戦術人形と指揮官と【完結】   作:佐賀茂

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本作品における過去最多文章量。どうしてこうなった。

おじさんの危機なのに感想欄が平穏すぎて草生えますよ
皆もっと(おじさんの)心配して?

先に言っておきますが、今回割と好き勝手やってます。多分好き嫌いがとても分かれる展開だと思います。
でも筆者はこういうのも嫌いじゃないの。許して。


21 -AIはアイの現実を見るか?-

 どれくらいの時間が経ったことやら。支部を出てから、潜んでいた量産型の鉄血人形に目隠しされて両手を縛られたもんだから、景色も分からなければ時間も分からん。体感で言うと2時間くらいだと思うんだが、時計も見れないしそもそもつけてもいない、全然分かりませんでした。揺れと動きから恐らく車みたいなのに乗せられたので、少なくとも徒歩でサクっと帰れる距離ではなさそうだ。

 

「座れ」

 

 推定移動用車両から下ろされて程なく。背中に銃口の感触を突きつけられながら歩いた先、ようやっと目隠しを外されて目に入ったのはだだっ広く、瓦礫やら廃材やらが積み上がった空間だった。うーん、多分だけど廃工場か何かの跡地かな。日も暮れかけており視界がやや利きづらいが、いやに高い天井から夕日が僅かに差し込んでいる。屋根に当たるはずのトタンはその半分ほどが腐り落ちたり剥がれ落ちたりしていて、まぁ人間が住めるような場所じゃあなかった。

 支部に乗り込んできた銀髪人形さんの声に従い、廃材の上に腰を下ろす。椅子が欲しい、腰が痛い。喉も渇いてきたしちょっと腹も減ってきたな、まだ全然我慢出来るけど。水でもいいから飲ませてくれないかな、ちょっと捕虜に対する扱いがなっちゃいないんじゃないですかね。

 

「ふん。妙に落ち着いているようだが、貴様まだ自分が助かるとでも思っているのか」

 

 逆だよ逆。俺自身、俺の命に対しての執着なんてとうの昔に捨ててるんだよなあ。けどまあ、そんな情報をわざわざ開示してやる必要も無い、唸れ俺のポーカーフェイス。でも別に死にたがりでもないので、出来ることなら生きて帰りたい。無理っぽいけど。俺に人質の価値があるとこいつが勘違いしている分にはそれなりに生かしてくれるだろうから、その間は短い余生を楽しむとしよう。主に視覚的に。特段性欲を持て余しているわけじゃないんだが、やっぱり人類の敵とは言え見目麗しいものは見目麗しいのだ。よきかなよきかな。おじさんとはいえ一匹のオトコなのである。狼にはなり損なってしまった人生ではあるが、こうやって目で見て楽しむ分には構わんだろう。というかむしろ、可愛い部下じゃなくて敵なんだからそういう遠慮も要らないよな。

 

「……何をじろじろと見ている」

 

 いやあ、魅力的だなあと思いまして。鉄血工造はその技術力もヤバいが、自律人形の造詣にもその手のヤバいやつが居たんだろう。実に男心をくすぐる出来栄えをしている。ただ、こういう見た目にも拘ると電脳以外の部分で余計なコストがかかっちゃうだろうから、ハイエンドモデルだけに限定したんだろうな。既に死んでいるだろうが、もし今でも生きていたら鉄血の人形を設計したヤツとはいい酒が飲めそうだった。

 しかしまぁ、馬鹿正直に貴方の身体を見てまーす、なんて伝えて逆上されて殺されでもしたらちょっと困る。ここは適当に濁しておこう。人間は嘘吐きなのだ。

 

「……チッ、遅いな。あいつはまだ遊んでいるのか」

 

 しばらくこれと言った会話も無く無音の時間を過ごしていると、ふいに銀髪人形が毒づいた。

 ふーむ、誰かと待ち合わせでもしているのだろうか。まあほぼ確実にS02地区に現れた方のハイエンドモデルのことだろうな。便宜上ブレードとでも呼ぶことにするか。うちの支部を空け、戦力を釣り出すためにS02地区を再び攻めたはずだから、ブレードはあそこで討ち死にする予定ではないはずだ。適度に引き付けて退却してこっちと合流、みたいな手筈なんだろう。それにしては最後に見た映像では彼我の距離が大分近かった気もするが、何かしら逃げの一手を打つ手段は隠し持っていたはず。そうでなければあの近さでAR小隊と正対するなど自殺行為もいいところである。真正面から打ち勝つ力があるのなら、こんな手間隙をかける必要が無い。それが難しいからこそ指揮官の誘拐という絡め手を採用したはずだからな。

 で、そうやって盤面を有利に傾けた後、ノコノコと現れたAR小隊をこの銀髪人形とブレードが二人掛かりでしばき倒すっていう筋書きなんだろう。前回のスケアクロウといい今回のブレードといい、攻撃が当たりさえすればI.O.P社製の戦術人形なんか一撃で葬れる火力を持っている。恐らくこの銀髪人形にも同等の手段があるのだろう。それらをまとめて食らってしまえば、如何にAR小隊とは言えひとたまりも無い。

 まあ、そんな浮ついたストーリー通りにことが運ぶとも思えんがな。確かにこいつら人形と比べれば人間は脆弱な存在だが、ちょっとばかし人間をナメ過ぎである。一手先の有利を取られたくらいで思考停止するような連中だけじゃないんだよなあ。特にクルーガーなんかはその最たるものだ。俺一人の犠牲くらいで揺らぐタマじゃない。

 

 

 

「ふん、まぁいい。貴様が落ち着いていられるのも今のうッガァッ!?」

 

 うわ、びっくりした。どうした目にゴミでも入ったのか? こちらに振り向いて勝ち台詞を吐き出そうとしていた銀髪人形が、突如顔面を覆ってのた打ち回る。指の隙間からドボドボと人工血液が滴り落ちているあたり、どうやら何らかのダメージを負ったみたいだが、一体何が起きたんだ。サッパリ理解出来ない。

 

 ダダンッ!!

 

 数瞬遅れて響き渡る、銃声。決して静かな音ではないが、どこか聞き慣れた音だ。えぇー、なんで来てんだよあいつら。馬鹿じゃねーのか、とは思ったものの、ちょっと早すぎない? S02地区からウチの支部まで結構な時間がかかるはずなんだが、俺が誘拐されてからあいつらがそれを知ったとして、今俺が居る場所までは知らないはずである。銀髪人形さんも何か通信を飛ばしたり支部に痕跡を残していたわけじゃなさそうだから、追跡でもしていない限りこの短い時間で現在地を割り出すのは不可能なはずだ。

 先程の銃声は何を狙ったものなのか、その答えはすぐ目の前に転がっていた。俺を攫った人形が手にしていた大型のハンドガンが二つ、それらが見事に弾かれて遠い地面に転がりこんでいた。うっわ、ピンポイントで指の関節が破壊されてる。如何に鉄血人形が頑丈だとしても、機械である以上明確な弱点は存在している。それがジョイント部分だ。腰や膝といった主要箇所ならともかく、指の関節一つ一つまで防弾性能を持たせるのは現行の技術力では極めて難しい。ていうかそんなところを容易く撃ち抜くんじゃないよ。頭おかしい。

 

「指揮官、無事か?」

 

 廃工場の正面から堂々とその声を発し、悠々と姿を見せる戦術人形が複数。凄いな、間違っても助けられる立場の俺が言うことじゃないんだが、とても正義の味方とは思えん登場の仕方だ。SOPMODⅡ、もしかしてその左手で引きずってるの、ブレードさんじゃない? 両足もがれて悲惨な姿になってるけどそれ大丈夫? まだ生きてる? あれ、ていうか一人足りないな。AR-15は何処行った?

 

「ご無事で何よりです、指揮官」

 

 正面とはまた別、真上から投げ掛けられた突然の声に反射的に首を動かすと、今まさにトタンの屋根から飛び降りてきたAR-15の姿。結構な高さがあるはずなんだが、ほぼ音も無く着地する様は洗練され極まった特殊部隊のそれを髣髴とさせる。ああ、銀髪人形を狙撃したのはお前だったか。確かに、AR小隊で唯一サプレッサーと高倍率スコープを付けているお前なら狙撃には適任だろうが、そもそもどうやって登ったのそこ。

 

「処刑人!! ……クソッ! どうして此処が……ッ処刑人から聞きだしたのか……!? いや、有り得ない! それに、外に居る見張りはどうやってやり過ごした……!?」

 

 おーおー、さっきまでの冷静さは何処に行ったのか、大いに慌てふためいている銀髪人形さん。まぁ無理も無いか。圧倒的優位に立っていたはずの立ち位置が一瞬にして窮地に陥ってるんだもんな。俺が同じ境遇でも発狂してたと思う。しかし、処刑人(エクスキューショナー)かあ。多分SOPMODⅡが引き摺ってるハイエンドモデルのコードネームなんだろうな。完全に処刑される側の姿になってるけど。それにしても随分と信頼を置いているみたいだな、普通ここまで拷問ちっくなことをされたら味方の居場所くらいゲロってもおかしくないもんだが。

 

「なんだ、あれ見張りだったのか? ただの案山子かと思ってたぜ」

 

 銀髪人形の必死の叫びに、にべもなく返すM16A1。信じられない、みたいな顔で言葉を失っているが、そいつら至近距離でも全盛期の俺に存在を感知させない程度には隠密機動が出来るんですよ。しかも近接格闘も出来るんです。量産型AIの感知精度じゃあ、その存在を認識する以前の段階で張り倒されたことだろう。頭おかしいと思うだろ? 俺もそう思う。

 

「う……ぁ……狩人……逃げ……ろ……」

 

 おお、処刑人まだ生きてた。でもまぁそうか、こいつら人間じゃないから別に出血多量とかショック死とかはないはずだからな。電脳とコアさえ無事なら生きてると言っても差し支えはないのだろう。ただ、完全に戦闘意欲は圧し折られているみたいだが。まぁ両足もがれて両腕もボロボロとあってはな。そしてやっと銀髪人形さんのコードネームが判明した。狩人(ハンター)か、確かにそれらしい名前だと思う。完全に狩られる側の姿になってるけど。ふむ、しかし逃げろときたか。鉄血人形からはちと考えにくい台詞だな。

 狩人が言葉を失っている間に、AR-15がナイフで俺の縄を解く。俺の拘束は無くなり、狩人の武器はあっちに転がっている。目の前には油断無く武器を構えたAR小隊の3人。ウーン、勝ったな。いや流石に想定外過ぎる勝利だけどさ。

 

「クッ……! これで勝ったと思うなッアアア!?」

「状況をよく見て喋れよ鉄屑がよ」

 

 狩人が負け惜しみとも取れそうな台詞を吐き出そうとした瞬間、M16A1が火を噴いた。その弾丸は容赦なく膝の関節を打ち砕き、たまらず狩人は崩れ落ちる。ヒエッ怖。台詞も顔も行動もその全てがヤバい。何故だか分からんが完全にブチ切れているな。しかもしっかりと理性を残した上で大炎上している。端的に言って、非常に怖い。

 

「フッ……フフフフ」

 

 おやおや、あまりの事態にAIが更なるバグでも誘発したか? 地面に寝転んだまま、唐突に笑い出した狩人。その様を見て無言で銃口を向けるM16A1をとりあえず抑えておく。もうどう頑張ってもここから逆転は無理だろう、こいつらには聞きたいこともあるしちょっと堪えて欲しい。

 

「どうした、やるならさっさと殺せ。今回の勝敗は決しただろう」

 

 んんー? 今回? 言い方が気になるな。恐らく今回というのは、S02地区に陽動をかけてその間に俺を誘拐する作戦だと思うのだが、それ以上に策があるのだろうか。聞き捨てならない台詞だ、ちょっと聞いてみるか。普通は答えてくれるはずないんだが、こいつ案外口が軽いからポロっと言ってくれるかもしれない。

 

「私たちにはバックアップがある。たとえここで壊されようとも、今回のことも次の個体にデータとして蓄積される。そして何度でも戦ってやるさ、貴様らを殺し切るその時までな……!」

 

 うわあ、まるでどこぞのゲームの魔王みたいな口振りだ。ていうかいいのか、そんな重要機密っぽいことをホイホイと喋ってしまって。間違っても同情すべき相手じゃないんだが、なんだか可哀想にすら思えてくる。まあ、とは言え鉄血の本部もバックアップの場所も分からないことにはその大元を叩くことなんか出来ないわけだが、それでもそういったネットワークが存在していて、ハイエンドモデルが再生成されることが分かっただけでも収穫である。何なの、人形ってI.O.Pも鉄血もどっか抜けてるのがデフォルトなの?

 しかしまぁ、情報が分かっただけで厄介なことには変わりない。ここでこいつらを仕留めたとして、バックアップから復元された新しい個体が再び策を練って襲い掛かってくるってのは単純に脅威だ。そのリソースはどこから来てるんだという疑問もあるが、生まれてくる以上は対処しないと仕方ない。

 

 

 んん? ちょっと待てよ。今いいこと閃いた。

 こいつらにはバックアップがある。仮にそれを事実として考えてみよう。そうであれば狩人が言う通り、ここでコイツをぶっ壊しても多分無駄だ。今回の戦闘データを学習した新しい個体が生まれてくるだけだ。

 だが、それが出来るなら何故ハイエンドモデルを最初から複数体出さないのか、という疑問も同時に生じる。スケアクロウも処刑人もそうだったが、持っている火力自体は半端ない。戦略を個の戦力でひっくり返すなんぞ信じたくもないが、現にうちのAR小隊は素でそれをやってしまっている。そんな馬鹿げた奴らよりも更に強力な武器を持っているのなら、ひたすらにそいつらを量産してゴリ押せばいいだけだ。もし、そんな贅沢が出来るほどのリソースが無い、ということであれば今度は狩人の言葉が矛盾する。バックアップから何度も同じ個体を生み出すには当然相応のリソースを消費しなければならない。AR小隊と同じくワンオフモデルの一点ものであれば、そんな台詞は出てこないはずだ。もっと大事に扱うはずである。

 

 ははーん。読めたぞ。

 多分こいつら、量産型と違って同時に複数存在出来ないと見た。何がどうなってそうなるのかはよく分からんが、バックアップを生み出せるのに数を量産出来ない矛盾はこの答えでしか解決出来ない。バックアップというくらいだから、恐らく電脳が関係しているのだろう。めちゃくちゃ飛躍した考え方だが、そう捉えるとここにいるコイツらは恐らく「本体」じゃあない。I.O.P社製の人形で言うダミーってところか。オリジナルがどっかに潜んでいて、そこからダミーを生み出していると見たね。そしてそのダミーは同時に一体しか出せない。

 当然、この推測に辿り着いたのは俺だけじゃないだろう。だからスケアクロウも、電脳に自死作用を持ったプロテクトを仕込んでいた。恐らくこいつらも同様に最終手段として自害出来る手段は持っているはずだ。そうなるとこいつらをこのまま確保しても無駄だ。どこかのタイミングで勝手に死なれて次の個体が生まれる。下手にお持ち帰りなどしてしまったら、スケアクロウの時と同じくこっちの位置情報なんかも漏れるだろうしな。

 

 しかしだ、先程狩人は「次の個体」と言った。つまり、性能諸元やデータなんかはコピー出来ても、それまでこの個体が生きてきた記憶や感情、自我までは持ち越せないと見える。ましてや今まで、他の支部も含めてハイエンドモデルが発見されたり撃破された明確な履歴はない。そりゃまぁ、この性能であれば並みの戦術人形じゃ歯が立たんだろう。つまりこいつらは、知識としてバックアップが取れることは知っていても、実際に生まれ変わったことがない可能性がある。そして、先程処刑人が発した逃げろという言葉。

 

 ……試してみるか。上手く行く可能性は低いが、やってみる価値はある。

 

 狩人から視線を外し、SOPMODⅡが左手で弄んでいる処刑人へと近付く。あー、M4とM16は狩人を見張ってろ。ただし、狩人が喚いても撃つなよ。明確な敵対行動が見られない限りは抑えてくれ。AR-15は俺の傍で万が一の際は対応を頼む。

 

「な……なん……だ……?」

 

 俺の行動を訝しんだのか、処刑人がたどたどしい言葉で疑問を口に出す。あーあー、多分発声機能がほぼほぼイカれてるな。胸元辺りもかなり損傷が酷い。逆によくここまで電脳とコア以外を綺麗に傷つけられるもんだ。怖い。

 さて、処刑人と言ったかな。少し話をしようか。これは仮の話なんだが、もしお前が自身を検体としてこっちにその身柄を寄越してくれるなら、狩人は見逃してやる、といえばどうする?

 

「本当……か……?」

「騙されるな処刑人!! そいつらがそんな取引をするわけが無い!!」

 

 僅かにその表情を歪ませ驚愕の色を滲ませる処刑人、そして慌てふためく狩人。おおっと、これは幾つか想定していたパターンの中で一番可能性を低く見積もっていて、かつ一番ありがたい反応だぞ。これはマジでワンチャン有り得る。

 

 先程の問答。ここから導き出される推論は二つだ。

 まず一つ、こいつらはお互いにお互いをある程度大切に想っている。重大なバグを抱えたイカれた鉄血人形に何を、と思うところもあるが、同僚をタダの駒として見ているだけならこんな反応は出てこない。何言ってんだこいつ、みたいな冷ややかなリアクションで終わるはずである。そもそも、エラーを起こした鉄血人形の至上命題は人類の殲滅のはずだ。そこに仲間への思いやりなんて無駄なリソースは本来不必要。作戦行動に支障が出るだけだ。

 そして二つ目。読み通り、バックアップに感情や自我は引き継がれない可能性が高く、更にこいつら、今までバックアップ機能を使ったことがない可能性も高い。何故ならそれらが引き継がれるならこの話、勝手にしろ、で終わってしまうのだ。

 仮に処刑人の身柄を拘束して好き勝手弄繰り回し、殺したとしよう。そして宣言通り、狩人を見逃したとする。今までの感情や自我が引き継がれるなら、狩人側にデメリットが何一つ存在しない。処刑人を通して敵内部の実情データが手に入るかもしれないし、適当な頃合で復活した処刑人と情報共有すればいい話だ。むしろ、メリットしかない。どうぞ連れてってくださいと言われてもおかしくはなかった。もしその返答だったら2体ともここで始末する予定だったんだけどね。

 

 つまり、処刑人と狩人の答えを吟味する限り、互いが互いの「今の個体」に対して一定以上の執着を持っている。量産型人形と違って擬似感情モジュールと自我を持たせたのが仇となったな。俺だって、仮にAR小隊にバックアップが存在していて、オリジナルが戦場で失われてもすぐに復元出来ます、ただし復元出来るのは最適化工程のみで、それまで培われた感情や関係はリセットされます、なんて言われたら、使い捨てる選択肢は出てこないだろう。

 今のやりとりだけでも、お前らがお互いに少なからず思っているのは分かる。別に俺たちはお前らを殺したくて戦っているわけじゃあない。仲良く手を取って、なんて絵空事を言うつもりはないが、処刑人が狩人を逃がしたいように、狩人が処刑人を心配するように、俺のことをAR小隊も心配するし、俺だってこいつらが大切だ。その感情に違いはあるまいよ? それに、狩人はバックアップの強みをやたらと強調しているが、お前らそれ使ったことあるのか? 実際に寸分違わぬ新しい個体が生まれてくると一体誰が保証出来る?

 

「それ……は……」

「…………」

 

 返ってきたのは先程とは打って変わって、沈黙。ここでのだんまりは肯定と同義なんだが、まぁそこらへんの話術の駆け引きを人形に期待するのもおかしい話か。

 しかし、思った以上に上手く行きそうだな。後は落としどころの見定めさえ誤らなければ丸く収められそうだ。と言うのも、こいつらはこいつらでハイエンドモデルであることに違いはないが、より上位の存在から命令を受けて行動していることも確かだ。いくら現場がノーを出したとて、社長がゴーと言えば従業員は逆らえない。それが一般的な会社ならともかく、こいつらは指揮命令系統が絶対化された人形である。一個体の感情で全体の意思を捻じ曲げるのは不可能だろう。

 

 ということでSOPMODⅡ、処刑人を解放してやれ。狩人も片膝は死んじゃってるけど帰還くらいは出来るだろ。そこに転がってるハンドガンは回収させてもらうが、現状俺たちはこれ以上は追わない。追跡もしないから、処刑人連れておうちに帰りなさい。今回はそれで手打ちとしよう。

 

「し、指揮官!? 正気ですか!?」

 

 俺の打ち出した答えに、たまらずM4A1が抗議の声をあげる。まあ普通はそうだろうな、ここで相手のハイエンドモデルを逃がす方がおかしい。それは俺も分かってる。しかし、ここでこいつらを殺したとして、やってくるのは殺意マシマシの次のハイエンドモデルだ。延々と不毛な乳繰り合いを繰り返したくはない。こいつらが再び襲い掛かってくるってのならその時は容赦しないが、まあ1回くらい賭けてみてもいいんじゃないかと思う。ああ、一応言っておくが、遊びに来る分には歓迎するぞ? 仮にお前らが俺の言に理解を示してくれたとして、じゃあもう人間は襲いません、とはいかんだろうし。今回俺は誘拐こそされたが、結果としてうちの人間にも戦術人形にもオリジナルに被害は無かったからな、だからこその手打ちだと思ってくれ。

 

「……ふん、後悔しても知らんぞ」

 

 逆だよ逆。脅しって訳じゃないが、次は容赦しないからな。あっさり殺してくれると思うなよ、思い付く限りの悪辣を徹底して実行してやるからな。お前らこそ後悔のない選択をしてくれることを期待してるよ。

 

「はァ……、ったく、とんでもねえな指揮官は」

 

 お前に言われたくねーよ。とんでもない戦術人形め。

 よし、じゃあ帰るか。俺らが何時までも居たんじゃこいつらもおちおち帰れないだろうし、どっちにしろうちの支部の位置はもう割れてるんだ。俺らが先に帰投した方がこいつらにとっても好都合だろう。

 

 

 廃工場の外に出てみれば、もう間もなく完全に日が沈みそうな時分であった。早く帰って色々と説明しないとな。こっちはこっちでハイエンドモデルを確保出来なかった言い訳を考えておかなきゃいけない。したり顔で色々言っちゃったが、俺は俺で会社の歯車なんだよなあ。つらい。支部までの道がサッパリ分からんが、多分AR小隊が分かってるだろう。うーん、足はどうしよう。狩人が俺を運んできた車両をパクらせてもらうか。これくらいは手打ち金として勘弁してほしい。

 

 そういえば、こいつらやけに到着が早かったが、どうやってこの場所を知り得たんだろうか。処刑人は当然この場所を知っていたはずだが、話を聞く限り処刑人が口を割ったとも思えない。敵方が予測もしていなかった速度で救出に来てくれたお陰で俺は今もこうやって生きているわけなんだが、その方法は気になる。

 

 

 

 

「なんだ、指揮官知らなかったのか? その義足にGPS機能付いてるぞ」

 

 マジかよ。




この結果がどう転ぶかは分かりません。
ちなみに、本編内でおじさんが色々と予測を立てていますが、あくまでおじさんの推測であって、それが事実というわけではありません。





今回のサブタイを「大暴走ブチギレシスターズ」にしようと最初は思ってたんですが、流石にタイトルでオチがつき過ぎているのでやめました。

※アーキテクトは失温症に出てくるハイエンドではなく「鉄血人形を設計した人物」という意図で出した単語でしたが、誤解を招く恐れがあったため言葉を差し替えました。

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