を精査した上で決定するんだけどな。極端に報酬が高いものや事前情報があやふやなもの、全額前払いなどのいかにもな依頼は全て蹴っている。今のご時世、騙して悪いが、なんてことも有り得るからな、見えてる地雷に突っ込むほど俺は馬鹿じゃない。

 

 ピピッ。ふと、司令室の通信デッキが着信を報せる電子音を響かせる。んん? ヘリアントスか。なんだ珍しいな、何か緊急の依頼かな。もしかしたら第三部隊に出てもらうかもしれないので、下がらせようとしたところを一旦留め置く。G11、まだ寝るな。もうちょっと頑張れ。

 

 

『御機嫌よう、コピー指揮官。突然ですまないが、悪い報せだ』

 

 通信をオンにすれば、聞こえてくるのは冷静沈着な上級代行官の声。うーん、相変わらず取っ付き難いところも感じられるが、仕事に関しては信頼が置ける人間だと俺は思っている。俺に対しての心象は決してよくないはずだが、少なくともそういう心情を表に出すようなやつじゃないからな。仮にもクルーガーの右腕で俺の上司に当たる人物である、ここらへんの落ち着きはAR-15にも見習って頂きたい。

 で、開口一番なんだか不穏な空気だ。悪い報せということはその通りあんまりよろしくない内容なんだろうが、ヘリアントスに焦りのような感情は今のところ見られない。こいつはこいつでそこそこポーカーフェイス上手いからな、肝心なところで地が出てしまうところもあるが、逆にそれが出てないってことは、状況はよくないが致命的ではない、って塩梅かな。さて、一体どんな案件なのやら。

 

 

 

 

『現在貴官の第四部隊が支援しているS02地区の前線構築作戦だが、突如多数の鉄血人形が襲来し、第一防衛ラインを突破された。第二防衛ラインで持ち堪えてはいるが、こちらが手配した防衛用戦術人形が数機、大破している。鉄血人形の動きに統率が見られることから、ハイエンドモデルが混じっている可能性が高い。こちらも増援を手配しているが、貴官の支部からも至急部隊を向かわせてくれ。報酬は緊急任務相当で手配する』

 

 

 またS02地区かよ! 何なのあそこ! 呪われてんじゃねーのか!




第四部隊があぶない!! はやくたすけにいかなきゃ!!!!

仁 王 立 ち ト ン プ ソ ン
嗤 う M G 5



勝てるわ(慢心


ていうかS02地区は何なの(何なの

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